表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/97

番外編 とある転生者の戦いの日々

『違和感』


 ――しっくりしない感じ。また、ちぐはぐに思われること。


 辞書を調べるとそう書いてあった。

 私は物心がついた時から自分自身にそれを強く感じていた。


 まず名前。

 『野兎愛美のうさまなみ』だなんて似合わない。

 『兎』に『愛』に『美しい』だなんて名前負けにも程がある。

 しっくりくるのは『野』くらいである。


 そして可愛い苺柄の服やピンクの服を着せられる時、スカートを穿かされる時――。

 風呂やトイレなど、公共施設で赤いマークの方を選ばなくてはいけない時もそれを感じた。


 テレビで自分と同じ違和感を語る人を見た。

 彼女は『男性に生まれたかった』と言っていた。

 『あ、私と同じだ』と思ったが……見ているうちに、どうも違う気がしてきた。

 私の場合、違和感はあるが嫌ではないし苦痛でもない。


 ただ、慣れないことをさせられているような不思議な気持ちだった。

 赤いマークの施設を選ぶときも『嫌だ』ではなく、『入って良いの?』という遠慮に近かった。


 その違和感の正体が解明される日は、突如訪れた。

 小学校入学のため、ランドセルや勉強机を買い揃えて準備をしていた頃の話だ。


 私には一つ年下の弟がいる。

 私の後ろをついて回る、可愛い可愛い弟だ。

 『弟』だが目のくりっとした顔立ちはお姫様のように愛らしく、よく女の子に間違われる。

 体つきも華奢であまり丈夫ではない。

 すぐに風邪をひくし、激しい運動をすると喘息の発作を起こしてしまう。

 幼稚園もよく欠席をしていた。

 ただ、大人しくしていれば普通に生活は出来たため、家族で気を配りながらも穏やかな生活を送っていた。


 そんなある日、風邪をこじらせた弟が、喘息の発作も起こして入院をした。

 静かな病室。

 血液中の酸素濃度が危険な域まで下がっていたため、酸素マスクをされて青白い顔で眠る弟――。

 そんなつらい光景を目にした瞬間、『それ』は起こった。


 ぐにゃりとブレる視界。

 弟の姿が突如何かと重なった。


 ――何と?


「その先を考えてもいいのか?」という不安に襲われたが、同時に「思い出さなければいけない」という衝動にも駆られ、恐る恐る思考を巡らせた。

 すると脳裏に浮かんできたのは……。


 白い靄に阻まれてぼやけてはいるが、個室の病室が見えた。

 音は……一切聞こえない。

 その光景を、漠然と『景色』として見ているが現実じゃないような、二次元のイラストのようにも見える。

 よく分からない感覚だ。


 ――誰かいる。


 銀髪の美少年がベッドで休んでいる。

 歳は中学生くらいに見えるが弟に似ている。

 ……いや、似ているのではない。本人だ。

 なぜか瞬時に、これは『弟の未来の姿』だと理解した。


 ベッド脇には、椅子の向きを逆にして跨がるように座り、腰掛けに腕を乗せている男がいる。

 それは明るい茶髪に整った顔立ちの高校生で、弟に眩しい笑顔を向けていた。


 笑みを向けられた弟は顔を赤くし、照れを隠すように布団をかぶった。

 それを見て、茶髪の少年は屈託の無い笑顔で笑った。

 笑われたことが分かったのか弟は布団からひょこっと顔を覗かせたが、高校生と目が合うと再び布団に潜ってしまった。


 ――なんだこれは……。


 どんなやり取りをしているのか分からないが『友達』には見えないし、ただの知り合いというわけでもないだろう。

 感じるのは甘いような、桜のように淡く優しい桃色の空気。


 ――ああ……何か思い出しそうだ。


 場面はまだ続いている。

 茶髪少年は立ち上がり、弟が潜っているベッドの脇に腰掛けた。

 もう一度穏やかな微笑を浮かべると、弟でできた山をぽんぽんと優しく叩き、何かを言って立ち去るような動きを見せた。

 すると、弟が勢いよく布団から姿を現し、茶髪少年の腕にしがみついた。


『帰らないで』


 口がそう動いたのが見えた。


『また来るから』


 相手がそう返事をしたのも分かった。


 茶髪少年が再び立ち上がろうとした時、弟が動いた。

 彼の腕を引き、頬にキスをしていた。


『約束、だからね』


 弟はそれを告げると、真っ赤になった顔を隠しながら逃げるように布団を被った。

 不意打ちにあった高校生は、口づけられた頬を押さえると僅かに顔を赤くし、ポリポリと頭を掻きながら穏やかな表情で部屋を出て行った。


 私の頭は、真っ白になった。

 弟は何をしているのだろう。

 あれじゃまるで……弟は『恋する乙女』だ。

 相手もまんざらでは無さそうな……。

 これでは、BLじゃないか。


『BL』


 その単語が自然と出てきた。

 意味も分かっている、ボーイズラブだ。

 俺は大嫌いだった。

 あれ……『俺』?

 その瞬間、また新たな場面が広がった。


 今度はクリアな視界で音も分かる。

 八畳くらいの広さがある部屋で、ベッドと机が両端に設置されている。

 ピンクのベッドと黒のベッド。

 女性物のスーツがかかったハンガーと、黒の学ランがかかったハンガー。

 どうやら社会人女性と男子高校生の姉弟共同の私室のようだ。


『姉貴、BLのポスター増えてるじゃねえか! っていうかここは俺のテリトリーだろ!』

『今日届いた新作のポスターなの。予約特典でついてたのよ、それ。見て見て、あたしこの銀髪ショタっ子推し! 好みだわあ!! こいつから落とすぜえ、ひっひっひ。待ってろよ……今夜は寝かさないぜ……』

『知るか! もう勘弁してくれよ……』


 部屋には男子が見ると固まってしまうようなモノが至る所に散乱していた。

「ここはどこの店頭なのだろう」と思ってしまうくらい、ポスターが天井までびっしりと張り詰められているし、ピンクのベッドの上にも見ると目を背けてしまうような表情の少年達の絵がプリントされたクッションが転がっている。

 おまけに姉貴と呼ばれた女性が今飲んでいるコーヒーのマグカップにもそういうプリントがされている。

「そのコップを洗わされている母さんの気持ちを考えてみろよ……」と弟が呟いていた。


 姉は意気揚々と家庭用ゲーム機の起動ボタンを押した。

 そして今日届いたというゲームのディスクをいれ、上機嫌に語りだした。


『このFlowering Season、略してFSってゲームはね、元はPCの十八禁ゲームなのよ。続編のFSⅡが出てから凄く人気が出ちゃってねえ。今はBLも市民権を得て大分世に出るようになってきたし、家庭用ゲーム機に移植されて発売になったの。まあ、対象年齢が十五歳以上ではあるけど十八禁じゃないから、どこまで見せてくれるかが見物ね。CEROレーティングという鳥籠の中、どれだけ羽ばたけるかしら……ふふ。このショタっ子は移植版の追加で出た新キャラなの。中学生みたいだし、何処まで出来るかなあ』

『聞いてないから。黙ってやれよ。ヘッドフォンでな! もう変な声聞きたくないからな!』

『変な声じゃなくて天使の産声よ。あんたに聞かせるのが乙なのに』

『迷惑だ!』


 途中から私は段々と思い出していた。

 私が『俺』であった時のことを。

 そうだ……私の前世がこの腐った姉に苦しめられているこの弟であり、『俺』なのだ。


 どんどん記憶が蘇ってくる。

 この日の夜中、即効で銀髪ショタっ子を攻略した姉が『はあ!? キスまで!? ヤリ方分かりませんってか!? ふざけんな!! こんな物を買うため、あたしは社蓄となって働いてるんじゃないぞ!! ママゴト見してんじゃねえぞゴラアアアア!!』と叫んだのだ。

 近所迷惑だし、家族に恥かかせるなと喧嘩になったのも鮮明に思い出した。

 『所詮、鳥籠の鳥か……』

 そう呟いていた哀愁漂う背中も妙に目に焼きついている。


 そういえば……姉が気に入った銀髪ショタっ子だが、今の『私』の弟に似ている。

 いや、そうだ……これも私の弟だ。

 最初に見た病室のシーンにいた銀髪の少年も私の弟、間違い無い。


 両方私の弟だ。


 ……となると、最初に見た病室はゲームの中の一場面で、登場した銀髪の少年が『今』の私の弟。

 その後、登場した姉弟の『弟』が私の『前世』ということになる。

 つまり、私は『BLゲームの世界に、攻略キャラの姉として転生していた』ということだ。


 俄かには信じがたいが、辻褄を合わせるとそうだとしか思えない。

 なんということだ……BL嫌いのこの『俺』が。


 全く覚えていないが、前世の『俺』は余程悪行を重ねたのだろうか。

 何か人様に迷惑をかけるような生き方をしてしまったのだろうか。

 まるで罰を与えられ、地獄に落とされたようなものだ。

 生きているだけで辛い。

 転生出来るなら剣と魔法のファンタジーな世界でチートな能力を持ち、スローライフをおくりたいと言いつつ結局世界を救ってしまうような格好良い勇者になりたかった。

 神は無慈悲だ。


 家に遊びに来ていた友達が、「部屋には入るな」と言っていたのに入ってしまい、姉の腐った私物が積み上げられた腐界の森を見てしまったことがあった。

 それをきっかけにその友達の態度はぎこちなくなり、気がつけば疎遠になっていた。

 高校は別になったが、あの事件がなかったら、それからも仲良く出来ていたと思う。


 そんな出来事もあり、『俺』はBLが本当に嫌いなのだ。

 『俺』にとってBLとは、座礁したタンカー船から漏れ出し、海を汚す重油のようなものだ。

 そこに住む生き物を苦しめる害でしかない。

 絶望だ。

 BLゲームの世界で生きていかなければいけないなんて……!


「愛美? 愛美! ねえ、どうしたの!?」

「え?」


 気がつくと両親が不安そうに私の顔を覗き込んでいた。

 長い間、呆けて突っ立っていたようだ。


「あ、ごめん。なんでもない」

「本当? こんな状態の深雪を見てショックだったのかもね。愛美も、少し休みなさい」


 頭の中が混乱していたし、言われるがまま付き添い者用のベッドで休ませて貰うことにした。

 両親は用事を済ませてくると病室を出ていった。

 今部屋には私と、酸素マスクをして眠る弟だけしかいない。


 青白い顔で眠る弟を見る。

 可愛い弟、かつての姉のように腐っても穢れてもいない天使のような弟。

 姉が言っている『天使』とは断じて違う、本物の天使だ。


 弟を魔の手から守ろう。

 BLという穢れから。


 そして私は自分自身を守ろう。

 BL嫌いが加速したのか、男という存在そのものに嫌悪感がある。

 これから女として生きていくことに戸惑いは無いが、男と関係を持つようになるなんて考えられない。

 弟を守り抜き、いい歳になったら出家しよう。

 そう心に誓った。




 ※※※




 この世界がBLを推奨しているというのであれば、私は神に抗うことになる。

 その為には強靭な肉体と精神が必要だろう。

 精神はかつての姉という邪神を思い出し、この憎しみを糧にしていけばなんとかなりそうだ。

 そうなると問題は肉体である。


 自分の体を見て愕然とする。

 か細い手足に軽い身体——、なんという脆弱な肉体。

 これではいけない。


 親に頼み込み、柔道を教わるため近くの道場に通い始めた。

 最初はピアノを習えと言われたが、父に頼み込み、なんとか思うようにことを運べた。

 父も始めは女の子なのだからと渋っていたが、もしもの時の護身として学びたいと目を潤ませて力説すると攻略できた。

 どんな世界でも父親は娘には弱いらしい。


『愛美は身体が小さいから、しっかり食べて大きくなって鍛えなきゃね』


 道場の先生が始めに言った言葉だ。

 私はその教えを忠実に守った。

 その成果が出て身体が大きくなり始め、小学生低学年で腹筋が割れ始めた頃、母親が『もういいんじゃない?』と言い始めた。

 何がいいのだ、まだまだ足りない。

 それに弟は格好いいと言ってくれた。


 小学校高学年で父よりも大腿四頭筋がつき、足が太くなった辺りで家族会議が行われた。

 弟はその時も「格好いい」と言ってくれた。

 だったら何も問題はない。

 私が部屋に戻った後も、両親二人で家族会議の延長戦を朝までやっていたが一切問題はない。


 私の体は中学校に入る頃には仕上がっていた。

 体脂肪率は九パーセント。

 水中では沈んでしまうので、水泳の授業は苦手だった。


 初めてセーラー服に袖を通した時だけ、「もしかして道を間違えたのか?」と思ったが、それは一瞬だった。


 私が高校受験を意識し始めた頃、弟が華四季園に通いたいと言い始めた。

 弟の言葉で思い出したが、そこは地獄の舞台となる場所だ。

 全力で止めたが弟は行きたいという。

 ならば私も行くしかない。

 近くにいなければ守れない。

 気を引き締めるため、その日から腕立てを百回増やした。




 ※※※




 華四季園は人気もあり、偏差値も高い学校だったので不安だったが、無事入学することが出来た。

 自分がゲームをプレイしたわけではないので詳細は分からないが、弟を穢そうとする悪魔は確実にここにいる。

 邪神の言葉を思い出しつつ、気をつけていかねばならない。

 弟が入学するまでに出来るだけ邪気を祓いたいものだ。


 体は中学時代より更に磨きがかかり、身長は百七十センチまで伸び、体重は五十八キロになった。

 体脂肪率は九パーセントを維持している。

 柔道は続けているが、黙々と一人でトレーニングをするのが好きな私は、道場に通うより家の中で筋トレを続けた結果、筋肉が全身を覆う鎧のように発達した。

 外には出ないので相変わらず肌の色は白い。

 少し日焼けした方が強そうに見えるかもしれないので、課題の一つに加えておこう。


 高校生活初日。 

 自分に割り当てられた教室の黒板に貼り出された座席表。

 その前には人だかりが出来ていた。

 後ろの隙間から覗き、自分の席を確認する。


「野兎愛美だって、なんだか可愛い名前だねー」


 クラスメイトとなる女子生徒がぽつりと呟いた。

 自分のことを言われて動揺しそうになったが、習得した『不動の精神』を発動して心を落ち着かせた。


「名前だけじゃなくて凄く可愛い子だったりして!」


 男子生徒が続いて零した。

 私は無言で後ろから座席表を確認し、『野兎愛美』と示された席に座った。

 それに気がついた人だかりから驚きの声が聞こえた。


「あれじゃ兎っていうより……闘犬じゃない?」

「高校入学じゃなくて軍隊入隊と間違ってない?」

「なにそれ、ウケる! それっぽいんだけど!」


 不躾な視線と共に不愉快な声が届いている。

 ……ここでもか。

 中学の時も同じことを言われた。

 闘犬、アマゾネス、サイボーグ、他にも色々と言われた。


 その時、教室の扉が開き……一人の男子生徒が入ってきた。

 明るい茶色の髪に整った顔立ち。

 纏う空気が『特別』な気配。

 モブではないことは一目瞭然だ。

 一瞬で空気が変わり、教室にいた全女子がざわついた。


「誰!? あの人!」

「やったあ! 天地君と同じクラスだなんてラッキー!」


 中学が同じだった女子が、何故か誇らしげに彼の詳細について解説を始めた。

 当の本人は知り合いがいたらしく、挨拶をしながら座席表に目を向けていた。


「へえ、ほんとだ。可愛い名前。どの子?」


 人だかりの中では、まだ私の話は続いていたようで彼の耳にも入ったらしい。

 周りの生徒に教えられ、こちらを見た彼と目が合った。


「君が兎さん?」


 話し掛けられた。

 まさか声を掛けられるとは思っていなかった。


「……野兎です」

「色が白いから白兎(しろうさ)さんだな! よろしく、白兎さん」

「は?」


 な、何なんだこいつは……。

 こんな反応をされたのは初めてだった。

 今までは仕上がったこの外見に好奇の目を向けられた記憶しかない。

 慣れないことに対応できず、胸がおかしい。

 動揺している、いけない、不動の精神を再発動しなければ。


 このやりとりを見て、周りの女子は羨ましそうに私を見ていた。

 嫉妬なのか、睨んでくる子までいる。

 私は何もしていない、不可抗力だ。

 イケメンなんて死ねばいいのに。

 そうだ、『俺』はモテない男子だった。

 どんな容姿だったか覚えていないが、イケメンへの嫌悪感は覚えている。

 いや、それより……この顔どこかで。


 突如脳裏に、あの病室の光景が浮かんだ。


 『明るい茶色の髪、屈託のない笑顔』

 記憶の中のそれが目の前の人物と完全に一致した。


「……こいつだ」


 この男が――こいつが弟を攻略する悪の化身だ。

 こんなに早く接触してしまうなんて……!

 こいつから弟を守らなければいけない。

 私の闘志は静かに燃え上がった。


 しかし、何の因果か同じクラスとは……。


 そして良く見てみると、姉のおぞましきポスターの中にいた人物、攻略キャラの『楓秋人』も同じクラスだった。

 最悪だ、クラスにBLが二人もいるなんて。


 それからはこっそりと様子を見ながら警戒する日々が始まった。

 天地と楓の二人は、接点は無く過ごしていた。

 それぞれ別に友人がいて、特に親しくしている様子は無かった。

 思い過ごしか考えすぎなのか、そう思い始めた頃だった。

 二人に『仲が悪いかもしれない』という噂がたった。

 実際に私も険悪な場面を目撃した。


 『何か始まる』


 そんな嫌な予感がした。


 予感は的中。

 気づけば楓が小判鮫のように引っ付くようになっていた。

 この世界の神が私の努力を嘲笑い、予定通りに世界は廻るのだと言っているような気がした。


 だが私は屈しない!

 その為にこの筋肉という名の鎧を身に纏っているのだ!


 それにしても……臭い、教室がBL臭い。

 姉の腐界の森から漂っていたものと同じにおいだ。

 どうしてこんなにも臭うのに、誰も気がつかないのだろう。

 これがこの世界の特性なのかもしれない。


 気を引き締め、日々のトレーニングを増やしながら学校生活を送っていると、姉の部屋のポスターにあった人物を次々と発見した。

 敵を知るため、姉の記憶と現実を照らし合わせながら情報収集を行った。


 まず、シリーズの主人公天地兄弟。

 彼らは、女子の中で、『第一王子』と『第二王子』と呼ばれていた。


 未来の国王、高嶺の花、簡単には近づくことの出来ない第一王子と、街にくりだす天真爛漫で親しみやすい第二王子、そういう認識のようだ。

 第一王子の方は見覚えのある顔である攻略キャラの一人、確か幼馴染だというバスケ部エース櫻井春樹といつも一緒にいた。

 (くさ)い、(にお)っている……これはもう間違いない。


 そして同じクラスの楓秋人。

 可愛い過ぎると持て囃され、こちらも王子と呼ばれている。

 天地央に懐いていると捉えられているが、私から見ればベタなBLだ。


 次に生徒会長の青桐夏希とその弟の夏緋。

 生徒会長の圧倒的な人気と支配力を確認。

 私以外の女生徒は全て手中に治めているのではないか、と思った程だ。


 弟の夏緋の方は確か『Ⅱ』から登場したキャラだ。

 だからか、天地兄の方との関わりはないように見える。

 彼は姉のお気に入りで、『ノンケからのBL開花、美味す!』と何度も聞かされた。

 こちらも校内での人気は相当なものだった。


 あと用務員の柊冬眞。

 姉曰く、エロ要員。

 聞きたくないのに、こいつの如何わしい言葉攻めを大音量でどれだけ聞かされたことか……!

 本当にあんなことを製作する人間も見る側も、ましてや弟に聞かせる奴なんてどうかしている。

 柊にはあまり近寄らないようにしよう。


 ここがBLゲームの世界だということは分かったが、『Ⅰ』と『Ⅱ』、または『移植版』のどれにあたるのだろう。

 全て舞台は同じ設定だと邪神が言っていたので、どれかだけということは無いのかもしれないが、天地兄弟のどちらとどういう関係なのか、というのはよく分からない。

 まあ、分かりたくもないのだが……。

 情報収集などしてしまったが、弟は天地央だけを警戒すればいいのだから、それ以外は気にしなくてもいいかもしれない。


「苦痛だ」


 BLが嫌いなのに、BLのことばかり考えていて欝だ。

 しかし、恐らく今が正念場なのだ。

 弟がゲームで登場した時、姉は『中学生だ』と言っていた。

 今は中学三年生。

 弟の中学ラストイヤーになる。

 今年天地央と出逢わなければ、なんとかなるかもしれない。

 この一年が勝負だ。


 しかし、来年入学してからも気を抜けない可能性もある。

 たとえ今年じゃなくてもBL世界の補正が働いて、結局弟はBLになってしまうかもしれない。


『この銀髪ショタっ子、未来では主人公より背が高いイケメンになっているのよね。つまり、下克上!! くぅ、たまらん!! 攻めから受けに回る屈辱に耐える元攻め!!』


 邪神がそんなことを言っていた。

 弟は天地央より背が高くなった頃もBLゲームに登場しているということだとすれば、警戒する必要がある。


 しかし、あの子が『背が高いイケメン』か。

 今はまだ女性物の服を着せれば少女に見えるくらい可憐な弟が立派になるらしい。

 弟の成長は楽しみである。

 弟が立派なBLではなく、立派なイケメンになる為にも鍛錬を怠ってはいけない。

 日々精進だ。




 ※※※




 とある日。

 体育の授業が終わり、砂がついた手を洗っていた時のことだ。

 隣の蛇口を使おうとしていた女子生徒が勢いよく水を出しすぎて、私はびしょ濡れになってしまった。


「うわ、ごめん! って野兎さんかあ。凄い汗だし、ちょうどいいんじゃない?」


 同じクラスではない、別のクラスの女子生徒だった。

 桃色の髪をツインテールに束ねた可愛らしい女の子で、櫻井雛ほどではないが男子には人気の生徒だ。

 自分も男子であれば可愛いと思っているであろう。

 まさか、中身がこんなに残念だとは気がつかないと思う。

 対する性別によって、見せる顔を使い分けているところを何度か目撃した。

 女子になって、男子であった時との違いを感じることがあるが……今がまさにその時だ。

 彼女と一緒にいる、取り巻きの『いかにもモブ』な女子生徒がクスクスと笑っている。

 私は言われたように汗を掻いていて暑いくらいだったから、あまり気にはなっていないのだが……。


「うわあ、白兎さんビチョビチョじゃん! どしたの、それ!」


 立ち去ろうとしていると、BLの権化である天地央に声を掛けられてしまった。

 するとさっきまで意地の悪い笑みを浮かべていた彼女達は、そそくさと立ち去って行った。


「濡れた」

「いや、それは分かるけど! いくら白兎さんでもちょっとワイルド過ぎない? これで拭きなよ」


 そう言うと、自分の首にかけていたタオルを私に差し出した。

「いくら白兎さんでも」とはどういう意味だ。

 こいつに言われるとカチンとくる。


「いらない」

「大丈夫。ほとんど使ってなくて綺麗だから」


 そう言うと強制的に受け取るように私の首にかけた。

 そこまでされると返すのも悪いかと思い、渋々受け取ることにした。

 BLが感染しないか、少し心配だ。


「クリーニングに出して返します」

「クリーニング!? いいよ、あげる。何かの粗品とかで貰ったタオルだし」

「でも……」

「いらなかったら、海に捨てて! んじゃな~」


「海に捨てて」は有名なアニメのセリフを引用してボケたのだろうか。

 つまらない。

 イケメンのくせに軽いボケを入れるなんて死ねばいいのに。


 でも、何故か気持ちは軽くなっていた。

 気にしていないつもりだったが、少し落ち込んでいたのだろうか。

 首にかけられたタオルが妙に温かく感じた。


「野兎さん。そのタオル、私にくれない?」


 気がつけば、蜘蛛の子を散らすよう消えていたはずの桃色ツインテールが目の前にいた。


「この子ね、天地君が好きなの」

「いらないんでしょ? だったらあげてよ」


 周りのモブ達も一緒に戻ってきていたようで、桃色ツインテールにタオルを渡せと口を揃えた。

 今度は軽くなっていた気持ちが、またずっしりと重くなったのを感じた。


「お願い。くれるわよね?」


 別にこんなBL臭いタオルなんて欲しいわけでもないし、手放すことに躊躇はない。

 ……そのはずなのだが何故か渡す手が止まった。

 どうしてだろう、渡したくない。


「どうしてくれないの? もしかして、野兎さんも天地君が好きなの?」


 中々渡さない私に痺れを切らして、女子生徒たちは詰め寄ってきた。

 威圧しているつもりなのだろうか。

 そんなことをしても全く何とも思わない。

 それよりも……今、何と言った?


 この私が、BLの権化に懸想しているだと……!?

 幼い頃からBLと戦う為に肉体を鍛え抜いて来た私が!!


「そんなこと……あるはずがないっ!!!!」


 気がつくと叫んでいた。

 女子生徒達は驚いたのか、揃って後ろに一歩下がった。


「な、なによっ」

「ふんっ」


 胸くそ悪い、非常に不愉快だ。

 鼻を鳴らし、荒々しく足を踏みしめて怒りを露わにしたままその場を後にした。

 付き合っていられない。

 後方で騒がしい声が聞こえるが無視だ。


「あ、タオル」


 暫く進んだところでタオルを握り締めていることに気がついた。

 欲しいと言われたのに持ってきてしまっていた。

 渡してもよかったのだが……。

 せっかくなので使わせて貰おうと思ったが、拭いてしまうとタオルが汚れる気がした。

 濡れているのは気持ちがいいし、自然乾燥でいい。

 教室に戻った後、タオルを鞄にそっと片付けた。




 ※※※




 また別の日のことである。


 職員室で用を済ませた帰り、『教室に戻るついでに、荷物を運んでくれ』と担任の先生に頼まれた。

 渡されたのは辞書のような厚みのある本が約三十冊。

 持てる分だけでいいと言われたが全て持っていくことにした。

 これも修行である。

 重さは問題ないが、少々バランスを取るのが難しい。


 視界も遮られているためゆっくり慎重に歩いていると、後ろから来た誰かと本がわずかに接触した。

 そのせいで積んでいた本がバランスを崩してしまい、そのまま私の周りに散乱してしまった。


「あ、ごめんなさい」


 そこにいたのは例の桃色ツインテールだった。

 前の腹いせなのか、わざと当たったのだろう。

 モブ達もいるようだ。

 クスクスと笑っているが、随分とつまらないことをするものだ。

 せっかく可愛いのに……こんなことをしていては台無しだ。


 しかし……こんなか細い女子に当たられただけで、本を落としてしまった自分の脆弱さに腹が立つ。

 トレーニングを増やさなければ……。

 そんなことを考えながら本を拾うおうとしゃがんだ時、目の前に転がっていた何かに目がいった。

 それは苺の形をした小さな部品だった。

 桃色ツインテールに目をやると、手に持っているスマホにつけたアクセサリーの一部に取れた様な形跡があった。

 あそこから取れたようだ。

 部品を拾い、立ち去ろうとしている彼女を引き止める。


「あの……」


 返事はないが、眉間にシワを寄せた怪訝な顔をこちらに向けた。


「落ちましたよ」


 私が差し出した部品を見ると、彼女はこっそりと舌打ちをしていた。

 そして、無言で私の手から苺を回収し、再び立ち去ろうとしたその時――。


「拾ってくれたんだから、ありがとうぐらい言ったら?」


 外野から声が入った。

 さっさと本を拾ってしまおうと思っていたところに、余計なことを……。

 そう思いながら声の主を見る。


「!」


 ……驚いた。

 そこにいたのは我が敵、天地央だった。


「あっ……天地君……」


 確か桃色ツインテールは天地央が好きだと言っていた。

 好きな相手に注意されるなんて少し哀れだ。

 様子を見ていると見るからに狼狽えていたが、周りのモブに連れられて立ち去った。

 見送っていると、いつの間に天地央は散乱した本を拾い始めていた。

 私のトレーニングを邪魔するとは、やはりこいつは悪の化身だ。

 だが、手伝ってくれているのだから一応感謝するべきだろう。


「ありがとう」

「白兎さんって偉いな」

「…………?」


 私の感謝をスルーし、天地央は話始めた。

 偉い? 何の話だ。


「ずっと見ていたわけじゃないけど、なんかさっきの子達、感じ悪かったじゃん? それなのに親切に拾ってあげてさ。悪意に善意を返せるって凄いよ。白兎さんのそういうところ、いいなと思うよ」


 キラキラと星を散らす様な眩しい笑顔を向けられた。

 まさに王子、イケメンだ。


 ……死ねばいいのに!


 慣れない笑顔を向けられて、またも動揺してしまっている自分がいる。

 胸がドキドキと高鳴っているのが分かる。

 修行が足りない……BLの化身に動揺させられるなどあってはならない!


「全く、進路妨害なんだけど」


 自分の不甲斐なさに打ちひしがれていると、もう一つ外野から声が入った。

 顔を向けると、楓秋人が顔を顰めながら本を拾い始めた。

 気がつくと二人が本を拾ってしまい、私の手元には一冊もなかった。


 なんということだ……BLに挟まれてしまった。

 裏返って私までBLに染まりそうな程BL臭いではないか!

 しかも私のトレーニングとなる本が全て奪われた!


「これ一人で持つとか、いくら白兎さんでも無謀なんじゃないの? 僕らで持ってくよ。教室?」


 だから、『いくら』って何だ。

 私はどういう認識をされているのだ。


「教室だけど……。平気。全部自分で持っていく」

「いいって。僕らも教室戻るところだし。持った方が落ち着くんだったら、か弱い楓様の分を半分持ってあげて」


 それを聞いた楓は、本の半分を天地央の分の上にドンと乗せた。


「お前っ! 急に乗せるなよ!」

「か弱いから持って」


 目の前でBLがイチャついている……臭い、臭いぞ!

 どうしてこうなった、最悪の結果だ。


「行くよ」


 気がつけばBLと一緒に歩いているこの状況。

 周りの視線が『羨ましい』と訴えてくるが、私にとっては罰ゲームのようなものだ。

 代われるなら代わってやりたい。


「はあ」


 こっそりと溜息を漏らした。


 ふと、前を歩く二人の様子に疑問が湧いた。

 本当のところは友達なのか、既にカップルとして出来上がっているのか気になった。

 仲は良さそうであるが、そういう雰囲気はないように思える。

 気になる、聞いてしまいたいが聞けない。

 結局一言も発しないまま、教室まで辿り着いたのだった。 




 ある日、私は日直の用事があって一人で教室に残った。

 もう一人日直の男子がいたはずだが、彼は帰ってしまったようだ。

 本来は二人でする作業だったため、少々時間がかかったが黙々と作業を済ませ、帰ろうとした時――。

 一つの机に鞄が残っているのを見つけた。

 天地央のものだった。


「まだ帰っていない?」


 自分が最後だと思っていたのだが、まだいるようだ。

 そういえばさっき、校内放送で呼ばれていたような……。


 鞄を見ていると再び天地央を呼ぶ校内放送がかかった。

 ……って呼んでいるのか生徒会長じゃないか。

 BL同士の慣れ合いを校内放送でしないで欲しいものだ。


「鞄があるから、奴は一度ここに来るのかもしれない」


 ふと目に入った天地央の席に、なんとなく近寄ってみた。


 当たり前だが彼はいつもここに座っている。

 授業中はノートを取ったり、案外真面目に聞いている。

 成績も良い方のようだ。

 腹が立つことこの上ない。


 ぼうっと彼の席を眺めていたのだが吸い寄せられるように椅子に手が伸び、気がつけば座っていた。


「はっ!?」


 私は何を……何をしているのだろう!!

 すぐに立ち上がり、椅子を戻した。


 その時、教室の扉が開いた。

 天地央だった。


「「…………」」


 私は息が止まりそうになった。

 座っていたのは見られていない……はずだ。

 だが、気まずい。

 私はまだ、彼の席の近くに立っている。


「ええっと、鞄取りに来たんだけど、白兎さんは帰らないの?」


 どう説明しよう。

 頭をフル回転させた。

 そういえば会長に呼び出されていた。

 早く行った方がいい。


「ふんっ」


 スピーカーを示し、呼ばれていたことを伝えた。


「あ、うん。……サンキュ」


 何故か疲れた顔で頷いた。

 表情の意味は分からないが、なんとか切り抜けることができた。


 しかし、私は何故あんなことをしてしまったのだろう。

 気が抜けているのかもしれない。

 もう百回、腕立てを増やそう。




 ※※※




 それからまた暫く経ったある日。

 学校が終わると、私はすぐに病院に向かった。

 中学に入ってからは調子が良かった弟が久しぶりに入院していたのだが、すぐに回復し、予定よりも早く今日退院することになったのだ。

 荷物は母がすでに、仕事の休憩時間中に持ち帰っている。

 最後の診察が昼過ぎになるということで、迎えは私が行くことになっていた。

 弟は「一人で帰れる」と言っていたが、私も両親も心配だったし、体調がよければ気分転換に少し寄り道してもいいと思っていた。


「姉さん」


 病院に着くと、血色の良くなった弟が出迎えてくれた。


「診察も大丈夫だった?」

「うん!」


 見ていると幸せになる眩しい笑顔。

 やはり弟こそ本当の天使だ。


「ちょっと遊んで帰りたい」

「あまり無茶は駄目だよ?」

「うん、分かってる」


 本でも買って帰ろうかと話合い、歩いていける商業施設に行くことにした。

 そこだと本も買えるし、休憩出来る場所もある。

 少しくらいならアミューズメントパークで遊んでもいい。

 ゆっくり歩きながら弟と会話を楽しみつつ、目的地を目指した。


 到着してからは予定通り本を購入し、休みながらも目的は果たした。

 それでも時間が余った上、弟がもう少し歩きたいと言ったので、ゲームセンターを見てから帰ることにしたのだが……それが間違いだった。


 そこに奴がいたのだ。


「白兎さんだ。おーい」


 呼ばれた時、自分のことだとは思わなかった。

 だが、明らかにこちらに向かって声を掛けてきている。


「ッ!!」


 頭の中が真っ白になった。

 私を「白兎さん」と呼ぶのは一人しかいない。


「ん? …………!」


 弟が天地央を見た。

 その瞳が僅かに揺れたような気がした。

 とうとう出会ってしまった!


 これ以上ここにいては危険だ、一刻も早く立ち去ろうとしたのだが……。


「え、もしかして……彼氏!?」


 驚いた天地央の声が響き、私は一瞬足を止めてしまった。

 まずい! ……と思ったが、遅かった。

 華四季園の制服からも私の知り合いだと分かった弟は、律儀に挨拶をするため彼に近づいていった。

 ああ……とうとう会話をしてしまう!


 脳裏には依然見た弟が天地央の頬にキスをするシーンが浮かんでいた。

 駄目だ、あんなことにはならないようにしなければ!

 話を始めてしまっている弟の手を引き、強引に引き離した。


「姉さん!?」


 突然の行動に驚きの声を上げる弟に構わず、ズンズン突き進んでいたのだが……。


「白兎王子、バイバーイ」


 聞こえてきた声に再び足が止まった。


『白兎王子』


 それは姉がよく呼んでいた呼び方であり、ゲーム中で天地央が弟をからかう時の呼び方だった。

 ゲームの通りだ。

 こいつはやっぱり悪魔なのだ。

 少し油断し始めていたが間違いなく悪魔なのだ!

 お前に弟を穢させはしない!

 少しでも早く二人を引き離すため、急いでゲームセンターを出た。


 とうとう二人は面識を持ってしまったが、自分の使命を再認識出来たことは良かったかもしれない。 

 私はやるぞ、やってやる。

 今日から片手腕立てを、左右二百回プラスだ。


「姉さん、痛いっ……」

「! ごっ、ごめん」


 我を忘れ、危うく弟を傷つけてしまうところだった。

 掴んでいたところが赤くなっていて、申し訳なくなった。


「痛い? 大丈夫? ごめんね」

「ううん、平気」


 優しく微笑んでくれたが、痕が痛々しくて居た堪れない。

 そんな私に気を使ってか明るく話を振ってくれた。


「さっきの人、イケメンだったね」

「!!」


 でも、その話題は私にとってはタブーだった。

 どうやら第一印象で好感を持ったようだ。

 焦りで嫌な汗が流れてきた。


「学校では凄くモテてそうだね」

「そ、そうね」


 普通に話をして、不自然なことにならないようにしよう。

 今はそれが一番だと思ったのだが……。


「なんか憧れちゃうなあ」

「ええ!? どうして!?」


 落ち着いてなどいられなかった。

 ゲームでもきっかけは、『憧れ』のようなものだったと邪神が解説していたのを覚えているし、今の一瞬でそんな印象まで持ってしまうとは予想外だった。


「明るくて元気で格好良くて、あんなになりたいなあ。来年入学したら仲良くなれるかなあ?」

「!?」


 鍛えぬいたはずの膝から、体がガクッと崩れ落ちる。


「姉さん!?」


 世界には、神には逆らえないというのか……!

 この筋肉の鎧は、なんの意味もないというのか!!


 いや、無駄にはさせない。

 脆弱な肉体には脆弱な精神が宿る。

 今私の心が弱っているのは、この体が弱いからだ。

 ならば更に強靭な肉体を持てば、精神も強靭になるはずである!

 私は負けない!


 まず家に帰ったら何故か大事に置いている、以前天地央に貰ったあのタオルを捨てよう。

 あのタオルから何か腐物質が出ているのかもしれない。

 もしかしたら、そういう罠だったのかもしれない。

 敵はあまりにも強大で、いつ何を仕掛けてくるか分からない。


 気を抜けない、日々戦いなのである。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] いやあ、白兎ちゃんこと元邪神の弟も面白いですねえ。肉体強化に走るというズレ具合が笑える。本人には申し訳ないけど。主人公の未来が、もう、気になって気になって仕方がない!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ