滅亡4
ドルの合図とともに放たれた矢の数は数十本。本来ならタウラス公国の船は串刺しになる筈だった。
しかし、突如海面が盛り上がり海水で出来た壁が出現する。矢は全てこれに阻まれ貫通する事無く役目を終えた壁と共に海に沈んでいった。
あまりの出来事にレオル帝国軍が動揺する中、ドルだけは冷静に状況を分析していた。
「……成程、敵が攻めてきた理由はこういった事もあったのだな。おい!」
「……は、はっ!」
「各船に連絡!中央と右翼は海側に広がりつつバリスタを打ち込め!半包囲するように動かせ!」
「はっ!」
ドルの指示は手旗信号を用いて各船に伝えられた。急な動きを可能にするために非常用の風魔石すら用いて風を帆に流して素早く行動する。その間にもバリスタによる攻撃は続いておりタウラス公国は船団はゆっくりとした動きながらも向かってくる矢は海の壁によってのみ込まれて届かなかった。しかし、あくまでそれは一方向のみに展開されておりドルの指示通りに反包囲が完成すれば船に攻撃が届く可能性があった。
そしてそれは直ぐに完了した。
「提督!反包囲が完了しました!」
「うむ!攻撃開始!」
再び一斉射撃が開始された。壁は正面のみに展開され横と斜め側から放たれる矢を防ぐことは出来ていなかった。
通る!誰もがそう思った時だった。敵の中央の船、指揮官クラスが乗船すると思われる船から大量の炎の球体が生み出されると一つとして外すことなく矢に当たった。炎に焼かれた矢は鉄の部分さえも溶かし全て海面に落ちて行った。
「やはり攻撃は通らないか……」
ドルは最悪の想定が当たってしまった事に表情を歪める。レオル帝国の海軍はバリスタによる遠距離攻撃の後に白兵戦を行うのが一般的であるがバリスタにより大なり小なり損害を与えた状態が前提の為この状況で白兵戦を仕掛けるのは危険と予想していた。
しかし、そうしなければこちらが負けてしまうと考えたドルは白兵戦の指示を出そうとした時だった。お返しとばかりに炎の球体が山なりの軌道を描き全ての船に向かって降って来る。その数は一つの船に付き5つ。計400近い炎の雨であった。
真っ赤を通り越して黄色い炎の球体を見て顔を青ざめるドル。彼は必死に叫ぶ。
「か、回避ぃぃぃぃぃぁぁぁぁぁっっ!!!!」
ドルの叫び声と船に着弾するのはほぼ同時でありドルは焼けるどころか解けるような痛みを感じ最後には絶叫へと変わっていた。
ドルと同じ光景が全てのレオル帝国の船で起こる。炎は船の内部すら焼き組み立てられた船をばらばらにしながら焼いていく。
炎が収まった時、そこには灰と化したがれきや血肉が浮かぶのみであった。




