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小話 メッセージアプリのアイコン

 放課後、今日も僕は生徒会室にいる。

 今は会長と二人でいるが、メッセージアプリを見て気になっていたことを思い出した。


「会長、メッセージアプリのアイコン、どうして猫なんですか?」


 ライオンとかならまだ分かるのだが、可愛い黒猫なのでとても違和感がある。


「一年の頃、真が設定したんだ」

「兄が?」


 会長はずっとデフォルトのままにしていたそうなのだが、『味気ないから変えたら?』と兄が提案したらしい。

 なんでもよかった会長は兄に任せたところ、たまたま近くにいた猫の写真になったそうだ。


「真に『そろそろ変えたら?』と言われるが……何も支障はないしそのままにしている」


 大好きな兄が設定したものだからそのままにしておきたいのかと思ったが、そうではないようだ。


「じゃあ、僕が変えてもいいですか?」

「好きにしろ」

「わーい、何にしようかな……あ、写真フォルダ見ていいですか!?」


 会長が撮った写真、というものに興味があるし、お宝がいっぱいありそうだ!

 兄や夏緋先輩の写真がいっぱいあるかも!?


「構わんが……カメラはメモ代わりにしか使わないから、大した写真はないぞ」

「メモ?」

「資料や、家の事業関連で覚えておかなければいけないものを撮っている」


 ええ……それじゃつまらないのですが!

 使い方が完全にビジネスなんだよなあ、と心の中で不満を零しつつ写真フォルダを開いた。

 確かに、知らない建物や場所、本などの写真が多い……なんて思っていたが、どんどん遡っていくと華四季園の風景が出てきた。

 そして――。


「兄ちゃんと春兄だ!」


 何枚かあるのだが、クラスメイトが写っている中に兄と春兄、会長もいる。

 会長と春兄という夢の2ショットもあるじゃないか!


「それは文化祭の準備をしていたときだな。写っている全員に共有されたものだ」

「へえ……」


 こんなお宝写真をたくさんの人が持っているのに、僕は持っていないなんて悔しい。許せない。

 ですので、これは僕にも転送させていただきます。


「あ!」


 一通りチェックしたのだが、見逃しがないか見ていたら、夏緋先輩をみつけた。

 しかもパーカーじゃなくてちゃんとジャケットを着ているし、会長と2ショット!


「それは留学から戻って来た夏緋が、初めて華四季園に登校したときに真が撮ったものだ」

「また兄ちゃん!」

「夏緋のことを話したら、『気になる』というから真を連れて顔を見に行ったんだ」


 それで記念写真を撮ってあげたのだろう。グッジョブすぎる。


「……よし、決めました。新アイコンはこの夏緋先輩にします」

「…………」


 会長は何も言わないが、拒否しているオーラがびんびんに伝わってくる。


「なんでもいいんですよね? 夏緋先輩のリアクションが知りたいので、バレるまでは変えないでくださいね!」


 そう押し切ると、会長は諦めたのか夏緋先輩アイコンを採用してくれた。

 僕のスマホでもアプリを見てみたら、ちゃんと会長のアイコンが夏緋先輩になっていたので思わずにやりと笑った。

 会長には「夏緋先輩がどんな反応したか教えてくださいね」とお願いして、夏緋先輩と会うことなく生徒会室をあとにした。


 ※


 帰宅して美味しい夕食を食べ、リビングのソファーでくつろいでいると兄が話しかけてきた。


「央、見た? 夏希のアイコンが弟さんに変わってたよ」

「! そうだね」


 返事をしながらも、もう気づいた人がいるのか、と思わずにやついた。


「……もしかして、央がやった?」


 僕の反応を見て鋭く察した兄が呆れたように笑っている。


「オレもアイコンを央にしようかな」

「そ、それはちょっと……」


 人にやっておいてなんだが、兄にアイコンにされるのは恥ずかしいので、変な対抗はしないでください。

 そんなことを思っていると、()()()()()()()()()()()()から動画が届いた。ぶふっ。


 すぐに再生すると、青桐家のリビングにあるお高いソファーに座っている夏緋先輩が映った。

 もしかしてこれは……僕が見たかったリアクション!?

 画面の中の夏緋先輩は、しばらくスマホを触っていたが……ピタッと動きが止まった。

 そして、十秒ほど経つと、ゆっくりとカメラの方――会長の方を見た。


『…………』

『…………』


 無言で何かを訴える夏緋先輩に、何も言わない会長――。

 静かに見つめ合っている青桐兄弟に、思わず僕は噴き出した。


「ぶはっ」


 夏緋先輩は無表情だが、すごく混乱しているのが分かる。

「なんでオレがアイコンに?」という夏緋先輩の心の声が聞こえた気がして、また笑ってしまった。

 それを見て、隣に座っていた兄が首を傾げたので、僕は今話していたアイコンのことで会長から動画が来たことを伝える。


「オレも見ていい?」

「うん!」


 あとで夏緋先輩から「広めるな!」と怒られるかもしれないけれど、兄だけは許して欲しい。

 もう一度最初から再生して、動画を最後まで見ることにした。

 無言の青桐兄弟を見て、兄も噴き出している。

 動画はしばらくシーンとしていたが、しびれを切らしたのか会長が口を開いた。


『何だ?』

『こんなことをするのは……天地か』

「あ、バレたね」


 兄がそう零すと同時に、画面が夏緋先輩からの着信を告げるものに変わった。

 ひいっ……取ったら絶対怒られる!

 分かっているが、無視するとあとでもっと怒られるので、恐る恐る通話ボタンを押した。


『お い。お前、何がしたいんだ?』


 おい、が強い! 怖いのですが!


「えっと……ブラコン両思いでよかったですね!」


 僕はそう言うとすぐに通話を切った。

 電話にはでたから! 無視はしてないからセーフ!

 でも、しばらく生徒会室に行くのは控えよう。

 そう思っていたら、夏緋先輩からメッセージが入った。


『お前も自分の兄のアイコンにして貰え。明日までになっていなかったら、どうなるか分かっているだろうな?』


 見なかったことにしようと思ったのだが……。


「そうだね。フェアじゃないと。オレのアイコンを、お気に入りの央の写真に変えよう」


 横にいた兄にメッセージが見えていたようで、にこにこと自分の写真フォルダを探り始めた。


「え、やめて! せめて顔がみえない無難なやつを……!」


 そう懇願したのだが、『兄が作った誕生日ケーキを前に、満面の笑みでピースしている僕』が兄のメッセージアプリのアイコンになってしまったのだった。


 ※追記。兄と会長が弟の写真に変えていることに気づいた春兄が、自分も雛の写真にしようとしたけれど、「絶対やだ!」と拒否されてしょんぼりしたらしい。


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