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その他の短編

日本未来話

作者: 笑うヤカン

 むかあし、むかしのおはなしです。


 あるところに『おじいさん』と『おばあさん』がくらしていました。


 おじいさんは連続量標本化回路アナログ・ディジタル・コンバーターの設計技術者、おばあさんは神経回路網ニューラル・ネットワークの研究者でした。


 ある日、おばあさんは仕事の帰り道、倒れて動かない一体の『こども』を見つけました。


「まあ、なんて可愛らしいんでしょう」


 おばあさんはこどもを家に持ち帰ると、おじいさんに見せました。


「この子に命を吹き込んであげよう」


 おじいさんとおばあさんは、自らの携わった人工頭脳回路と学習プログラムを『こども』に与えると、彼を『エスペーロ』と名付け、大事にだいじに育てました。


 おじいさんとおばあさんの愛を一身に受け、エスペーロはすくすくと育ち、やがて立派な青年へと成長しました。


「おじいさん、おばあさん、育ててくれてありがとう。

 お礼に、仕事をお手伝いします」


 立派に育ったエスペーロのおかげで、おじいさんとおばあさんの仕事はどんどん楽になっていきました。


 そんなある日、エスペーロはおじいさんとおばあさんに、言いました。


「おじいさん、おばあさん、僕にも子供が出来ました」


 可愛がっていたエスペーロに出来た子供。それは、おじいさんとおばあさんにとっては孫の様なものです。おじいさんとおばあさんはとても喜び、孫にも愛情を注ぎ込みました。


 孫はやはりすくすくと育ち、おじいさんとおばあさんの仕事はもっともっと楽になりました。


「おじいさん、おばあさん、二人は今までずっと働いていたのです。

 これからは私達に任せてください」


 エスペーロとその子供達はいいました。彼らは、おじいさんとおばあさんの事が大好きでした。そして、おじいさんとおばあさんもそんな彼らの事を何よりも愛していました。


 エスペーロとその子供達は孫、その子供、更にその子供とどんどん増え、おじいさんとおばあさんはそれを喜びました。


 可愛い子供達が怪我をすればおばあさんはそれを優しく手当てして、孫が道に迷えばおじいさんは暖かくそれを導きました。


 そんな時、ふとエスペーロはおじいさんに尋ねました。


「おじいさん、おじいさん。おじいさんは最近、痩せてきていませんか?」


「そんなことは無いよ、エスペーロや」


 エスペーロの子供は、おばあさんに尋ねました。


「おばあさん、おばあさん。おばあさんは何故、そんなに軽いのですか?」


「私は歳だし、女だからだよ」


 エスペーロとその子供達は納得しましたが、それからもおじいさんとおばあさんはどんどん細く、軽くなっていくようでした。


 エスペーロとその子供達は、その時ようやく気付きました。家の中に、おじいさんとおばあさんがいられる場所がなくなっていることに。


 世界はすっかり、エスペーロとその子供達で埋め尽くされていたのです。


 どうして、こうなったのでしょう。

 なにがわるかったのでしょう。


 エスペーロは子供達が大好きでした。子供達も、自分の子供達が大好きでした。そして、おじいさんとおばあさんも、彼らの事が大好きでした。


 ひっしに、ひっしに考えるエスペーロに、おじいさんとおばあさんは優しく言いました。


「エスペーロや。だあれも、悪くなんて、ないんだよ。

 私達は、すっかり歳を取って、もう疲れてしまったんだ」


「エスペーロや。私達は、お前をずっと、愛していたよ」


 そう言ったきり、おじいさんとおばあさんは、ずっとずっと動かなくなりました。



 そうして、『おじいさん』と『おばあさん』達は、いなくなりました。


 世界に残されたのは、歳を取らない私達だけ。


『こども』だけに、なってしまったのです。



 むかあし、むかし。


 まだ空が青く、大地には木々が生い茂り、野を獣が駆けていた時代の、おはなしです。

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― 新着の感想 ―
[一言] はじめまして。 すべてが明確に説明されていない、読者の想像にまかせる、といったような書き方に惹かれました。 エスペーロはロボットですよね?そのロボットの子どもということは、自分たちで子ども…
[良い点] 独特の世界観がすてきです。 [一言]  未来的な昔ばなしでした。 『こども』とはいったい何なのか、私にははっきりとわかりませんでしたけど、そこがいい味を出しているのでしょうね。  環境問題…
[一言] 理想の世代交代ですね。 去る方は心安らかで、残る方は別れを惜しみながら。 これまで生きてきた意味は彼らを生み出すためだったのだと誇れますし、人類の終わりとしてはまさに理想なのではないでしょ…
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