吸血鬼軍団との死線・壱
「ちっ!外したか……」
黒いフードを目深にかぶった者が苛立たしい気に呟く。声の感じからして男で間違いないだろう。男は俺の方を向くとローブの中から鉤爪が装備された両腕を出すと一気に向かってきた。これまで出会った人間の中では上位に入るスピードで俺は予想以上の速度で対応が遅れてしまった。俺は不利炉される爪を刀で防ぐと同時にその場で踏ん張り敵の勢いを側と同時に衝撃を全て受け止める。相手のスピードからある程度覚悟はしていたがやはり受け止めた衝撃は重く俺の体全体に響き渡った。
俺は衝撃を受けとめきると足蹴を行い相手を吹き飛ばす。その時に感じた感触から相手は皮鎧の様なものを着込んでいる事が分かった。その為相手には大したダメージは与えられていないだろう。ただ、相手を吹き飛ばしただけだ。
「……意外とやるな。あのビッチを殺したのは本当の事のようだな」
「ビッチ?悪いが俺には思い当たる人物はいないぞ」
「はぁ?お前は馬鹿か?ビッチと言ったらクレイナスに決まっているだろうが……!」
「……なるほど。お前らは魔王軍か。そして俺を狙ったのは幹部を一人殺した事による報復、と言った所か」
薄々予感はしていたが此奴の言葉で確証を得た。つまり、こいつらはクレイナスと同じように魔族で人間の敵と言う事か。あの速度に一撃の重さ……。魔王軍だとすれば全て納得できる。
「俺を囲むようにして隠れているやつらもお前のお仲間か?」
「なんだ。そこまでバレているのか。……ヴァープ!奇襲は無理そうだぞ!」
「……ならば全員で叩き潰すとしよう」
目の前の男が声を張り上げてそう言うと俺の右側に黒い霧が発生しそこから一人の男、おそらくヴァープと言う名前の奴が現れた。それに追従するように俺を囲む形でさらに現れる。数にして20人。全員がアイツと同じくらいの実力者なら俺は確実に死ぬな。
「改めて名乗ろう。私は魔王軍第五将ヴァープだ。これでも吸血鬼軍団を率いている」
「吸血鬼、ね……。日光が苦手なんだったか?」
「ふん、我らをただの吸血鬼と同格に扱うな。我らはとうの昔に克服している」
「へぇ、決定的な弱点を克服しているとかそれだけで俺の勝率が減ったな」
「だろうな。我らは貴様をここで確実に殺すために準備を行ったからな」
という事は逃げるのは無理だろうな。……下手に逃げれば民衆がパニックになるか。それにここで逃げても何時までも追いかけてくる可能性がある。ならばこの場で倒さないといけないのだろうが、それも難しいと来ている。
俺はクレイナスの時とは違った死の危険に刀をぎゅっと握り締めるのだった。




