お部屋デート
11/18、ComicWalkerとニコニコ漫画にてコミカライズ六話が更新されました!
楓VS柊に終始萌え、雛が可愛く……! ぜひともご覧いただきたいと思います。
そしてコミカライズ1巻が12/27に発売予定です。素敵な描きおろしがあります。(楓推しの方には見て頂きたい……!)
素敵な特典情報なども公開されましたらお知らせしたいと思います。
今回のお知らせSSは夏緋ルートアフターのお話です。
コミカライズ六話を読んで頂いたあとに見て頂くといいかもしれません。
次はコミックス発売日にお知らせSSをアップしようと思っています。
今日、我が家に夏緋先輩が来ることになっている。
特に用事はないけれど、休日なので一緒に過ごすことになったのだ。
夏緋先輩の家には、会長に連行されてから何度か訪れているが、僕の家で集まるのは初めてだ。
翌日が休みの日は夜更かしをしてゲームをすることが多いが、今日は朝から自室の掃除をしていた。
「はあ……綺麗になった!」
男子高校生の部屋にしては、普段から綺麗にしている方だと思う。
でも、潔癖というほどでもないが、綺麗好きの夏緋先輩を招くので、入念に綺麗にしておかなければいけない。
床が汚かったら海に行った時のように、ずっと背後霊みたいに立っているかも……。
「随分気合を入れて掃除しているね?」
換気のため開けていた扉から、兄がひょっこりと顔をのぞかせた。
兄には来客がある、とだけ言っている。
夏緋先輩のことを友達だとは言いたくないし、素直に恋人だと言うのも恥ずかしい。
だから、無難に「来客」と言ったのだが、兄は察しているのかもしれない。
どうも無駄にニコニコしている気がする。
「別にいつも通りだけど。もう終わったし」
からかわれない様に素っ気なく返事をして窓を閉めていると、机に置いていたスマホが鳴った。
すぐに確認すると、夏緋先輩からメッセージが届いていた。
『もうすぐ着く。悪いが玄関の扉を開けて待っていてくれ』
わざわざ連絡をくれるなんて律儀だ。
いや、気づかいというより「出迎えろ」という命令か?
ご到着を待っていなければいけないなんて、夏緋先輩、あなたは貴族ですか?
「どうかした?」
「公爵様がもうすぐ着くから出迎えろって」
「公爵? そうなんだ。じゃあ、オレもお迎えしないといけないな」
どんな偉い人が来るのかと兄が笑っている。
「青桐公爵家の次男様だよ」と心の中で答えていると、インターホンの音が鳴った。
「……あ? 来たんじゃない?」
「え? もう!?」
連絡を貰っているのに待たせてしまったら、あとで何を言われるか分からない。
急いで玄関へと向かった。
「夏緋せ――」
「すぐに入れてくれ」
「!」
確認せずに扉を開けた瞬間、家の中に入り込んできたのは予想通りの青い髪のイケメンだった。
随分焦っているというか、誰かに追われているような……?
とにかく夏緋先輩は中に入ったので、扉を閉めようとしたのだが……なぜか動かない。
「?」
何かに引っかかっているのか確認しようと思った瞬間、突然視界に赤が飛び込んできた。
「……よお」
「ひいっ!」
条件反射で思わず悲鳴をあげてしまった。
夏緋先輩の様子がおかしかった原因はこいつか!
誰か! 塩を持ってきて!!
「会長!」
「喜べ。俺が遊びに来てやったぞ」
「嬉しくないです! 呼んでませんけど!」
両手でドアノブを掴み、必死に扉を閉めようとしたが、まったく動かない。
会長は片手で軽く扉を掴んでいるだけなのに……やっぱりイケメンゴリラに力では勝てない!
夏緋先輩も諦めた様子で舌打ちしてないで、早く加勢してくださいよ!
「央、お客さんは来てた? ……って、あれ? 夏希?」
「真!」
僕を追って階段を下りて来た兄を見つけると、会長の顔がぱあっと明るくなった。
そうか、兄が目的で夏緋先輩に寄生して来たんだな!?
「悪い。撒いたつもりだったんだが……」
夏緋先輩は「はあ」と大きなため息をつきながら、僕に謝ってきた。
会長を撒くなんて、夏緋先輩でも難しいだろう。
「我が家に来るって会長に言っちゃだめじゃないですか」
まったく怒ってはいないのだが、二人の時間を邪魔されそうだし、ここはしっかりと抗議しておく。
「……オレは言ってない」
「夏緋、お前の態度でバレバレなんだよ。朝から何度も時計を見ていたからな。央との予定があると言っているようなもんだろ」
兄の方を向いていた会長だったが、僕らの会話が耳に入ったのか、こちらを見てニヤリと笑った。
「…………」
夏緋先輩はバツが悪そうな顔をしている。
でも、どことなく恥ずかしそうな……。
そんなにここに来るのが楽しみだったのか?
「……なんだ。言いたいことがあるなら言え!」
「な、なんでもないよ!」
思わずニヤけてしまったら、絶対零度の視線で氷らされそうになった。
照れ隠しの逆切れはやめてください。
「央と夏希の弟さんは央の部屋に行くよね? いつもより、かなりがんばって掃除してたくらいだし」
「!」
兄が突然余計なことを言い始めたので焦った。
がんばった、とかバラされたら恥ずかしいじゃないか!
夏緋先輩をちらりと見ると、僕を見て満足そうに笑っていた。
綺麗な顔が憎らしいな…………っていうかこれ、お互いの行動に照れ合って、何の攻防だよ!
今のやり取りを見ていた会長が心底つまらなそうな顔をしているのも頷ける。
バカップルですみません。
「夏希。オレは今から出かけるけど、一緒に行く?」
「! ああ」
兄に誘われ、会長は満面の笑みを見せた。
すごーく嬉しそうだ。
ご主人様に構って貰えた犬に見えてきた……。
もう夏緋先輩と僕のことは、眼中にない様子だ。
「兄ちゃん、大丈夫? 春兄が嫉妬しちゃうよ」
さすが会長が兄を襲うようなことはないと思うが、二人でいると知ったら春兄は怒るだろう。
心配になったので、僕は兄にこっそりと尋ねた。
「大丈夫だよ。春樹と待ち合わせしてるから」
「そうなんだ!」
会長はこんなに喜んでいるのに、春兄とのデート現場に連れていかれるなんて哀れだが、急に乗り込んできたのだから自業自得だと思おう。
とにかく、春兄がいるなら大丈夫…………いや、大丈夫じゃなくない!?
兄が会長を引き連れてやって来たのを見たら、春兄は絶対会長に対して激怒するだろう。
どこに行くかは知らないが、平和な休日の街中で、龍と虎の戦いみたいなのを始めたら大変だ。
でも、その「大変」を見ていたい気持ちもある。
何度見てもイケメンが兄を取り合っているのを見るのは胸が熱くなる。
「ほら、夏希のことはいいから、央は彼を部屋に案内してあげなよ」
「んー、わかった。ありがとう」
兄達のことも気になるが、やっぱり夏緋先輩との時間に勝るものはない。
会長のことを引き受けてくれた兄に感謝しつつ、僕と夏緋先輩は階段を上がった。
自分の部屋に夏緋先輩を入れるなんて、緊張するし、そわそわしてしまう。
「どうぞ」
扉を開けて中に入る僕に、夏緋先輩も続いた。
適当に座ってくださいと言おうと思って振り向くと、夏緋先輩は部屋の中を見回していた。
夏緋先輩の審査が入りましたー、と脳内アナウンスが流れる。
「ここがお前の部屋か。綺麗に片付いているな」
審査は無事通ったようで、ひとまずはホッとした。
「頑張って必死に片付けましたからね! 誰かさんが綺麗好きだから! 汚部屋だったらフラれるかもしれないんでね!」
がんばったことがバレているから、半ばやけくそになって答えた。
すると、一瞬目を丸くした夏緋先輩が笑い出した。
「ははっ、そうか」
「!」
夏緋先輩の貴重な笑顔!
付き合い始めてからは見る機会が増えたけれど、それでもあまり見ることができない。
今のはシャッターチャンスだったのでは……!?
くそっ、部屋にカメラを設置しておくべきだった!
「まあ、確かに汚い部屋で平気に生活できる奴とは縁を切りたいが、お前だったら我慢してやるさ」
「!」
海の水をすべてアルコール消毒液に変えたいと言っていた夏緋先輩が汚部屋に耐えてくれるなんて……!
それだけ僕のことが好――。
「お前が留守にしている間に清掃業者に入って貰って、部屋のものを全部捨ててやるがな」
「ゲームだけは勘弁してください」
夏緋先輩なら本当にやるかもしれない。
捨てるまでしないかもしれないが、「部屋のものを丸ごと貸倉庫に放り込む」くらいはやるだろう。
一緒に住むことになったら大事なものは隠しておいた方がいいかも……って、一緒に住む!? 同棲!?
自然にそんなことを考えてしまっていた自分にびっくりだ。
でも……いつかそんなことになるのかな?
「なあ。お前のベッド、小さくないか? こんなベッドでゆっくり眠れるのか?」
「はい?」
未来のことを考えて一人で照れていたら、いつの間にか夏緋先輩はベッドに腰かけて座っていた。
「失礼な。いたって普通だ!」
あなたの足が長いから、そう見えるだけでは!?
僕のベッドは、シングルサイズのどこにでもあるようなものだ。
そういえば夏緋先輩の部屋のベッドは大きかったなあ。
割と最近まで海外で過ごしていた人だから、感覚が外国基準になっているのだろうか。
海外ドラマで見るベッドって、大体大きい気がする。
いや、単純にセレブ感覚か?
僕のベッドも長年使っているが質は悪くない。
兄の部屋にあるものも同じだし、このサイズで兄カップルはせっせと励んで…………はっ!
ベッドが狭いということは……二人が並んで横になったら、かなりくっつくのでは!?
きっと、大変に萌える素晴らしい距離感になるだろう!
これはぜひとも検証したい。
幸い今、近くに春兄と背丈が近い人間のオスが一体いるではないか!
「夏緋先輩! ここに! ゴロンして!」
「はあ?」
「早く! さあ、早く!」
つき飛ばす勢いで夏緋先輩を強制ゴロンさせてやった。
横向きで寝転がったまま大人しくしてくれているが、夏緋先輩は僕の行動が理解できず、顔を顰めている。
というか、肘をつき、頭を支えて横になっている姿がかっこいい。
なんだこのスパダリ感は!
この姿を描いた等身大抱き枕が売り出されたら爆売れしそうだ。
もちろん僕も買う。僕が買い占める。
いや、僕以外の人が買ったら嫌だから、販売は阻止しなければいけない。
そんなことを考えていると、夏緋先輩がニヤリと笑いだした。
「随分積極的だな」
「は? うえっ!?」
突然腕を引っ張られ、驚きで変な声を出してしまった。
そのままベッドに倒れ、気が付くと夏緋先輩の端正な顔が目の前にあった。
仰向けに倒れている僕に覆いかぶさるようなこの体勢、そしてこの妖しい目つきの時はやばい……って、まさか。
積極的って、僕がベッドに誘ったと思われた!?
「そ、そういうことじゃない! 断じて違う!」
ちょっとそういうこともあるかな、と思っていたけれど!
部屋に入ってすぐにこれって早すぎる!
BL漫画の「余裕がなくて、玄関で始めちゃうやつ」は好きだったけど、それとこれとは話が違う!
そういう夏緋先輩を想像するとちょっとときめくけどね!
「じゃあ、どういうことだ?」
「このベッドでも二人寝ることができるから……広さは十分っていう……」
「ほう?」
兄カップルの萌え距離感を検証したかった、と言えるはずがなく、ごにょごにょと適当な理由を言っていると、覆いかぶさっていた夏緋先輩が僕の横に転がった。
「狭いな」
ベッドの真ん中を僕が陣取っていたから、壁と僕の隙間に入った夏緋先輩は窮屈そうだった。
場所を空けようとしたら、また夏緋先輩が強引に僕を動かした。
力が強いな! 痛くはないけれど、口で言ってくれたら動くのに! と思っていたら、今度は上下が逆――夏緋先輩の上に僕が乗っていた。
「横並びだと落ちそうだ。この広さでは十分じゃないだろ」
「ソウデスネ」
これは照れる。口で上に乗れと言われても従えなかったと思う。
検証したかったのに、ドキドキしすぎて検証する余裕がないのですが!
バクバクと波打つ心臓の音が夏緋先輩に聞こえてしまわないか焦る。
くっ……僕はこんなに余裕がないのに、くっついている夏緋先輩の胸から聞こえる音は通常運転だった。
テンパってるのは僕だけかよ!
「まあ、狭いが居心地はいいな」
ドキドキするどころか、なんだか和んでいる様子だ。
「ソウデスカ」
なんだか悔しくて素っ気なく返すと、またも夏緋先輩が笑い出した。
僕の心情は読まれているようだ。
これ以上笑われると腹立たしいので、がんばって乙女思考を断ち切るようにした。
いやー。それにしても、等身大抱き枕どころか、ご本人だから贅沢ですネ。
「ふ……」
まだ笑うか! と思ったがスルーだ。
そうやって部屋の隅を凝視しながら気をそらしている僕を見て、夏緋先輩は再びニヤリと笑った。
「おい、何ボーっとしてんだ。早く動け」
「動く?」
「お前が上だとオレは身動きがとり辛いからな。誘ってきたのもお前だし、お前からやらないと……」
「できるかー!」
何を? とは聞かない。
聞いてはいけない気がする。
とにかく、この状態で僕から始めるとか恥ずかし過ぎる。
思い通りにならないぞ! と無視をしていたら、夏緋先輩から動き出したわけで……。
結局こうなるのか!
誘ってないのに強襲してきた会長といい、青桐の血の強引さはなんとかして欲しいと思う。




