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外伝・リブラ帝国戦線1

「はぁっ!」


 サジタリア王国の勇者ハバト・マケイラが放った強力な空気の塊は目の前の重装甲の歩兵たちの鎧を大きく凹ませ後方に吹き飛ばした。その勢いで後ろにいた兵も巻き込まれ鉄と肉の塊となった。

 その一撃を放ったハバトは額から流れる汗をぬぐう暇もなく左右から襲い掛かって来る槍を避け自身を中心に本日八回目(・・・)の竜巻を発生させた。これにより周囲の兵は上空へと打ち上げられ地面へと強打していく。ほとんどが即死か立つことも出来ない重傷だがそんな彼らを踏み越えて次々と兵がやって来る。


「くそっ!」


 リブラ帝国南東部に存在する都市マカリの郊外で行われる戦闘は今日で三日目を迎えていた。マカリを守備する軍勢2000に対してそれを攻める軍勢約2万と十倍も差があった。加えて敵、キレナイ公国の兵士たちは一人一人が屈強な戦士であり国民を徴兵するリブラ帝国とは雲泥の差があった。

 本来ならその日のうちに陥落すると予測されていたがサジタリア王国から到着した勇者の存在によって大きく変わった。2万の兵を相手に一人で立ち向かう彼はこの三日で5000以上の兵を殺し同数の兵を負傷させていた。それでも三日間の間休む間もなく攻撃を受け続けたハバトは消耗していた。

 肩で荒く呼吸をする彼は幾度となく限界を超えて魔法を放ち続けた。先程の竜巻も本来なら一日に二度が限界だった。


「……くっ!」


 自らの故郷、サジタリア王国の兵士なら昨日のうちに全滅していたな。とハバトは思いながら膝をつく。体の震えは止まらず視界は大きく歪んでいた。口には大量の血が溜まり常に口を開けていなければ窒息しそうになるほどである。そんなボロボロの状態のハバトは力を振り絞り周囲を見渡す。

 人よりも重いと思われる重装甲を見に纏いながらその辺の兵士より軽やかに動けるキレナイ公国の戦士。ハバトを囲むように四方八方からゆっくりと近づいてくる彼らの瞳には満身創痍のハバトを侮ることはなくひたすらに警戒していた。


「はは、油断して近づいてくるなら返り討ちにしてやるんだけどな……」


 重装甲の戦士の後方、キレナイ公国の方から巨大な弩がいくつもやって来る。弩に装填されている矢は淡く光っており対魔法専用の矢であった。魔法を無力化する力が込められたそれは身体能力を強化された鎧や盾を深々と貫くか、貫通させその後ろのものにまであたる威力を誇っていた。

 そんな弩が十数機も近づいてきておりそれらの標準は全てハバトに向けられていた。


「くそ。……ちょっと厳しいな」


 ハバトは口に溜まった血を吐き出しながらそう呟くのだった。


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