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ムライ 1

作者: 南野 国賴

 昔、田舎のバス会社が路線を広げ運転手を募集した。

 そこへなんとか潜り込んだが、二~三日研修後の初めて実車する日、先輩運転手達が周りに集まって来た。

 先輩運転手といっても私も年をくっていたし、新しい路線の為に募集された者ばかりだったから皆同期みたいな者だったが、私はそれを知らなかった。

「よろしく」とか「がんばりましょう」とかそれぞれ挨拶を交わしていた。 

 中に一人図体のでかい貫禄のある人がいた。

 メガネを掛けいかにも部長さんという人だった。言葉使いも大阪弁で、都会の匂いをプンプン出していた。

 彼からは「あ、こんにちは」とか「どうぞよろしく」とかの挨拶もなく、年上の人間に対する言葉もなかったので同い年くらいかなと深くも考えなかった。

 私の住んでいる田舎ではたとえ会社内での役職が上でも年上の人間に対する礼儀は今でもある。間違っても名前を呼び捨てにする事などない。


  ・・・・・ 

 若い頃、都会の営業の会社に就職した事があった。

 簡単な研修の後、翌日の朝礼でいきなり名前を呼び捨てにされた。それもどう見ても私より十歳くらい年下の人間からだ。

「○○、今日の目標達成を死ぬ気で頑張らんといかんぞっ」

「はいっ、頑張ります」 

 まだ社会人になって二~三年位の幼い顔をした子供が、一生懸命覚えた台詞を舞台稽古している様に聞こえ、やれやれと半分覚めた気持ちで相手をしていた事があった。

   ・・・・

 

 さて二~三日してバスの待機所で、例の貫禄のあるメガネと休憩時間が一緒になり、

「お、今日は部長さん自らバスの運転手をやってるのか、感心だなあ。挨拶でもしてくるか」と思い、その運転手のバスに近寄っていった。

 運転席には姿が見えなかったので客席で仮眠でもしているのかなと思いバスの周りをぐるっと回ったら真ん中あたりで頭だけが見え、「ウオーッ」だの「アチャー」だのと奇声が聞こえてきた。どうしたのかなと思い窓をコンコンと叩き乗降ドアを開けてもらった。

「お疲れ様です。どうしたんですか、大きな声を出して」

 すると彼は携帯のゲームに夢中だったのだ。

「これやこれ、もうチョットやのに頭くるな~ホンマ」

 まあ、ゲームをするのが悪いとは言わないが部長さんらしからぬ言動にちょっと幻滅した。

 ところがよくよく話をしてみると彼は私と同じただの運転手だった。 

 しかもである。歳も近いか、もしかして少し上くらいかなと思っていたのになんと、まだ三十にもなってないとの事だった。

 二十近くも下だと聞き「ひぇ~」とのけ反り、恐ろしい珍獣でも見たかのように、私の目はそのメガネの顔に釘付けになっていた。

 あれから十年。

 私はバス会社を去り彼も出稼ぎに行ったりで苦労をし、久しぶりに会った。

 図体の大きさは相変わらず貫禄があり、顔もそれなりに年齢が追いつくのを待っていた。 

 しかし頭だけは待ってくれなかった様で、頂上が丸く朝日が昇ったように髪が無くなっていた。

 まだ四十にもならない彼はその髪のおかげで、見た目だけは部長から社長へと昇進していたのだった。

 今は又バスの運転手をやっているが脳ミソの成長は止まったままらしく、休憩時間になると彼のバスからは今でも奇声が聞こえて来るらしい。

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