表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
BLゲームの主人公の弟であることに気がつきました(連載版)  作者: 花果 唯
IF ありえた未来2

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

63/101

夢の世界にようこそ

明日、12月27日(月)は、コミックスの『BLゲームの主人公の弟であることに気がつきました(1)』の発売日です。早いところでは25日から店頭に並んでいるようです。ぜひお手に取ってみて頂けると嬉しいです!


※Web本編の中盤~終盤くらいの話です。

 今日も僕は、兄の情報を聞き出したい会長に呼び出され、生徒会室に来ている。

 少しでもこの時間を快適に過ごすため、今日はいくつかお菓子とジュースを買って来た。

 会長の隣の椅子に座ると、早速ポテチを開封して食べ始めた。


「会長も食べます?」


 一人で食べるのも申し訳ないので聞いてみた。

 すると、会長は僕が差し出したポテチの袋をジーっと凝視した。

 好みじゃなかったのだろうか。

 というか、会長ってポテチとか食べるのだろうか。

 こんな安いものはいらない、とか言いそうだ。


「いらないなら……」

「いらないとは言ってないだろ」


 そう言うと、会長は僕の手から袋ごと奪った。


「全部はひどい! 一人で食べないでくださいよ、ちゃんとシェアしてください」


 会長の手からお菓子を取り返すと、二人で取り出しやすいように袋を大きく開封した。


「…………」


 再び黙々とポテチを食べていると、また会長がジーっと僕を見ていた。

 何か考えているようで不気味だ。


「さっきからその顔はなんですか」

「いや、大した事じゃないが、真と同じようなやり取りをしたな、と思い出していた」

「! 兄とのメモリーなら聞かせてください」


 兄と会長がポテチを分け合っているところとか見たい!

 見ることができないなら、話を聞かせて欲しい。


「どうしてお前に話さないといけないんだ」


 話したくないのか、会長が顔を顰めている。

 兄とのメモリーが大事なのは分かるが、少しおすそ分けしてくれたっていいじゃないか。


「話してくれたら兄とのことに協力する気が、奇跡的に起きるかもしれないですよ」

「『奇跡』ってことは、協力する気がほぼないってことだろうが」


 バレている。

 ほぼというか、兄カップルは保護対象だから崩すようなことをする気はない。


「話しても減るもんじゃないですし、教えてくださいよ! 会長から見た、兄ちゃんの第一印象はどうでしたか?」

「第一印象……か」


 会長はそう呟くと黙って考え始めた。

 どうやら答えてくれるらしい。わくわく。


「……あまり覚えてないな。まともに話せる相手がいるのはいいと思った記憶はあるが」

「ええ!? 覚えてない!?」


 そんな馬鹿な!

 主人公と攻略対象キャラの出会いなのに、そんな地味な……!

 もっとこう……雷が落ちたような衝撃があったとか、見惚れてしまったとか、そういう話を聞きたかった。


「一年の時、俺と真は同じクラスだったんだ。それで話すようになった。……余計だが、あの馬鹿も同じだったな」

「え……ええ!?」


 しょんぼりする気持ちが吹き飛ぶ情報が舞い込んできた。

 一年生の兄と春兄、そして会長が同じクラス!

 そういえば最近のことばかり気にして、過去に目を向けることを怠っていた。

 兄のことを好きになった背景などはゲームで知っているけれど、友人時代の話なんて詳しくゲームでは出てこない。

 ゲームの設定資料集を手に入れたときのような興奮だ。


「会長、ちょっと『タイム』」

「ああ?」


 まずは二年前の兄たちの姿を脳内に思い描いてから話を聞きたい。

 二年前の兄、というと……今とほとんど変わらないと思う。

 背は少し……二センチくらい低かったはずだ。


 春兄も若干背が低くて、髪が今より少し長かったかもしれない。

 あともう少しきっちり制服を着ていた気がする。


「会長は二年前、どんな感じでしたか!? 身長は!? 髪型は!? 制服の着方もそんな感じだったんですか!?」

「お前のその時折見せる異常な熱量は何なんだ……」

「そんなことはいいから答えてください!」


 若干引かれている自覚はあるが、興奮を抑えられないのでそのままグイグイ行く。


「二年前……。今と大して変わらないと思うぞ?」

「大して、ってことは違うところもあるんですよね!? そこを具体的に!」

「うるせえな! 細かいことはどうでもいいだろ」

「よくないです! 大事なことです! 僕は二年前の会長がどんな感じだったか、事細かに知りたいです!」

「!」


 そう主張すると、会長が妙にそわそわし始めた。

 会長のことが知りたい! と言ったから照れたのだろうか。

 俺様な会長が照れているのも美味しいが、今は設定資料集の充実が先決だ。


「あ、当時の写真とかないですか!?」

「写真、か。真と映っているのがあるぞ」

「な、なんだってー!? お願いします見せてください一生のお願いですっ!!」


 身を乗り出してお願いすると、「見るまで引き下がらない!」という熱意が伝わったようだ。

 会長はスマホを取り出して操作すると、画面に表示して渡してくれた。


「おお……」


 そこに映っていたのは、今と少し雰囲気が違う二人だった。

 会長と兄が、前後の席に座って話をしている。

 普通に話をしているだけの何気ない光景だが、ここから会長の気持ちが変わっていくのかと思うと大変に萌える。


「前後の席……あ、そうか! 名前!」


 青桐夏希と天地真。

 名前の順だと同じ「あ」で並ぶだろう。

 会長の後ろに兄! これは熱い! どうして今まで気がつかなかったのだ!

 色々妄想できたのにもったいない!

 今日一日……いや、しばらく反省して凹みそうだが、今は写真に集中したい。


 写真の中の兄は、少し幼い印象がした。

 でも、ほとんど今と変化はなく、制服の着方がお手本のようなスタイルなのも変わりない。


 会長も体格にほとんど変化は見られないが、雰囲気が少し大人しい感じがした。

 春兄と同じく、髪も少し長くて――。


「あ、一応ジャケットを着てるんですね。偉い偉い」


 シャツの胸元が大きく開いているのは同じだが、今のようにジャケットを放置したり担いだりしていなかったようだ。

 生徒会長をしている今よりちゃんとしている。

 僕の頭の中では、上着の着用を嫌がる子供が、大人しく防寒している様子が浮かんでいた。よくできました。


「お前……また馬鹿にしてるだろ」

「してません! 兄と前後の席の時、どんな話をしたんですか」


 不穏な空気を感じたので、慌てて質問をして誤魔化した。


「どんなって……普通の会話だ。まあ、その『普通の話』をできる相手が少なかったから、俺にとっては有意義な時間だったな。……って、何ニヤけてやがる」

「ニヤけてないです。なんでもないです」


 その普通の話をできる時間が積み重なって兄に惚れたのだと思うと滾った。

 堪えきれず思わずニヤけてしまったじゃないか。

 滾った勢いのまま、どんどん会長に質問をしていく。


「何かドキドキ展開はありましたか?」

「何もねえよ。前後の席に座っているだけで、何か起こるわけがないだろ」

「いや、起こりますよ!? 何もったいないこと言っているんですか!」


 前後の席なんて最高のシチュエーションだ。

 この時はまだ友人関係で意識していなかったのかもしれないが、思い出したらきゅんとすることがいっぱいあるはずだ。


「例えば?」


「起こる」という僕の言葉を信用していないようだ。

 こちらを見る目が、「だったら具体的に言ってみろ」と煽っているように見える。

 だったら全力でご期待に応えてみせよう。


「では、会長。目を閉じてください」

「あ?」

「目を閉じるのです……僕は今、あなたの心に直接話しかけています……」


『ドキドキ』を理解して貰うためには、リアリティを出すことはとても大事だ。


「なんだその宗教みたいなのは。もしくは宇宙人にでもなったつもりか?」

「いいから目を閉じてくださいよ!」


 強めに言うと、会長は面倒くさそうにしながらも目を閉じてくれた。

 最初からそうしてくれよ。

 思わず文句を言いそうになったが、口に出すと機嫌が悪くなって相手にしてくれなくなりそうだ。

 愚痴は飲み込み、早速「例えば……」を実行することにした。


「思い浮かべてください。一年生のあなたが、教室で授業を受けています……あなたの後ろには天地真が座っています……」

「…………」


 会長は顔を顰めているが、大人しく言うことを聞いてくれているので続ける。


「先生がプリントを配っています……前から回って来たプリントを渡すため、手を後ろに回すと、あなたの手と天地真の手が触れました。思わず振り返ると、『ごめん。手が当たっちゃった』と、彼は照れながら笑いました」

「…………」


 会長がどんな反応をするか。

 見守っていたら、会長の眉間の皺が取れたので聞いてみた。


「どうですか? ちょっとときめきませんか?」

「……悪くない」


 くだらないことをさせるな、とぶん殴られる可能性も考えていたが、「悪くない」を頂いた。

 悪くない、どころか、ちょっとニヤけてません?

 まあ、兄の微笑みをリアルに思い浮かべたらそうなるだろう。


「もしかしたら、手が当たったのは会長に触りたかったから――わざとかもしれませんよ」

「他にはないのか?」


 めっちゃ食いついて来た。

 思わずニヤけそうになったが、機嫌を害するわけにはいかないので耐えた。

 お気に召して頂いたようなので、次のプランを提供しよう。


「では、もう一度目を閉じるのです……」


 僕の言葉を聞いて、会長が瞬時に目を閉じた。

 かつてないほど素直に応じてくれるな。


「後ろの席から、あなたのたくましい背中をずっと見ていた天地真が、ツンと背中を突いてきました」

「…………」


 会長はかなり集中して聞いている。

 もしかしたら、会長って催眠術とかかかりやすいタイプなのでは?

 ちょっと心配になってきたけれど、話を続ける。


「彼はゲームをしようと言います……『背中に何て書いたから当てて?』……あなたは背中に意識を集中します……彼が書いたのはカタカナ二文字でとても簡単でした……あなたはすぐに分かったのです……――スキ」

「……フッ、安い話だな」


 そう言って馬鹿にするような雰囲気を出している会長だが、顔をそらして、必死にニヤけているのを誤魔化そうとしているのが分かる。

 この人、確実に夢女子の素質があるぞ!

 かつて腐女子だった僕も、夢を嗜んだ時期があった。

 気持ちは凄く分かる。


「会長、文字当てを実際にやってあげますよ。ほら、背中こっちに向けてください」

「ああ?」

「ほら、僕って兄ちゃんに似てますし、雰囲気出ますよ」

「……仕方ないな。くだらないが付き合ってやろう」


 僕が言うから、仕方なくやらせてやるという体で来たけど、明らかに欲しがってる。

 会長は順調に夢の国に浸かり始めたようだ。


「じゃあ、なんて書いているか当ててくださいね」

「フッ……余裕で当ててやる」


 会長の背中という最高のキャンパスを目の前にして、何を書こうか迷った。

 やっぱり、『スキ』と書くべきか……?

 そう思って、僕は一文字目の『ス』を書いた。


「ス…………ふっ」


 会長がかっこつけて笑っているが、『スキ』だと分かってニヤけているのだろう。

 だが……まだ一文字目だぞ?

 僕は予定を変えて、二文字を書いた。

 すると、思っていたのと違うと分かった会長が首を傾げた。


「タ? スタ、……ー……な……ゴ……リ……って、お前。死にたいのか?」


 あと一文字残っているのだが、僕が書こうとしたものが何か分かったようで、キレた会長が立ち上がった。


「冗談ですって! ごめんなさい!」


 やばい、今回は本気で怒らせてしまったかもしれない。

 さりげなく距離をとって逃げつつ、全力で謝る。


「スターなゴリラって何だ! ああ!? ナメてんのか!!」


 可愛い悪戯のつもりだったのだが、お気に召して頂けなかった。


「スキヤキの方がよかったですか!?」

「そうじゃねえ!!」

「本っ当ごめんなさい!!!!」


 土下座する勢いで謝ったが、許してくれる気配がない。

 顔がマジだ。怖すぎて直視できない!

 こんなにキレるなんて、どれだけ『スキ』を期待していたんだよ!


 会長が僕を捕まえようとしてきたので、教室内を走り回りって必死に逃げた。


「逃げんじゃねーよ」

「逃げるでしょ! 何をするつもりですか!」

「安心しろ。真には気づかれないように腹にしてやる」


 なるほど。「顔はやめろ、ボディーにしな」ってやつか……って、全然安心できない!

 捕まったら僕の内臓が再起不能になってしまう。


「大騒ぎして何やってんだ」


 いつまでも追って来るのでひたすら逃げ回っていると、会長以外の声が聞こえた。

 そちらに目を向けると、呆れ顔の青鬼が立っていた。


「夏緋先輩!」


 今日に限っては鬼じゃなくて天使に見える。

 いや、天使というより、会長という魔王から守ってくれる勇者か。

 生き延びるための光が見えたので、僕は急いで夏緋先輩の背中に隠れた。


「夏緋先輩、聞いてくださいよ! 会長ってば夢ゴリラになったから、僕に背中にスキって書けって!」

「はあ?」

「悪意しかない言い方をするな!」


 魔王に殺される! 守って勇者様!

 涙目で訴えると、「はあ」とため息をついた夏緋先輩が、まだ僕を捕まえようとする魔王に向かって言った。


「そんなに書いて欲しいなら、オレが書いてやろうか?」

「!!!!」

「あ?」


 これには会長よりも早く、僕が反応してしまった。

 夏緋先輩が会長の背中にスキって書く……?

 そう思った瞬間、脳内に青桐兄弟の薄い本が浮かんだ。

 言葉で言えない弟が背中に書いて伝える……美味だ……。

 それが今から目の前で繰り広げられる!?


「……もういい」


 興奮する僕とは対象に、何故かクールダウンしてしまった会長が元の席に戻ってしまった。


「え! 書いて貰わないんですか!? やってくださいよ!!」

「やるわけないだろ」


 会長は吐き捨てるようにそう言った。

 もうこの話題は終わり、と締め切ったような様子だ。

 会長はもう、僕のことは無視をしそうな空気なので、救いを求めて夏緋先輩を見たのだが……。


「やるわけないだろ」


 夏緋先輩にも同じことを言われてしまった。


「そ、そんな……」


 最上階まで持ち上げて地中まで突き落とすなんてひどい。

 いいよ、もう脳内で済ませるから!

 その代わり、僕の頭の中ではあんなこともこんなこともさせてやるからな!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ