表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
BLゲームの主人公の弟であることに気がつきました(連載版)  作者: 花果 唯
IF ありえた未来2

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

75/101

バレンタイン(柊ルート後)

コミカライズ更新報告ではなく、大遅刻バレンタイン小話です……!

 今日は二月十四日、バレンタインデーである。

 好きな人にチョコレートを贈る日で、兄もスポーツマンイケメンな彼氏に手作りのお菓子を渡すようだ。

 僕にも柊という色々拗らせた恋人がいるわけだが……あげた方がいいのだろうか。

 絶対欲しがるし、喜ぶことも分かっているのだが……。

 あの歩くR指定は、喜びがすぐにいかがわしい方面に向かうのだ。


「バレンタインで喜ばせるのが怖い、ってどんな感情だよ……」


 そうぼやきながらも、僕は一応用意したものを鞄に入れて登校した。


 ※



 教室に着いてスマホを見たら、柊からメッセージが入っていた。


『央、今日はバレンタインだよ』

「朝から圧を送るな」


 画面から「絶対にスルーさせない」という意気込みを感じる……。

 既読スルーすると送ってくる内容が悪化することは学習済みなので、「そうですね」とだけ返した。

 すると、瞬時に返信がきた。


『チョコを受け取るなとは言わないけど、誰から貰ったのか全部教えてね』

「聞いてどうするんだよ!」


 すでにクラスメイトからいくつか貰ったのだが、黙っておいた方がよさそうだ。

 ただの友チョコなんだけどなあ。

 そう思いながらも無難に「はーい」と返信すると、また瞬時に既読がついて返信が来た。


『放課後に用務員室に来てね。今日は俺一人だから』

「…………」


 ラブコメの「今日は家に、お父さんもお母さんもいないの……」という意味深セリフに見える……。

 じゃあ、スケベができるね、ドキッ! とはならないから!

 警戒心しか湧かない。

 放課後になったら、腹痛だと伝えて帰ろうかな……。


『教室まで迎えに行った方がいい?』

「ひえ……」


 返信していないのに、僕の心を読んでいるかのようなメッセージが来て戦慄が走る。

「僕の話を聞け」と伝えてから、一応暴走するようなことはなくなったけれど、質問形式の文章とはいえ、ほぼ脅迫……。


「アキラ! おっはよ」

「ん? 楓、おはよ」


 画面を見ていて気づかなかったが、横を見ると楓が立っていた。

 黄金の髪の美少年は今日も神々しい。


「これ、バレンタインで作ったから! 今日中に食べて!」


 楓はそう言うと、僕の机にドンと紙袋を置いた。

 中を見てみると、デコレーションがすべて違う可愛いカップケーキが、丁寧に一つずつラッピングされて入っていた。

 どれもお店で売れそうなレベルに見えるが……。


「……多くない?」


 パッと見ただけでも十個はある。


「気合が入っているからね! お腹いっぱいにさせて、今日は他のチョコを食べさせない作戦!」

「なんだそれ」


 バレンタインデー当日には楓の手作り以外食べるな、ということか?


「さすがに今日中には食べきれないぞ?」

「タッパーとかに移して冷蔵庫に入れたら一週間くらい持つよ」

「そうなのか? じゃあ、大丈夫か」


 美味しそうだし、案外すぐに食べきってしまうかもしれない。

 でも、楓から受け取ったら柊の機嫌が悪くなりそうだな……と思っていると、また見張っているかのようなタイミングでメッセージが入った。


『あのお友達君から貰ったらお仕置きだからね』

「だから怖いって……!」


 教室に監視カメラがついているんじゃないかと不安になってきた。

 画面を睨んでいると、色々と察したのか楓が顔を顰めた。


「アイツ?」

「え、いや、えっとー……」


 楓が『アイツ』と呼ぶのは、もちろん柊のことである。

 どう答えるか迷っていると、楓が大きなため息をついた。


「はあ……アキラって、どうして趣味が悪いんだろ」

「お前な……」

「とにかく、それは央がちゃんと全部食べてね! ホワイトデー楽しみにしてるね!」


 楓はそう言い残して自分の席に戻って行った。

 結局楓から受け取ってしまったが……。


 これがバレたら、お仕置きとか恐ろしいことを言っていたから、絶対に隠さないと……。



 ※


 放課後になると、僕は大人しく用務員室に向かった。


「ん?」


 用務員室の辺りが騒がしい気がしたので、身を隠してこっそり覗くと、女生徒三人組が用務員室の扉をノックしていた。

 扉には何度か見たことがある『不在』の札がかけられているのだが、構わず呼びかけている。


「柊さーん! いませんかー!」

「どこにいるんだろ……」

「もう帰っちゃったのかなあ?」


 手にはバレンタインのチョコらしきものを持っているので、柊に渡すために探しているのだろう。

 しばらくすると、三人は諦めたようで、用務員室から離れていった。


「やっぱり、こうなっていたか……」


 あの美貌が世に解き放たれてからは、どんなに塩対応をしても人気が増すばかりだ。

 羨ましいような、心配になるような……。

 僕としては心中複雑だ。


「もう誰もいないな?」


 周囲を確認してから、用務員室の前に立つ。

 すると、その瞬間に扉が開いた。


「! ひいら――」


 開けたのはもちろん柊だったのだが、名前を呼ぶ前に手を引かれた。

 そして、僕が中に入ると扉を閉め、いつもの通りにガチャリと鍵をかけた。

 なんという早業!

 ちゃんと扉の前にいるのは僕だと分かってやったのだろうか。


「よく確認もせずにこんなことをして……! 僕じゃなかったらどうす――」

「央」


 話している途中なのに、突然柊が抱きついてきた。


「大丈夫。さっきから央が近くにいるって分かっていたから。また妨害されないうちに、早く引き入れないと……」

「姿が見えていないのに分かるって、どんな特殊能力だよ。……っていうか、それやめて」


 さっきから、僕の頭に顔を埋めてスリスリしている。

 匂いを嗅がれているようで若干引いたのだが、「はあ……」と重たいため息をついているのが気になった。


「疲れてるの?」

「ああ。今日は一段と周りがうるさかったから」

「あー……バレンタインだからね」


 今日は一日、さっきの女子達のような突撃を食らい続けたのだろう。

 もしかしたら、また嫌味な教師に小言でも言われたのかもしれない。


「お疲れ」

「ありがとう。今回復しているから大丈夫」

「もっと他の回復方法はないの……」

「これが一番効く」

「そうですか……」


 僕の頭皮にそんな効能はないはずだが、そう言うなら少しの間我慢しておこう。


「……よし、これ以上は我慢できなくなるからやめておこう」

「…………」


 何を我慢? とは聞かない。

 こういうセリフはスルーが一番だ。


 柊は僕から離れると、ソファーの方へ歩いて行った。

 僕もそちらに行こうとしたのだが、柊が何かを持って戻って来た。


「?」


 何だ? ソファーに座らないのか? と思っていると、僕の首の周りが暖かくなった。

 首に巻かれたこれは……。


「マフラー?」


 落ち着いた色合いと柄のマフラーで、とても触り心地が良く高級そうだ……。

 どこかのブランドものだろうか。


「えっと……これは?」

「バレンタイン。央はチョコをたくさん貰うだろうからこれにした。これから暖かくなってくるけど、これだと来年も使えるだろう?」

「!」


 まさか、柊から貰えるなんて……!

 全く考えていなかったから驚いた。

 そんな僕を見て、柊は不思議そうにしている。


「……下着の方がよかった?」

「なんでだよ! くれたことに驚いていただけ! ……ありがとう」


 嬉しいけれど、素直に喜ぶのが少し照れくさくて、口元を貰ったマフラーで隠した。

 すると、また柊がくっついて来て、僕の頭に顔をスリスリしている。


「嗅ぐな! もう回復したんだろ?」

「これは匂いを嗅いでいるんじゃなくて、つける方。マーキング、かな。央が可愛かったから、『ちゃんと俺のものにしとかないと』と思って……あ、そうだ」

「?」


 スリスリが止まったので、見上げて柊を見ると、さっきとは違う妖しい笑顔になっていた。


「チョコ、貰った? お友達君から受け取ったりしてない?」

「!」


 結局、色んな人にチョコを貰ってしまったし、楓にも貰った。

 それを隠すために教室に置いて来たけれど、嘘をつくのは気が引ける……。


「ウ、ウケトッテナイヨ……」

「…………」


 顔を逸らしながらそう伝えると、少しの間沈黙が流れた。

 ……気まずい。


 そろそろ帰ろうかな~と言おうとしたその瞬間、突然僕の体が横向きになって浮いた。

 柊にお姫様だっこで持ち上げられたのだ。


「ちょっと、何してるんだよ! 下ろして!」

「お仕置きって言ったよね?」

「お、お仕置きって何をするつもりだ! 校内だぞ!?」

「ここには俺しかいないから」

「それは聞いたけど! 職場だろ!?」

「大丈夫、仕事は終わらせているから」

「全然大丈夫じゃない!」


 このままではまずい!

 歩くR指定の本領を発揮されてしまう……!


「落ち着けって! 僕も渡すものがあるから!」

「……え?」


 よかった、柊の動きが止まった。

 今の内だ! と腕から降りて、自分のカバンを開ける。

 もちろん、バレンタインのプレゼントを渡したいのだが……えっとー……どうしよう?

 実は今日、二つ持って来ているのだが……とりあえず綺麗な方を渡すか。


「はい」


 これはちゃんとラッピングされた市販のチョコレートだ。

 それを差し出すと、柊は受け取ったけれど……少し残念そうな顔をした。


「……何か不満でも?」

「真が選んだもの……」

「え! なんで分かるんだよ!」


「手作りじゃない」としょんぼりしたのかと思ったら、そっちか!

 確かにこれは、「保険」として兄に頼んで買っておいて貰ったものだ。

 一応頼んだけれど、出番はないだろうから、多分自分で食べると思っていたのだが……。


 柊がとてもいいものをくれたから、自信がなくなったというか……僕が準備してしたものでは釣り合いが取れないというか……。

 でも、今渡したものだとがっかりしたようだし、確かに選んだのは兄だし……。

 ……仕方ない、恥を忍んで渡すか。

 カバンから小さな手提げの紙袋を取り出し、柊に手渡す。


「……はい」

「これは?」


 受け取った柊は、紙袋の中を覗いている。

 中のものは透明な袋でラッピングしているので、何が入っているか見えるはずだ。


「クッキー?」

「……うん。僕が作った」


 歪だが、一応『バラの形をしたクッキー』だ。

 兄に「僕でも失敗せずに作ることができるもの、できれば柊のイメージに合う、花の要素があるお菓子はないか」という難題を出したところ、教えて貰ったのがこれだった。

 絞りにクッキー生地を入れ、ぐるぐると円を描くように絞り出して作るだけなので、簡単なはずなのだが……。


「それ、バラの形なんだよ。僕がやったら、ただのうずまきになったけど……」


 説明しないと分かって貰えない出来なのがつらい。

 一緒作った兄のものは、綺麗なバラになったんだけどなあ。


「?」


 爆死する思いで渡したのに、柊からリアクションがない。

 まだ袋を覗いたまま固まっていた。


「何か言ってよ……」

「あ、ごめん……これを永遠に残す手段がないか考えてた……」

「いや、食べて!?」

「央の手作り……」


 僕のツッコミを聞き流しながら、しみじみとそう呟く柊はとても嬉しそうだ。

 うっ、眩しい……!

 幸せが滲み出ている顔を見ていると、なんだか恥ずかしくなってきた!


「もったいなくて食べられない……」

「お菓子なんだから食べてよ。せっかく作ったんだし」

「じゃあ、食べさせて」

「はい?」


 柊はクッキーを一つ取り出すと、僕に差し出した。

 思わず受け取っちゃったけれど……「あーん」しろと?


「やるわけ……」


 やるわけがないと突き返そうとしたが、顔面国宝の期待に満ちた笑顔が、やっぱり眩しくて……!

 くぅっ……この顔面には勝てない! 抗えない!


「一つだけだからな」


 少し自棄になりながらクッキーを「あーん」すると、一口目は幸せそうに齧ったのだが……。

 二口目は妖しい笑顔で僕の指ごと甘噛みしてきた。


「手を噛むな!」

「どっちも食べたくなって」

「こっわー……」


 ドン引きしているフリでもしていないとやっていられない。

 僕ばかり赤くなって……柊のペースに乗せられている! まずい!


「央。今日、ここには俺一人なんだよ」

「さっきも聞いたよ!」

「分かっているのに来てくれたということは、同意を得られている……」

「何の同意だよ! 校内はほんとに無理だから!」


 今にも押し倒してきそうだったが、やめないとクッキーを粉砕する! と脅すと、なんとか止まってくれた。


「校内じゃなかったらいいのか……」


 不吉な呟きは、聞こえなかったことにする!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ