対神聖ゼルビア帝国戦争Ⅶ~ライオネス街道野戦Ⅴ~
魔王軍の襲来。それはサジタリア王国とて予想できなかったわけではない。魔王軍、魔帝国は神聖ゼルビア帝国とは同盟を結んでおりその関係から参戦してくる可能性は高かった。しかし、サジタリア王国軍十万が出陣しても魔帝国では動きがなく軍勢がこちらに向かってくるという事はなかった。
そして、神聖ゼルビア帝国が予想以上に劣勢であることを受け魔王軍が来る前に決着をつけるという事になっていた。もし、決着がつかず魔王軍が動き出しても今からではそれなりに時間がある。その間に決着は付けられると予想していたのである。
故に、魔王軍が突如として近くに現れた事は完全に予想外の出来事であった。その結果、サジタリア王国は魔王軍に本陣の真横に陣取られたうえに無防備な真横を晒す結果となった。
「これなら手早く決着がつくだろう」
「当然だ」
魔王軍第三将フリードリフ・ヴィルフ・フォウル・ハウヴォリアは同じ幹部である第七将ガルガにそう言った。彼とその配下の百人の魔族による”透明化”の魔法がかけられた魔帝国軍はサジタリア王国に気付かれる事なく戦場への入場に成功していた。サジタリア王国からは明らかに同様の気配が漂ってきておりそれと相対する神聖ゼルビア帝国からは助かったという安堵やこれが狙いか、などの感情が見え隠れしていた。
さてと、とガルガは巨大な斧を持つと前に出る。ドワーフの特徴である浅黒い肌に丸太の如き腕を有しながらエルフの如き耳や長身の体を持つガルガは息を大きく吸い込むと聞く者の聴覚を破壊すると思わせる声量で咆哮する。
「うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
それはただの咆哮ではあるがガルガにとってはこれはウォークライであり戦を始める前に必ず行う事だった。更に彼の”声”には魔力が込められており同じ魔帝国の仲間たちに力を与える効果を持っていた。
とは言えそれは超人的な力が使えるようになるわけではなくいつもより調子が良いという程度の物で近くで聞いた者が暫くの間聴覚がイカれる事を考えればデメリットの方が大きいかもしれなかった。
だが、この咆哮は突然の魔王軍の襲来に驚き、混乱し、恐怖するサジタリア王国にとっては恐怖を増長させるものだった。人間とは思えないこの叫び声は現状も合わさり巨大な恐怖を生み出し恐慌へと至る。
「んん~! 最高だな!」
咆哮を終えたガルガはそう言って笑みを浮かべるがその後ろで耳を塞いでいたフリードリフは呆れたような表情をしながら言う。
「相変わらずやかましい。いい加減”それ”は止めろ」
「無理だな! これは俺にとっては重要な儀式だ。今更止められねぇよ。それより俺は前に出る。本陣は任せるぞ」
「貴様がこの軍の総大将だろうが。ただの助っ人に押し付けるな!」
フリードリフの怒声など聞こえていないとばかりにガルガは本陣を出て前線に跳躍する。そして、斧の先をサジタリア王国の本陣に向けたガルガは先ほどよりも小さな、しかしデカい声で叫ぶ。
「者ども! 魔王軍第七将であるこのガルガ様につづけえぃ!!!」
魔帝国軍5万がサジタリア王国の中心部を破壊しようと足を進めた。
第七将ガルガ
ドワーフの如き身体能力と肌の色、エルフの如き長身と魔力、耳を持った魔王軍幹部。簡潔に言うと魔法使える上に肉体はゴリゴリマッチョなナイスガイ




