"捕食連鎖"
太陽の位置から判断するに、まだ朝10時くらいだろう
今日は尋常でなく『多かった』
社会が荒れる兆しなのだろうか
僕にとっては、良い兆候だった
日中でも光の無いこの森には、自死の為に訪れる者が後を絶たない
僕は親に捨てられてから長い事、『そういう人々を対象とした仕事』をして、ここで生活して居る
例えば
いま眼の前には3つの縊死躰が樹からぶら下がって居るが、このうち2つは『僕の仕事』だ
其処まで悪い事をして居る訳では無い
『死のうとして居る人間を、死なせて居る』のだ
「大した収穫は無いな………」
持参した折り畳み式の脚立に上がって、死躰の衣服や荷物を探り終えると、僕は落胆した
社会が貧し過ぎる
近頃の自殺者は、幾らなんでもみすぼらしいにも程がある
「そろそろ廃業なのかなぁ………」
草木を拾い集めながら、誰にともなく呟いた
手指の間で視る間に枝や蔦が絡まって、罠が出来上がる
原始的過ぎる構造ではあるが、『立ち入った人間を自動で絞首するうえに、作動後は自壊する』という優れものだ
「また、死躰でも食べて生活しないと駄目なのかなぁ……」
考えたくも無い
あんなまずいもの、他に僕は知らない
其れでも、飢えるとあんなものでも食べたくなるのが人間なのだ
僕は、自分が人間な事に嫌悪感が在った
ひゅ………、と、何処かで音がした
首に冷たい感覚が一瞬走ったあと
視界が真上に跳ね上がり
数m上で、がくん、と斜めになった後、止まる
窒息の苦しみと首筋の腫れぼったい痛みが、遅れながら続いて訪れた
脚立を、かん、かん、と上がってくる音がする
少しして、手が僕の躰じゅうを弄る感覚
がくがくと震えの止まらない躰で、僕は「そ…の……脚…立……」「ぼ…く…の……だ……ぞ…」と、両手を暴れさせて、自分の全身を探っている指の主を捕まえようとした
返事の代わりに、全身を滅茶苦茶に殴られる
僕の視界が、意識が少しずつ消えていく
最後に聞こえたのは、「こいつも碌に持ってねえな」という幼い少年の声だった




