4-13
目を細めなければならないほどの夕焼けの中。
三人は並んで浜辺に腰を下ろしていた。
打ち寄せる波と頭上をゆく海鳥の鳴き声が心地いい。
「でさあ、リオン。結局、ドゥゼの方はどうなったわけ?」
「……どうなったとは?」
「だって、ドゥゼに行って『魔』を排除して帰ってくるのに、どう考えても四日はいったわけだろ? なのに、その日の夜のうちに帰ってくるなんてさぁ」
「…………」
「…………」
「リオン、どうして何も言ってくれないんだ? まだ全ての謎解き、終わらしちゃ駄目なのか? それに、なんで真士ちゃんは俺にそんな冷たい目を向けているわけ?」
「……お前、バカか」
「え? どうして?」
「……そうか。結局最後までゾフィーには全容が見えなかったか」
「なんなのさっ。さっぱりじゃないかっ」
「……裏技、使ったんだよな、リオン」
「裏技?」
「まあ、そんな所か」
「裏技……? 何、それ?」
「一瞬で行って一瞬で戻ってこれてしまうという裏技だよ、ゾフィー」
「なんだよそれー? それってまるで瞬間移動じゃないかーっ」
「……そこまで自分で口にしといてまだ分からんのか、お前は……」
「えー? 口にするって何がぁ? 俺は、瞬間移動って……――あーっ! もしかして、フィル、来てたのか!?」
「遅いな」
「遅すぎるな」
三人はここで船を待っていた。
『土の大陸』に帰るため、日没までには着くという旅客船を待っていた。
三人は『魔』を排除したあと、それぞれの傷の手当てをし、仮眠を取り、昼前にはすでに集落を出ていた。
旅客船がいくら今日着くといってももう日暮れ。出発は明日のことである。
だが、三人には集落に長居する気がなかった。一刻でも早く出立したいと思った。
そのために、三人は港に着いてから何刻もの間、こうして浜辺で飽きもせず、ただ、穏やかに波打つ海を見ているのである。
三人が集落を出たとき、まだダルナの意識は戻っていなかった。
『魔』を排除したあと、ダルナは自分の家に運び込まれていたようであったが、そこで誰がどのように看病していたのか、三人は知らない。
三人はダルナのことを誰にも尋ねはしなかった。知ろうとも思わなかった。というより、知りたくなどなかった。
ダルナが今後どうなっていくのか、そんなことには全く関与したくないのだ。
それがどんな些細なことであったとしても、ただひたすら、嫌だったのだ。
「……なあ、真士、ゾフィー」
少しの間三人の間に流れていた沈黙を徐に破ったのはリオンだった。
今までのものと明らかにその口調も纏う空気も違っていたが、弟子二人は特別返事をしない。
それに構わず師匠は静かに厳かに、視線を海の彼方に流したまま、二人に向かって言葉を紡ぐ。
「――お前たちは『精霊使い』という肩書きにも『浄化者』という肩書きにも、もちろん『司』という肩書きにも惑わされるなよ。……お前たちは、お前たちなんだ。所詮、一個のちっぽけな人間なんだ。どう引っ繰り返ったって、……絶対者には、なれないんだからな」
絶対者には、なれない。
『司』という人々の憧れの的になろうとも。
絶対者ではない。
『司』であったとしても、全てのあらゆることを為すのは……不可能なこと。
自分たちは、人間なのだから。
「その点は安心しろよ」
リオンの言葉に先に応えるのは、真士。
それに哲平が迷わず続く。
「俺たちはさぁ、決して絶対者になりたいから『司』になろうとしているわけじゃないんだぜ」
「『司』になったところで絶対者なんかになれないって、分かってるしなぁ」
「そうそう。だって、リオンって絶対?」
「全然、だよなぁ」
「なぁっ」
リオンは口を開かなかった。
茶化す二人の弟子の隣で、静かに座っていた。
ただ少し、口元に笑みを浮かべながら。
「おーい、船が来たぞー」
海鳥の鳴き声の合間からそんな声が耳に届いた。
人々が忙しく動き始めたことも感じ取れる。
「さあて――」
むせ返るような夕焼けの中。
リオンが、哲平が、真士が、立ち上がる。
そして三人は、ゆっくりと歩み、その場をあとにするのだ。




