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深遠に在る呟き  作者: 望月あさら
■ 1 ■
5/42

1-3

 ――その人々は、こう呼んだ。

 ユーラシア、アフリカ、南北アメリカ、オーストラリア、南極、の、六つの大陸を持つ世界を、『六大陸世界』。

 火、水、土、の、三つの大陸を持つ世界を、『三大陸世界』。

 二つの世界は同時に存在していた。しかし、決して同じ場所には存在しなかった。

 それは光と影なのか、それとも歪んだ空間の為せる技なのか、時間の驚異なのか。

 理由は、誰一人知らない。けれど、それは現にあった。

 その世界同士が出会うことは決してない。なのに、その両の世界ともに土があった。水があった。風も火もあった。そして何より、人があった。

 人は言葉を持ち、人としての生き方を見つめた。

 生まれ、育ち、子をはぐくみ、そして死ぬ。決して出会うことのない二つの世界。それがぞれぞれのやり方で、同じ「人」というものを生みだしたのだ。

 唯一の決定的な差は、人以外のものにあった。

 『三大陸世界』には、『魔』というものがあった。そして『精霊』というものがあった。それらは意志を持ち自然を動かすことのできるもの。『魔』は人間を喰らい、『精霊』は『魔』を排除しようとする。人々は『魔』を恐れ、『精霊』との共生を望んだ。

 しかし『六大陸世界』には、『魔』も『精霊』もほとんど存在しなかった。人を脅かすものはなかった。人と共生するものもなかった。

 人は文化を発展させた。一方は、いかに快適に一生を送るかを求めて。一方は、いかに無事一生を送るかを求めて。

 絶対に出会うはずのない二つの世界。けれど、それらはわずかなつながりを持っていた。そしてある時、人はそのつながりを見付けた。

 目立つことのない、『穴』。

 世界にいくつか点在している、『穴』。

 それは時空を越え、一方の世界をもう一方の世界へつなげるものだったのだ。

 その、存在。

 二つの世界とそれをつなぐ『穴』。

 その存在を知るものは、二つの世界を通じても、さほどいない。

 限られた、選ばれた者達――それは同時に、使命を帯びる者達――。 




     *  *  *



 

 『穴』の一つは、『六大陸世界』の、日本という島国にあった。

 その『穴』を今より百年程前から守り、そして同時に人々に隠してきたのが、宍戸家だ。事情に通じる者達から現在、家屋敷と呼ばれるその家の一階の一番奥に、それはあった。

 野村真士と下原哲平は今、その『穴』を含む部屋の存在を、また隠すようにしてある部屋の一つにいた。

 その部屋には木肌の顕な棚が置かれていた。中には、実に質素な服。『三大陸世界』のものだ。

 一方の世界のものをもう一方の世界に持ち込まないために、二人はここで着替えをする。

 もう一つ隣にあるあるこのような部屋は女性専用だ。

 二人は着替えを終えると、上から吊られているカーテンで覆われた、部屋の奥につづく扉の中に入った。

 そこは、暗い部屋だった。

 窓など存在しない。壁紙すらない。

 冷たい印象を受ける、灰色のコンクリートで囲まれた、部屋。

 足元は茶色い土が剥出しになっている。

 そこにある、文字どおりの横穴。

 今は木の枠で補強されているが、宍戸家がここに家を建てるまでは単なる洞窟であったと思われる、もの。

 二人は迷うことなくその中に入っていった。

 前方に、わずかな光。

 出る先は、石作りの部屋。

 木でできた扉。

 それを押し開ける。

 前に進む。

 もう一つ、部屋。それも通過し、二人は足を踏み出す。



 もうそこは、『三大陸世界』なのだ。

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