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BLゲームの主人公の弟であることに気がつきました(連載版)  作者: 花果 唯
IF ありえた未来2

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ドライブ

本日、ComicWalkerとニコニコ漫画にてコミカライズ四話が更新されました。

加奈先生が描いてくださる柊が恐ろしくかっこいいので絶対見て欲しい……!


柊登場回ということで、柊ルートアフターの小話です。


 今日は土曜日。柊と二人で出かける約束をしている。

 近場でうろうろすると人の目があるので、「ドライブでもしよう」ということになった。

 柊が車で迎えに来てくれることになっているのだが、家の前で待っていると兄に見られてしまう。

 だから、家から少し離れた人通りがほとんどない場所で、柊の到着を待っていた。


「もうすぐ約束の時間になるな」とスマホを見ていると、一台のワンボックスカーが近づいてきた。

 人通りのいない場所で、このタイプの車がゆっくりと迫ってくると嫌な想像が浮かぶ。

 横付けされた途端にスライドドアが開いて、あっという間に人を攫っていく、アレ。

 僕も一度、驚くべきことに学園内で経験している。


 そんなことを考えていると、車が僕の前で止まった。

 スライドドアは開かなかったが、開いた窓から運転席にいるやたら顔のイイ男が見えた。


「央」


 見慣れても心臓に悪い美しすぎる微笑みを向けられ、思わず顔をそらした。

 真正面からこれを全部受け止めると死ぬ。

 付き合うようになってからは醸し出されていた色気に『甘さ』までプラスされ、攻撃力を増している。

 僕の心臓のために適度に受け流してやっていかないと! と再認識していると、助手席のドアが開いた。


「乗って」


 僕が女子なら、語尾にハートをつけて「はいっ!」と無意識に従っていただろう。

 でも、今の僕は柊の魅力攻撃に対して防御態勢をとっているので多少抵抗できる。

 適当に頷き、平静を装って乗り込むことができた。


「この車、なんか怖いんですけど」


 シートベルトを締めながら、とりあえず抗議をした。

 柊が学校で使っている車も、車種は違うがこのタイプの車だし、あの時のトラウマが蘇りそうだ。


「怖い?」

「うん。車が止まった瞬間、中から人が出てきて攫われるのかと思ったよ。いつぞやのようにね」

「…………。……攫う、か」


 なんだその意味深な間は!

 再犯の可能性は大いにあるので油断できない。


「一人暮らしなのに、どうしてこんな大きな車に乗ってるんだよ。広いからゆっくりできていいけど」

「園芸用品とか、色々大きなものを乗せるからこれにしたんだ。広いと…………いいよね」


 だからその意味深な間をやめろって!


「広いと車のなかで、『色々』でき――」

「言わなくていいから! 早く出発しろよ!」

「ああ。そうだな」


 柊の言いたいことを察したので、途中で止めてやった。

 どうせ「ここでどういうことをできるか試してみる?」という展開になるに違いない。

 最後まで言えなかったので実行させないぞ。詠唱キャンセルだ。


 それに、ここはまだ僕の家の近所だから、兄に見つかると小言を言われてしまう。

 僕が柊といると、思春期の娘を持つ父親みたいになるんだよなあ。

 兄は「柊は変わった」と認めてはいるものの、要注意人物認定は外していないらしい。

 僕もそれには賛成です。

 さっき家を出るときも、兄に「夕方の六時までには帰ってきなさい」と声を掛けられた。

 柊とでかけると言っていないのに、僕の様子を見て察知したのだろう。

 六時って……僕は夕焼けチャイムで帰宅する小学生か!

 自分は早々に大人の階段を上っているくせに!

 最高なので、そのまま春兄と上り続けていて欲しい。

 …………あ!


「やっぱり出るのちょっと待って!」


 思い出したことがあるので、出発しようとする柊を止めた。


「あのさ! …………?」


 話始めようとしたのだが、柊の様子がおかしいことに気がついた。

 出発しようとする柊を止めるため、とっさに柊の服を掴んでしまったのだが、その僕の手を凝視して固まっている。

 あ、服に皺をつけてしまったか?


「ごめ――」

「可愛い」

「…………」


 謝る僕にかぶせるように柊の口から出たのは、落ち着いたトーンの声ではあるが、随分力強い「可愛い」という言葉だった。

 いやいや……美少女が服を掴んだら可愛いだろうけど、男子高校生が掴んでも萌えにはならないだろう。

 あ、でも、楓がやると間違いなく可愛いな。


 とにかく、「ハンドルを握っているから腕を掴んだら危ない」と思って服を掴んだだけなのだが、僕のキャラではないぶりっこをしてしまったような気がして恥ずかしくなった。

 慌てて手を離すと、柊はとても残念そうな顔をした。


「写真を撮っておきたかった……」

「嫌。っていうか、話がそれたじゃん!」

「ごめん。央があまりにも可愛かったから、つい。写真は撮れなかったけど、目には焼き付け――」

「今日はさ、ここに行ってみない?」


 柊が自分の世界に浸っている様子だったが、無視をして話を始めた。

 今日はブラブラとドライブをする予定だったが、ちょっと立ち寄れるところがないか探してみたところ、良さそうな場所を発見したのだ。

 その場所をスマホに表示して見せる。


「道の駅植物園?」

「うん」


『植物園』となっているが、道の駅の敷地内にビニールハウスで作られた特設のものだ。

 期間限定のイベントで規模は大きくなさそうだが、ぶらっと立ち寄るにはちょうどいい。


「柊さん、こういうの好きかなと思って」


 道の駅の方には特産品とか、食べられるものもあるようだし、僕も嬉しい。

 お互い興味があるものが揃っているから、退屈はしないだろう。

 我ながらいい発見をしたと悦に入っていたら、隣からカチャっと音がした。


「俺のために調べてくれた……」

「おい!」


 音はシートベルトを外した音だったようで、柊が覆いかぶさるように抱き着いてきた。

 重たいし、やたら手が動くな……って馬鹿か!


「喜びと性欲が直結してるのどうかしてるだろ! こんなところで何しようとしてんだ! さっさと出発しろ!」

「大丈夫、誰も通ってないから……」

「大丈夫じゃない!」


 しばらく駄々をこねていた柊だったが、出発しないなら帰るからな! と脅すと、ようやく出発した。

 まったく、出発する前から疲れたよ……。






 目指していた道の駅に着くと、さっそく植物園になっているイベント場所に向かった。

 でも、実際に見てみると、思っていた以上に普通というか……。


「ホームセンターの植物コーナーって感じだな」


 珍しそうなものもないし、しょんぼりしてしまった。


「ごめんな?」


「柊もがっかりしたかも」と思って謝ると、なぜか満面の笑みを返された。

 気にしてないってことかな?


「行こうか」


 ご機嫌な様子の柊に肩を抱かれ、植物園の中に入った。


「……って、おい」


 つい流されて肩を抱かれたまま進みそうになったが、何人か人もいたので慌てて手を叩き落とした。

 まったく、油断も隙もない。


 外から見ると「正直ショボいな」と思った植物園だが、中に入ってみると思いのほか楽しめた。

 見たことがない花もあったし、それぞれの植物についている説明文を読むのも面白かった。

 柊はというと……。

 ずっと隣からカシャカシャとシャッターを押す音が聞こえている。


「撮りすぎだろ。っていうか撮るものが違うだろ!」

「間違ってないけど」


 柊が持っているカメラのレンズは、ずっと僕に向けられている。

 絶対におかしい。

 それにカメラもガチ過ぎだろ!

 一目で高価だと分かるような代物だ。


「それ、人を撮るようなカメラじゃないだろ。僕を撮るならスマホで十分だって」

「いや、最高の画質で撮りたい。それにスマホだと流出の恐れがある」

「……危機管理がすごいですネ」

「ああ。俺が撮った央の写真を他人に見せたくないからな」

「そういう理由!?」


 人に見つかったら用務員を続けられないかもしれないから、じゃないのかよ!

 今日撮られた写真はどうなるのか心配になってきた。

 柊の部屋が僕の写真だらけの『ストーカーの部屋』みたいになったら嫌だなあ。


「あ、食虫植物だ!」


 道なりに進んでいると、食虫植物コーナーを見つけた。

 ちょっと気持ち悪いけれど、子供の頃からこれを見るとなぜかテンションが上がる。

 展示されている食虫植物の隣にはモニターがあって、虫を捕食している映像が流れていた。


「わー、すご……」


 怖いけれど見てしまう。

 モニターをジーっと見ていると、ふと隣で同じようにモニターを見ている柊に目が留まった。

 なんだかこの食虫植物と同じ波動を感じるぞ……?


「なんか……似てるな……」

「これと俺が? そうだな、央が可愛い虫だったら食べちゃうね」

「ゾッとしたわ」


 恋人関係なのに引かせるなんて、よっぽどだぞ。


 そんな感じで見て回り、当初思ったよりも楽しむことができた。

 ずっと僕を撮っていた柊は何をしに来たんだ? という感じだったが……。

 お前のために来たんだからな! と抗議すると、なぜかまた満面の笑みを返された。

 今日はやたら機嫌がいいようで怖い。


 次は道の駅内の物産コーナーに向かった。

 兄にお土産を買おうかと思ったけれど、遠出したとバレたら何か言われるかな? と思ってやめた。

 兄ちゃんごめん。

 この特産品のはちみつを「何に」とは言わないが使って欲しかった。


「央、お腹空いたんだろう? ああいうのは食べないのか?」


 柊が指さしてるのは、フードコートの方にあったフランクフルトやアイスだ。


「食べない」


 確かに小腹が空いているのだが、ああいう安易にエロ志向に走らせるものは絶対に食べない。


「……そうか」


 どうして残念そうなんだ。

 どうせ碌なことは考えていないと思うが……。


 特産品のところは広さがあったので、色々と迷いながら見ていると、柱に設置されていた時計が目に入った。


「あっ!!」


 まずい、思っていたよりも時間が経っていた。

 脳裏に素敵な笑顔で怒りのオーラを放つ兄の顔が浮かんだ。


「そろそろ帰らないと!」

「まだ五時だぞ? 一緒に夕飯を食べよう」

「無理。あと一時間でチャイムが鳴るからね」


 僕の門限は小学生と一緒なのです。

 間に合うためには、そろそろここを出ないといけない。


「央、悪い子になろう」

「なりません」


 柊が言うといやらしさしか感じない言い方をしないで欲しい。

 不満顔の柊の腕を引き、車に戻った。

 渋々だが出発してくれたので、一安心だと思っていたら……。


 こいつ、暗え……。


 運転する柊の周りには、黒い空気が淀んでいる。

 行きや遊んでいるときはあんなにご機嫌だったのに、用務員室で頭を抱えていた時と同じレベルにまで下がっている。

 またこのパターンか!


「…………」


 出発してから一言も発しない。

 僕もしばらくは明るく話しかけていたけれど、もう放置することにした。


 せっかく楽しかったのになあ。

 こんなお通夜状態で帰りたくないのに……。

 そう思っていると、外の景色がおかしいことに気がついた。


「あれ、こんな道通ったっけ?」

「…………」


 僕が首を傾げていると、黙って運転していた柊が広い路肩に車を寄せて止めた。

 なんだ? 自販機でジュースでも買いたくなったのか?

 柊を見ていると、ハンドルを握ったままこちらに向き、真剣な顔で話しかけてきた。


「央、今日は俺の家に止まろう」

「は?」


 何を言っているのだろう。

 冗談かなと思ったが……目がマジだ。


「いや、無理無理! 絶対に兄ちゃんに怒られるから!」

「怒られるのが嫌なだけで、俺の家に泊まるのは嫌じゃないんだな?」

「!」


 そう言われて考えてみた。

 確かに、色んな意味で身の危険を感じるから怖さはあるが、嫌では……ないかも。


「今から真に電話しよう。俺が真に怒られるから」

「駄目。無理だって……」


 電話するなら自分でする、と一瞬思ったが、泊まるのはやはりまずい。

 もう柊とでかけるな、と言われてしまうかもしれないし、兄を怒らせたくない。

 僕ば断固として「泊りません」という態度に徹した。

 すると柊が車のエンジンを切った。


「?」

「じゃあ、帰してあげるけど、央を堪能してからにする」

「はあ?」


 何を言っているんだ? と思ったときにはもう、柊との距離がなくなっていた。

 びっくりしたが、口を塞がれてしまっているので声は出ない。

 僕はシートベルトをしているから身動きが取れないし……ピンチ過ぎるっ!

 長いし、窒息する……! 死ぬ!


「…………っ! な、何っ、してんだ馬鹿!」


 全力で顔を背けると、なんとか頭は離すことができた……と思ったのだが――。


「泊ってくれないから、せめて今までにしたことは全部しておこうと思って」

「全部? ちょっ……!」


 今度は柊の前に晒してしまった耳を嚙まれてしまう。

 ぞわっとして、思わず叫びそうになった。


 さっき「今までにしたことをする」と言っていたが、そういえばこんなこともあったなあ……って悠長に思い出している場合じゃない!


 この場所は出発した場所と違い、車の通りがある。

 知り合いに目撃されていたら……!

 何とかシートベルトから腕を出し、押し返そうとするが……やっぱり勝てない。

 力仕事をしているから、案外筋肉があるし力も強い。

 あーっ! もうクソッ! ほんとにこれはまずいって!

 知らない人が見ても通報されるって!

 お前、そうなったら人生終了だぞー!


「もうっ、分かった!! 泊るから!!」


 そう叫ぶと、柊の動きが止まった。

 そして目が合うと、にこりと妖艶に微笑まれた。


 あーあ、まんまと罠に嵌ってしまった……。

 柊が食虫植物というのは正解だったかも。


 兄ちゃんごめん、央は悪い子になるしかないようです。


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