『続・隠しルートで兄攻略』
本日、ComicWalkerとニコニコ漫画にてコミカライズ8話が更新されました。
前回に引き続き、青桐兄弟と深雪が出てきます。
ひょっこり出て来る楓もとっても可愛いです!
今回のお知らせSSは、隠しルートの兄攻略続編SSです。
シャーッとカーテンが開く音で目が覚めた。
「あ、起きた? おはよう。央」
朝一番にキラキラな兄を見ることができる幸せ。
窓から入る朝日より輝いてるとは恐れ入る。
「おはよ、兄ちゃん」
神の愛し子の兄は、生まれた時から尊く美しかったが、僕との関係が変わってからは更に尊みが増したと思う。
自然と体が動き、手と手を合わせた。
「……央の突飛な行動には慣れたけど、まだ理解はできないみたいだ。今日はどうして祈っているんだ?」
「祈っているんじゃなくて拝んでる。そして、兄ちゃんという奇跡に感謝してる」
「…………。早く着かえておいで。今日はホットサンドだから」
「わーい!」
兄は僕の行動を理解することを諦めたようだが、朝食がホットサンドならなんでも許容できる。
急いで着替え、1階のキッチンに向かった。
階段を下りている時からいい匂いがしていたが、目の前に置かれたホットサンドからはとてつもなくいい匂いがしている。
「いい匂い過ぎて……このまま鼻から吸い込む恐れが……」
「馬鹿なこと言ってないで、ちゃんとよく噛んで食べなさい」
起きたところから呆れられ続けているが、僕が美味しそうに食べたり、喜んだりしていると兄も嬉しそうだ。
可愛い。どう考えても可愛くてつらい。
それにしても、起きてすぐに素晴らしい美貌を見せてくれる上、おいしいごはんも作ってくれて、何かと世話をしてくれる。
僕は大変いい嫁を貰ったものだ。
最近ではホットサンド率も高くなったし、幸せ過ぎる。
そんなことを考えていると、ふと思った。
そういえば今の兄と僕は『同棲中』という考えでいいのだろうか。
「難しそうな顔して、今度は何だ?」
美味しくてすぐに食べ終わったので、食器を下げながら唸っていると、兄がこちらを見て笑った。
ちょうどいい、兄の考えを聞いてみよう。
「僕達って同棲なのか、同居なのか、どっちだろうって思って」
質問をすると、兄はきょとんとしたあと、「うーん」と考え始めた。
「同居、でいいんじゃない? 同棲って言った方が、恋人らしい気がするけど、結婚したら家族になって、同棲よりも同居の方があっているだろう? オレ達は元々家族だし、こっちの方がしっくりこない?」
「なるほど……」
それはつまり……僕達はもう結婚後、という解釈でいいのか?
兄ちゃんは嫁感があるし、それでいいか。
無事難問が解決したところで、ピンポーンとインターホンが鳴った。
いつもより少し早い時間だが、いつもの人だろう。
「春兄、来たみたいだね。僕が鍵を開けて来るね」
「うん、お願い」
兄は食器を洗っている途中だったから、僕が玄関に向かった。
元カップルの二人は、普通の友人に戻ったようで、以前のように一緒に登校している。
僕の方も、楓や雛と行くことが多い。
兄と春兄、お互い色々と思うところはあるだろうが、そういうところは見せていない。
春兄も最近では僕達に「俺がお前ら二人の彼氏になってやろう」などという冗談を言うようになったから、ある程度は吹っ切れたんだと思う。
春兄のことも兄の様に慕っているから、元気になってくれて嬉しい。
あ、三人で交際とか、絶対にないです。
「春兄、おはよー」
「おう! おはよう」
玄関の鍵を開けて春兄を迎える。
兄の準備がまだなので、中に入って貰うことにした。
今日も爽やかイケメンな春兄を引き連れてリビングに戻る。
「おい、央。まだ寝ぐせがついてるぞ」
後ろにいた春兄に、後頭部の髪を触られた。
「え? くしでといたけどなー……って、なにすんだよ! 余計にぐしゃぐしゃになるじゃん!」
髪を触っていた手が乱暴になり、頭をガシガシされたので抗議した。
すると、食器を洗い終えた兄がスタスタと近づいて来た。
「春樹は央に触るな、って言っただろ」
そう言って春兄の手首を掴み、手をぺしっと叩いた後、くしを持ってきて僕の髪をときはじめた。
「……お前らは五歳児とお母さんか」
春兄が呆れた様子で何か言っているが聞こえなーい!
「央の世話は、オレの生きがいなんだから口を出さないでくれ」
「!」
兄の言葉に「そんなことが生きがいなの!?」と、思わずびっくりしてしまったが、嬉しい。
僕は一生兄に世話をして貰えそうだ。
何から何まで至れり尽くせりで、僕はこのままだとダメ人間になる予感しかしない。
いや、甘えてばかりではだめだ。
僕が兄を支えなければ! と気合を入れようとしたのだが、髪をとかれるのが気持ちよくてへらへらしてしまった。
髪を解いている方の兄もなんだか楽しそうだ。
「ったく、二人揃ってほわほわしやがって。早く準備しろよ。そろそろ行くぞ」
「あ、今日は僕も一緒に行く」
今日、楓は朝練があるから先に行っているし、なんとなく兄と春兄を二人にするのが嫌だ。
「そうか。じゃあお前も早く準備しろよ」
そう言う春兄に、また頭をガシガシされた。
「あ! 春樹、こら! せっかく整えたのに! それに央には触るなって言ってるだろ!」
兄がぷりぷりしながらまた僕の髪を整え始めた。
春兄はそれを見て笑っている。
二人のこういうやりとりも前から変わらない。
でも、それがちょっとせつない。
僕のせい、なんて言うと、二人は「違う」と言うだろうけど、大きな要因ではあることは間違いない。
申し訳ない気持ちでいっぱいになるが……兄ちゃんは僕が幸せにするし、覚悟を持って選んだ道を進みたいと思う。
そして春兄にも新たな彼氏ができるように応援する!
僕にできることがあればなんだってすると誓う!
※
午前中の授業が終わり、昼食の時間になった。
今までは大変だろうからと遠慮していたのだが、最近は兄が僕に毎日弁当を作ってくれている。
まだたまに春兄にも作ってあげているのがちょっと気になるけど、束縛系彼氏にはなりたくないので何も言わない。
今日は、兄が朝から油であげていた美味しそうなからあげが入っている弁当だ。
授業の一時間目から食べるのを楽しみにしていた。
早弁しなかった僕はえらい。
楓も僕に合わせて、最近は弁当を持ってきている。
自分で作っているそうで、いろどりもちゃんと考えられた可愛くて美味しそうな弁当だ。
相変わらずの女子力の高さには脱帽だ。
弁当を持参するようになった僕達は、教室で食べることが多いが、今日は天気がいいので屋上に行くことにした。
教室を出て、楓と並んで歩く。
「ボク、今日はサンドイッチなんだー。屋上で食べるのにちょうどいいでしょ! アキラも食べる?」
「いや、僕は兄ちゃんの弁当があるからいいよ」
「そっか。真先輩のお弁当、いつも美味しそうだよね。今日はどんなお弁当なの?」
「ふふっ……よく聞いてくれた。今日は冷めても美味い、兄ちゃんのからあげ弁当だ!」
「え、いいなー! ちょっと頂戴! サンドイッチと交換してよ」
「やだね!」
弁当に手を伸ばしてくる楓をかわしながら進む。
このからあげは一つも渡さぬ!
「央。楓」
「!」
名前を呼ばれて振り返ると、兄が立っていた。
そうか、ここは三年生の教室がある三階の廊下だ。
兄と遭遇しても不思議じゃない。
「二人とも元気だね。でも、廊下で騒いだらだめだよ」
「あ、ごめん」
「す、すみません」
兄はにこやかにそう言うと教室に入って行った。
「ねえ、なんとなくだけど……真先輩、機嫌が悪かった?」
兄の姿が見えなくなると、楓がコソコソと話しかけてきた。
「いや? そんなことないと思うよ」
……と言いつつ、僕も少し、おや? と思った。
さっきの兄は、いつも通りの穏やかな雰囲気と笑顔だったが、なんとなく目が笑っていないというか……。
「んー、やっぱり気のせいかな。真先輩、いつも優しいし、ボクだったら絶対キレる! ってことでも怒ったりしないし」
「うん? テニス部では、兄ちゃんが怒るような出来事が起きるのか?」
「他校との練習試合とかで、たまにあるよ。真先輩に勝手に群がって来た生徒が邪魔だ! て、真先輩にキレる奴とかいるんだ。まあ、羨ましいだけだろうけど」
「そんなけしからん奴がいるのか。そいつには膝カックンでもしてやれ」
「えー、ヤだよ。触りたくないもん。テニスボールぶつけるのでいい?」
「許す」
テニス部関連で兄ちゃんに失礼な奴への処罰は楓に託すとして……。
なんだか機嫌が悪そうだった件は、帰ってから聞いてみよう。
※
家に帰った僕は、昼間に考えていたことなどすっかり忘れていた。
いつも通り、兄の作った夕ごはんは美味しかったし、機嫌も良かった。
だから機嫌が悪いかも? なんて思っていたことは頭から抜け落ちていたのだが、ふと思い出した。
食器の片づけをしている兄の隣に並び、聞いてみる。
「兄ちゃん。今日、どこか体調が悪いの?」
「うん? 元気だけど……どうして?」
「なんか機嫌が悪かったから。楓もちょっと気になってたし」
僕がそう言うと、兄は少し驚いたあと、気まずそうな顔をした。
「やっぱり伝わっちゃったか。楓には悪いことをしたな」
「え? やっぱりどこか具合が悪かったの?」
「いや、そういうことじゃなくて……。なんていうか……オレは思っていたよりも心が狭いっていうか……」
兄にしてはめずらしく、ごにょごにょと話してはっきりしない。
「ん? 体調じゃなくて、嫌なことがあったってこと?」
「まあ、そう……かな。楓が央にベタベタしていたから、離れて欲しかったし……。オレが作った弁当と交換しようって聞こえてきてさ。央のために作った弁当を他の人に食べられたくなかったし、央には他の人が作ったものを食べて欲しくないって思ったら、ちょっと態度でに出ちゃった」
それは……僕と楓のやり取りを聞いて妬いた、ってこと?
……というか、ちょっと恥ずかしそうに話している兄が可愛すぎてびっくりする。
録画したい衝動に駆られたが、照れつつも反省している様子の兄に何か言わなければ……!
楓は気のせいってことで納得していたし、兄も気にすることはない。
何より、このことを反省して、今後妬いたところを見せてくれなくなったら――。
この可愛い顔が見られなくなる!
そんなので絶対に嫌だ!
「僕だって兄ちゃんが春兄と二人きりになるのが嫌だったし……! 今での一緒に登校してるのも、まだ弁当を作ってあげているのも気になるし! それから……」
「……ふふっ」
必至に反省しない様にフォローしていたら、なぜか兄が笑い始めた。
「何でそんなに必死になっているのか分からないけれど、央がいっぱい妬いてくれているのは分かったから」
「!」
言われてみれば、自分から妬いてますアピールしていることに、今更気が付いた。
カーッと顔が熱くなるのが分かった。
「あー……そうだ。僕、風呂入ってくるよ」
とにかく逃げよう。そして水風呂にでも入って精神統一してこよう。
「今日は風呂、一緒に入る?」
「!」
予想外のお誘いに、思わず目を見開いた。
でも、かっこ悪いので平静を装う。
「いや、やめとく」
「そう? それは残念」
「残念って何だよ……」
恋愛のことになるとすぐに動揺していた兄が、最近余裕を見せるようになっているのが困る。
さっきの僕の妬いてますアピールが兄を調子づかせてしまったのかもしれない。
クスクス笑っている兄を見ていると悔しくなり、反撃することにした。
僕よりも少し背の高い兄に届くように背伸びをして、顔を寄せた。
そして、自分の口と兄のそれを重ねた。
「これで我慢しといて」
顔を離すと、兄は目を見開いてびっくりしていた。
勝った! と思ったのだが……。
「積極的な央も可愛いな」
「!」
「オレの育て方が良かったんだな」
「はあ?」
なぜだ……今日の兄は何だか手ごわい!
照れている様子はあるけれど、年上の余裕を見せて笑っている……気がする!
「次するときは、反対でもいいよ」
「は……?」
何が、とは聞かなくても分かる。アレだ。
分かった瞬間、更に顔が熱くなった。
黙ったままでいると、兄が更に聞いてきた。
「今日はオレの部屋に来る?」
何とは言わないけれど、これまでする時は兄が僕の部屋に来ていて、兄が主導権を握っていた。
率直に言うと「攻め」だ。
それが今度は、僕が兄の方に行くわけだから、やはりポジションチェンジのお誘いというわけで……。
いや、まったく心の準備ができていない。
ここはやっぱり水風呂に入るか、冷たいシャワーを最強にして滝行をするしかない。
余裕なんて全然ないのだが、焦っている様子を見せるのは癪だ。
「き、気が向いたら行く!」
そう言って足速に風呂場に向かう僕の後ろでは、まだクスクス笑っている兄の声が聞こえたのだった。
絶対来ないと思っているな?
最後は僕が勝つ、ってことを分からせないといけないようだ。
腐女子として培った知識をフル活用する時が来た。
兄よ、待ってろよ!
※
「……以上です。はあ……」
語り部の白兎さんが、げっそりしながら大きな息を吐いた。
今日は白兎さんに、「どうしても話したいことがある」と言われ、放課後、屋上にやって来た。
屋上に呼び出されたので「告白?」と聞いたら、本気に殴られそうになったので、真面目に話を聞いていたのだが……。
なんと以前聞いたゲームの隠しルート、『1の主人公である兄攻略』の続きっだった。
今聞いた話は、ファンブックに後日談として載っていたらしい。
転生前の白兎さんは、これも腐っていたお姉さんに事細かに話された。
幸いなことに、最近までは忘れていたそうなのだが、夢に見て思い出してしまったらしい。
「邪神が『ほら! リバ推奨って言ったでしょう!? 私の解釈は正しかった!!』と叫んでいました。人に話すと忘れると言うので、一刻も早く諸悪の根源に話さなければと思った次第です」
「僕を諸悪の根源って言うな」
兄弟リバとか、好きなんだけどなあ……好きなんだけどなー!
登場人物が自分なんだよなー!
「! そうだ、今の話の兄ちゃんと僕を、会長と夏緋先輩に脳内変換すればいいんだ!」
そうすれば何も問題なく美味しく頂くことができる。
白兎さんのゴミを見るような目はつらいけれど、今日はいい夢が見れそうだ。
コミックス1巻はピッコマ様でも配信が始まっています。
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コミックスには素敵な描きおろしも収録されていますので、未読の方はこの機会にGWのお供として読んで頂けると嬉しいです!




