二重帝国の受難
魔帝国はレオル帝国滅亡の張本人と言ってよかったが彼らが求めた領土はかなり少なかった。タウラス公国は当初こそ帝都レオルなどの主要都市も含めた領地分配を提案したが彼らはかたくなに拒否していた。しかし、その分彼らが求めたのは二重帝国領を全て受け取る事である。
二重帝国は10年前より始まった魔王軍の侵略以前より工作員が多く入っていた。そして様々な事件を起こし二重帝国の国力を確実に削り取っていた。工作員への対処がずさんな二重帝国はあっという間に国力を落としていき今では滅亡一歩手前の状況まで来ていた。
そして、魔帝国建国後に現皇帝の暗殺に成功し混乱させることに成功していた。そこで、遂に止めを刺すべく軍勢を向かわせたのである。
「……前進せよ」
総大将を務めるのはフリードリフ・ヴィルフ・フォウル・ハウヴォリアと言う魔王軍幹部第三将である。エルフの様な長い耳、少し黒い肌を持っており特徴だけを見ればダークエルフに見えなくもなかったがダークエルフにはない緑の瞳をしていた。
フリードリフが率いるのは三万のゴブリンに1万のオーク、5000のオーガであり更にフリードリフの護衛を務める彼と同じような見た目をした魔族100人である。
ゴブリンは魔帝国が運用する魔物の中でも最弱の種族であるがその分繁殖力はすさまじく一匹の人型の雌さえいれば十日で一匹を産ませることが出来ていた。その為魔帝国ではゴブリン用のメスを大量に持っており死なないように気を付けながら世話をしていた。
オークとオーガは魔物の中でも強力な部類にあり中には魔族より強い個体もいる。その代表例が元第十将のゴルガであり彼は知能も肉体能力も他の魔物より優れていた為魔族しかなれない幹部の地位に特例で就く事が許されていた。そんな彼らは魔族よりも繁殖能力は低く、基本的にその個体が気に入った雌にしか発情しない。故に雌ならだれにでも発情するゴブリンよりも希少な存在であった。
そんな魔物を1万5千も用意した魔帝国は本気であり二重帝国帝都デネブ・アルゲディに向けて侵攻していた。対する二重帝国は、まともな防衛すら出来ていなかった。皇帝の暗殺が大きく影響していた。
二重帝国はアリエス王国とカプリコン帝国が合併して誕生した国家で建国当初は当時から大国だった神聖アンドロメダ帝国とも対等にやりあえる帝国だった。しかし、それも今では過去の栄光に過ぎず二重帝国はまともな抵抗も出来ずに帝都まで魔帝国軍の侵攻を許してしまった。
「北東に伸びるポラリス伯国へと通じる街道付近以外を包囲せよ。そこ以外から出てくる者を例外なく殺せ」
フリードリフの指示により帝都は反包囲の状態に置かれた。
オーガやゴブリンは南や東に配置されオークは北に配置された。これはオークがオーガやゴブリンより足が遅い為主要な場所に配置するのは少し心配であったためである。そして西以外の街道にはオーガが堂々と待機しておりもし敵がやってきたら返り討ちにするだろう。逃げようとしてもゴブリンに襲われてまともな抵抗も出来ずに死に絶える事が予想された。
そんな彼らが包囲するデネブ・アルゲディには1万の兵士と約8万の市民がいた。市民たちは街を囲む魔帝国の魔物たちに不安を覚えており兵士たちは自分たちより強いのに数が多い魔帝国軍に軽く絶望していた。加えて上層部は未だ次の皇帝を選んでおり魔帝国軍に反包囲されている現状でも変わる事はなかった。
帝都の防衛司令を務めるイェスターはこの詰みとも言える状況をどう打開すればいいのか頭を悩ませていた。帝都は二重の壁に囲まれた頑丈な作りとは言え敵が消えない限りこの状態は続く。そうなれば補給が出来ない二重帝国側は不利となる。加えて帝都を失えば彼らは逃げる場所がなくなる。二重帝国の飛び地に行くにはポラリス伯国を通るのが最短だが二重帝国を恨んでいる彼らが通してくれるわけがなくそうなれば神聖アンドロメダ帝国経由で逃げるしかないのだが険しい山脈で遮断されており向かう事は事実上不可能だった。
同様の理由から援軍も期待できない二重帝国はまさに存亡の危機を迎えていたのである。




