佐々木風子の観察日記
コミカライズ第21話が更新されました!雛……!全員顔がいい……好きすぎる……!
切なさとわくわく、興奮が詰まった一話です!
そして、コミカライズでも主要攻略キャラ全ルートのエンドを描いて頂けることになりました!
加奈先生の神漫画で見られるなんて泣く……!最高!
今日の私はツイている。
目覚めてすぐのSNSで好みの攻めを見つけたし、推しイラストレーターさんは、粋が良い雄の絵をアップしてくださっていた。
しばらく水だけで生きていけるくらいの供給を頂いたうえ、母が淹れてくれたお茶には茶柱が立っていた。
絶対いいことが起きる……BL的に。
こういうときの感は、腐っていても積んできた徳のおかげなのか当たる。
確信を持った私は、ごちそうを欠片も逃さないように充電MAXのスマホを握りしめ、登校を始めた。
少し進んだところで、とても目を惹く三人組をみつけた。
ふふ、今日は会えると思っていたわ。
スマホのカメラを起動し、気づかれないように他の生徒の背後に回る。
天地君を真ん中にして、金髪の美少年と黒髪の美少女がけん制し合っている。
私だけではなく周りも注目しているが、当の本人たちがそれを気にしている様子はない。
それにしても……楓君の攻める姿勢は素晴らしい。
天地君の腕に遠慮なく絡みついているところを写真に収める手が止まらない。
この押しの強さがある限り、私は天地君総受け説を推すわ。
一方の雛ちゃんときたら……。
天地君の腕は引っ張っているけれど、密着面積が少なすぎる!
怒っている顔も可愛いけれど、それでは楓君には勝てない。
天地君にラッキースケベをプレゼントする意気込みを持って、あなたも腕に絡んでいかないと!
雛ちゃんが天地君を押し倒すことになるように、私が不慮の事故でぶつかってこようかしら……。
もしくは私が石油王だったら、ちょうどよさげなモブにお金を握らせて、雛ちゃんをナンパするように仕込むのに……。
そうすると、天然王子様な天地君は、「僕の彼女だから」なんてかっこよく助けるかも……って駄目だわ。
あのメンバーにナンパモブが近づいたら、十中八九楓君もナンパしてしまう。
いや、天地君も……三人まとめてナンパされるかも……。
そうなると、天地君の周りの攻め様達があぶり出されるように登場しそうだわ!
ごめんなさい、雛ちゃん……私、石油王になっても欲望に忠実になってしまいそう。
あら?
思考に耽っていて気づくのが遅れたが、何だか後ろが騒がしい。
振り返ると……納得。
天地君達よりも迫力のある雰囲気で周囲の視線を集めている青桐兄弟がいた。
いつも一緒に登校しているようではないのだが、今日は揃って歩いている。
やっぱり今日の私はツイている。
私は更に気配を消して横に捌け、主要人物の全体を確認できるようにした。
それにしても……朝から上質な攻めと受けを同時に視界に収めることができて、とても肌艶がよくなったのを感じる。
どんなサプリよりも効果がある。
青桐兄弟の方が歩くスピードが速いから、三人に追いつくだろうと思っていたら……。
夏緋先輩が前方の天地君達に気がついたようだ。
まだ距離があるからか、声を掛けたりはしないようだ。
どういう接触をするのかも要注意だ。
写真から動画撮影に切り替える。
モバイルバッテリーを持ってきてよかったわ。
ずっと会長が話していて、夏緋先輩はそれに適当に相槌を打っているようだが、ちらちらと前の三人……というより、天地君を見ている。
くっ……ズームしたいけれど、カメラで狙い過ぎると気づかれそうだから我慢だ。
10欲張って0になるより、5の確保を私は選ぶ。
それにしても……夏緋先輩は三人でいる天地君を気づかっているのか、視線でアピールするかまってちゃんなのか分からないが、声を掛けようとする素振りがない。
でも、このままだと会長が気づきそうと……と思ったところで、ちょうどそれが起きた。
「央!! おはよう!!」
夏緋先輩とは違い、見つけた瞬間によく通るイケメンボイスで大声を出した。
本当に攻めボイスとして素晴らしいお声……。
声が大きい人の囁きボイスっていいわよね。
ぜひとも天地君の耳元でささやいて欲しいものだ。
……なんてことを考えてしまったが、呼ばれた天地君と周囲の華四季園の生徒達も驚いて、一斉に会長を見た。
隣にいる夏緋先輩はこっそりため息をついている。
『まあ、そうなるよな』なんて副音声が聞こえた気がした。
会長は周囲の視線を気にすることなく、天地君の元へとずんずん進んで行く。
天地君は一瞬逃げようとしたような気がしてけれど、両側の二人が掴んでいるので動けなかったようだ。
「会長、おはようございます……」
元気ですね、と苦笑いの天地君の用側で、雛ちゃんと楓君が会長を警戒している。
二匹の猫がライオンに立ち向かっているようで愛らしい。
「何だその気の抜けた挨拶は。ちゃんと食べてきたのか?」
「食べましたよ」
「だったらシャキッとしろ」
小言を言われた天地君が恨めしそうに夏緋先輩を見ている。
もしかして、アイコンタクトですか?
ここもちゃんとカメラに収めないと……!
会長は春樹先輩の妹である雛ちゃんに反応するかと思ったが、構う様子はない。
楓君についてもそうだ。
「央、行くぞ。しっかりついて来い」
会長は天地君にそう言うと、見慣れたジャケットをかつぐ姿のまま歩き始めた。
「……夏緋先輩」
「オレに抗議されても困る」
またアイコンタクトですか?
弟同士、通じ合うものがあるのかしら。
それとももう、愛が育まれているのかしら? なんて思っていると、進んでいた会長が足を止めた。
「おい! 俺が着いたら、門を閉めるぞ!」
「「「!?」」」
このセリフには、天地君達だけではなく周囲もびっくりしている。
私も困っちゃう。
混乱する周囲を余所に、会長はまたぐんぐん歩き始めた。
「ちょっと、夏緋先輩! あんなこと言ってますけど!?」
二人の拘束から抜け出した天地君が、夏緋先輩に詰め寄って抗議している。
いいわね、そのまま顔と顔の距離を詰めてゼロにしてください。
「さすがにそれは止める。……というより、冗談だろ」
「会長が言うと冗談には聞こえません!」
確かに「ハハハ」と高笑いしながら容赦なく閉める姿が想像できる。
楓君と天地君と夏緋先輩が締め出されたら、どんな化学反応を起こすか興味があるから、やって貰ってもいいけれど……。
「ほんとに大丈夫かなあ。もう学校に着いているお兄ちゃんに門のところに来てってお願いしてみよ」
心配になった雛ちゃんが春樹先輩に連絡しているようだ。
雛ちゃん! グッジョブよ! 攻めが増える! 春樹先輩を呼ぶのは熱い展開だわ!
「じゃあ、僕も保険をかけて兄ちゃん召喚しておくかな」
そう言って天地君がスマホを取り出した。
真先輩まで!?
今日は本当についてる!
来世の得も前払いするから、もっとちょうだい!
「おい、本当に締め出されたいのか! 足を止めている奴も遅れるぞ!」
会長が天地君達に立ち止まっている生徒達に呼びかけると、みんな足早に歩き始めた。
私も周囲に紛れ、学校へと急いだ。
※
「あ、来た来た。みんな、おはよう」
天使がいたわ。
一行を待ち構えていた真先輩の笑顔に、居合わせた人達の顔も思わず緩む。
「お前達、もっと早く出発しろよ?」
天使の旦那様がいたわ。
雛ちゃんと天地君を、優しく諭している春樹先輩を心の中で拝む。
兄属性と攻め属性、ありがたい……。
優しい表情だった春樹先輩だったが、会長を視界に入れると顔つきが変わった。
「青桐……。朝から何やってんだよ。お前が着たら門を閉めるとかふざけるな」
「冗談に決まっているだろ。そんなことも分からないのか?」
校内放送を私的に使っていた人に言われてもなー、と天地君がぼやいている。
確かに、校内放送で天地君を呼び出していたことがあったわね。
私は校内放送での公開告白とかなら大歓迎だわ。
もちろん、マイクを切り忘れていてナニをする声を放送してしまうのも拍手で歓迎よ。
「春樹、冗談だって分かってただろ。じゃあ、夏希は引き取るから。みんなも早く教室に行ってね」
真先輩は険悪になりそうだった会長と春樹先輩の間に入り、両方の手を引いて去って行った。
二人の攻めを手玉に取るなんてさすがだわ。
でも、この感じ……天地君に通じるものがある。
「オレも行く。じゃあな」
クラスメイトに会ったのか、モブ顔の生徒と一緒に去って行く夏緋先輩に、天地君がはーいと緩い返事をしている。
会長よりは親しみやすそうだけれど、それでもクールな夏緋先輩にここまで緩い対応ができる天地君もさすがだわ。
楓君は部活の仲間、雛ちゃんも友達に話し掛けられ、ずっと誰かに構われていた天地君がフリーになったその時——。
「央、おはよう」
「!」
作業着にタオル姿という雄みが強い方スタイルの柊さんが現れた。
やったわ! 華四季園の主要な攻め、フルコンボだわ!
「おはようございます。あ、頭に葉っぱついてますよ」
天地君が正面から手を伸ばし、タオルの上についている葉っぱを取ろうとした。
それに反応した柊さんが、スッと天地君の腰に手を回して引き寄せようとしている。
カ、カメラー!
もちろん隙を見て撮影していたが、これはズームしなければ……!
長身の柊さんの頭に届くように少し背を伸ばしている感じがとても可愛いわよ、天地君!
受けとして優秀だわ!
「ちょ……何するんだよ! 葉っぱを取ってあげようとしているのに!」
「ごめん。近寄って来たから、つい」
「ごめんって言うなら離せ!」
身長差を改めて感じるイベント、ありがとうございました。合掌。
どん!
なんだが鈍い音がしたと思ったら、楓君が柊さんを突き飛ばしていた。
「どっから湧いた! 油断も隙もない!」
楓君が怒っているが、突き飛ばされた柊さんはほとんど動いていない。
体幹がいいってすばらしい。
そんなところにも雄みを感じるわ。
楓君は柊さんを倒すことはできなかったけれど、その隙に天地君は脱出することができていた。
そして、楓君は天地君の手を引いて行ってしまった。
柊さんはさぞ残念……と思ったのだが、天地君に向かって「またね」と手を振っているし、天地君も「さよならー」と手を振り返した。
楓君がまた返事して! と怒っているが、以前もあったの?
そんな美味しいこと、私の前でやってよ!
そう憤っていると、私に近寄って来る人がいた。
「風ちゃん! おはよ」
「あら。雛ちゃん、おはよう」
「今来たの? もしかして、近くにいた?」
「ええ。ずっと雛ちゃん達を見ていたわ」
「え! 声かけてよ! 一緒に行きたいのに!」
「!」
これだから腐女子は、と呆れられると思ったのだが、予想外の反応で少し驚いた。
それに、好きな人と一緒にいるんだから、私のことは気にしなくていいのに……。
でも、雛ちゃんのそういうところが私は好きよ。
雛ちゃんには幸せになって欲しい。
……でも、状況はちょっと厳しそう?
「今日ね、美味しそうで可愛いお菓子持ってきたの! 風ちゃんと一緒に食べたくて! こういうので――」
今すぐ私に見せてたいのか、鞄を開けようとする雛ちゃんを止める。
「教室に入ってから見るわ。今は急がないと」
「あ、そうだね! 走る!?」
「その方がよさそうね」
綺麗な黒髪を揺らして隣を走る美少女を見る。
同い年なのに、ちょっと妹感がするの愛嬌があるからかしら。
もし、雛ちゃんが悲しむときが来てしまったら……その時は一緒にいてあげたい。
そして、あわよくばBLを布教しましょう。
放課後まで書こうと思ったのですが、登校だけでも長くなったので諦めました……。
また今度書くか、SNSに書いたりしようと思います。




