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BLゲームの主人公の弟であることに気がつきました(連載版)  作者: 花果 唯
IF ありえた未来2

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楓の誕生日 (※10/26追記)

楓ルート後です。楓、お誕生日おめでとう!


※下の方に翌日書いた続きを足しました。

 放課後になって誰もいなくなった教室。

 今日は部活が休みの楓と二人きりでのんびりしている。

 前の席に座った楓を見ながら「もうすぐ楓の誕生日だよなあ」と思った。

 何をあげたら喜ぶのか——。

 ずっと考えているが……さっぱり分からない。


「なあ、楓。誕生日プレゼントは何が欲しい?」

「……ふーん。アキラって聞いてくるタイプなんだー」


 そう言う楓の顔は少し不機嫌そうで、若干責めるような視線を向けてきた。


「いや、気に入らないものをあげてもなあと思って……」


 へらへらしながら言い訳をすると、楓が「はあ」とため息をついた。


「アキラが選んだものならなんでもいいよ」


 そう言われてもなあ。

 だったら——。

 机の上にある、まだ片付けていなかったシャーペンを手に持ってみた。

 これでもいいってこと?


「怒るよ?」

「さすがに冗談だって……」


 いつもどおりの可愛い笑顔だが、目がまったく笑っていない。

 冗談でも許されなかった……ごめんって!

 こんな笑えない冗談を言ってしまうくらい僕は追い詰められているのだ。


「いや……もう……いくら考えても分かんないんだって!!」


 食べ物は楓が作るものの方が美味いし、物にしても可愛いものがいいのか、アクセサリー類がいいのか……。

 あげるなら喜んで貰いたいし……でも、正解が分からない!


「いっぱい考えてくれたんだ?」

「考えたよ! 考えすぎて頭が痛いよ!」

「ふふっ」


 頭を抱える僕に反し、楓は機嫌がよくなった様子だ。

 もしかして……楓が怒っていたのは、僕がプレゼントについて考えなかった、と思ったからか?

 そりゃあ、考えるに決まっているだろう。

 特に付き合って初めての誕生日だし……。


「じゃあ、今ここにちゅーしてよ」

「はい?」


 楓が人差し指で自分の指をつんつんしているが……。


「え。いや、それはさすがに……」

「今、誰もいないからいいじゃん」


 たしかにそうだが、誰かが入ってくるかもしれないし抵抗感がある。


「前に教室でボクからしたことはあったけど、今度はアキラからしてよ」

「でも誕生日は今日じゃないしなあ」

「それは……うん。確かに」


 納得してくれたようだが、その様子が残念そうというか、寂しそうで——


「じゃあ、誕生日に楽しみにしておくね。…………っ!?」


 あんな顔をされたら、そのままにしておくわけにはいかないから、すぐに願いを叶えてあげた。

 楓は自分から言い出したことなのに、頬を手で押さえてびっくりしている。

 正直、するのはちょっと恥ずかしかったが、楓のこの顔を見られたからやってよかったと思った。


「今日は予行練習ってことで」

「~~~~っ」


 ニヤリと笑うと、楓の顔が赤くなった。

 当日はどうしてやろうかなあ。




 ※




「……うん? ここはどこだ?」


 気づくと知らない玄関にいた。

 どこかのマンションのようだが、どうなっているんだ? と困惑していると、廊下の先にある部屋から「おかえり!」と声が聞こえてきた。

 この声は……楓?

 固まったままでいると、部屋からひょっこりと楓が顔を出した。


「ごめん、今鍋持ってるから」

「え?」


 何の謝罪? と困惑していたら、「早く入って来なよ」と聞こえてきた。

 それで「出迎えができない」という意味のごめんだったのか、と分かった。

 僕が知っている楓の家とは違うが、楓が住んでいるのか?

 入っていいのか迷ったが、楓が呼んでいるのだから大丈夫なのだろう。


 靴を抜いで廊下を進むと、ダイニングキッチンがあった。

 カーテンやクッション、置かれている家具はおしゃれで可愛らしさもあり、楓の空間だということを感じる。

 ゲームや漫画が積まれていたのは、ただ一つ意外だった。

 楓もゲームをするが、僕ほどではなかったから、こんなにたくさん持っているなんて……。


 他に扉が二つあるので、間取りは2DKのようだ。

 楓はピンクのエプロン姿でキッチンに立っていた。

 さっき言っていたように片手鍋を持っている。

 料理が完成して盛り付けをしていたようだ。

 いい匂いが広がっているし、エプロン姿の楓は美人だし、最高のシチュエーション……って、うん?


「……楓?」


 どう見ても楓なのだが、僕の知っている楓とは明らかに違う。

 少し背が高いし、髪も長めだ。

 ちょっと大人になったような……。

 困惑する僕に、楓は呆れたように顔を顰めている。

 こういう表情は記憶にある楓そのものだ。


「この家にボク以外に誰がいるっていうの」

「そう、だよなあ」

「お弁当美味しかった?」

「弁当?」


 楓の視線を追って僕の手を見ると、ランチバッグらしきものを持っていた。

 あれ? いつの間に……。

 また困惑する僕の手から、楓がバッグを持っていく。


「そんな難しい顔して、美味しくなかったの? ピーマンは入ってなかったでしょ?」

「うん……いつも美味しいよ」


 食べた記憶はないけれど、自然と言葉がでた。

 それも不思議な感じがした。

 でもまあ、楓の料理は美味いに決まっている。


 僕の言葉を聞いて機嫌がよくなった楓は、弁当箱をシンクに持っていった。

 鼻歌を歌っているくらいご機嫌だから、今なら何を聞いてもいいだろうか。


「……っていうか楓さ、髪伸びた? 背もちょっと高くなったというか、雰囲気変わったというか……」

「何言ってんの? もしかして、大学で何かあった?」


 鼻歌を止めた楓が、訝し気な顔で振り返った。

 一瞬でご機嫌モードを止めてしまった……。


 それにしても、『大学』ということは……今、僕たちは大学生ってこと?

 そうだとしたら、楓が少し成長しているのも頷ける。


「ここって楓んち?」

「そろそろ本気で怒るよ」


 荒々しく手を洗った楓がズンズンと詰め寄ってきて、目の前までくると部屋の扉を指差した。


「こっちはボクの部屋! あっちはアキラの!」

「え? ……ルームシェア?」

「『同棲』って言ってよ。ルームシェアだったら友達みたいじゃん。っていうか、本当にどうしたの?」


 そう言って楓が顔を近づけてきた。

 幼さが抜けて綺麗なお兄さんみがある。

 美人だな、と見惚れていると「はあ」と楓はため息をついた。


「よく分かんないけど、とりあえずご飯食べる?」


 楓が顔を向けたテーブルの上には、兄がよく作っていたような和食が並んでいた。

 どれも湯気を立てていて、とても美味しそうだ。


「食べながら話そうよ。食後のデザートも作ってるから!」


 背中を軽く押され、食卓につく。

 楓が茶碗によそう白いご飯を眺めながら、ふと考える。

 何か悩みがあっても、こんな生活をしていたらきっと平気なんだろうな。


「幸せ太りしそうだな」


 思わずそうつぶやいてしまった。

 こんな未来が、本当に来たらいいのにと思う。




「……はえ?」


 無意識に漏れた自分の間抜けな声が聞こえて目を開けると、見慣れた自分の部屋の天井が見えた。

 カーテンから差し込む朝日を眺めてまどろみながら、「今のは夢か……」と納得した。


 今日は楓の誕生日前日。

 まだプレゼントを買っていないので、今日なんとかするしかない。

 ちょうど休日だから、買いに行く時間はある。

 何にしようか、考え過ぎて夢にみてしまったのかもしれない。


 それにしても……楓のエプロン姿、似合っていたしあまりにも美人だったな。

 夢だからすぐに忘れてしまうかもしれないのが惜しい。

 写真にして残しておきたい。

 自分に念写の能力がないのが残念だ。


「でも……夢のおかげで決まったかも」




 楓の誕生日当日の朝——。

 いつも通りに一緒に登校するが、今日は僕が楓の家に迎えに行った。

 驚かせようと思って黙って行ったから、家を出ようと扉を開けてすぐに僕をみつけた楓は驚いていた。

 まずひとつサプライズが成功したことにニヤリと笑った。


「楓、誕生日おめでとう」


 固まっている楓の前に、包装紙にくるんでラッピングして貰ったプレゼントを差し出す。

 戸惑っていた楓だったが、受け取るとすぐに嬉しそうな顔になった。


「ありがとう……! 開けていい!?」

「おう」


 楓は「包装紙もとっておきたいっ」とつぶやきながら、破かないように丁寧に開けている。

「紙は捨ててもいいだろ」と返しながらも、それほど大事にしようとしてくれているのが嬉しくて思わずニヤけそうになる。


「わあ、エプロンだ! 可愛い!」


 そう、楓にプレゼントしたのはエプロンだ。

 夢に見た楓にすごく似合っていたから、今の楓も絶対似合う!

 買いに行ったら、そっくりなものが置いてあったので運命を感じた。


「これからはこれをつけて僕のごはんを作ってくれ。もちろん、一緒に暮らすときのために僕も兄ちゃんに習っておく……って、プロポーズみたいだな」

「これからは!? 一緒に暮らす!?」


 古のプロポーズ「毎日僕に味噌汁を作ってください」に通じるものがある……なんて思っていたら、みるみる楓の顔が赤くなっていった。

 盛大に照れているようだ。


 思わずニヤリと笑ってしまう僕に、楓が顔を逸らす。

 そんなのを見たら、追い打ちをかけたくなるじゃないか。

「『楓にリクエストされたプレゼント』は、この前予行練習したけど、本番はまた放課後にな」

「!」


 思惑通り、楓の顔は更に赤くなった。

 プレゼントは大変喜んで頂けたようでよかった!




 ※(10/26追記)




 楓の家を出て、二人並んで登校を始めた。『放課後のプレゼント』を意識しているのか、楓はどこかよそよそしく、落ち着かない様子だ。


「ちょっと離れてない?」


 僕と楓の間にできた、人ひとり分の隙間を見ながら尋ねる。


「いつもこれくらいだけど」


 隙あれば腕にくっついてこようとしている奴が、何を言っているんだか。


「それに、何で僕から目を逸らすんだ?」「逸らしてないけど」「顔が赤いぞ」「うるさい! 誰のせいだよっ!」「さあ? 誰のせいなんだろうなあ」


 キッと睨んでくる楓に、ニヤニヤが止まらない。 そんなに照れ隠しでプンプンされても、ツンデレの供給を貰っているだけなのでありがたいだけなんだよなあ。


 そんなやり取りを続けながら、僕たちは教室に着いた。 クラスメイトに「おはよう」と挨拶しながら、カバンを置くためそれぞれの席に向かう。


「楓君、お誕生日おめでとう!」


 席に着いた楓のもとに、待ち構えていた女子たちが次々とプレゼントを渡しに行った。 楓は「ありがとー!」と笑顔で応え、受け取って貰えた子たちはきゃっきゃと喜び、教室は一気ににぎやかになった。


「さすが人気者だな」


 その光景を微笑ましく眺めながら、僕はカバンの中の教科書を机に片付けた。 いつもはホームルームが始まるまでの時間、楓は僕の隣にきて話していくのだが、今日はプレゼント対応に追われて、来ることはなかった。


 それは授業の合間の休憩時間も続いた。 なんとか僕の席まできたことがあったが、それでも追いかけてプレゼントを渡しにくる人がいた。 最初は女子が多かったが、男子友達も増えてきた。 ただただすごいなあ、と眺めていたが……。


「…………」


 だんだんこの状況がおもしろくなくなってきた。 昼休憩で一緒にご飯を食べているときも、テニス部仲間や先輩たちが楓に話しかけてきた。 みんな渡していくだけじゃなくて、いっぱい話していくから時間がかかるんだよなあ。 たまに僕にも声をかけてくる人がいるからそれに応えつつ、スマホを見ながら食べている。 「やばっ。話しかけられるから、食べる時間がなくなっちゃう!」


 人が途切れたところで、楓は僕が食べているのと同じからあげ定食を食べ進め始めた。 もう少し遅かったらからあげだけ全部奪って食べていたぞ。


「お前はほんとに人気者だなあ」


 僕はほとんど食べ終わっていたので、ゆったりとしながらつぶやくと、楓がこちらを見た。


「……アキラ?」「うん?」「怒ってる?」「え? 何が? 全然」


 内心ムッとしているけど、そういうのはまったく表に出していない。 普通にそう? と聞き返したのだが、楓は少しするとニヤリと笑いだした。


「妬いてるの?」「……別に」


 そう答え、最後のお米を口に入れて完食したのだが……。 ちらりと横を見ると、楓がまだニヤニヤしながらこちらを見ていた。人を見透かしているような顔に腹が立つ。早く食べろよ!


「放課後、楽しみだなあ」


 朝はそわそわしていたくせに、余裕が出てきたようだ。 形勢逆転したような顔でいるのが気に入らない。 このまま押されて終わるわけにはいかないなあ?


 楓のまわりに常に人がいる騒々しい日の授業が終わり、放課後になった。 普通に話しながら、誰もいなくなるのを待っていたのだが、まだ楓にプレゼントを持ってくる人がいる。  今日、テニス部の活動はあるようだが、楓は事前に休むと伝えていたらしい。『だから余計に部活の人たちも休憩時間に押しかけてきていたのか』と納得しながらも、教室から人がいなくなるのを待つ。 カーテンの隙間から差し込む光が、開けた窓から入る風と共に揺れるのをぼんやりとながめていた。


「ごめん、お待たせ!」


 しばらくすると、ようやく教室は僕たちだけになった。 楓が「用事があるから!」と話を切り上げていったので、思っていたよりは早い。 でも、楓は待たせたことに申し訳なさそうな顔をして、僕の様子を伺っている。 そんな風にされると、『何か仕掛けないと』と思ってしまう。


「んじゃ、帰るか」「え!」


 僕の言葉に、楓はびっくりしていた。 ガーンとショックを受けたような顔を見て、思わず笑いそうになった。 意地悪してごめん。


「冗談だって。プレゼントだろ?」「!」


 そう言って楓の前に行くと、顔が赤くなった。 これから何が起こるか、考えているのだろう。


 僕は誰もくる気配がないのを確かめたあと、楓に顔を寄せた。 すると、緊張しているのか、楓はキュッと目を閉じた。


 僕は約束してたほっぺ、ではなく——。


「!?」


 目と同じようにキュッと閉じられた楓の唇に同じものを重ねた。 驚いた楓の肩がぴくっと跳ねるのを感じ、自分の作戦が成功したことにニヤリと笑いながら離れると、今日一番の驚愕の表情を浮かべた楓と目が合った。


「なっ……ななっ!」


 楓はより一層真っ赤になって固まったまま、何も言えずにいる。 本番のサプライズも大成功だ。


「プレゼントの感想は?」「え…………び、びっくりしたっ!」「じゃ、帰るか」「ええ!? 待ってよ! あっさり終わりすぎじゃない!? っていうか、なんでそんなに普通なの!?」


「あはは」と流しながら、僕は今日の大仕事を自画自賛した。 楓の様子をみると、予行練習より成功したことは間違いない。


 カバンを持って本当に帰る準備を始めると、楓も慌てて用意をして勢いよく腕にくっついてきた。


「……ありがと。今まで貰ったプレゼントの中で一番嬉しい」「!」


 か、可愛い……! 上目遣いで照れながら、そう言ってくる楓が可愛くてびっくりした。 さすが小悪魔様のツンデレ! 喜んでもらえて何よりだ、と冷静を装って返しつつ……僕も熱くなりそう顔を逸らした。 さて、来年はどうしようかな?


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