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ベアード砦攻防戦6

 サジタリア王国の東部を守る要にして長年レオル帝国の侵攻を防いできたベアード砦。その砦の前は一面真っ赤に染まっていた。大半がゴブリンの血であり一部反撃を食らい負傷した騎士たちの血も混じっている。

 敵将のオーガを殺しゴブリンが統率を失いレナードさんを先頭に突撃した結果三万のゴブリンのうち一万は殺し五千程は負傷しつつ逃げていった。残りも半数も魔王領に逃げ込んでおり周囲の村や町を襲う様子は確認できなかった。

 対するこちらは負傷兵十二人のみでそれのどれもが命に別状はない程度の負傷だった。絶望的な数と質の敵を見事撤退に追い込んだのだ。

 俺も歩兵に混じってゴブリンを切り殺していった。大体千は切ったはずだ。……だが、今はそれよりもこちらの方が大変だ。


「和人さん!大丈夫ですか!?」

「あ、ああ。この位なんてことないさ」

「……不審」


 今にも泣きそうなレナードさんと俺の体に障り魔力を使って治療(・・)をするナタリー・ダークネスの二人に俺は押されていた。事の発端は単純だ。レナードさんが死体に紛れていたゴブリンの奇襲を受けそれを俺が庇ったというだけの話だ。結果俺は左腕を切られ負傷したが庇われたレナードさんのみならずナタリー・ダークネスも異様な心配を見せこうして二人に詰め寄られていた。


「……とりあえず、止血は。した」

「ありがとう。ナタリー・ダークネス」

「……ナタリーで、いい」

「分かった。ナタリー」


 治療をしてくれたナタリーに俺は礼を言う。相も変らぬ無表情だが僅かに喜んでいるのが分かる。……褒められるのが嬉しいのか?

 左腕は幸い骨にまで届いていなかったようで包帯を巻かれた左腕だが安静にしていればその内治るだろう。

 左上でを眺めているとレナードさんがコホン、とわざとらしい咳を一つして真面目な顔でこちらに話しかけた。


「和人さん。今回はありがとうございました。東部辺境騎士団団長としてお礼をさせていただきます」

「そんな事はないさ。今まで受けてきた恩を返しただけだよ」

「それでも、お礼を言わせてください。ありがとうございました」


 そう言ってレナードさんは頭を下げた。……団長という身分にあるレナードさんがその階級からのお礼。それだけ感謝しているという事か。


「頭を上げてください。俺だって知り合いが死地に向かうのに自分だけ逃げることなんて出来ないですから」

「ですが……」

「それに、そろそろここを離れようと思っていたんですよ。レオル帝国も魔王軍もしばらくは大人しくなるでしょうから動くなら今ですし」


 俺のその言葉にレナードさんは驚いたような表情を向けて来た。ああ、そう言えば旅に出たい事なんて言っていなかったからな。

 そう思った俺は今後の予定をポツリポツリと話し始めた。


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