王都動乱・伍
長くなりそうだったのでサジタリア王国編を前後に分けました。
転生者。最近良く見かける作風の一つだったと記憶している。前の世界の者が効いたら頭が可笑しくなったと思われても可笑しくない問いだがここは俺からすれば完全な異世界だ。しかし、俺は転生者と呼べる者ではないな。どちらかと言うと転移者と言う奴か?勇者として呼ばれたわけでもないし偉大な魔術師の実験で呼ばれたりもしていない。
「……その問いからしてお前はそうなのか?」
「ああ、気付いた時にはここにいたよ。よくある神様に出会ったりもしてない。だからチートなんてそもそも持っていないがな」
チートを貰っていたら厄介だとは思っていたがもしその通りならある程度は対応できるか?チート並みの能力を持っている可能性だってあるし無いという宣言自体が嘘の可能性もある。
「そして俺はこの異世界に転生して知ることが出来た。この国はクソだ!一部の権利を持つ者のみが贅沢三昧をして残りの人々は常にむしり取られている!かつての、日本の様な平和はこの国には存在しない!平気で他国と戦争し人々を苦しめている!俺は、俺は!こんな国を変えるために力を蓄え反乱、いや革命を起こしたのだ!……お前も転生者なら分かるだろう?一緒に手を組まないか?共にあの日本の平和を取り戻そうではないか」
「……」
男の長々とした言葉に俺は黙る。……あの日本が平和と呼べるのならいい暮らしをしていたのだろう。もしくは現実を見ていなかった馬鹿か……。どちらにしろこいつと手を組むことは出来ない。だが、いくつか聞いてみたいとも思い質問をする。
「……お前はこの国を手に入れたらどうするつもりだったんだ?それが聞きたい」
「そんなことは簡単だ。先ずは他国との軋轢を生み出す軍隊を解散する。次に警察を作り治安を安定させる。そして武器をなくし他国との関係改善を行う」
「……本気で言っているのか?」
あまりにもお粗末な未来に俺は絶句する。ここは国際法や国際協調が浸透した前の世界ではないのだ。隙を見せれば侵攻しあう世界なのだ。軍隊をなくせば他国にとってこの国はカモにしか見えなくなる。国は滅び土地は分割され富は奪った国のものとなる。
俺は察した。こいつは駄目だと。改革を目指しているが中身が伴っていない愚か者だと。そしてそれに気づいていない馬鹿だと。俺は彼との対話を止め刀を握る両手に力を籠める。
「……お前のやりたいことは分かった」
「!なら……共に!」
「だが!貴様の考えと俺の考えは合わない。故に俺はこのまま反乱を鎮圧する。それに……、貴様と手を取ろうと思った事など一度もない」
「っ!?全員殺せ!我らが革命の為にこいつを殺すのだ!」
男の命令で一斉に襲いかかって来る相手に俺は軽く笑みを浮かべた。
「さぁ、くだらない反乱ごっこの閉幕と行こうか」
俺は一気に相手に接近した。




