『赤の扉(会長を選択)』
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……会長のいる生徒会室に来てしまった。
夏緋先輩と別々に誘ってくるなんて、何の用事か分からず恐ろしい。
僕はノックをする前に、そっと静かに扉を開き、中を覗いた。
すると、窓際に立って外を見ている会長の姿が見えた。
いつものふんぞり返って偉そうに座っている時とは違い、真剣な顔で外を見ていた。
悩んでいる、というか……ちょっと不安げ?
普段あまり見ない表情がかっこよく見えた。
こういう姿はとても絵になる。
いつまでも眺めていたいくらいだが、なんだか放っておいたら可哀想な気がしたので、小声で呼びかけてみた。
「かいちょー……」
「央!」
もの凄い速さでこちらを見たのでびっくりした。怖っ!
「……来たか。当然だな」
さっきまでの憂いが入った表情はどこかに飛んでいったようだ。
いつもの見慣れた会長がそこにいた。
いや、いつもより五割増しくらいの力強さと輝きがある。
「早く中に入れ。さっさと完全に中に入れ!」
扉の隙間から覗くスタイルのままでいたら叱られた。
どうしてそんなに急かすのだ。
そう思いながらも大人しく従い、中に入って扉を閉めると、会長は満足そうに頷いた。
「これで確定だな」
「何がですか? というか、本日は僕に何用でございますか」
「お前、今日は誕生日だろう? おめでとう」
「! ありがとうございます……」
会長に祝いの言葉を貰えるなんて驚きだ。
そもそも、僕の誕生日を知っていたことにびっくりだ。
「喜べ。俺が祝ってやろう!」
背景に「ドーン!」と書いていそうな感じで言われたが、嫌な予感しかしない。
どこかに連れ回されて疲れるか、無理難題を強要される未来しか見えない。
「お気持ちだけで十分です。では……」
「待て!」
扉を開けて出て行こうとしたら、詰め寄って来た会長に扉を抑えられた。
逃げられない! クソっ! と思ったが、今の状態に気づいてハッとした。
こ、こでは……会長の壁ドンだー!
ゲームでも会長の壁ドンシーンはなかった。なんて貴重な光景!
……なんてわくわくしていたら――。
「まさか、夏緋のところに行こうとしているんじゃないだろうな? ……行かせるかよ」
会長に更に詰め寄られてしまった。
近い! 顔がイイ! 怖い!
色んなドキドキが混じってパニックだ。
「行きません……会長に祝って貰えるなんてウレシイナ―……」
僕の絞り出した言葉を聞いて、ようやく会長は離れた。
「そうだろう! 照れて俺に遠慮する必要はないからな」
バシッと僕の肩を叩くと、会長はニカッと笑った。
肩、痛いし! 照れて遠慮したんじゃないし!
まったく……会長とは一緒にいたら、心臓がいくつあっても足りない。
「祝ってくれるって……。ここでケーキでも食べるんですか?」
「帰ったら真がお前のために、飯やケーキを用意しているんじゃないか? だったら食い物はやめた方がいいだろう」
「さすが! 兄への気配りは完璧ですね!」
兄に関することの、会長の洞察力は凄すぎて感心してしまう。
もう少しその気配りを僕にも回して欲しいものだ。
「妬いてるのか?」
「なっ……! 違います!」
少し不機嫌になったのがバレたのか、訳の分からないことを言われた。
決してヤキモチではない! 違うから!
だからニヤニヤしてこっちを見るな!
「真のことに関するじゃなくて、『お前に関すること』だ。お前が真に叱られたら可哀想だろ?」
「……ふーん?」
まあ、僕にも気を配っているということなら、ニヤニヤしているのは許してあげよう。
そんなことを考えていると、会長が背後のロッカーから何かを取り出して持ってきた。
「これをお前に贈ろう」
「な、なんですか……」
会長が差し出してきたのは、小さな紙袋だった。
紙袋だが……どう見てもどこかのブランドのもの!
高級そうなのですが!
受け取るのが怖かったが、会長からの圧も怖い。
仕方なく、ただならぬ気配の紙袋を受け取った。
あ、もしかして、袋はブランドのものだけど、中はお菓子……ではなかった。
しっかりとした箱の中から出てきたのは――。
「腕時計! 絶対お高い! 怖っ!」
僕が使わないけれど持っている、三千円くらいの腕時計とは重みが全然違う!
ベルトが皮なのは分かるが、何の皮なのか分からない!
とにかくお値段が高いということしか分からない!
「金のことを言うな。下品な奴だな。大した額じゃない。何十万もしねえよ」
「当たり前だ!」
そんな額の物を貰ったら卒倒してしまう。
友達に贈る誕生日プレゼントとしておかしい……うん?
僕と会長って友達、になるのだろうか。
会長はどんなつもりでこれをくれたのだろう。
「プレゼントだって言ってんだ。素直に受け取れ」
本当に貰ってもいいのだろうか。
プレゼントを受け取らないのも失礼だし、確かにかっこいい腕時計だけれど……。
でも、僕に似合うかは別問題だ。
ベルトの皮なんてワインレッドで大人な感じだ。
「色が派手ですね。会長みたい」
「!」
そう呟くと、会長は一瞬驚いたあと、ニヤリと笑った。
「分かってるじゃないか。お前が俺のもんだって印だ」
「?」
何を言われたのか分からなかった。
しばらく考えて出て来た僕の解釈は……。
「え? この腕時計って……首輪的な発想? 怖いんですけど!」
「そこまで言ってないだろ! ぐだぐだ言ってないで貸せ!」
会長はそう言って腕時計を奪うと、強引に腕につけた。
「おおー……!」
自分の手首を見るとテンションが上がった。
付けてみると意外に高級品! という感じはしなくて、思ったよりも馴染んだ。
いいじゃん、これ!
でも、会長のイメージカラーのものを身に着けておくなんて、ちょっと恥ずかしい……いや、かなり恥ずかしくなってきたぞ!
学園だと目立つし、休みの日だけにしよう。
まあ、気が向いたら学園にもしてこよう。
見ていると段々嬉しくなってきて、ニヤニヤしてしまった。
「会長」
「うん?」
「ありがとうございます」
笑顔でお礼を言うと、会長も嬉しそうに笑った。
「最初からそうやって素直に喜べ」
ガシガシと頭を撫でられる。力が強い! 首折れるかなー。
「あ、そうだ! 会長。今夜、うちに泊まっていきます?」
「!」
僕の質問を聞いた瞬間、会長が固まった。
……あ! なんだか「夜のお誘い」のような、変な聞き方をしてしまった!
「あ、いや、兄ちゃんが誕生日のお祝いでごちそうを作るから、誰か呼べって言うから!」
恥ずかしくなって必死に取り繕っていると、会長の硬直が解けた。
「呼んだのは俺だけか?」
「そうですけど……」
会長がまたニヤリと笑い、頷いた。
「行ってやる」
断られなかったのは嬉しいけど、偉そうなのが腹立つな。
「あ、そうだ。注意事項があります! 兄ちゃんの部屋に入っちゃダメですからね!」
「安心しろ。お前の部屋の中で鍵を閉めておくつもりだ」
「はい? 僕の部屋を占拠するつもりですか?」
「部屋とお前を占拠するんだよ」
「どういう意味……あ、言わないでください……」
嫌な予感がして質問を止めると、会長がニヤリと笑った。
会長を家に呼んだのは、誤った選択だったかもしれない。




