青桐兄弟ルート②
本日ニコニコ&CWでコミカライズ番外編が公開されました。
とっても可愛くて幸せになれます!
引き続き青桐兄弟ルートです。
釣りを終えた僕達は、店に竿を返し、臭くなった手を洗った。
僕に服も汚された夏緋先輩はまだブツブツ文句を言っているが、手は綺麗になったので、来た道を戻って駅に向かっている。
「帰り道ってつらいですね」
会長と夏緋先輩は来た時と変わらない様子だが、僕はできれば今すぐ道に転がってでも寝たい。
「疲れるほど動いてないだろ」
夏緋先輩が呆れている。
確かに釣りでは動いてないけれど、ここまで来るために結構歩いたじゃないか。
インドアが強制アウトドアをさせられたらキツいんだぞ!
「お前、運動部に入れ。真がいるテニス部はどうだ?」
「嫌です」
会長の提案は即却下です。
偉大な兄がいる部活に入っても、兄ほど活躍できない僕は視線が痛くて逃亡したくなりそうだ。
……なんて、ことを考えて更にげんなりしつつも、ふと町の人の視線が気になった。
ここは長閑なところであまり人はいないのだが、たまに遭遇する人達はみんなチラチラとこちらを見てくる。
今、近くにいる女子高生かな? と思うグループはチラチラどころではなく、きゃーきゃー言いながらガン見だ。
こちらを見る、というよりは、僕の両サイドだ。
僕は何故か、青桐兄弟に挟まれて歩いているのだが、とっても居づらいです!
少しずつ下がってフェードアウトしよう。
そう思い、歩く速度を落とし、後方に下がったのだが……。
「そんなに歩くのがつらいのか?」
夏緋先輩に気づかれてしまった。
そして、二人はゆっくり歩く僕と歩調を合わせて来た。
「俺が背負ってやろうか?」
会長が親切な提案をしてくるが、ニヤリと笑っているから――。
「絶対どこかに捨ててくるつもりでしょ」
僕の脳裏には子供の頃に見た、「おばあさんを山に捨てて来る」という酷い内容の民話がよぎった。
山も近くにあるし、嫌な予感しかしない。
「ははっ! 勘がいいじゃないか」
「会長とでかけた僕が行方不明になったら、兄に嫌われますよ」
「じゃあ、オレが背負ってやるよ。お前の兄に嫌われてもなんとも思わないからな」
「兄弟でそんなに僕を捨てたいんですか?」
青桐兄弟が仲良くしている光景を見るのは目が潤うが……ちょっとひどくないですか?
ジト目で見ると、二人が笑った。
笑いのネタが、冗談だと分かっているが「僕を捨てる話」じゃなかったら、僕もニコニコできたのに!
でも、イケメン兄弟の笑顔を揃って見られたのは貴重だ。だから、許そう。
「まあ、お前が捨てられていたら、俺が誰よりも先に拾いに行ってやるさ」
「オレも気が向いたらな」
「いや、捨てるって言ってる人達に拾うって言われても……」
僕がそう言うと、二人はまた笑った。
二人揃ってやけに機嫌がいいな。
「はあ……」
体力おばけな二人とは違い、僕は疲れが増してきた。
話すだけでも疲れる。
再びフェードアウトしようと下がったのだが、また二人が歩調を合わせようとしてきた。
だが、僕はそれを慌てて止めた。
「僕はここが落ち着くので……兄弟並んで、仲良く手を繋いで歩いて貰えたら……」
会長×夏緋先輩を見せてくれたら、走って帰ることができるくらい回復すると思う。
萌えは点滴より効くのだ。しかも即効性がある。
早く! 早く! と待っていたのに、二人は何故か顔を見合わせてにやりと笑った。
「?」
首を傾げていたら、二人はお互いの手を繋ぐのではなく、僕の手を取った。
「なんで……違う……そうじゃない……」
「俺達と手を繋いで欲しいんだろ?」
違います。
あなた達で手を繋いで欲しいんです。
僕はいりません。
「まあ、お前は迷子になりそうだしな」
「幼稚園児じゃないんですから、なりませんって……僕は夏緋先輩の一つ下ですよ?」
「ははっ」
「いや、『ははっ』じゃなくて……」
クールだと思っていた夏緋先輩が割と笑ってくれるようになったのは嬉しいけども!
どこからどう見てもイケメンな二人に捕まっている今の僕は、有名な捕まった宇宙人のような絵面になっているに違いない。
まだこちらを見ていた女子高生達が更に騒ぎ出したし、恥ずかしい……って、これを狙ったのか?
僕を辱めたな……。
「もう、離してくださいよー……」
大声で抗議する元気出ず、ふにゃふにゃしてしまう。
「シャキッとしろ。真はそんなにだらしない姿を晒したりしないぞ」
「あー……ですよねー……。家でもそうですよ。兄ちゃんはいつでもかっこいいですよ……僕とは違って……」
ふにゃふにゃのまましゅんとすると、会長は少し戸惑ったように見えた。
「兄貴、兄――人と比べるのは良くないんじゃないか」
「!」
夏緋先輩の言葉で、ふにゃふにゃしていた僕が一瞬シャキッとした。
もしかして、夏緋先輩は「兄と比べられる」というところに共感したのだろうか。
ブラコンな弟の葛藤――美味しい部分が垣間見られたような気がした。
「そうだな。悪い。まあ、お前にもいいところがある」
会長は悪いと思ったのか、フォローしてくれたのだが……。
「……僕のいいところって、例えば?」
「「…………」」
「一つくらい嘘でもいいから言ってくださいよ!」
二人いるのに、一つも出てこないなんてどういうことだ。
思わず声を張って抗議したことで一層力が尽きた。
引っ張られるのは楽かも……。
そう思った僕は、結局駅に着くまで捕まった宇宙人のままでいたのだった。
※
今はガタゴトと電車に揺られている。
長い座席に三人並んで座っている。
この車両には僕たち以外に誰もいない。
「どうして、またこの配置なんですか……」
駅まで歩いた時と同じで、僕はまだ青桐兄弟に挟まれている。
「たまたまだろ」
「嫌なら変わればいい。席はいくらでもあるからな」
二人に言われ、「まあ、そうか」と納得した。
別に移動したいほど嫌じゃないし、それよりも眠い!
日が落ち始めて、暗くなってきたこの雰囲気も眠気を誘う。
眠気を我慢できなくなり、目を瞑って俯く。
船をこぎ始めたのが自分でも分かる。
むしろここまでよく我慢したと思う。
「着いたら、起こしてください……」
なんとか一言告げて、眠気に白旗を揚げた。
先輩二人を放っておいて一番後輩の僕が寝るのも失礼かもしれないが……今更か。
力を抜くと、少し体勢が楽になった。
もっと楽になりたくて更に力を抜くと、どんどん身体が倒れていくのが分かった。
片側が何故か暖かい。
何が暖かいのだろうと思ったが、こっちって赤い方だっけ。青だっけ。
「チッ……重いな……」
頭は半分以上寝ているが、声で夏緋先輩に凭れてしまったか、と分かったが……。
「こっちは臭い……」
「お前が汚したんだろ!」
僕が汚れた手で触ったのが原因なのか、匂いが嫌だったので反対側に逃げた。
反対側というと、会長がいるわけで……。
「……兄貴、何笑ってるんだよ」
「別に?」
会長に凭れたら叱られないかと思ったが、何も言われなかったので、僕はそのままスヤァした。
おやすみなさい。
……と夢の国に旅立ったのだが、割と早く帰って来てしまった。
ちょっと臭いのは、いつの間にかまた夏緋先輩の方に凭れているからか。
まだ、夢の世界と現実を行ったり来たりしている状態で、ボーっとしてまだ瞼も開けずにいる間に、青桐兄弟が気になる話を始めた。
「兄貴でも悩んだり弱ったりするんだな」
こ、これは……!
釣っている時に聞いた「意外に繊細だった会長」の続きが始まる!?
盗み聞きなんて悪いが、好奇心に勝てなかった僕は、寝たフリを継続することにした。
また寝そうだけど、この話は聞きたい!
眠気に耐えるんだ! 一生後悔ずるぞ!
「同じようなことを、こいつも言っていたが……。お前達は俺を何だと思っているんだ」
「オレは今までそんな兄貴を見たことなかったから、少し驚いただけだ。いつも、悩んでも時間の無駄だ、と言っていただろ?」
見たことない会長の一面を引き出した我が兄に嫉妬する夏緋先輩を思い浮かべると、胸が熱くなって少し覚醒した。
「どうして男なんだと思っていたけど、あの人だから好きになったんだな」
「前から言っていただろう」
それは……今まで青桐兄弟の間で会長の恋バナを、何度かしていたってこと?
逐一、僕を呼んで頂きたかったです……。
悔しさが込み上げてきたが、あのBL全否定の夏緋先輩が会長の気持ちに理解を示したことに興奮した。
好きになった人がたまたま男だった……を理解するなんて、もう夏緋先輩もBLの世界に入ったってことでしょ!
「こいつ……っていうかここの兄弟は不思議だな」
寝たフリを継続しているので必至に興奮を抑えていると、夏緋先輩がどうやら僕についても含めた話を始めた。
何を言われるのか緊張するのですが……!
「どういう意味だ」
「なんというか、つい気を許してしまう。それに、男だとか女だとか気にならない」
「はっ! お前が気を許したのか?」
「……………」
黙ってしまった夏緋先輩に「いや、僕は男ですが!」ツッコミつつも、気を許してくれたのかと思うと嬉しくてニヤケそうになった。
いやー、知らないところで夏緋先輩のデレをゲットできていたか!
「まあ、お前の言う通りだ。真だけじゃなく……いや、こいつは特に気を許してしまう。真が嫉妬したのも、こういうところかもな」
「……特に?」
夏緋先輩が何か気になったようだが、僕は「兄より気を許せる」と言われたポイントが引っかかった。
『気を許す』というのは好かれたわけではなく、周囲と同じパターンで、カリスマ性がないから話しやすいだけでは?
そんなことを考えていると、会長の方からとても視線を感じた。
「……黙っていれば同じ顔なのに、全く違うな」
「兄の方が駄目だったら、こいつに乗りかえるとかやめてくれよ」
夏緋先輩、さすがにそれはないです。
会長より先に、心の中で僕が答えた。
「そんなわけない。だが、乗りかえたところでお前に関係はないだろ?」
確かに会長が誰を好きでも夏緋先輩には関係ないよな、と思っていたら、何だか周囲に不穏な空気を感じた。
え、何!?
会長と夏緋先輩の話は止まったし、何だか怖い雰囲気になっている気がするし、どうなっているんだろう。
まさか、僕の寝たフリがバレたのだろうか。
そう思ってヒヤヒヤしたのだが……。
「それ、重いだろ? 俺の方に戻してもいいんだぞ?」
「これくらいで重いわけがないだろ」
会長が「それ」と言っているのは、恐らく僕の頭だろう。
そうだったら僕の寝たフリはバレていないっぽい?
あと、夏緋先輩は重くないと言っているが、ずっと凭れているのは申し訳ない。
また、怖い空気が流れているし、まだ眠いが頑張って起きよう。
そう思って夏緋先輩から離れ、身体をまっすぐにした瞬間に電車がガタンと大きく揺れた。
ボーッとしていた僕は、後ろの窓に頭を激突させてしまった。
「痛ああああああっ!!」
「大丈夫か!?」
僕もびっくりしたが、あまりにも大きな音がしたので会長と夏緋先輩も驚いている。
「ううっ……大丈夫です。窓も無事ですか? 割れたら危ないし、弁償しないと……。こういう窓って高そう……」
痛みで涙目になりつつも窓を確認していると、会長と夏緋先輩がなんとも言えない顔をしていた。
「……ないな」
「……そうだな」
「……何が?」
寝たフリはやっぱりバレてなさそうで安心したけれど……。
可哀想な子を見るような目で僕を見るのはやめてください!




