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BLゲームの主人公の弟であることに気がつきました(連載版)  作者: 花果 唯
IF ありえた未来2

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会長ルートのその後

本日はコミカライズを担当してくださっている加奈先生のお誕生日です!

加奈先生、お誕生日おめでとうございます!

いつも素敵な央達をありがとうございます! 神!

……とうことで、加奈先生に捧げる会長SSです。

 今は金曜日の午後六時――。

 辺りが暗くなってきたが、僕はコンビニの前で人を待っている。

 突然連絡して、呼び出してしまったので申し訳ない。

 いや、呼び出すつもりはなかったのだが、「今、何をしてますか?」と何気なく連絡したら、会ってくれることになったのだ。

 まだ相手は来ないだろうから、中で何か買ってこようかと思っていたら、近くにいた女の子のグルーブがざわざわし始めた。……察したぞ。


「央!」


 ああ、やっぱり。

 ざわざわを起こしたイケメン、待ち合わせの相手である会長がやって来た。

 僕は家から来たから私服なのだが、会長は学校に残っていたのかまだ制服だ。


「忙しかったですか? すみません、呼び出すみたいになっちゃって」

「いや、それは構わないが……。お前がこの時間から外に出るなんて珍しいんじゃないか?」


 そんなことはない、と思ったが……。

 兄ちゃん大好きっこの僕は、外で夕ご飯を食べることはあまりないし、確かに夜は家にいることが多い。

 この時間には家に帰ろうとするから、この時間から出かけて何かをするのは珍しいかも……。

 そして、今回は特に珍しいパターンかもしれない。


「家出しました」

「…………は?」


 会長が口を開けてぽかんとしている。

 普通のひとなら間抜けな顔になるのに、こんな顔までかっこいいなんてずるい。

 ……なんて思っている場合じゃなかった。説明しないと!


「嘘です。半分嘘じゃないですけど」

「何があったんだ?」

「それが! 聞いてくださいよ! 明日、会長がうちに来てくれるでしょう?」


 明日の土曜日、会長は僕の部屋に遊びに来ることになっている。


「だから、今日は家に帰ってから、掃除をしていたんですよ。やり始めたら細かいところまで気になって……。夢中になって掃除をしていたら春兄が来て――」


 春兄という天敵の名前を出すと、会長の眉毛がぴくりと動いた気がする。

 言わない方がいいか? と思ったけれど、今日は僕も春兄に腹が立っているので説明を続ける。


「明日会長が来るって話をしたら、『青桐を家に入れるな!』ってうるさくて! 『あいつのどこがいいんだ』とか『今からでも考え直せ』とか、ごちゃごちゃ言うから逃げてきました」


 僕が気合を入れて掃除をしているというのに、本っ当に邪魔だった!


「僕も一応我慢したんですよ? でも、お前は父さんか! っていうぐらいグチグチ言うから、うんざりしちゃって。兄ちゃんが帰ってきたところで『僕に構わずイチャついてろ!』って出てきました」


 ふんっ、と鼻息荒く腕を組む。

 まあ、本当はちょっとコンビニで何か買ったら帰るつもりだったし、それほど怒ってはいない。

 予想外にこうして会長に会えることになったしね。

 会長も僕のそんな内心を分かっているのか深刻に捉えず、ちょっと呆れ気味に笑っている。


「真は心配してないのか?」

「大丈夫です! 兄ちゃんには会長と会ってくるって連絡しておいたので」


 そう言って兄とメッセージのやり取りをしている画面を見せた。


「『遅くならないように』と書いてあるが……。何時まで大丈夫なんだ?」

「9時か10時くらいかな?」

「そうか。帰るときは送って行こう」

「ありがとうございます!」


 呼び出したうえに送って貰うのは申し訳ないけど、長く一緒にいられるから嬉しい。

 お言葉に甘えておこう。


「今から俺の家に来るか?」

「いいんですか? 行く!」


 会長の家! すごく見たい! 青桐家はすごいだろうなあ。

 わくわくしながら、会長の案内で歩き始めた。


「夕飯はどうする? 俺のところで食べるか?」

「何かあるんですか?」

「今日は手伝いに来てくれている人が用意してくれている。いつも多めにあるから、お前の分もあるだろう」

「お手伝いさんですか?」

「そうだ」

「おお……」


 会長のところもご両親が忙しくてあまり家にはいないから、通いのお手伝いさんがいるそうだ。

 すごい……でも、そういう生活をしてそうというか、イメージ通りだ。


「食べていくなら、真に連絡をいれておけ」

「はい!」


 ご飯も食べたいし、すぐに帰るのは寂しいので長居したい。

 さっそく兄にメッセージを入れておいた。これで良し!


「それで……。お前は、明日俺が来るから、わざわざ掃除していたのか?」


 からかうようにニヤリと笑っているので、ちょっとムッとする。


「一応やっておこうかなと思っただけです。普段から綺麗ですからね!?」

「そうか」

「その『そうか』は全然信用してないでしょ!」

「ゲームは転がっているんじゃないか?」

「ソンナコトハナイデス」


 コントローラーを元の場所に戻さずに放置していることはあるけれど……それくらいセーフじゃない!?


 そんな話をして歩いているうちに到着したようで、会長が足を止めた。


「ここだ」

「セレブ!」


 会長が示した建物を見た瞬間に、ついそう叫んでしまった。

 外観からすごい……。

 有名デザイナーが設計しています、という感じがビンビンに伝わってくる。

 セキュリティもしっかりしていそうだ。


 建物の中に入ってもおしゃれ感に圧倒され、ほえーっと周りを見ているうちに青桐家に到着した。

 立派な玄関に入り、スリッパを履いて綺麗な廊下を通り、広いリビングに通される。

 何だかテレビの芸能人のお宅訪問を体験している気分になってきた。


 リビングには、いかにも高そうな革張りのソファーがある。

 このセンターテーブルも、どこかのブランドものなんだろうなあ。


「好きにくつろいでくれ。何か飲むか?」

「おかまいなく!」


 会長は水を取ってくる、と言ってリビングを離れた。


 すごい部屋に一人残されて落ち着かないので、かっこいいソファーにちょこんと座らせて貰った。

 それにしても……お洒落すぎて別世界というか、本当に落ち着かない。

 そわそわしていると、制服姿の夏緋先輩がリビングに入ってきた。


「天地?」


 ソファーに座っている僕を見て驚いている。


「夏緋先輩、おかえりなさい!」

「なんでお前がいるんだ?」

「家出してきました!」

「……はあ?」


 リアクションが会長と一緒だなあ。

 かっこいいのも同じだ。

 何だかムカッとするから、ぽかんと開けている口にマシュマロを入れてもいいですか?


「嘘です。ちょっとお邪魔してます」

「夏緋、帰ったか」


 夏緋先輩と話していると、会長が水のペットボトルを二つ持って戻ってきた。

 着替えてきたようで、私服になっている。 

 僕の横にドサッと座った会長に、一本渡されたので受け取る。

 見たことないラベルだ……これもお高いんだろうなあ。


「お邪魔してるって……何をしに来たんだ? ちゃんと帰るんだろうな?」


 何故か僕がいることに警戒しているような気配を感じたぞ?

 しかも、僕に帰って欲しそうだなあ?


「会長、夏緋先輩が嫌な感じです」

「夏緋」

「……聞いただけだろ?」


 フッ……僕には会長がついているんだぞ!

 勝利の笑みを向けると、夏緋先輩は舌打ちして自分の部屋へ行った。

 ふはは、僕の勝利だ!


 その後、雑談をしたあと、お手伝いさんが用意したという夕ご飯を部屋から出てきた夏緋先輩と三人で食べた。

 フランス料理とか出てきたらどうしよう! と思っていたのだが、意外に普通の和食だった。

 きこりも和食だし、青桐の血は和食を好むかもしれない。

 用意されていたのは二人分だが、三人で食べても僕はお腹がいっぱいになった。美味しかった!


「動きたくない……帰りたくない……」


 なんとか片づけはやったが、お腹が苦しいから寝転がりたい……。

 これから歩かないといけないのか、と思うと現実逃避したくなった。


「泊っていくか?」

「!」


 会長の言葉に思わず食いつく。泊まりかあ!

 なんて魅力的な提案なのだろう。


「泊まりたい! でも、兄ちゃんに聞いてみないと……」

「俺が聞いてやる」


 会長はそう言うと、自分のスマホを取り出してすぐに電話をかけ始めた。

 さすが。デキる男は行動が早い。

 僕から言い出すと叱られそうだから、会長から行って貰うと助かる……!


「――真。今日、央を俺の家に泊めてもいいか?」


 兄の声が微かに聞こえる。

 怒っているような感じではないけれど、何やらたくさん話している……。


「……分かっている。じゃあ、明日送って行く」


 会長と兄の電話は三分ほどで終わった。

 兄なら「帰って来い」と言いそうだが、どうだったのだろう。


「今日はいいが、明日は必ず帰ってこいと言っていた」

「え、兄ちゃんがいいって言ったんですか? やったー!」


 意外だけれど嬉しい!

 僕はまだ春兄に対して怒っていると思っているのだろうか。

 うちの旦那がすみませんでした、という謝罪の気持ちだろうか。

 よく分からないが、許可を貰えたので僕はソファーの背もたれに倒れて全力で脱力した。


「そうと決まれば、ゴロゴロしようっと」

「お前、ここは居心地が悪いって言っていなかったか?」

「居心地が悪いだなんて言っていませんよ? 緊張するって言っていたんです。でも慣れました」


 食後は一緒にリビングにいる夏緋先輩の視線が冷たい気がする。

 よそ様の家でだらしなくしてすみません。

 でも、ギリギリ座っている内に入ると思うのでご容赦ください。


「あ、そうだ。着替えがない」


 泊まるつもりなんてなかったので、僕は財布とスマホ以外に何も持っていないことに気がついた。


「俺のを貸してやる」


 会長の服を借りて着るということは……いわゆる『彼シャツ』!

 ……って、彼シャツというものに一瞬興奮してしまったが、『する側』になるのは恥ずかしい。嫌すぎる……!


「サイズが違うじゃないですか。ブカブカは嫌です」

「昔のがあるはずだ。それならそんなに大きくないだろう」


 会長がそう言ったあと、今まで黙っていた夏緋先輩が口を挟んできた。


「八年くらい前のでいいんじゃないか?」

「八年前だと十歳……だれが小学生レベルだ!」


 さすがの会長も、小学生の頃に170㎝……あっても不思議じゃない! というかありそう!


「ちゅ、中学生くらいので……」


 そう言うと、夏緋先輩が「フッ」と鼻で笑った。


「夏緋先輩の服を全部着てぐちゃぐちゃに畳んでやる……」

「それをやったらこの家は出禁だからな」

「ひどい! 横暴だ!」


 夏緋先輩と言い合っていると、会長が呆れたようにため息をついた。


「くだらない話はそれくらいにしておけ」

「くだらないっていうな!」


 身長という僕の尊厳についての大切なことだぞ!

 会長に文句を言ったのだが、「分かった分かった」と流された。


「そろそろ、順番に風呂に入っておいた方がいいだろう」


 時間的にはそうだろうけど、僕はまだ動きたくないし拗ねている。


「僕はあとがいいです」

「……俺が入れてやろうか?」


 ムスッとして答えたら、びっくりすることを言われた。

 え、本気?

 ニヤリと笑っているが、冗談? どっちだ!?

 会長ならそんなことはしない……と思うけど、ホームでは違う……とか?


「先に行きます!」


 負けたようで悔しいが、

 あと、夏緋先輩は死んだ魚みたいな目で僕らを見るな!


 ホテルのようなお風呂を借りて、やっぱり落ち着かないので、ササッと洗って出ると、言っていた通りに着替えを用意してくれていた。

 新品っぽいので、昔使っていたものというより、使わずに残っていたもののようだ。


「……中学生の時のもので、って言ったよね?」


 Tシャツを広げて見たが……でかい!

 確かに今の会長よりは小さいサイズだと思うが……今の僕よりは大きい!


「ぐぐっ……敗北感……!」


 これを着て出て行きたくはなかったが、着てきた服をまた着ると、夏緋先輩にゴミを見る目を向けられることは必至だし、追い出されるかもしれない。

 仕方ないので着てみたが……。

 肩からずり落ちるほどではないが、どう見てもブカブカだ。


「……もういいや」


 今からリビングに戻るまでに急成長するのは無理なのであきらめた。


「お風呂も服も、ありがとうございました」


 そう言ってリビングに戻ると、夏緋先輩は僕を見てフッと笑った。

 聞こえましたよ、「やっぱりでかいじゃないか」とあなたの心の声が。

 いつも着ているパーカーを皺だらけにしてもいいですか?


「会長! これ、本当に中学時代のですか?」

「……そうだ」

「?」


 念のため確認してみたのだが、会長は目を逸らすというか……。

 もしかして……少し照れてます?

 まさか、こんな僕が『彼シャツ効果』を発揮してしまった……?

 そう思うとすごく恥ずかしくなってきた。

 ああいうのは楓みたいな美少年がするからいいんじゃないのか!


「…………。次はオレが行く」


 夏緋先輩が逃げるように風呂に行った……気がする。

 今のは……うん。

 この空気は、なんだかすみませんでした。


 謎の照れ空間が広がっていたが、会長が僕の髪を見て顔を顰めた。


「ちゃんと髪を乾かせ。ドライヤーは使ったのか?」

「えっとー……自然乾燥でいいかなって」


 家で兄にもよく「ちゃんと乾かせ」と小言を頂く。

 会長にも怒られそうな気配を察知したので誤魔化して笑うと、会長は一旦離れてドライヤーを持ってきた。

 これを使え、と言われるのかと思ったら、驚いたことに会長が僕の髪を乾かし始めた。


「あの、自分でしますよ!?」

「ジッとしていろ」


 ……なんて叱られてしまったが、会長は機嫌がよさそうだ。

 案外兄のように面倒見がいいのかもしれない。

 今はしていないだろうけど、子どもの頃は夏緋先輩の髪も乾かしてあげていたのかと思うとほっこりした。


「……よし、これでいい」

「ありがとうございました」


 会長は満足したのか、僕の髪をわしゃわしゃ撫でて終えた。

 やっぱり、子どもにやっている感覚ですか?

 そう思うとちょっと不満だが、乾かして貰うのは気持ちよかったから良しとしよう。


 のんびりしていると、風呂上がりの夏緋先輩がリビングに入って来た。

 はっ! そうか! ここにいたら風呂上がり青桐兄弟が見られる! すごい!

 でも、夏緋先輩はもう髪を乾かしていた。 濡れ髪が見たかったー!!


「会長! 今度は僕が髪を乾かしてあげるから、そのままで出てきてくださいね!」


 夏緋先輩の次に風呂に行こうとする会長を捕まえてお願いをした。


「? まあ、お前がそういうなら……」


 会長はどうしてそんなに必死なのだ? と不思議そうだったが、ちょっと嬉しそうに頷いて風呂に行った。


「…………」

「……何ですか?」


 夏緋先輩が何か言いたげな顔でこちらを見ている。

 なんとなく言いたいことは分かる。

 ……とうか、目で訴えてくるのはやめてください!

 僕はそういう思いを込めて見返していると、夏緋先輩はため息をついた。


「……はあ。お前はゲストルームで寝ろよ?」

「ゲストルームがあるんですか」

「ああ」

「さすがセレブ」


 感心していると、夏緋先輩は「オレは部屋に戻る」と言って去って行った。

「添い寝してあげましょうか?」とサービスの提案をしてみたのだが、おやすみ代わりに一睨みされてしまった。

 まあ、「お願いします」なんて絶対言わないから提案した僕が悪いですね。

 おやすみなさい。


 しばらくすると、会長が風呂から出てきた。

 頼んだ通り、まだ髪は乾かしておらず、タオルで拭きながら登場した。


「!」


 いつものワイルドにセットされている髪じゃないから、雰囲気が違う……!

 幼いような大人なような……どっちの感じもしてかっこいい!」


「おい、急に写真を撮るな」

「あ、すみません! 脊髄反射で、つい」


 ……と謝りつつ、写真に鍵をかける。

 絶対に消さない!


 こそこそスマホを操作していると、会長がドサッ隣に座った。


「乾かしてくれるんだろ?」

「あ、はい」


 やると言ったのは僕だが、いざやるとなったらちょっとドキドキしてきた。


「し、失礼します……」


 恐る恐る会長の髪に触れながら乾かしていく。

 緊張をほぐすために美容師の真似でもしようかと思ったけれど、やめた。

 なんとなく硬そうな髪質だと思っていたのだが、案外柔らかいしサラサラだ。

 普段は現れない爽やかさがある。

 そんなことを考えていたのだが、僕の口から出た言葉は「赤いなー」だった。

 乾かしながら褒めるのは、何だか照れるというか……。


「分かり切ったことを言うな」

「そうなんですけど、改めて思ったんですよ」


 ありがたいことに会長の髪はすぐに乾いたので、僕の緊張タイムは短時間で済んだ。


「はい、乾きましたよ」

「ありがとう」


 僕には試練のような時間だったが、会長はとても満足そうなのでよかった。


「じゃあ、俺の部屋に行くか」

「はい」


 特に何も考えず返事をしたけれど、会長の部屋か……。

 ちょっと緊張する! と思いながら、会長のあとに続いて部屋に入った。

 モノトーンな部屋で、本棚に本がたくさんあるが、整頓されていて綺麗だ。

 勉強机というより、仕事に使うようなしっかりとしたデスクと高そうな椅子がある。


「悪いが、俺は少しやることがある」

「あ、お構いなく。僕はゲームするので」


 突然押し掛けたし、構って! と邪魔をするわけにはいかない。


「ゲームをするなら、ベッドで転がってもいいぞ」

「え? いいんですか」

「ああ。気にしない」


 人のベッドに転がるのは申し訳ないが、家でスマホのゲームをする時は寝転ぶにかぎる!

 許可を貰ったのでお言葉に甘えて、ゴロンとさせて貰うことにした。

 夏緋先輩だったらキレられそうだ。


 スマホのゲームを起動したのだが、ふとデスクに向かっている会長の横顔を盗み見る。

 難しそうな本を開きながら、書類に何か書いている。

 やはり『デキる男』という感じでかっこいい。


「……うん? どうした?」

「! なんでもないっ」


 急に目が合うと、イケメン過ぎて心臓に悪い。

 これ以上邪魔をしてはいけないので、僕はゲームに集中することにした。

 今日は久しぶりに血塗れウサギをやろう。

 以前、生徒会室で会長と一緒にプレイしたときはまだ攻略中で怖かったが、もう全部クリアしたし、慣れてきたから大丈夫だ。


「お前……まだそんなゲームをしているのか。面白いか?」

「それなりに面白いですよ? 会長と生徒会室でやったのが楽しかったから、思い入れがあるっていうか」


 そう言うと会長は一瞬固まったあと、ごほんと喉を鳴らした。


「?」

「……早く終わらせるから待っていろ」

「がんばってー」


 よく分からないが、やる気がでたのはいいことだ。


 会長が本のページを捲る音を聞きながら、僕もゲームをしていたのだが――。


 ……ね……むい!!


 信じられないくらい眠くなってきた。

 時計を見たら、まだ日付が変わったばかりだ。

 朝まで戦えるこの僕が、こんなに眠くなるとは……!

 今まさにウサギに追われていて絶体絶命だというのに眠い!!

 このふかふかベッドと会長の作業音の安眠効果はすごい。


 ……会長……ごめんなさい……多分……寝ます……。


「央、終わったぞ。……寝たのか」


 もう目は開かないのだが、微かに保った意識の中で、会長が呆れたように笑っているのが分かった。

 仕事が終わった?

 待っていろ、と言われたのに寝てしまう……。


「まったく、無防備だな」


 眠気に抗っていたら、大きな手が頭を撫でてきた。


「……俺も寝るか」


 体が少し動いたあと、安心する温かさに包まれた。

 これは……もう無理……安眠しかない……。

 なんとか保っていた意識が、一気に遠くなる。

 おやすみなさい……。




 ※




「ふあ……」


 あくびをしたことで、段々だと覚醒してきた。

 普段、寝起きが悪いだが、今日は気持ちよく眠れてスッと起きることができた……って、え?


「あれ……朝?」


 確か僕は血塗れウサギから逃げていたような……。

 そう思いながら目をあけると、赤いものが目に入った。


 血!? 血塗れウサギが現実に!? ……なんて思ったのは一瞬で、もっと心臓に悪いものが目に入ってきた。


「わー! 会長!?」


 赤いのは会長の髪で――。

 会長の整った顔面が間近にあり、驚いてつい叫んでしまった。

 何、この状況……一緒に寝てる!?

 枕が硬いと思ったら、会長の腕だった……。

 自分が会長の腕枕で寝ていたと分かって、一気に顔が熱くなった。

 それにしても、会長の寝顔……なんてイケメンなんだ……!

 スマホで撮らなければ! とスマホを探したところで思い出した。


「そうか。僕はゲームしながら寝ちゃったのか……」

「お前、刺されていたぞ」

「!」


 閉じていた瞼が開き、アメジストの様な瞳と目が合った。

 かっこいい! と心臓にダメージを受けながらも「刺されていた」の意味を考えた。


「はい? …………あっ!」


 スマホを見ると、画面が真っ赤に染まっていた。

 血塗れウサギに捕まり、刺されて終わっている。

 寝落ちしたんだから、そりゃあそうか……。

 ゲームのアプリを閉じ、会長に挨拶をする。


「おはよう、ございます……」

「おはよう」


 なんだこの空気は……。

 何もしていないのに、何かしたあとみたいな感じがするのは、僕が腐っているからだろうか。


「あの、先に寝ちゃってすみませんでした……」

「何か詫びをくれたら許してやろう」

「詫び、ですか?」

「ここでできることでいいぞ?」


 ここって……ベッドですが?

 腐っていてもいなくても、ベッドでできるお礼と言って思い浮かぶのは……。

 いや、そっち系はしませんけど!?


 ……そうだ、いいのを思いついた。


「『二度寝』ですね。得意です。おやすみなさい」

「…………。寝るのはいいが、勝手にやるぞ?」

「何を!?」


夏緋「ゲストルームに泊まれと言っただろ!」


ボイスコミック2話の更新が明日20時からです。明日から楓(CV天﨑滉平様)が登場です!

毎週金曜日の更新になりますので、お時間ある方はぜび聞いて頂けると嬉しいです!

加奈先生の素敵な絵を大きく見られるうえに耳が幸せ! のハッピーセットです。

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