建国と同盟における各国の状況2
サジタリア王国ではこの一件に対応するための会議が行われていた。王城に勤務する全ての知識人が招集され議題の解決に向けて話し合う。
しかし、会議はあっという間に崩れ去った。
「だから!今すぐタウラス公国に懲罰するべきだと言っているのだ!」
「馬鹿な!我らのどこにそんな国力があるのだ!」
宰相は軍務卿であるサウザーラードの意見に真っ向から反対する。軍務卿の出した意見とは神聖ゼルビア帝国へと名を変え滅ぼすべき魔帝国と同盟を結んだタウラス公国への懲罰戦争である。しかし、レサト郊外の戦いで敗退したサジタリア王国にそんな国力はないうえに王都動乱での復興もまだ終わっていなかった。
にも関わらず軍事行動を行おうとする軍務卿に宰相は反対だった。それにより会議は宰相と軍務卿の戦いに代わり、両派閥の人間たちが互いの粗を言い合って罵りあう。既に会議と言う名の罵倒会に代わっており隅の方で出席していたエミリーはため息をついた。この場には予算を全て軍事行動に向かわせることしか考えていない馬鹿と自分の権益を守る事しか興味のない阿保、何を話しているのか全く分からない様子で軍務卿を罵る無能たち。この場を唯一抑えられるであろう国王は何かあるのか腕を組み黙っている。
「(昔のお父様なら既に怒号が飛んでいるはずなのですが……)」
ここ最近の父はこうしている事が多いとエミリーは感じていた。具体的には王都動乱後からであれで何かあったのだろうかと記憶を思い起こすも思い当たる事は何もない。エミリーがそうしている間にも会議はどんどん白熱していき遂に殴り合いまで発展しそうになった時だった。
「やめよ」
国王の一言で全員が黙りそちらを向く。そこには目を開きジッと彼らを見る王の姿があった。全員が黙った事を確認したらしい王が言葉を発する。
「魔帝国にタウラス公国の裏切りとも取れる行為。これを見過ごすわけにはいかない。軍務卿、兵を募れ」
「は、はっ!」
王の言葉に軍務卿の顔は良くなり逆に宰相は顔を青くする。
「お、お待ちください!我が国にそんな余力は……!」
「王都の周りに住む者を徴兵すればいい。タウラス公国を潰した時に賞金を出すとでも言ってな」
「それは……」
「タウラス公国を我らだけで潰すのは無理だ。魔帝国だっておるしな。故に、我らはレオル帝国の帝都だったレオルまでで侵攻を停止する。それだけなら滅亡はしないからな」
民を使いつぶすような策を言う王をみてエミリーは驚愕する。彼女の知る王はそんな事は一切しない人だったからだ。
王の変貌にエミリーが驚いていると王は更に指示を出した。
「武器を急ぎ作らせよ。王都の復興は後回しでよい。更に各地から兵を集め侵攻させるのだ。リブラ帝国に向かわせた騎士団も戻す」
「待ってください!それではリブラ帝国を見捨てる事になりかねません!」
エミリーは王に真っ向から反対する。リブラ帝国はキレナイ公国と講和したが他の三国とは未だに戦争中であり王国騎士団は前線に到着したばかりであった。そこへいきなり本国からの強制退去を命じられればリブラ帝国にとっては見捨てられたと取られても可笑しくはなかった。
そんな事になれば両国の関係は急速に冷え込むだろう。ただでさえ、サジタリア王国は北と東に敵を抱えているのにここで敵を増やすような事になればそれこそサジタリア王国は瓦解するだろう。
「決定に変更はない。エミリー。お前の騎士団権限をはく奪する。命令するまで部屋で待機せよ」
「それは……!」
王の下した決断は事実上の軟禁でありエミリーが行使できる唯一の権力も奪われてしまった。これでエミリーは完全な無力な少女へとなり下がったが今の彼女では何も出来なかった。
「……王命、確かに承りました」
「ならばさっさと行け」
「はい……」
エミリーは悲し気な表情のまま会議が行われている部屋を後にする。彼女は部屋を出る前に一度だけ振り向くが誰も自分を見ていない事が分かりそのまま部屋を出て行った。




