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BLゲームの主人公の弟であることに気がつきました(連載版)  作者: 花果 唯
IF ありえた未来2

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小話集②

会長ルート:まだしてない

本編後:七夕(柊ルートの間に掲載していたのを移動しました)

「ふわあ」


 土曜日の朝。いや、もう十一時だから昼と言った方がいいだろうか。

 『おはよう』より『こんにちは』な時間かな、なんてことを時計を見ながら思った。

 金曜日の夜は夜更かしすることが多く、昨晩もそうだった。

 夜通し『狩り』、ゲーム三昧だ。

 兄に見つかると小言を言われるのでこっそりやっているが、多分バレバレだ。

 また『目が悪くなる』くらいは言われそうだ。


 ベッドから降りると、枕元に置いていたスマホのランプが点滅しているのが見えた。

 誰かから着信があったようだ。

 確認してみると会長から何度か電話が掛かってきていた。

 すぐに電話をしようかと思ったが、一先ず顔を洗ってからにしようと部屋を出た。


「ん?」


 リビングに足を向けたが、ふと玄関の靴に目が行った。

 大きな靴が三足。

 僕と春兄の靴。あれ、兄の靴はないな。

 あとこの高そうな靴は……会長!?

 電話は『行くぞ!』という連絡だったのだろうか。

 了承していないのに来てしまうあたりが会長だな。

 いや待て……兄の靴がないってことは、外に出ていていないのかもしれない。

 だとすると、春兄と会長が二人でいるってこと!?

 それはまずい気がする。

 慌ててリビングに向かうと、リビングの手前辺りで薄らと会長の声が聞こえ始めた。


 ……あれ、以外に静かだ。

 声色は落ち着いたものだし、『既に殴り合いが始まっているかも!』なんて思っていたのだが特に物音も聞こえない。

 扉の取っ手を掴んだところで、二人の会話がぼんやりと聞こえた。

 割と普通に話をしているようだ。

 ……この二人で何を話しているのだろう。

 興味が沸いたので、扉を少しだけ開けて聞いてみることにした。


 この組み合わせだと『攻め談義』だな。

 まあ会長は僕の彼……っていうのは抵抗があるから……その、『相手』だから話を聞きたいような、恥ずかしくて聞きたくないような。

 あと会長を『攻め』と言ってしまうと、『お前は受けだ』と言われているようで顔を覆いたくなる。

 まあ、『そういうこと』はまだしてないんだけど。

 危なかったことは何回もあるが、なんとか逃げている。


 駄目だ、このことについて考えていると羞恥心で叫びたくなるから今はやめておこう。

 二人の話を聞いてみよう。


「お前、央にはまだ手を出してないだろうな? いいか、絶対出すなよ」

「お前には関係ない」


 扉に頭をぶつけそうになった。

 何故ちょうどその話をしているんだ!

 どうしよう、部屋に戻ろうかな。

 でも、気になるな。

 僕が逃げると会長はいつも寂しそうだ。

 ……我慢をさせてしまっているのかもしれないが、どうしても抵抗してしまう。

 前世で好物だったものが我が身に起きるのかとリアルに考えると逃げたくなってしまうのだ。

 腐女子知識に邪魔をされている。

 会長は今の状況をどう思っているのだろう。

 拒み続けていたら嫌われてしまうのだろうか。

 ……それは困る。


 勝手に思考が進んでハラハラし始めた僕を置いて、二人の攻めトークは続いている。


「機嫌が悪いな? ははっ、心配しなくても良さそうだな」

「ああ?」

「出せていないんだろ? ダセえ」

「ああ!?」


 ガタッと大きな音が鳴った。

 中の様子が見える程隙間を開けていないので状況は分からないが、恐らく会長が荒々しく立ち上がったのだろう。

 春兄! 何故煽るんだ!


「お前はそのまま『保護者』していてくれよ。頼むぜ。その内、央も目を覚ますだろう」

「お前……」


 会長の低い声が聞こえた。

 本当に怒っているときの声だ。

 春兄の胸ぐらを掴むくらいはやっていそうだ。


「おい、何処に行くんだ」


 うん?

 春兄が呼び止めているようだ。

 ということはリビングを出る? 会長がここに来ちゃう!?

 急いで逃げなければ!

 さっきの内容を盗み聞きしていたことがバレたら気まずい。

 すぐに退却する体制をとった。


「央の部屋だ! 俺は保護者ではない! 今すぐ証明してやる!」

「はあ!? おい、待て! お前まさか、何するつもりだ!」


 え、僕の部屋にくるつもり!?

 今の流れで!?


 それって……ひいいい犯される!!

 絶対襲われる!


 春兄が足止めしてくれている隙に部屋に篭もって鍵を掛けた。


「ど、どうしよう」


 鍵を開けなければ襲われることはないが、ずっと篭もったままでいられるだろうか。

 ベッドに腰掛けて落ち着いたが、これからどうしよう。


 とりあえず着替えてもいなかったし、起きたままで頭もボサボサだ。

 身支度でもするか……。


 ……って、なんか会長とそういうことになった時のために小綺麗にしておこうとしているみたいだな。

 『勝負パンツに替えなきゃ!』などということではない!

 そういうつもりではなく、ただ着替えようと思っただけだ、本当だ!

 誰に言い訳をしているのかも分からないが、釈明せずにはいられない。


「央!」

「!」


 肩がビクッと跳ねた。

 この格好いい声は会長だ。

 いつもは名前を呼ばれると嬉しいが、今はただただ恐ろしい。

 扉をドンドンと叩き、僕を呼び続けている。

 本当にどうすればいいんだよ!


「……」


 よし、まだ寝ているふりをしよう、そうしよう。

 静かに布団に入って息を整えた……が、正直頭の中はパニックです。


「おい、待て! 猿みたいな思考回路してんじゃねえよ!」


 春兄も追いかけてきたようだ。

 僕の部屋の扉の前がとても騒々しい。

 もうやめてくれ!

 思わず耳を塞いだ。


「邪魔をするな! お前は真のところに行け!」


 会長が怒鳴っている。

 かなり苛々していそうだ。

 これ、どうやって収拾つけるの!?

 僕がやらなきゃ駄目!?


「ちょっと、何の騒ぎだ!?」


 トントンと階段を駆け上がってくると同時に兄の声が聞こえた。

 救いの神が現れた!


「真、その馬鹿を引き取れ! 俺は忙しい!」

「この馬鹿を止めて央を守るぞ!」

「ええ?」


 二人の主張を聞いて、兄は混乱しているようだ。

 それはそうだろう、突然こんなやりとりの中に入っても顔を顰めるしかないと思う。


「この馬鹿、央に手を出そうとしてんだ!」

「はあ?」

「お前らだってしてるだろう!」

「……!」


 あ、それ。触れてはいけない話だ。

 兄はそっち系の話をされると羞恥心に耐えられなくなり、フリーズしてしまう。


 思っていたとおり、扉の向こうが急に静かになった。

 顔を赤らめて耐えている兄の姿が目に浮かぶ。

 見たい。ちょっと覗こうかな。


 布団から出ようかと迷っていると、再び会長と春兄の言い争いが再開したのですぐにやめた。


「お前こそ、猿じゃないのか! 普段から真に手を出しているのだろう? 自分を棚に上げて、人のことに口を出すな!」

「俺達はいいんだよ! 真だって嫌がってないし、何も問題が無い! でも央はまだ一年生だぞ!」


 『嫌がってない』とか、何気に兄にダメージが入っていそうだ。

 何故余計な情報を入れたんだ。僕は嬉しいけど。

 あと僕は『小さな子』という扱いか?

 それはちょっとムッとしてしまう。

 一年も三年もそんなに変わらないと思う!


「春樹、いい加減しろ! 夏希も勢いに任せるんじゃなくて、そういうことはちゃんと央と話し合え!」


 兄が二人を怒鳴った。

 滅多に聞くことの出来ない兄の荒げた声に二人は驚いたのか、言い合いはピタリと止まった。


「下に行け」


 兄が静かに命令を下した。

 これもレアな兄が本当に怒っている時の声だ。

 嫉妬事件を思い出すなあ。


「で、でも真……」

「俺は央と会いたいのだが……」

「二人とも、下に行きなさい」

「「……」」


 返事はなかったが階段を降りる音が聞こえたし、気配も減った。

 二匹の猿は大人しく従ったようだ。

 さすがだ。


「央、起きてるでしょ?」


 コンコンと軽くノックをしながら兄が声を掛けてきた。

 布団から出て少しだけ扉を開けて覗くと、兄一人の姿があった。


「今の聞こえてた?」

「……うん」

「大変だね。どうする? 夏希を呼んでくる?」

「それはちょっと……」


 まだ混乱しているし、部屋に入れたら最後な気がする。

 兄に叱られたからすぐに手を出してくる、なんてことはないかもしれないけれど。


「まあ、焦ることはないと思うよ。夏希のことが嫌いになったってわけではないんだろう?」

「……うん。なんか……どうしたらいいか分かんない」


 子供を見守るような母の顔をしている兄を見ると妙に腹が立つが、一方で縋りたくなるというか……助けて欲しい。

 『受けの先輩、心構えを教えてくださいよ』なんて言ってしまうと口をきいて貰えなくなりそうだけど、思い切って聞いてみたい気もする。


「ずっと逃げてたら、会長に嫌われるかな?」

「央……大丈夫だと思うよ」


 兄は微笑ましそうにしているが、その『大丈夫』は信用出来るのだろうか。

 この質問は攻めの春兄に聞いた方が良かったかもしれない。


「俺がお前を嫌うわけないだろう! あき――」


――バタンッ


「危なかった!」


 『赤』が見えた瞬間に扉を閉めた。セーフ!

 すぐ近くに会長が潜んでいたとは!

 どうして兄は教えてくれなかったのだ!

 嬉しそうな顔で、飛びついてこようとしていた。

 心臓がバクバク鳴っている、ああ吃驚した!!


「央!? 何故だ! 頼むから開けてくれ! 何もしない!」


 信用できない。

 それよりも、今の質問を聞かれていたことが分かって恥ずかしい。

 本人の前で何言ってんだよ僕は、乙女か!


「兄ちゃん! それ、何とかして!」


 今日は絶対会長とは顔を合わせない!

 そう心に決め、会長は兄に押しつけて布団に潜った。


 会長は暫く扉の向こうで騒いでいたが『あんまり追い詰めると夏希が嫌われるよ』という兄の台詞が聞こえた後は静かになった。

 帰ったのかもしれない。

 案外まだ潜んでいそうだから絶対部屋から出ないけど。


 それから更に一時間後。

 階段を上がってきた様子の兄の『そろそろ諦めなよ』という声が聞こえた。

 ……やっぱり会長はまだ潜んでいたようだ。

 なんという執念なんだ。


 その日は兄のおかげでなんとか逃げ切ったが……翌日の日曜日にすぐに捕まってしまった。

 兄達が出かけていて助けてくれる人がいなかった。

 玄関の鍵を閉めておけば良かったと、今でも後悔している。




※※※




 隣のクラスに雛を探しに来たのだが、席に姿は無かった。

 教室中を見渡したがどこにもいない。

 だが、雛の後ろの席に座っている『腐った女子』が僕をみつけると手招きをした。

 呼ばれている。

 雛が何処にいるか知っているかもしれない。

 気は進まないが、話を聞こう。


「ねえ、天地君。今日は七夕ね」


 そんなことを言いながら雛の席の椅子を引き、佐々木風子はこちらを見た。

 『ここに座れ』と言っているようだ。

 無視をしたいところだが雛はすぐ戻ってくるようなので、大人しく待つことにした。


「私、七夕の話を自分好みに変えてみたんだけど、聞いてくれる?」

「嫌って言っても話すんだろ?」


 こいつの話は腐っているに違いない。

 誰かに聞こえてしまわないか周りを見たが、すぐ近くには誰もいないし賑やかな教室の中なら大丈夫そうだ。


「あんまり大きな声で言うなよ」

「その台詞、いやらしいわね。私……我慢出来なかったらごめんなさい。でも私より、是非楓君を押さえつけて耳元で『大きな声だすなよ』と……」

「いいから早く喋れよ!」


 いちいち腐っていたら話が進まない。

 どんな話をしたいか知らないが、雛に聞かれたらまずい話だということは分かる。


「そんなに聞きたいなら仕方無いわね」

「いや、別に聞きたく無いけど話すんだろう?」

「織姫がいました。織姫は実は男の娘でした」

「出だしからそれかよ!」


 多分登場人物は男だけなんだろうなとは思っていたけれど。

 いや、余計な情報を挟まないのは、むしろ素晴らしい。


「イメージが湧きやすいよう、男の娘織姫は楓君に演じて貰います」


 恐ろしくイメージが湧く。

 さぞかし美しいことだろう。


「……とくれば、彦星は天地君よね」

「そう言うだろうとは思ったよ」


 楓が出た時点で、僕も出ることはすぐに分かった。

 分からない方がおかしいくらいだ。


「楓織姫はいつもひとりで可哀想だったので、私が『彦星と結婚しなさい』と言いました」

「お前も出てくるのかよ」


 織姫に結婚をさせるのって『神様』だったような……。

 自分を神様にキャスティングするとは、なんとういう冒涜。

 罰が当たるぞ。

 当たればいいのに。


「結婚して当初は激しく愛し合っていた二人ですが、その内頻度は減り……私は激怒しました。ちゃんと毎日ヤりなさい!」

「……」


 これは突っ込んだら負けだ。

 僕は心を無にして窓の外を見た。

 雲が流れるのが早いなあ、風が強いのか。

 七夕っていつも曇ってて、あまり天の川を見た記憶が無いなあ。


「まあでも、流石に毎日だったら腰を壊しそうだから、七月七日だけ休んでいいわよ。おわり」

「七夕に謝れ!!」


 無我の境地で聞き流そうとしていたのに、あまりにもひどい話でスルー出来なかった。

 僕と楓を腐らせる妄想の為に、無理矢理に七夕を持ってきて乱暴に扱うこの所業。


「というわけだから今日は休んでもいいけど、明日からちゃんと楓織姫を可愛がって頂戴ね。これ……薄い本に出来そうね。描こうかしら」

「想像以上に想像通りの話だったな。描くのは自由だが絶対世に出すなよ」


 どうせ腐っているんだろうという期待は裏切らないこの安定感。

 僕では歯が立たない、腐レベルの桁の違いを見せつけてくれる。


「あれ、アキ?」


 この教室に来たことを後悔していると、可愛い僕の彼女が帰ってきた。

 いつも以上に可愛く、そして尊く見える。

 ああ癒やされる……。


「おかえり」


 雛の席を占拠しているからすぐに退こうかと思ったけど、更に癒やしを求めて座ったまま両手を広げて『膝にどうぞ』と誘ってみた。


「え!? ここでは……ここでは……! でも……!!」


 目を見開いた上に顔を赤くし、おまけに挙動不振な動きを始める雛。

 忙しいな。

 座るかどうか、全力で考え中という感じだ。

 なんでこんなに可愛いんだ。

 でもごめん、本当に座られたら恥ずかしいから無理。

 『やらないだろう』と思ってやりました。


「はい、時間切れ」

「!?」


 そう誤魔化しながら立ち上がると、残念そうな顔がこちらを見ていた。

 ここが教室じゃなかったら迷わず抱きしめていたところだ。

 腐臭のあとの雛の癒やしは、僕の心を洗ってくれる。


「それ、楓君にもやってね」

「お前は黙ってろ」


 洗ったばかりの心を汚すんじゃない。

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