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「――トーディ島、ですか?」
六人の個性豊かな――言ってしまえば、まとまりが感じられない――『司』に囲まれた『司』候補生の一人、野村真士は、今聞いた言葉を復唱していた。
「ああ。そうだ」
「そこに、行けって?」
もう一人の『司』候補生、下原哲平――三大名、ゾフィー・リースがやはり繰り返す。
「ああ。目的は、不穏な動きが何であるかを見極めることと、もし、それが『魔』によるものであるなら、その『魔』の排除だ」
淡々と自分たちに任務の用件を告げてくれるのは有喜だった。
現在、『司』全体を取り仕切るのはこの『霧の司』、松山有喜なのだ。
そして結局、真士と哲平は自分たちの予感があたっていたことを知る。
『司』からの招集の意味、それは、二人に旅立てという指令だった。
二人は少々絶句していた。何か任務かせあたえられるとしても、せいぜい愛理や潤達と同様のことだと思っていたから。
視線を下げ少し考えた真士は、顔をあげ、有喜に向かって尋ねる。
「それ、俺と哲平二人でやるんですよね?」
不安になるところだった。
先に、自分たちと同じ『司』候補生の四人が『魔』に対している。だから……。
「そうか、四人のことを聞いているんだな。確かに、潤、愛理、薫、瞳子の四人には自分たちだけでやってもらった。分かっているだろう? 『司』になってからは何があっても自分たちで動くんだ。これはその来たるべき日に備えた訓練だということは」
「……はい」
「だから、真士と哲平にもできるかぎり自分たちだけで事件解決をしてもらいたい。……が。まあ、何といっても旅慣れていない二人だからな。今回、そこまで無茶はさせないことにしたよ」
「……え?」
「保護者付きだ」
有喜の目が笑っているような気がした。口調は先程と変わりはしない。けれど、少しだけ、表情が柔らかくなったというか……。
二人とも悪寒を感じる。
そのため、「保護者って、誰ですか?」とは尋ねられない。
何も言わないでいると、有喜の方が先に告げてしまってくれる。
「お前たちの師、リオン・ビィノが同行してくれるぞ」
まあ喜べ、という有喜の口調にはからかいが含まれていた。二人は小さく「げっ」と口にすると、ゆっくりゆっくり、首を回し自分たちの背後にいる師を見た。
あからさまに嫌な顔をしているためか、リオンの口元も引きつっている。
「俺だってなぁ、ただでさえ生意気だったくせに大きくなってその上悪知恵までついたお前らのお守りなんぞ嫌だったが、できの悪い弟子の面倒を最後まで見るのも、師匠の役割、だからな、引き受けたわけだ」
「…………」
「…………」
「そんなに嫌なら、俺は付いていかなくてもいいんだぞ?」
いえ、何も申しません……と小声で呟き、二人は首を戻した。ため息をつきたいところ、それだけは我慢をする。
「気心知れているだけあってやりやすいだろう? 存分に力を発揮してきてくれ」
「…………」
応える気力すらなくしてしまった。
先行きの不安を二人は隠しきれない。
「それと、だ。渡すものがある」
有喜の言葉と共に律子が動いた。しばらくして、彼女が二人の前に差し出すのは……ペンダント。
話には聞いている。
『浄化力』を増幅させ、武器にも変容する『石』というやつだ。
『司』と、『司』候補生しか持てないもの。
「使い方は後でリオンに聞いておくといい。それが手助けになってくれるだろう」
見つめる。そのペンダントヘッド。
何色ともいいがたい、その色、その輝き――。
「あと、報告ついでにいっておくよ」
有喜の口調が変わった。ふざけているような雰囲気がなくなった。
二人は顔をあげる。自分たちをじっと見下ろしているその両眼を見つめる。
そうして、二人はその言葉を待つのだ。
「伝説とまで言われた、朱鳥の剣、それを正式に愛理が保有することになったよ」