正体
「あらあらぁ?意外と粘るわね」
ゾンビを三体片付けた俺はそのまま孤児院の前で待機しているとゾンビが更に合計十体ほど襲いかかってきた。それらすべてを片付け終えると孤児院の方より声がする。そちらを見れば副院長のリーヴスがいた。
「……リーヴスさん。危ないですよ」
「大丈夫ですよ。ゾンビは私が操っているので……おっと」
リーヴスの言葉を聞いた俺は直ぐに切りつける。怪しいとは思っていたがやっぱり犯人だったか。リーヴスは俺の斬撃を跳躍し孤児院の屋根に乗る事で回避する。人間とは思えない身体能力に人外の可能性を考える。何せこの世界には魔王や魔物が存在するのだ。リーヴスも人に化けているだけでそれらの類の可能性もあった。
「いきなり切りつけるなんて酷い人ですね~」
「自ら黒幕だと名乗ったんだ。さっさと決着をつけるために攻撃するのは当たり前だろう?」
「ふふ、意外とせっかちなんですね」
「そっちこそあの特徴的な口調はいいのか?」
屋根の上に立つリーヴスを睨みつけながらどうするかと悩む。流石に屋根まで跳躍できるほど身体能力はない。昇ってもおそらく逃げられるだろう。ふと、地面に落ちている石に気付いた。俺はそれを掴み全力で投球した。勿論投球先はリーヴスだ。
「きゃっ!?」
石はリーヴスの前まで来たがそれをギリギリで避けた。しかし、それによって態勢を崩したリーヴスはそのまま地面に落下した。とは言えそのまま地面に激突はせずに空中で体勢を整えて華麗に着地した。
その瞬間を狙い俺は接近して刀を振り下ろす。完全とはいかないが虚を突いた攻撃だ。大抵の人間ならこれを避ける事は出来ないだろう。加えて俺の刀は異様なほど鋭い。どんなものでも簡単に切り裂いてしまうため半端なものでガードしようものならそれ事切り伏せる事が出来る。
そんな俺の一撃は両腕をクロスさせて防御したリーヴスによって呆気なく受け止められた。
「っ!?」
「少しは驚いてくれたかしら?」
リーヴスはそう言うと腕を上空に上げ俺の刀をはじく。と、同時に隙だらけになった俺の腹に蹴りを入れてきた。まるで金属バットで殴られたような重い一撃が俺を襲う。そのまま後方に吹き飛ばされ体勢を整える事も出来ずに仰向けで地面に倒れ込む。腹に響く激痛に耐えながら何とか立ち上がる俺は余裕の笑みを浮かべるリーヴスを睨みつける。
ここまでくれば相手が人間だとは思えない。刀を素手でガードするなんて魔法でも使わない限り不可能だろう。腹に入れたケリだってそうだ。腕や足だったのならあの一撃で骨を折られていた可能性があった。
「くっ!……はぁっ。お前、何者だ?」
「ふふ、教えてあげるわぁ」
そう言うとリーヴスの体を黒い霧が包み込む。そして霧が晴れるとそこには漆黒の翼を背中に付け、額から黒い角を二本はやした悪魔がいた。
「改めまして、私は魔王軍第六将、魔性のクレイナスと言います。短い付き合いになると思いますがよろしくですわぁ」
そう言ってリーヴス、いやクレイナスは笑みを浮かべた。




