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BLゲームの主人公の弟であることに気がつきました(連載版)  作者: 花果 唯
IF ありえた未来2

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青桐兄弟ルート①

本日、ニコニコ&CWでコミカライズが更新されています。

攻略対象キャラクターがたくさん出ていて豪華な一話なので、ぜひ読んで頂きたいです!


今回から数回、お知らせ投稿はSSではなく連載形式になります。

青桐兄弟はどちらかしか選べないのですが、両方を選ぶことが出来たら……という話です。

IFルートより、別次元の話、ANOTHERルートというイメージです。

そういうのを許せる方はお付き合い頂けたら嬉しいです。


夏緋と会長の分岐である釣りのシーンから書きますが、二人に関わらないところは飛ばしていくので、本編を読んで頂いていることを前提に進めていきます。

今話も会長が場所を変えて別行動するところまでは既存のものと一緒です。

前置きがないと文章として分かりにくいので入れておきますが、変わったとことからお読みになりたい場合は★★★マークのところまでスクロールして頂いて、そこから読み始めてください。


それでは、前置きが長くなりましたが、楽しんで頂けると幸いです。

 

「何故こうなった……」


 目の前で僅かに揺れる糸を目で追いながらぼやく。

 糸の背景に広がるのは凪の海。

 海、そう海だ。

 海に糸を垂らして獲物を捕る、所謂『釣り』というものをしている。

 会長に連行され、気がつけばこの状態だ。


 『何処に行きたいか』という質問をされた時に、ゲームの続きをしたかった僕は『のんびりしたかったのに……』とつい呟いてしまった。

 それを聞いた会長が『のんびりか! 任せろ! ハハハハ!』と馬鹿高笑いしながら突き進み、辿り着いたのがここだった。


 よく来ているのか迷うことなく釣具屋で釣具一式を借り、コンビニで飲み物などを買って今はペットボトルのカフェオレを飲みながら釣り中だ。


 水平線近くには船が渡る様子が見え、癒されるような穏やかな光景が広がっている。

 確かにのんびり出来ている。

 ……案外悪くない。


 釣りといっても本格的なものではなく、沖に向かって五十メートルほど突き出ている突堤の上からほぼ真下に糸を垂らすだけだ。

 釣竿も短いし、浮きもつけていない簡単なもので釣っている。

 気温は高くないのに風が無い上日差しを遮るものがなくて暑い。


「臭い。暑い」


 上から声が降ってきた。

 声の主は夏緋先輩だ。

 会長と移動しているときに連絡が入り、結局僕らについてきたのだが、さっきから文句ばっかり言っている。


「海なんだから潮臭くて当たり前でしょ。っていうか、いい加減座ったらどうですか」


「潮はいい。潮とは違う生臭さが嫌なんだ。それにこんなフナムシが行き交っているようなところに座りたくはない!」

「はいはい、そうですか」


 夏緋先輩は少々潔癖なところがあるようだ。

 釣りも餌のオキアミを触りたくないからやらないと言うし、突堤に直に座るのは汚いから嫌だと言ってずっと突っ立っている。

 それに暑いやら日に焼けるのは嫌だとか……どこのお嬢様だよ!


 明るいベージュのズボンにネイビーのフードがついたパーカー。

 中に白いTシャツを着ているのが分かる。

 こちらもシンプルだが、やはり本人が最高の素材なので安定のイケメン感である。


 制服にもパーカーを着ていたが好きなのだろうか。

 今は日差しを防ぐためかフードを被っている。


 ちなみに僕は遠出するつもりじゃなかったから部屋着のジャージだ。

 黒いジャージのズボンに、上は僕もパーカーを着て中にTシャツのスタイルだ。

 普通にダサい。

 元々そんなにお洒落に気を使っているわけではないが、それでも羞恥心を覚えるくらいにダサい。

 ダサい上に全身黒で暑い。

 何も良いことがない。


 早く家から離れた方がいいと思い着替えることを我慢したが、少し待って貰って着替えてくれば良かった。

 そんな後悔をしていると竿に異変があった。


「お?」


 微かだが手に振動が伝わってきた。

 ひょいと軽く上に振り上げたら振動は確かなものに変わった。


「お、食った!」



 意気揚々とリールを巻く。

 そんなに深さもないところだったので魚影はすぐに見えた。

 巻き上げると十五センチくらいのカサゴだった。


「わーい釣れた」

「やるじゃないか! くそっ、先を越されたか」


 隣で釣っていた会長が悔しそうに笑った。

 会長より先に釣れて結構嬉しい。

 中身に難はあるが、一見すると成績優秀、容姿端麗、おまけに生徒会長なスーパースターに釣りくらいは勝ちたいものだ。


「俺も気合を入れて頑張るか。未来の弟には負けていられん」

「オニイチャンガンバッテー」

「……馬鹿ばっかりだな」


 会長がお兄ちゃんになる日なんて、きっと来ないと思うけれどね。

 本物の弟が呆れた顔をしているが、全く気にしていないようだ。


「夏緋オニイチャン、そろそろ座れよー。背後霊みたいでなんか鬱陶しいよー」

「背後霊!? ……って誰がお兄ちゃんだ」

「だって会長がお兄ちゃんなら、会長の弟の先輩も僕にとってはお兄ちゃんじゃないですか」


 僕の言葉を聞くと、機嫌が悪そうだった夏緋先輩の眉間の皺が深くなった。

 そうですか、そんなに嫌ですか。


「よかったな、弟が出来たじゃないか! お前のためにも、俺は頑張って真の目を覚まさなければな!」

「良くない、頑張るな! ほら、お前のせいで変な方向に進んだじゃないか!」

「夏緋オニイチャンが怒ったー怖いー」

「こら夏緋。央を苛めるなよ」

「……はあ」


 夏緋先輩が白けている様子を横目で見ていると、また竿に当たりがあった。

 急いでリールを巻くとさっきと同じカサゴが上がってきた。


「やったー」

「おお、順調じゃないか!」

「兄貴も頑張れよ」

「俺は大物しか釣らない。まあ、待て」


 釣ろうとする佇まいだけはさまになっていて絵になるけど、こんな簡単な装備で大物はゲットできないだろう。


「お、やった!」


 それからも、僕は何匹か釣り上げた。

 釣れたのはカサゴばかりで大物はないが、定期的にアタリがあり順調だ。

 それに比べて……。


「何故だ……ピクリともせん……」

「全く釣れてないじゃないか。下手なんじゃない? 天地に教えて貰えば?」

「オニイチャン、ドンマイ」


 見ていて少し可哀想になってきた。

 釣りたいのは分かるが、会長のオーラが魚をもビビらせているとしか思えない。


「場所だ! 場所が悪いんだ! もう少し沖に近いところで釣ってくる!」


★★★


 そう言うと、積み上げられた消波ブロックの上を軽々と飛び渡りながら、沖の方に行ってしまった。

 こんなところで運動神経の良さを披露しなくても……。


「僕も行こう」


 自分はある程度成果があるし、会長の釣りに付き合おう。

 僕は立ち上がったが、夏緋先輩は冷めた目で会長を見送っているだけで、動く気配がない。


「オレはカフェがあった辺りに行って――」

「一緒に行きますよね。はい、バケツ」


 あの会長の世話を、僕一人でやれと?

 不安しかなので、いざというときは弟さんが引き取ってください。


「いらない」

「じゃあ、餌を持ちます? はい、どうぞ!」


 生臭さがあるオキアミを差し出すと、夏緋先輩は思いきり顔を顰めた。


「…………」


 無理やり握らせましょうか? という圧を送っていると、夏緋先輩は心底嫌そうにバケツの方を受け取った。

 勝った!

 青桐の血に初勝利の瞬間だ。


 気分よく歩き出したのだが、前を見たら会長はもう遠くまで行ってしまっていた。

 移動するならみんなで行けばいいのに。


「会長って子供の頃からあんな感じですか?」


 隣を歩いている夏緋先輩に話しかけた。


「あんな感じとは?」

「我が道を行くというか……」


 物心ついたときから俺様少年だったのだろうか。

 ぜひ、その姿を確認したいので青桐家のアルバムを拝見したいです。


「まあ、そうだな。兄貴はずっとあんな感じだ」

「会長ってすごくかっこいいですけど、一緒にいるのは大変そうですね」

「かっこいい?」


 夏緋先輩は、僕が会長を「かっこいい」と言ったことに驚いているようだ。

 僕の会長に対する態度は、会長のことを好きな人達とは違って全然違う。

 だから、僕は会長のことを嫌っていると思っていたのだろうか。


「お前の兄はどうだ? 子供の頃から変わらないか?」

「え?」


 今度は僕の方が驚いた。

 夏緋先輩が兄のことを聞いて来るとは……!

 まさか、夏緋先輩も兄の魅力に気づいたのか!?


「そうですね。子供の頃からかっこよくて優しい自慢の兄です!」


 夏緋先輩まで兄を好きになったら、人間関係が複雑すぎることになるが、兄がイケメンにモテるのは心躍る。

 僕はつい笑顔全開で答えてしまった。


「……そうか」


 え? それだけ!?

 質問に答えたのに、もっとコメントをくださいよ!

 夏緋先輩はパーカーのフードを被ったままで、わずかに風で髪が揺れているところが見えてかっこいい。

 目の保養になるけど、もう少しコミュニケーションもとってくれませんか!?


 沖の方へ着くと、消波ブロックの上で釣りをしている会長を発見した。

 あんなところで釣りをするのは危険だからやめて欲しい。


「会長、危ないですよ! 落ちないでくださいよー!」

「そんなヘマはしない! お前達はそこでのんびりしていろ!」


 駄目だ。会長が僕の忠告を聞くはずがない。


「僕は会長が落ちても助けに行きませんよ!」


 何かあっても夏緋先輩がいるし、僕は早々に説得することをあきらめた。


「夏緋先輩、会長が落っこちたらあのフナムシが行き交っている中を進んで助けてあげてくださいね」

「……兄貴なら落ちても大丈夫だろ」


 会長、この感じだと弟さんにも助けて貰えませんよ!

 僕はすぐに118に電話だけはします。


「まあ、僕はこっちでのんびり釣ります」


 場所は移動したが、さっきと同じように腰かけて足をブラブラさせて海に糸を垂らした。

 夏緋先輩は相変わらず座りたくないようで、白い灯台に背中を凭れて立っていた。

 疲れないのかな、と思っていたら、僕はある発見をしてしまった。


「夏緋先輩、残念なお知らせがあります」

「あ?」

「そこにもフナムシがいますよ」


 夏緋先輩が凭れている灯台にも、フナムシが動き回っていたのだ。


「…………っ!!!!」


 僕が指さしたフナムシを見て、夏緋先輩は声にならない悲鳴をあげて瞬時に離れた。


「あははっ!! はー……笑ってないです!」


 その必死な形相が面白くて思わず笑っていたら、担いで海に放り込まれそうな目で見られた。

 本気で消すぞ、という意思を感じた。怖すぎる!


「夏緋先輩、ここにいるかぎり、どこに行ってもフナムシはいますよ。あきらめて座ったらどうですか? ここにどうぞ」


 綺麗好きのお嬢様のために、僕はパーカーを脱いで敷いて差し上げた。

 だが、すぐに拾って顔に投げ返された。ひどい!


「着ていろ。日焼けするぞ」


 夏緋先輩は観念したのか、そう言いながら僕の隣に腰を下した。

 背後霊みたいに立っているのが気になっていたから、僕もようやく落ち着いた。


「なあ」


 夏緋先輩は海を見つめながら、真面目な声で話しかけて来た。


「告白ですか? お断りしま――」


 返答している途中に、夏緋先輩がいる側の脇腹にダメージが入った。

 この人、殴って来たのですが!


「会長! 夏緋オニイチャンに虐められていますー!」

「夏緋ィィッ!!」


 すぐに会長にチクると、怒鳴られた夏緋先輩は舌打ちしながらも大人しくなった。


「会長の言うことは聞くんですね!」


 僕も兄に叱られるときは、すぐに「ごめんなさい!」ってなるから、気持ちは分かる。


「兄貴に逆らっても無駄に労力を使うだけだ」


 そう呟いた夏緋先輩は遠い目をしていた。

 度々感じていることだけれど、会長が兄で色々苦労しただろう。

 ごめんなさい、もうチクりません。


「でも、夏緋先輩はそう言いながらも、今日だってこんなところまでついて来ているじゃないですか。夏緋先輩も、お兄ちゃんが大好きなブラコンですね! 僕と一緒!」

「はあ? お前が余計なこと吹き込んで、面倒なことになったら困ると思っただけだ!」


 夏緋先輩は必死に否定するが、照れているようにしか見えない。

 ブラコンなイケメンだと思うと、大体のことは許せる気がしてきた。


「で? 告白じゃないならなんですか?」

「この前は悪かった」

「この前?」

「お前の兄を悪く言ったことだ。確かに、お前とオレは同じ状況だよな」


 まさか謝って貰えるとは思わず、びっくりした。

 クールで冷たい印象だったし、会長の弟だからもっと唯我独尊などかと思ったら、ちゃんと謝ることができる人のようだ。


「許してあげますよ。ブラコンのよしみで」

「違うって言ってるだろ!」


 ブラコンを否定する夏緋先輩に向けてニコニコしていると、僕を説得することを諦めたのかまた舌打ちをして海を眺めはじめた。

 これは僕の二勝目では?


「あ、夏緋先輩も釣ってみません? 餌ならつけてあげますよ」

「死んでもしない」

「なんだとぉ……」


 退屈だろうなと思って気を使って誘ったのに……!

 愛想泣く即答で断られたので少し意地悪をしたくなった。


「そう言わず……やってみましょうよ……」


 ついさっき餌を掴んでいた手を夏緋先輩に向けて伸ばす。


「おい、まさか……オレに触るなよ!? ぶっ殺すぞ! 海にぶち込むからな!」

「そんなこと言わず、ブラコン同士仲良くしましょうよ!」


 立ち上がって逃げようとする夏緋先輩の手を掴み、逃亡を阻止した。


「ちょ……おまっ、離せ! うわ……ああああっ」

「いやあ、ブラコンもお揃いですし、手についている菌もお揃いですね!」


 恋人繋ぎで指の間まで隅々、ぎゅっぎゅっと握ってやった。


「ああっ、すみません! 体勢を崩しましたあ!」


 そう言って抱きつくような形で服まで触ってやった。


「嘘だろ……」


 僕が触った箇所を見て嫌そうにしている夏緋先輩を見て満足した。

 完全勝利である。


「お前達、随分仲良くなっているじゃないか」

「会長!」


 振り向くと、消波ブロックから帰還した会長が立っていた。


「落ちずに戻って来たんですね……」

「残念そうに言うな!」

「お前、無駄に勇気あるな……」


 ポケットに入れていたのか、ウェットティッシュで延々と手や服を拭いている夏緋先輩が僕を見た。

 呆れているのか感心しているのかよく分からない目で僕を見ないでください。


「俺もこっちでのんびりするか」


 夏緋先輩の反対側となる僕の隣に、会長はどかっと腰を下した。

 顔のイイ兄弟に挟まれているのは悪くない。

 僕の細胞が若返るか活発化する気がする。


「あっちで釣れなかったんですか?」

「……何度もおもりと針をつけるのが面倒になった」

「ぶはっ!」


 何度も根掛かりして切れたから、何度も付け直した,ということがすぐに分かったので、思わず吹き出してしまった。

 確かに、さっきまで会長がいたところの方が大物は釣れそうだが、障害物が多いし潮の流れも複雑だ。

 引っ掛かりやすいだろう。


 もう大物は諦めたのかな。

 会長も僕と同じように、のんびりと釣りを始めた。


 糸を垂らして反応があるまでボーっとするだけで暇だ。

 だから、思い切って会長に気になっていることをあれこれ聞いてみようと思って。


「いきなりですけど、会長は兄ちゃんのどこが好きなんですか?」


 会長の想いを聞いたら夏緋先輩も納得するかもしれない。

 そう思ったので、唐突だが質問をしてみた。

 何より、会長の兄への気持ちとか! 僕が個人的に! とても知りたいです!


 会長はまじめに答えてくれるようで、真剣に考え始めた。


「どこが、か。言葉にするのは難しいが……。俺に似ていると思ったことがきっかけだったかもしれない」

「ええ!? どこが!? 全然っ似てませんけど! 一緒にしないでくださ……って、その拳やめてください」


 天使のような兄と赤鬼が似ているだなんて!

 つい、全力で否定してしまった。

 だって似てないし!


「追加も必要か」


 反対側の夏緋先輩まで拳を握ってニヤリと笑いだした。


「暴力のおかわりはいりません! ごめんなさい!」

「ったく、聞きたいなら大人しく聞け」

「はい……」


 ここで聞けなくなったら一生自分を許せなくなるので、僕は全力で余計なことを言ってしまうお口にチャックをした。


「最初に俺と真が似ていると思ったのは、人柄じゃなく能力的なところだ」

「なるほど」


 確かに、会長も兄も高スペックイケメンだ。


「能力的には同じなのに、俺とは違って、真は温和でいつも人に囲まれているだろう?」


 会長は人を圧倒するオーラがあるから近寄りがたいけれど、兄は優しいし雰囲気が柔らかいから話しやすさがある。


「俺にはない能力を持つ真に好感を持った。真のことをよく知りたいと思い始めて……そういうのは初めてだったな」

「ほう……」


 兄が会長の『初めて』を奪ったとか……。

 大変にニヤニヤしたいところだが、全顔面筋力を用いて耐える!

 俺様攻めの受けに対する語りを聞けるなんて、転生してよかったー!


「一緒に過ごせば過ごすほど、真はよくできた人間だった」


 会長に認められる兄はさすがだ。

 弟の僕は鼻が高い。


「弟のお前なら分かると思うが、真は負の感情を表に出さない。俺ならキレているような場面でも穏やかに諭していたような真が、暗い顔をしていた時があったんだ。まあ、相手が俺だからそういう面も見せてくれたのかもしれないが……」

「はいはい。続きをどうぞ」


 急に惚気だした会長がちょっと可愛かったが、早く続きをください!

 ちゃんと反応しなかった僕を会長がジロリと睨んできたが、「惚気たところで、兄の彼氏は春兄ですけど」と口に出さなかった僕を褒めて欲しいくらいだ。


「あれは球技大会があったときのことだ。真はクラスメイトに頼まれて、球技の中でもテニスにでることに決まったのだが、テニスに人気が集中してな。かなり揉めて、真も公平に決めるため、メンバー決めの話に参加しようとしたそうだが、真は確定でいいと言われたそうだ」

「ああー……」


 メンバー決めの話に入れて貰えなかったが、兄は仲間外れにされているわけではない。

 兄がいるからテニスが人気なわけで、兄がいなくなったら揉める意味がなくなるわけで……。


「真はもちろん、クラスメイト達に悪意はないと分かっているが、疎外感があって寂しかったそうだ。そういう『見えない壁』を感じることが、子供の頃からあったと言っていた」

「……そう、なんですね」


 兄がそんな思いをしていたなんて……。

 初めて知ったので驚いた。


「そこでお前の話になった」

「……え、僕?」

「ああ。兄弟でよく似ているのに、お前は人に壁を作らせない。いつも人の輪の中にいて楽しそうにしている。真はそれが羨ましいらしい」


 これには更に驚いた。

 何においても僕より優れている兄が、僕を羨ましがっているなんて信じられない。


「うーん、それって……兄にはカリスマ性があるけど、僕にはないから話しやすいってだけのような……?」


 僕は感じたいよ、『見えない壁』。

 そんなこと言ってみたいよ!


「カリスマか。確かにあいつには人を惹きつけるものがある」


 そうですよね、惹きつけられてBL落ちしたのが貴方ですよね。


「俺は気にしていないが……。『見えない壁』というのは、俺も日頃感じることがある。教師ですら、俺に遠慮している節がある。いつも人に囲まれている真は、俺とは違うと思っていたのだが……同じ悩みを持っていたことに驚いた」


 あれ? 今、会長は壁を作られても気にしていない、って言っていたような……。

 自分で『悩み』と言ってしまっていることに気がついているのだろうか。


 会長は人を統率するタイプだし、完璧すぎて近づき難く、遠くから憧れられるタイプだ。

 兄は温和で近付くとは出来るが、こちらも完璧すぎて深いところまで気軽に踏み込めない。

 二人ともタイプは違うが、『高嶺の花』であるがゆえの壁を作られてしまうのかもしれない。


「お前のことを話すあいつの表情も意外だった。あれは『嫉妬』だろうか。分からないが、初めて見たあいつの『負の感情』だったと思う。それから、気がつけば真のばかり考えるようになっていた。俺に気負いせず話してくるのはあいつしかいない。俺もまた、あいつには気負いなく話せる。だから、俺には真の存在は何者にも代え難い」


 ……案外、会長もデリケートだったんだな。

 見えない壁に悩んだり、兄への想いも繊細なものに聞こえた。


 ゲームでは『自分と違う』というところがポイントだったはずだけど、実際は『自分と同じ』というところに惹かれていたのか……。

 くそっ……ちょっと応援したくなるじゃないか。

 ゴリラだと思っていたけど、ちゃんと『人』だった!


「会長、僕は感動しました! ちゃんと兄ちゃんのことを好きになってくれていたんですね」

「はあ? 当たり前だ。こんなことふざけるわけがないだろう」


 僕は会長の兄への想いを聞いて、僕のテンションは半端なく上がった。

 俺様会長の精細なところとか、ギャップ萌え!

 会長からそんな一面を引き出してしまう兄も尊いですね!


 本当は海に飛び込んでひと泳ぎしてやろうか! というくらい騒ぎ出したいのだが、不審者になってしまう。

 一方、必至にパッションを抑える僕の隣に座る夏緋先輩を見ると神妙な顔をしていた。


「兄貴でもそういうことを考えるんだな」

「?」

「……なんでもない」


 会長の真剣な想いを聞いて、何か思うところがあったのだろうか。

 夏緋先輩が何を思ったかは分からないが、これで男だからという理由で否定することはなくなったらいいなと思う。

 応援されたら兄と春兄の障害になってしまうから困るけど!


「会長のこと、見直しました。協力は出来ませんけどね」

「しろ! 何のためにこんなことをしていると思っているんだ。もう、俺のことを好きになったんじゃないか?」

「少しだけ! 夏緋先輩のことも好きになりましたよ」

「は?」


 突然話をふられて、夏緋先輩はきょとんとしている。

 好感度マイナスから、ブラコンの同志にジャンプアップしたのだ。

 僕の中では大改革が起きたと言える。


「おい、おかしいだろ! どうして夏緋の方を好きになるんだ! ここに連れて来てやったのは俺だぞ」


 そう言って、肩を組まれた。

 完全にカツアゲされる構図だから怖いですって!

 あと俺様の整った顔面が近くにあると拝みたくなるので……!


「会長のことも少―し好きになったって言ったじゃないですか」


 重たい腕から逃げながら答える。

 少しどころか、本当は爆上がりだよ!

 言ったら余計に協力しろ! って言われそうだから言わないけど!


 俺様攻めの語りを無料で聞かせて貰えるなんて、ありがた過ぎて申し訳ないくらいだ。

 でも、人間とは欲深い生き物なので、もっとそういう話を聞きたくなってしまう。

 そういえば、夏緋先輩の恋バナはないのだろうか。


「夏緋先輩はどうなんですか?」

「オレはお前のことなんて、なんとも思ってない!」

「? ……あ、僕の中で夏緋先輩の好感度が爆上がりした話じゃなくて、夏緋先輩にも恋バナはないのかな、って」

「…………。紛らわしい聞き方をするな!」


 どうやら「僕は夏緋先輩が好きですよ。夏緋先輩は僕のこと好きですか?」という風に伝わっていたようだ。

 僕のことをなんとも思っていないのは「そうだろな」と思うけど、面と向かって言われると結構傷つくのですが!


「そんなに怒らなくてもいいじゃないですか。夏緋先輩は男同士の恋愛を毛嫌いしてますけど、海外できっかけになるような出来事でもあったんですか!?」


 質問しながらハッとした。

 海外BL話を聞かせて貰える可能性……!!

 夏緋先輩は海外なら、受けとして狙われてそうだ。


「何もねえよ! あるわけないだろ!」

「この過剰反応は意味深……」

「夏緋も色々あったのか……。まあ、何事も経験だ」

「なんもねえよ! 兄貴まで乗るな!」


 本当にないのかな?

 金髪のイケメンに襲われた話が聞きたかった……。


「人の話ばかり聞きたがるが、お前はどうなんだ?」


 会長に聞かれ、今度は僕がきょとんとした。


「僕ですか?」


 兄カップルを含め、あなた達を推すことで頭がいっぱいなので、恋愛している暇なんてありません。

 もっと生BLが見たい! ただそれだけだ。

 それにしても……。

 会長と夏緋先輩をジーッと見つめる。


 やっぱり二人とも顔がいい……スタイルもいい……。

 ぜひとも会長×夏緋先輩を生で浴びたいものだ。


「なんだ?」

「ジロジロ見てんじゃねえよ」


『間違い』が起きればいいのに……できれば今すぐここで……。

 ……という念を送って見つめていたら、会長と夏緋先輩が困惑し始めた。

 おっといけない、念を込め過ぎた。

 念はこっそり送らねばと反省していると、会長の竿が下に下がっているのが見えた。


「なんでもないです。あ、会長、竿が!」

「? おお! とうとう来たか!」


 会長が意気揚々とリールを捲くと、釣れた魚が上がって来たが……。


「ちっさ!! 赤ちゃんじゃん!!」


 10センチに満たない小さなカサゴだった。

 会長は無言ですぐにリリースしたあと、僕を見てため息をついた。

 ……何?


「今日は大物を釣れなかったが、小物を釣れたから満足しよう」


 それって……。


「小物って僕のことじゃないだろうな!」

「……ふっ」

「夏緋先輩、今笑いましたね!?」


 兄に比べたら小物なのは認めますけど、言い方に悪意がありすぎる!

 家に帰ったら兄に、赤鬼と青鬼に小魚扱いされたってチクってやるからなー!


来週コミカライズは、番外編が更新されます。

長くなったので、その際に電車のシーンを書こうと思います。

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― 新着の感想 ―
[一言] 青桐兄弟ルート、ありがとうございます!! この言葉だけで萌が摂取できます! 順調にBL沼に浸かって逝ってますw というか、夏緋先輩、ウエットティシュ持ってたのか… これで頬に手をやるイベン…
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