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深遠に在る呟き  作者: 望月あさら
■ 3 ■
22/42

3-5

 真士と哲平が辿り着いた所は、市から数えて二つ目の集落であった。

 もうすでに加勢に訪れた町の人間が何人かそこにいた。棒切れや鍬などを持って物音のしない集落の中を慎重に歩き廻っている。どうやらどこに『魔』がいるのか分からないらしい。

 本当に『魔』が現われたのはここなのかと真士と哲平の二人は疑問に思うが、加勢にやってきた人間全てがここで足を止めているのだ。助けを求めにきた人がこの集落の人だと知っているからなのだろう。もしかすると、みんなこの集落の人間なのかもしれない。

 二人も町の人間と一緒になって静まり返っている辺りに目を凝らし耳を澄ます。あまり大きな集落ではない。小ぢんまりとした木の家は程々に隣接しているが、全部で三十戸程だろう。畑も目についた。畑は緑で覆われている。しかし朝だというのにそこに人はいなかった。

 その時、声がした。女の悲鳴だ。場所を確認する。家の中からだ。

 人々は一斉に駆け出していた。真士と哲平も走る。他の大人たちに追い付き、ほぼ同時にその家の中を覗き込む。

「――――!」

 部屋の奥の壁を背に、人が四人いた。暗い部屋の中、青ざめた顔をして宙を見つめている……いや、違う。彼らの目は一点に集まっていた。少し離れたところで床に横たわっている男性……そのすぐ上だ。そこに『魔』がいるのだ。

「喰われた直後か?」

 哲平が真士に耳打ちするように囁いていた。真士も首肯する。

 それはその状況から分かった。『魔』は横たわっている男性の中に入り込み力を喰い、たった今出てきたのだろう。それと同時に力を喰われた男性は意識を失う――死んで、いるかもしれない。どちらにしろ、その体は無残にも床に叩きつけられたのだ。それを、この家の中にいる四人は見たのだ。だから悲鳴をあげたのだ。『魔』が男性の中から抜け出した直後だと知っているから、見えるはずのない彼の身体の上の『魔』に集めるのだ。

「――『魔』……『魔』、の、野郎……!」

 突然、加勢にきた男一人が家の中に入っていった。彼にも『魔』の姿がとらえられているわけはない。それを証拠に、『魔』は横たわる男性の上から動いていないのに、彼は家の中を歩き廻っている。

「出てきやがれ! 姿を見せろ! 俺が相手になってやる! 俺が相手になってやるよぉっ!」

 無茶に決まっていた。勝てるはずなど、万に一もないのだ。

 そんなこと、『魔』自身だとて知っている。そんな挑発は、『魔』を調子に乗せるにすぎない。

 だから『魔』は動くのだ。青ざめ怯える奥の女性――犠牲になった男性の妻だと思われるその人の中に入り込もうとするのだ……!

「! 真士!」

「わが名はマコト。我が名を刻印す『水の精霊』よ、わが声を聞け。その力を持って、目の前の『魔』を捕縛せよ!」

 突き出された真士の左手の先から水が渦になって飛び出した。だが、それは遅かった。『魔』は女性の中に入り込んだ後だったのだ。そのため、水は女性を包み込む!

「殺すなよ!」

「分かっている!」

 一層血の気を失うのは彼女の隣にいる人達だ。それと、二人のすぐ側にいる町の人間。水が唸る中、哲平は彼ら全てに向かって声をはりあげる。

「俺たち二人は『精霊使い』だ! だから俺たちに任せてくれ。あの『魔』を捕まえている間に出来るだけ遠くに逃げてくれ!」

 人は動かない。

 水に包まれる女性を凝視したまま、動けないでいる……!

 それに気が付いて哲平は大きく舌打ちした。そして哲平もまた『精霊』を呼ぶ。

「わが名はゾフィー。我が名を刻印す『炎の精霊』よ、わが声を聞け。こいつらの目をさまさせろ!」

 途端、いくつもの火が彼らの目の前で燃えた。一瞬の小さな爆発。その時を見逃さず、哲平はもう一度号令をかける。

「逃げろっ!」

 人は動いた。どっとその家から離れていく。逃げていく足音が集落中に響く。

 しかし、哲平が目の前の『魔』に取り掛かろうとした瞬間に、また変化は訪れるのだ。

 悲鳴。叫喚。

 はっとして、人々が逃げていった方を見た。

 背中が怯えている。一目散に四方八方散々に駆け出していく。

 彼らの歩んでいた前方からはゆっくりと迫ってくる男が二人、女が一人――『魔』だ。

 三人の『魔』は手に鍬や鋤などを持って、人々を襲おうとしている。そうやって見知った人間の姿で脅かし、入り込む隙をつくろうとしている……!

 もう一度大きく哲平は舌打ちをした。

 家の中に視線を戻した。

「真士! あと三匹の『魔』!」

「まだそんなにいるのか!?」

「他の人間が危ない。ここはお前に任せるから、さっさと片付けて加勢頼むわ!」

「おい! 期待するなよ。こいつ、そう簡単にやっつけれる奴じゃねぇんだからな!? 分かってるな!?」

 真士の言葉を最後まで聞かずに哲平は駆け出していた。

 もっといい手があるのかもしれない。もっとうまいやり方があるのかもしれない。

 それでも自分の目の前で犠牲だけは出したくないと強く思うのだ。我武者羅にやるしかないと、思ってしまうのだ。

 目前に、一つの『魔』。

 若い男性の中に入り込み、その肉体を操っている。

 手には鋤。

「『結界』!」

 『結界』は『魔』の力に対してしか意味がない。そうと知りつつも哲平は自分に出来る精一杯の防御をしようとする。そして、右手でつかむペンダントヘッド――『石』。具現する、銀色の剣。

 それで振り上げられた鋤の攻撃を回避する。

 反撃の機会をうかがう。

 遠くで、また悲鳴がした。


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