デネブ・アルゲディ攻防戦5
「放てぇ!」
イェスターの叫び声に少し遅れて雨の如き矢が降り注ぐ。その先にあるのは外で包囲する魔帝国軍ではなく中の、数万の規模に膨れ上がったアンデットの集団に対してである。肩や胴に当たった個体は何事もなく動くが頭部に当たった個体は崩れ落ち死体に戻っていく。しかし、それはあくまでゾンビやスケルトンに対してのみである。デュラハンには鎧で弾かれ、新たに発生したレイスの体を通り抜け、リッチは自慢の魔法で防いでしまっていた。
これがただのアンデットなら苦戦はしつつも時間をかけて殲滅する事は出来る。頭部を破壊すればゾンビやスケルトンなどの”下級アンデット”と言われる者達は簡単に倒す事が出来る。レイスなどの”中級アンデット”は厄介だが弱点をつけば簡単に倒せるしデュラハンやリッチも数で押せば被害は出ても問題はなかった。しかし、ゾンビが文字通り肉壁となり武器を扱えるスケルトンたちが”隊列を組み”レイス達が上空から援護を行いデュラハンやリッチが文字通り化け物染みた力を使い叩き潰す。こんな前代未聞の連携を取って来るせいでアンデット討伐は失敗し死体すら取り込み数を爆発的に増やしていた。
かつては世界最大の繁栄を誇ったと言われる帝都デネブ・アルゲディは今や死の都と化しつつあった。中央に聳え立つ皇族の住まう城は孤立無援となりつつも衛兵が絶望的な防衛戦を行っている。一人衛兵が死ぬごとに敵が一体増えていくので数の差は開き直ぐにでも城内にアンデットが雪崩れ込むだろうことはイェスターにも察しがついていた。しかし、そこに向かう事は出来ず城壁の上から見ている事しか出来ないのが現状だった。
「こうなっては逃げるほかないが……」
先に逃がした市民の大半は討ち取られた。護衛を務めた聖ロリエル騎士団は全滅した。残った兵と市民で逃げるなど不可能に近かった。
「それでもやるしかないのが現状か……」
イェスターは百人でも逃げきれれば充分か、と覚悟を決めた時だった。空が光り地上を覆いつくす。
「な、なんだ!?」
目を開けていられない程の光に目を閉じ光る方に手をやったイェスターは思わず叫ぶがこの場において状況が分かっている者などいなかった。
十数秒それが続いたが次に感じたのは巨大な爆発音と自分が吹き飛ばされる感覚でありイェスターは城壁を落ち、アンデットで埋め尽くされた都市内部にそれなりの速さで落ちていくのだった。




