リブラ帝国戦線2
「放てぇ!」
キレナイ公国の将軍の言葉に従い一斉に弩から矢が放たれた。ドン!という重い音響き全ての矢がハバトに向かって行く。すさまじい勢いの矢にハバトは暴風の壁を作り出し防御する。意図的に上昇気流を生み出し全ての矢を上空へと打ち上げる。
しかし、それは大きな隙となり重装甲の戦士たちが一斉に襲いかかって来る。矢を防いだハバトは次の攻撃をしようとしたがその瞬間、体が宙に浮かぶ感覚がして頭痛が一気に襲い掛かって来る。吐き気と共に吐血したハバトはそのままその場に崩れ落ちる。
「は、はは……。少、し。頑張りすぎたか……」
ハバトは力が入らずただ視界に入って来る自身を囲む重装甲の戦士たちをぼんやりと眺める。その戦士たちは持っている剣を両手でつかみ高々と振り上げていた。これらを一斉に振り下ろされればハバトの体はズタズタに破壊されるだろう。
自らの死を実感したハバトはゆっくりと目を閉じる。その脳裏には一人の女性の姿があった。自らの従者として、婚約者として共に過ごしてきた彼女、ジェーンの事を。彼女はマカリにて防衛の指揮を執っておりこの場にはいなかった。どうせなら彼女に看取られながら死にたかったとハバトは思い直ぐにやって来るであろう死に身を任せようと体から力を抜いた。
しかし、
「ハバト様!」
瞳を閉じて暗闇に包まれたはずの視界が明るくなる。目を空ければ真っ赤な炎によって重装甲の戦士たちが焼けていく姿があった。
うめき声をあげながらその場に崩れ落ちる戦士たちの後ろからジェーンが姿を現す。ここにはいないはずのジェーンを見て驚きのあまり目を丸くする。
「じぇー、ん?な。んで?」
「喋らないでください!直ぐにマカリに向かいます!」
ジェーンはそう言うと得意の炎魔法を用いて周囲の敵を焼き殺す。鉄などの一定以上の堅さを持つ無機物を透過してその奥の物体にまで炎を届かせる特異な力を持つジェーンの魔法により重装甲など関係なく燃え上がる戦士たち。その力は先ほどまで無双していたハバトに劣らない実力で戦士たちは再び距離を取る。
その隙を付きハバトの体を持ち上げるとマカリに向けて走り出す。その後ろからは再装填を終えた弩から矢が放たれジェーンとハバトに襲いかかる。ギリギリの所で回避をして致命傷を避けながら逃げるジェーンの後方からほぼ同じ速度で追ってくる重装甲にその上空から降って来る矢。
しかし、すぐに安全圏にまで戻ったジェーンは一息ついてハバトを下ろす。いったん陣形を立て直すことを選んだらしい戦士たちも追ってくることはなく矢も射程圏外の為向かってくることはなかった。
「……ふ、まさか。助けられるとはな」
「ハバト様、貴方はサジタリア王国の勇者ですよ。これから魔王との戦争が激化するのに死んでは駄目ですよ」
「はは、そうだな。……けど、少し疲れた。ジェーン。すまないが、膝を貸して、くれないか?」
「はい。ハバト様の頼みならいくらでも」
ジェーンの膝に頭を乗せたハバトはゆっくりと呼吸をしながら生き残った事に対する喜びをかみしめるのだった。




