始まる祭り
窓から射しこんでくる朝日が顔に当たり、その眩しさから俺は覚醒する。ぼんやりとする瞳を開き上半身を起こす。すると俺のお腹に抱き着く様にして眠っているナタリーによって若干妨害され45度の位置で止ってしまう。地味に辛い体勢になってしまい仕方なく体を起こすのを諦めて再び横になる。
時間的には起きるには少し早い時間だろうか?町も夜とは違いとても静かだ。とは言え一時間もすればこの街は起きだし再び人々のざわめきが聞こえてくるのだろう。それまではこの静かなひと時を堪能しようと再び目を閉じる。
今日から天使の降臨祭が始まる。詳しい事は分からないが仮面カーニバルの様なものだろう。ケラースは完全に通り道程度だったがシェダル村の様に少し滞在するつもりだ。
そうして今日からの日程を考えながら横になっていると再び眠気がやってきた。俺はそれに逆らうことなく再び目を閉じ暗闇の中に意識を溶かしていった。
「ヴァープ様!」
「どうした?」
ケラースの街の地下にある魔王軍拠点の一室、そこで読書をしていたヴァープは部下の吸血鬼が慌てて室内に入って来たのを見て眉を顰める。自らの種族である吸血鬼を高貴な種族と信じているヴァープに取ってそれに反する行動を取る同胞に容赦がなかった。とは言え部下の顔を見れば優美だのなんだのと言っている暇がないのは分かる。部下の処遇は報告を聞いてからにしようと思い本を閉じると部下の方を見る。
「ま、魔王様より一級司令が届きました!」
「っ!内容は!?」
「”西方魔族連合からの要請によりヴァープ以下吸血鬼軍団はサジタリア王国より以西、ジェミナイ連邦への立ち入りが禁じられた。ケラースの街で必ず仕留めろ”です!」
「っ!奴らが介入してきたのか!」
ヴァープは憤怒の顔で持っていた本を机にたたきつける。吸血鬼の身体能力をフルに使ったこの行動で机は柱が折れ、台が凹み大きな穴をあけた。
優美とは思えない行動にハッとしたヴァープは咳ばらいをすると呼吸を整え落ち着かせる。
「……あいつらが西で何かをしていたのは知っているがまさか我らの任務にまで介入しようとは……!」
「ど、どうなされますか?」
「命令である以上従う他あるまい。奴らをこの街で仕留めるぞ。同胞にも伝えて置け」
「はっ!」
指示された事を遂行するべく部下は部屋を出ていく。罰をあたえるタイミングを失ったヴァープは後にするかと思い、荒れた心を落ち着かせるべく再び読書に戻っていった。




