後編
私は彼の膝にまたがると、右手でシャツのボタンを外しだした。
ひとつ、ふたつ、みっつ。
外すごとに、彼の鍛えられた肉体が露になる。
私はシャツをはだけて、その中に手を差し入れた。
暖かく、そして緊張している。
彼は首を横に向け、目をぎゅっとつむっている。
そして私が彼の肌をなぞるたび、彼は深く息を吸い込んだ。
「目を開いて。」私は彼の耳元にささやく。
「・・・無理だよ。」彼は更に目をきつく閉じる。
私は彼の唇に軽くキスをする。
驚いたように彼が目を開く。
私は彼に微笑みかけ、再び唇を重ねる。
何度も、何度も、彼の唇にキスをして、そしてとうとう彼にこちらを向かせた。
「今度はもっと、長く、あなたを感じるわ。」私はそう言うと、彼に深くキスをする。
彼から吐息のような声が出て、彼は私の唇に応えだした。
薄暗い部屋のなかに、二人の息づかいと、たまらず漏れ出る声が響く。
どこかでパトカーのサイレンがなっている。
私たちは夢中で互いの唇を感じ合った。
私は手を彼のジーンズのファスナーへとのばした。
触れると、彼が「あ」と声を出し、その手を止めようとした。
「見せて。」私は彼の顔を見つめ言う。
「・・・ああ、やめてよ。」彼は顔を真っ赤にして、首を振った。
「怖がらないで。大丈夫よ。」
「だめ、嫌だ。」彼は私の手を離さない。
私は彼のファスナーに顔を寄せ、布越しにキスをした。
「ああ・・・」彼は声をもらして、力を緩める。
私は彼のファスナーを静かにおろした。
「私を感じてくれてるのね。」私は彼に手を触れながら、いとおしそうにつぶやいた。
「やめてよ。」彼は今にも泣きそうな声を出す。
「うれしいのよ。」私は彼自身をすっかり出すと、直に手を触れる。
「ああ、触らないで。」彼が身をよじって逃げようとする。
「どうして?私の手のひらを感じてみて。ほら。」私は彼自身を手の平に包んだ。
すると「ああ、だめだよ!」と彼が大きな声をだし、私の手を押さえる。
そして堪えきれず、身を震わせて、全てを出してしまった。
私の手と、彼のジーンズが濡れる。
「ああ・・・・」彼が顔を覆う。
「もう、限界だ。ごめんなさい、本当に。あなたを汚してしまった。」彼は本当に泣き出した。
「恥ずかしくて、惨めで、耐えられない。」彼は静かに泣いて繰り返す。
私はそんな彼の涙に濡れた頬に唇を寄せると「うれしいわ。」と言った。
「私を感じてくれたんでしょう?それはとっても幸せなことなのよ。」
私は濡れてしまった彼自身にそっと口づける。
「あっ。」彼はびくっと身体を反らした。そして「だめ、そんなこと。汚いよ。」と泣きながら訴えた。
「愛しい人のだったら、そんなこと関係なくなるのよ。」私は彼自身を自分の唇で味わった。
その間、彼は身を震わせて、必死に声を堪えてる様子だ。
彼の指が、真っ白なシーツを握りしめている。
私はそんな彼をたまらなく愛しいと感じた。
彼の全てを私の唇ですっかり濡らしてしまうと、私は顔をあげ、再び彼の顔を見る。
彼は顔を真っ赤にして、恥ずかしさで顔を紅潮させていた。
私は彼の手を取り、その指を唇へと持っていく。
長くまっすぐな指。
私はその指先にキスをする。
そして彼の顔を見つめた。
「ねえ、人の身体の中で、一番官能的なのはどこだと思う?」
「・・・」彼は目を見開き、私をじっと見つめる。
「口。この唇。歯。舌。すべてがお互いを感じ取るの。」
私は彼の指を口にいれ、甘く噛み、味わう。
彼が眉間に皺を寄せ、うめいた。
「人がキスをするのは、唇で感じたいから。一番官能的で敏感な箇所を、自分の唇で感じたいからよ。」私は彼の指を口から出し、「あなたの口で感じてちょうだい。私を。私自身を。」と言った。
彼はゆっくりと顔を近づけ、唇をあわせる。
私はその唇を噛み、舌で濡らし、彼の奥深くまで入っていった。
彼もその唇の感触に夢中になっている。
情熱的なキスを受けながら、私は身をのけぞらせる。
彼の唇が頬や目元にとどまらず、首筋や鎖骨にまで伸びてくると、私は悦びの溜息をついた。
私は彼の頭を抱え、胸元へと導く。
彼は少し抵抗したが、すぐにその柔らかな感触に身を委ね始めた。
彼の息が胸にかかると、私は欲望に飲み込まれる。
「あなたの唇で濡らして。」私は彼に懇願する。
「全部にキスをして、全部を口に含んで、そして歯を立てて。」
彼は言われるがままに、唇をはわせた。
彼の舌のあたたかな感触を一番敏感な場所に感じると、私は思わず大きな声を出した。
するとびくっと彼が身をひく。
そして私の顔を見つめた。
心細げで、叱られた学生のような表情。
「ああ、ごめんなさい。大丈夫よ。違うの。これは歓びの声。あなたを感じてるのよ。すごく。」
彼はほっとしたような顔をして、再び愛撫を再開する。
「あなたのその手もつかって。あなたの思うままに、私をしていいのよ。」
彼は戸惑いながらも、その手を私の胸におく。
最初は恐る恐る。けれどそのうち大胆に手のひらで感じ始めた。
彼の息づかいが早くなる。
私も喘ぎを押さえられなくなっていた。
彼の手のひらは熱く、そして大きい。
私は彼に触られると、その力強さに翻弄される。
一瞬、もてあそばれているような、蹂躙されているような気持ちになった。
私は愛撫を受けながらも、夢中で彼のシャツを全て脱がせる。
青白く光るその肌は、若さに溢れ、初めての体験に上気していた。
息づかいも荒く、私たちは互いの身体に唇を触れる。
「ねえ、全部よ。頭のてっぺんから、つま先まで。全部。私を好きにして。」
私はベッドに仰向けになり、両手を頭上で組み、身体のすべてをさらけ出す。
彼はまた溜息をつくと、文字通り私の身体中を味わい尽くそうとする。
彼の唇が私の腹部に達すると、私は大胆にも足を開き、彼の背中に足をのせた。
彼はその行為にびっくりした様子を見せたが、すぐに私の一番敏感な場所に唇をよせた。
彼のあたたかな感触が、私の内部にまで入り込む。
私は枕の端を握りしめ、身をよじって喘いだ。
「ああ、すごい。」彼は興奮してつぶやく。
「こんな風になるんだ。すごい・・・ああ、きれいだ。」彼は女性の神秘に感じ入ったように言った。
私は仰向けからうつぶせに変わる。
彼の唇と指が、私の背骨をまっすぐにおりてゆく。
私は喘ぎながら、身をそらせる。
彼は私の背中にぴったりと身体を密着させ、私の耳や首筋を愛撫した。
彼自身を私の敏感な部分の入り口に感じて、彼をたまらなく欲しくなった。
「指を入れて。」私は四つん這いになって、彼に求める。
彼は恐る恐るその場所に触れる。
私はびくっと身体を震わせる。
「いいのよ、深くまで入れて。」私は息も荒く訴えた。
彼の指が、私の中に入れられる。
深く、深く、奥を探るように。
私は大きな声を出した。
彼は再び「すごい」とつぶやく。
「どうなってる?」私は彼に尋ねた。
「ああ、溢れてる。すごいよ。」彼は中を探りながら答えた。
私の太ももを、暖かいものが流れる。
「それは、あなたが欲しいって印。」私は身体の向きをかえ、彼の上に再びまたがる。
私は彼のジーンズをすべて脱がし、完璧なその肉体を見つめた。
彼の腹部を指でなでる。
彼が顔をしかめ、身をよじった。
先ほど一度終わってしまったとは思えないほど、彼自身は私を欲していた。
「そんなに見ないで。恥ずかしい。」彼はそう言ったが、もはや私から逃げようとはしていない。
私は彼を自身に迎え入れる。
「うわ・・・。」彼は身体をこわばらせ、私の腰を押さえて止めようとする。
「あ・・・ああ・・・だめだよ。あなたが壊れちゃいそうだ。」
私も侵入されるその痛みともとれる快感に、彼の腕に爪を立てて声をあげた。
私は彼をすべて収めるまで、身をよじらせて喘ぐ。
「感じて・・・私を感じて。」彼から発せられるエネルギーが、私を稲妻のように感電させていく。
貫かれ、
衝撃を受け、
倒れ込む。
「ああ、、、すごい。」彼が身を震わせて言う。
「何を感じてる?」私は彼の胸に倒れ込み、耳元で訊ねた。
「・・・柔らかい・・・あったかくて。包み込まれてる。」彼が言った。
私はその言葉を聞き、幸せな気持ちになる。
私はゆっくりと彼の上で動き出した。
彼は目を閉じて、私の腰に手を添えている。
彼の腰も自然と動きだし、私たちは同じリズムをとりはじめる。
冷えだした室内のなかで、私たちだけが熱を放っている。
彼はうめき、身悶え、下唇を噛み締める。
私はそんな彼を見ると、更に欲望の火が燃えてくる。
動きを早め、彼を締め付ける。
「っ・・・」彼が目を開き「もうだめだ。」と訴える。
そして素早く身体を起こし、私の上にのしかかった。
私の両足を彼の両肩にのせる。
更に深く、私の中へ入ってくる。
私は悲鳴をあげた。
彼は身勝手なリズムで、私を攻め立てようとし始めた。
激しく、
狂ったように、
自身の熱を吐き出すかのように。
「だめよ、、ああ、やめて!」私は悲鳴をあげて、彼の胸を叩く。
すると彼は我に返ったように、ぴたっと止まった。
私は肩で息をしながら「やめて」と言い、彼の頬に手を添える。
「あなたは・・・」私は彼の顔を見つめる。
「あなたは激しい情熱をもった人。穏やかな外見の裏には、人を焼き尽くすような情熱を持ってる・・・でも、それを相手にぶつけちゃだめ。あなたは相手を巻き込んで、そして破壊してしまうわ。」彼は熱心に私の言葉に聞き入ってる。
「愛するの・・・女性を抱くってことは、愛してあげること。相手をすべて受け入れ、歓びに満たしてあげることなのよ。自分の欲望のためだけにある訳じゃないわ。女性が歓びに浸れば、自然とあなたも満たされる。それは、なりふり構わずぶつける欲望で得るものとは、全く違うわ。」
彼は静かに頷くと、つながったまま、再び私を愛撫し始めた。
すべてをやり直すように、丁寧に、心を込めて。
私はあっという間に、彼のリズムに満たされる。
彼が幼いころ、
ステージだけではない。
自宅のリビングで。
移動の車の中で。
二人で歌った、あのリズム。
彼を見上げると、その褐色の肌を汗で光らせて、懸命に動いている。
目を閉じ、眉間には皺を寄せている。
けれどうっすらと笑みを浮かべて。
彼は今、幸せに満ちているのだ。
私を感じている。
私を愛している。
驚いたことに、私は最後の極みにまで到達しようとしていた。
私が初めての女性とは思えない。
彼は感覚的なことに関すれば、飛び出て優れているのだ。
「ああ・・・ああ、素敵よ。」私が言うと、彼がうれしそうな顔をする。
「もっと、ああ・・・・いい・・・」私はのけぞり、彼に両足を巻き付ける。
彼も顔をしかめ、うめいた。
「動きたいよ。もっと早く。」彼は荒い息で伝える。
私はうなずき、大きな声で喘いだ。
彼は激しく動き出し、大きな波が私を飲み込む。
「い・・・いく・・・ああ!」私は彼の腕にしがみつき叫んだ。
「ぼくも・・ああ!」彼も大きくうち震え、
そして崩れ落ちた。
「やっとぼくのものになった。」彼はそういうと、私の身体を抱きしめる。
汗に濡れたシーツにくるまって、彼は心地よいまどろみに誘われているようだ。
私は彼のその髪を優しくなで、彼が寝付くまで静かに見守る。
「愛してるんだ。」彼はそういうと、寝息を立て始めた。
「私もよ。」私もそういって、彼のまつげに口づけた。
けれど。
あなたの愛と、私の愛はおそらく違う。
あなたの愛の激しさに負けて、私はそのうち身を引くかもしれない。
それでもいい。
それも運命でしょう。
ただ、
愛してる。
あなたのことを。
それは本当よ。
あなたが特別な人だということは、
永遠の真実。