ポッキーの日SS
11月11日はポッキーの日だ。
こういうイベントはしっかり乗って攻略キャラたちに絡みにいき、供給していかないといけない! という使命感に駆られ、ポッキーを買った。
まあ、供給されるのは僕……つまり、自分のためである。
今日も生徒会室に行く予定なので、会長と夏緋先輩で兄弟ポッキーゲームをして貰いたい。
会長を乗り気にしたら夏緋先輩は逆らえないので、僕の勝ち確だ。
「あ、飲み物ないや」
生徒会室に行く前に、食堂の自販機でジュースを買うことにする。
向かっている間にもポッキーゲームの話をしている生徒たちがいて、僕も早く会長と夏緋先輩のポッキーゲームが見たいな~とわくわくしてきた。
「楽しみだな~……って、あ」
自販機の前に行くと、青い髪に黒パーカーのイケメンが立っていた。
向こうもすぐに、僕に気づいた。
「夏緋先輩もジュースを買いにきたんですか?」
「ああ」
「僕もです。お菓子はありますよ」
ナイロン袋に入っているポッキーを「ほら!」と見せた。
「…………」
「お前もそれか、って顔をしないでくれます?」
「何も言ってないだろ」
「顔に書いてます」
僕のクラスでは、休憩時間にポッキーゲームをしている生徒がいた。
夏緋先輩のところもそうだったのだろう。
食堂のテーブルにも、今まさにポッキーゲームをしてきゃっきゃと騒いでいる生徒たちがいる。
楽しそうだな、と見ていると、夏緋先輩が顔をしかめた。
「……まさか、本当にやりたいのか?」
「やりたいというより、見たいというか……。夏緋先輩と会長でやってくれません?」
「するわけがないだろ」
夏緋先輩はパックのブドウジュースを取り出し口から回収すると、先に歩き出した。
え、同じところに行くのに、待ってよ!
慌てて僕もジュースを買う。
何にしよう……僕もブドウでいいか!
小走りで夏緋先輩に追いつて横に並ぶ。
「生徒会室に行って、先に会長が来ていたらやってくれません?」
「やらないって言ってるだろ。そんなことをして何が楽しいんだ」
まあ、さすがに青桐兄弟がポッキーゲームできゃっきゃするとは思っていないけど……。
「僕が楽しいです」
「理解できん」
やっぱりだめか……。
でも、会長から攻略していけば、チャンスがある……と思ったのだが――。
「いないし!」
生徒会室に着いたのだが、会長は不在だった。
さっきまでいた形跡があるから、その内戻ってくるだろう。
そう思って待っていたのだが、30分経っても来ない……。
「……もう普通に食べよ」
ポッキーのパッケージを見ていたら、食べたくなってきた。
いつもの場所に座り、開封して食べ始めたが、自分だけ食べるわけにはいかない。
一本持って、夏緋先輩に渡した。
「どうぞ」
「…………」
渡そうとしている手をジッと見てくるのはどういうこと?
「触っただけでも嫌、汚い、って言いませんよね?」
「分かってるじゃないか」
「そんなこと言うならあげませんから!」
腹が立つので、渡さずにボリボリ食べてやった。「フッ」って笑うな!
「はー。見たかったな、ポッキーゲーム……」
しょんぼりポリポリ食べていると、夏緋先輩がスマホから目を離して聞いてきた。
「そもそも、あれはどういうルールなんだ?」
「ルールは……」
……あれ? どうだったっけ?
あれはやることに意義がある、というか……。
「『同時に両端から食べ進めて、先に離した方が負け』とか、『たくさん食べた方が勝ち』だったと思います。……たぶん」
ポッキーを咥え、腕を組んでそうだったよな? と考えていたら――。
隣に座っていた夏緋先輩が、僕の顔を覗き込むように近づいてきて……って、近すぎない!?
え? と驚いているうちに、僕が咥えているポッキーが折れた音がした。
「…………っ!?」
確認すると、四分の一くらいの短さになっていた。
四分の三は、なぜか夏緋先輩の口にあった。
「オレの方が多い。勝ちだな」
「なっ」
不敵な笑みを見せると、僕から勝ち取った分を食べてしまった。
「……や、やらないって言ったじゃないですか」
不意打ちは卑怯だ!
うろたえて顔が赤くなる僕を見て、また「フッ」と笑っている。
「やってやったのに文句を言うな」
「え……ありがとう、ございます……?」
思わずお礼を言ってしまったが……。
いや、僕は夏緋先輩と会長とやって欲しかったんですっ!!




