[短編] 転生したら義兄様の顔を知りました
私はアビゲイル・クルーノ、クルーノ公爵家長女であり、よくある異世界転生者だ。
多分、前世では大学生だったのだと思う。
多分というのは記憶が曖昧だから。
正直、前世の記憶は多少あるけど、一応地球での知識があるだけで、別の人の人生を見ていた気分だ。
よくわからないけれども、前世で死んで気が付いたら、前世で流行っていて私も時間を見つけては、ちょくちょくやっていた、「マジック・イン・スクール・オブ・ラブリー」という乙女ゲームの中の世界だった。
今、改めて考えるとネーミングセンスが皆無な乙女ゲームだったっと思うが当時は何故かそれが流行っていたのだ。
きっと、それはひとえにこのゲームがネーミングセンスがない割には楽しかったからだろう。
実際私の記憶の中でも、この乙女ゲームは結構面白かったと思う。
この乙女ゲームは少し他の乙女ゲームとは違っていた。
通常の乙女ゲームであれば、攻略対象の性別や顔、生い立ちまで元々考えられているが、
このゲームでは攻略対象の顔や生い立ち、さらには性別まで考えることができるのだ。
もちろん主人公も自分で考えて作ることができる。
なので攻略対象も主人公も男同士、女同士にして趣向が違う人でも、楽しめるようになっているのだ。
それはさておき、攻略対象や主人公を自由に変えられるこの世界で、どうして乙女ゲームであると気づいたかというと、
このゲームが好きすぎたあまり…
ではなく、自分の家名を聞いたことがきっかけだった。
実はこの世界、悪役の顔や性別、生い立ちを考えることはできないのだ。
この一文だけで察してほしい。
そう!!私は所謂、悪役令嬢というものだったのだ!!!
その時の絶望ははかり知れなかった。
ラノベとかではよく悪役令嬢に転生する話がよくあるが、実際に体験する身としてはなかなか受け入れられるものではない。
ラノベでは主人公たちは早くに立ち直って断罪を回避しようとするけれども、実際はそんな簡単に納得できるようなものではない。
これからは断罪されないように常に気を張って生きなければならないのだ。
そんなすぐに立ち直れるわけがない。
私はものすごく悩みに悩んだ。
そして結論を出した。
それは…
まず、大人になろう!!!
そう、私はまだ赤ちゃんなのだ。
中身はもうとっくに成人しているのだけれども、まだ体は赤ちゃんなのだ。
私は何故か赤ちゃんに転生した。
で、その赤ちゃんが将来の悪役であったというわけだった。
大人にならないことには何も始まらない、ということでおとなしく赤ちゃんの振りに徹することにした。
実際、大人になってからではないと悪役になろうにもなれない。
まぁ、なるつもりもないけれど。
そしてそれから月日が流れ、
私は五歳になり、今日は兄がやって来る日だ。
「やって来る」というのは実の兄ではないからだ。
ゲームには書いてなかったが、私には義理の兄が出来るらしい。
「お嬢様、そろそろ到着されます」
どうやら来たようだ。
玄関に行くと立派な馬車があった。
その馬車から出てきたのは、絶世の美少年だった。
白い髪にルビーのように真っ赤な瞳。
もしかしたらこの人が攻略対象なのかも知れないと思ったぐらいだ。
思わず、見惚れてしまっていた。
気を取り直して、
「初めまして。アビゲイルと言います。」
何とか挨拶をした。
「初めまして。ジュリアスです。」
…挨拶を返してくれた!
そしてにっこりと笑ってくれた。
でも何だかその笑顔が本当の笑顔ではないような…?
違和感を覚えつつ、義兄様を屋敷に案内した。
屋敷を案内し終わって、義兄様は部屋に行った。
遊びに誘おうと、義兄様の部屋へと尋ねた。
「うぅ…」
何か呻き声のようなものが聞こえる。
心配になって覗くとそこでは
義兄様が泣いていた。
「義兄様…?」
「アビゲイル…!?」
「あの…ごめんなさい…覗き見するつもりはなくて…」
「大丈夫だよ。どうしたの?」
「義兄様と一緒に遊びたくて…義兄様、大丈夫ですか。」
「あぁ。少し…いや何でもないよ。」
「そういう訳にもいきません。義兄様には悲しい思いをしてほしくありませんから」
そう私が言うと、義兄様は目を見張り、泣いていた理由を教えてくれた。
義兄様は元々隣国の帝国の王族だったそうだ。
元々は仲の良い家族だったそうだけれども、義兄様のお母さんが死んでから新しくお母さんになる人が来てから全てが変わってしまったそうだ。
最初は優しかったらしいのだが、義弟ができてから徐々に義兄様への態度が厳しくなって行ったようだ。
それに伴うように、義兄様のお父様の様子もおかしくなっていき、遠縁にあたる我が家に引き取られたそうだ。
それはきっと想像以上に苦しいだろう。
でも義兄様ともっと仲良くなりたい。
「…義兄様、きっと私には想像もつかないような苦しい経験をしたことでしょう。でも、この家に来たからには、私たちを本当の家族だと思ってください!」
「…!ありがとう。」
そういうと今度は本当の笑顔で笑った。
「はい!」
そう言ってにっこり笑って返すと、何故か赤くなった。
それから月日がたち、私はいよいよ学園に行くことになった。
乙女ゲームの舞台である場所だ。
ヒロインはどんな子だろう、とか友達できるかな、と考えているうちに緊張してきた。
「緊張してる?」
馬車の中で隣に座っている義兄様が聞いてきた。
そう、義兄様もいるのだ。
義兄様は一年前に学園に入学したのだけれども、新学期になる前に一度家に帰ってきてくれて、一緒に学園に行くことになったのだ。
「少しだけ…」
「そっか、でも大丈夫だよ。先生方も優しいし、それに僕もいるからね。何かあればすぐに言ってね。」
というとにっこり笑った。
「はい」
と返しつつ、顔が赤くなっていくのを感じた。
最初は義兄様の顔がいいからだと思っていたけど、最近気づいてしまった。
私は義兄様に恋をしているのだ、と。
それを意識すると義兄様の顔もまともに見れなくなってしまった。
でも、義兄様と私は義とはいえ兄弟だし、義兄様も私のことを妹としてしか見ていないことはわかっている。
どんなに義兄様のことが好きでも結婚することはできないのだと思うと胸がちくりと傷んだ。
だから気づかなかったのだ、義兄様が
「…かわいい、はぁ心配だなぁ、学園にいる男どもがアビーに群がったりしたらどうしよう。あぁもういっそ閉じ込めてしまいたいなぁ。」
と不穏なことを呟くのを…
学園に入ってからよくある一人の女子生徒によく絡まれるようになった。
名前はリリー、子爵令嬢で、ピンク色の髪に瞳をした庇護欲をそそるような見た目の女の子だ。
多分彼女が乙女ゲームのヒロイン的ポジションなのだろう。
なぜそう思うかというと彼女が私につかかってくる時に
「私がヒロインなのに」とか「絶対にジュリアスを攻略してやる」とか「悪役令嬢なのにどうしていじめてこないのよ!」などと言っているからだ。
きっと彼女も私と同じく、転生者なのだろう。
まぁ彼女がヒロインだという証拠はないため実際はどうかはわからないが、彼女は自分がヒロインだと言っているため、もしかしたらそうなのかも知れない。
それにもしかしたら、この世界は乙女ゲームに酷似しただけかも知れないとも最近思うよになってきた。
しかし、彼女が転生者であろうがこの世界が乙女ゲームの世界で、彼女がヒロインだとしても、私にとってはどうでも良いことだ。
私はゲームの中のアビゲイルと違って誰もいじめていないのだから、断罪が起こるわけはないのだ。
例え、ゲームの強制力が働いても、それは私にはどうすることもできない。
つまり、それに関しては問題があまりないのだけれども。
問題は彼女が義兄様を攻略しようとしていること。
義兄様は私の前世も含めても初恋の人だ。
いつかは互いに別の人と結婚しなくてはならないとしても好きな人が、違う人と一緒にいるのを見るのはやはり辛い。
ある日、私は学園の庭を歩いていると、誰かの声が聞こえた。
その声を聞くとどうやら、義兄様とリリーのようだった。
「ど…て…わ……わたし…ヒロ…な…に」
「ぼ…アビ……す…だ…ら」
話はよく聞こえなかったけれども義兄様が顔を赤くして話しているところを見て
私はリリーと義兄様が婚約するのかも知れないと考えると涙が溢れてきてその場から立ち去った。
しばらく私は立ち直れず、部屋で泣いていたが、それではいけないと思い普段通りに生活しようと思ったのだけれども、やはりあの光景が忘れられず、義兄様を避けてしまった。
そんな日々を繰り返していると、避けていたはずの義兄様と家で会ってしまった。
「アビゲイル!」
「ッ!」
私は反射的に逃げようとしたのだけれども、義兄様に
「待って!」
と手を掴まれた。
義兄様はスラリとしている割に力が強いのだ。
そしてそのまま義兄様の部屋に連れて行かれた。
「アビゲイル、最近僕のこと避けているよね?どうして?」
「……」
「アビー?」
お兄様の笑顔なのにある圧に負けて口を開いた。
「…嫌いになりませんか?」
「僕がアイビーを?なるわけがないよ。」
言質はとったと半ばヤケクソになりながら、再び口を開いた。
「私、義兄様のことが好きです!だから、リリー様と義兄様が話している姿を見て嫉妬したんです!それで義兄様のことを避けてしまいました…」
きっともう私のことなど嫌いになっただろうと義兄様を見ると、何故か顔を真っ赤にして嬉しそうだった。
「本当に?僕もアイビーのことがずっと好きだよ。」
「嘘です!だってリリー様と頬を赤らめて話していたではないですか!」
「あぁそれで誤解したのか。確かに、ベリー嬢に好きだとは言われたよ。」
やはりと思った。ちなみにベリーとはリリーの家名である。
だけどと義兄様は続けた。
「僕はずっとアイビーが好きだからね。それを伝えたんだよ。アイビーのことを話している時に顔が赤くなっていたんじゃないかな。」
「じゃあ義兄様は本当に私のこと…」
「うん、好きだよ。」
「私も好きです。」
誤解が解けて、義兄様と仲直り(?)をして私たちは晴れて恋人同士になった。
長編も出す予定なのでそちらも見てください!!
少しでもいいなと思ったら評価つけてください!!
よろしくお願いします!!




