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魔王のお茶会2

 魔王を飲み込んだ植物だったが直ぐに破裂する。周囲に紫色の液体と破片をまき散らす。変形した左腕の半分が吹き飛んだ女性は特に痛みを感じているわけでも、この状況に驚いている訳でもなく無傷で座るルグスに声をかけた。


「やはり、貴方の才能は素晴らしいですね」

「魔王だからな」

「あら?あなたが尊敬するご先祖様、初代魔王の実力はそれほど高くはありませんでしたよ?」


 初代魔王と言う言葉にルグスの眉がピクリと反応する。そんなルグスに構わずに女性は話し始める。


「初代魔王は1000年前に現れた亜人の一人でしたが彼は種族的身体能力をほとんど使う事はありませんでした。むしろ彼の実力は人を魅了するカリスマ性に発揮されていましたからね」

「……」

「貴方の第一将エイザ=ルート・ガイデルギウスも彼に魅了された一人ですよ?あなたには、そんな魅力がありますか?」


 女性のその言葉にルグスは黙り込む。魔王軍の実態はかなり不味いものだった。そもそも亜人を含め周辺の魔族、魔物を全て取り込み巨大化した魔王軍だったがルグスには何百万と居る配下を従えるほどの魅力がなかった。その為ルグスは力による統制を行っているがそのせいで反発するものも出てきており周辺諸国が自分たちを殺しかねないから魔王軍に留まっている者が多数いた。

 そんな状況故に9年前にこの土地を落として以来勢力を拡大させてきた魔王軍はここにきて攻勢限界に達していたのである。周辺諸国はそんな事情を知らない為侵攻が止まった事を不気味に感じていた。


「レオル帝国に攻め入る軍勢とて貴方を本気で慕っている同族のみが攻めるのでしょう?魔王軍は100万近い軍勢を出せるのにも関わらずエイザ=ルート含む同族のみというのはそれが原因でしょう?」

「だからどうした?」


 言いたい放題の女性の発言にルグスはそう言った。


「確かに貴様の言うとおり俺の統制力は低い。初代魔王の様に大陸を支配するような勢力を維持できる能力はない。精々が12大国を飲み込める程度だ。だがな、代わりに俺は初代が有していない圧倒的な力を持っている。初代魔王が世界最強の種族と子を作り、こうして血統を保ってきたおかげで俺の力は最強になった。俺はこの力で初代魔王が目指した理想郷を作り上げる!」

「『人類世界の滅亡』。確かに()はそう願っていましたが貴方のやっている人間の滅亡(・・・・・)ではありませんよ?時代と共に誤った伝わり方をする事はありますが……」

「……貴様が初代魔王の知己(・・)だからと言って全てを知っていると思うな。……ヴァープにはケラースの街より以西での襲撃は行わないように通達する。それ以上は取り合わない」

「いいでしょう。それで構いません」

「ならさっさとそのお茶を飲んで自身の国に帰れ。同じ魔族と言えど貴様等とは根本的に違う以上過度な付き合いはしない」


 ルグスはそう言うとテラスを後にした。一人、残された女性は右手でカップに入った人間の血でブレンドされたお茶を飲むとホッと、息をつく。


「貴方が目指した理想郷は、貴方の子孫によって捻じ曲げられ全く違うものとして広まりつつありますよ。貴方はこの状況をどう見るのですかね」


 女性は今は亡き親友に話しかけるように上空を見上げ穏やかに言うのだった。


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