放課後デート
昨日(6/16)、ComicWalkerとニコニコ漫画にてコミカライズ9話が更新されました。
Webと書籍のいいところを濃縮した素敵な一話にしてくださっているのでぜひ見て頂きたく……!
今回のお知らせSSは、会長ルートアフターです。以前書いた夏緋・お部屋デートの会長verです。
今日の放課後も、僕はいつもの通りに生徒会室にやって来た。
会長と付き合うようになったあとも、この習慣は変わっていない。
でも、今日は会長と出かける約束をしているので、すぐに生徒会室を出る予定だ。
今は会長の隣に座り、作業が終わるのを待っている。
何もせず待っているのは暇だから、スマホでゲームをしていたが……。
「…………」
黙々と書類を捌いている会長の顔をチラッと見た。
真剣な表情がかっこいい。
高笑いしている時も好きだが、凛々しい表情の時は世界一かっこいいんじゃないかと思えてくる。
そうだ、この感動を記念に残しておこう。
僕はそっとスマホのカメラを起動し、会長に向けてシャッターボタンを押した。
「……何をしている」
「盗撮です」
「ふっ、堂々とした盗撮だな」
本気で早く終わらせようとしているようで、作業をする手を止めないし、こちらを見ない。
止められないということは盗撮し放題だ。
「おい……気が散るからやめろ」
「だって、会長は今年卒業しちゃうじゃないですか。だから、生徒会室でこうして過ごせる時間は貴重だなと思って……」
適当に犯行理由を述べたつもりだったのだが、口にすると段々悲しくなってきた。
一年後、会長はここにはいないんだよなあ……。
そう思うと、生徒会室での思い出が一気に蘇って来た。
「……最初はここにあまり来たくなかったなあ。兄ちゃんのことで、何度も呼び出されて面倒くさくて……」
しみじみそう零すと、会長の作業をする手が遅くなった。
ちょっとショックを受けているようだ。
「そんなにしょんぼりしないでくださいよ。でも、楽しかったですよ」
ゲームキャラではない、リアルな会長とのやり取りは『兄と春兄のことを勝手にカミングアウト』から始まった。
だから、「顔は良いけど中身は難あり!」だと思っていたのに、今はこんな関係になっているとは……。
「ここでは、色々とあったな」
会長も僕と同じように思い返していたようで、手が完全に止まっていた。
「時折、ここでお前にフラれた時のことを思い出して、部屋中ぶっ壊してやりたくなるが……」
「器物破損反対」
どうしてすぐ破壊衝動が起きるんだ……。
「壊さないでくださいよ。大事な思い出の場所なんですからね!」
僕がそう言うと、会長がこちらを見てニヤリと笑った。
「もっと思い出を作っておくか?」
「は?」
こういう顔をしている時は、問題行動を起こす時だ。
「早く作業終わらせてくださいよ。出かける時間なくなるじゃないですか」
問題行動を起こす前に軌道修正して、作業に戻って貰おうと思ったのだが……腕を掴まれた。
「時間がかかることじゃないぞ?」
「ちょっと待って、誰もいないけど、こんなところで……!」
近寄ってくる会長から逃げようと思ったが、腕を掴まれているから動けない。
どうしよう! と思っていたら――扉が開いた。
「兄貴、書類を預かってき――」
夏緋先輩が見えた瞬間、腕を掴まれたままで動ける限界まで離れた。
でも、くっついていたのを見られただろうし、気まずい……!
夏緋先輩の顔を見てみると、これはやばいと思ったのか、「しまった……」という表情をしていた。
「夏緋。お前は悉く俺の邪魔をしたいようだな……」
会長が言い終わる前に、夏緋先輩はバタン! と扉を閉めて消えた。
危機察知能力がすごい。
あまりにも素早い動きで消えたから「幻だったのか?」と思ったが、夏緋先輩がいた近くに書類が落ちているので、確かにいたようだ。
僕にとってはナイスタイミグだが、夏緋先輩にとっては最悪のタイミングだった気がする。
「……はあ。とにかく、これを始末するか」
会長は僕を解放すると、大人しく作業を再開させた。
よかった。夏緋先輩、犠牲になってくれてありがとう。
何かあったら、骨は拾います。
「……そうだ。央、夕飯はいらないと真に連絡を入れておけ」
「? 分かりました」
この後どこかで食べるつもりなのかもしれない。
残りの作業が終わるのを待ちながら、兄にメッセージを送った。
作業を終わらせた会長に連れられてやって来たのは、会長の叔母である希里子さんが営む小料理屋だった。
「あら、夏希ちゃん。それに央君も! いらっしゃい! よく来てくれたわね」
「希里子さん、こんにちは! あ、もう夕方だからこんばんは」
「はい、こんばんは~」
今日も上品な和服美人の希里子さんに挨拶をしていると、会長が僕を奥の座敷に誘導した。
「お前はあそこで座っていろ。ゲームでもしておけ」
座敷に一緒に行くと思ったのだが、夏希ちゃんは厨房の方に行くようだ。
希里子さんの手伝いをするんだろうか。
「夏希ちゃん、手伝いなら僕も……」
「その呼び方をするなと再三言ったはずだぞ! お前は黙って血塗れのウサギから逃げていろ!」
「ええー……あのホラゲもう飽きたし、やっぱり手伝いを……」
「ふふっ! いいの、いいの! お客様は待っていてね」
本当に手伝わなくて大丈夫か気になったが、覗きに行こうとすると希里子さんに止められたので、大人しく言われた通りにゲームをすることにした。
ハブられた気がして、ちょっと悲しい。
「新しいゲームでも探すかな……」
「いい匂いがしてきた。お腹空いたなあ」
三、四十分くらい経っただろうか。
こっそり会長を探しに行こうかと思っていると、ちょうど会長が姿を現した。
「待たせたな」
「大丈…………エプロン!!!!」
目の前に立っている会長は、制服のシャツの上にエプロンをつけていた。
このお店のエプロンで、紺色の生地に店名とマークが入ったシンプルなものだが、エプロン姿という初のスタイルを見て、僕のテンションは爆上がりした。
「ああ、これか? シャツが汚れるからつけろと言われてな……って、無言で写真を撮るな」
「いや、撮るでしょ。普通」
「お前の普通がよく分からん……」
呆れながらも会長は、持っていたお盆からテーブルの上に料理を並べ始めた。
エプロンをつけているということは、もしかしてこの料理は……。
「これ、会長が作ったんですか? 会長って料理できるんですか!?」
ごはんと味噌汁、レンコンサラダにロールキャベツ。
和風定食としてお店で出てきそうなほど見栄えがいいし、美味しそうだ。
驚く僕を見て、会長は得意げに笑った。
「俺にできないことはない」
「ぱねぇ……」
本当になんでもできる人だな。
……釣りの成果はなかったけど。
「さっさと食うぞ」
会長はエプロンを外して畳の上に放り投げると、すぐに食べ始めた。
もうちょっと「会長が料理をした!」という衝撃の余韻に浸りたかった……。
僕も食べようと箸に手を伸ばしたが、写真を撮っていないことに気づいた。
会長が作ってくれた料理だなんて、記念として写真に残しておかないと一生後悔する!
パシャパシャと撮りまくっていたが、「早く食え!」と叱られたので、大人しく食べ始めた。
くそう……調理しているところも撮りたかった!
「! 美味しいです!」
会長の料理は、見栄えだけじゃなく味も本当に美味しかった。
「俺が作ったんだ。当たり前だ」
ドヤ顔をみると、頬に指を突き刺して変顔にしてやりたくなるけど、本当に美味しいからこの衝動は抑えよう。
「料理は昔からやっていたんですか?」
「いや、最近始めた。卒業したら家を出るつもりでな。そうなると自炊しなければいけないだろう? それに、俺に真のような生活力があれば、お前も安心して暮らせるからな。将来のためだ」
「!」
一瞬どういうことか分からなかったが、それは……つまり?
「もしかして……。将来、僕と一緒に住むつもりですか?」
「当然だ」
何を当たり前のことを言っているんだ? という顔をしているが……そうなの?
え、決定事項なの?
「お前は先のことを考えて不安になるようだから、不安要素は潰していく」
会長に告白されて揉めた時に、会長は女の子といるべきとか、お家断絶とか、色々とぶつけたことを気にしてくれていた……?
何なのこの人……スパダリなの? スパダリじゃん!
「……兄ちゃんレベルの生活力は、中々備わらないですよ」
嬉しかったが、素直に反応するのが照れくさくて少し茶化した。
顔が緩むのを抑えきれなかったから、手で隠しつつ俯いた。
「誰に言っているんだ? 真に勝てるのは俺くらいだ」
「ソウデスネ!」
以前なら「調子に乗るな!」と突っ込んでいたはずなのに、全部かっこよく見えてしまうから僕は重症なのかもしれない。
「央。今日生徒会室で、俺が今年で卒業だって話をしただろう?」
「あ、はい……」
「学生生活を共有できなくなるのは寂しいが、先の楽しみがある。お前も卒業したらやりたいことを考えていろ」
「! そうですね……」
会長のこういう前向きなところが好きだなと思う。
僕も兄に料理とか家事を教わっておこうかな。
兄の元で花嫁修業か……。
「卒業後のことはいいとして……。生徒会室での思い出はやはり増やすべきだな?」
「…………」
せっかく今までかっこよかったのに、ニヤリと笑い始めてしまった。
夏緋先輩に妨害されたことをまだ根に持っていたのか?
「何をするつもりだ、って聞きませんよ……」
「今すぐここで教えてやろうか?」
「駄目です!」
感想ありがとうございます!
お返しできていませんが、すべて拝見しております。
兄弟ルートもまた書きたいと思います^^




