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配属され始めて小児内科病棟に足を踏み入れた瞬間を今でもはっきり覚えている。加賀山師長に連れられて緊張しながらナースステーションに向かっていた時、入院中の子に
「あ〜、新しい看護師さんだぁ」
満面の笑みでこちらを見ながらそう言って手を振ってくれた。
「はじめまして。高梨妃茉利です」
そう返事をしたら私の前を歩いていた加賀山師長が
「ゆりちゃん、まだ病室にいる時間じゃないかな?」
「そうだよ。ゆり、トイレの帰りなの」
「そう。えらいね。プレイルームで遊んで良い時間はまだ早いよ」
師長が、ゆりちゃんという女の子に話しかける。
「ちゃんと帰るよ。ねぇねぇ、妃茉利ちゃんは、ゆりのお部屋に来る?」
「今日みんなに挨拶に回る予定だから、その時にお話ししようね。それまでお部屋で安静にしていてね」
「はーい」
ゆりちゃんは、私に手を振り病室に戻っていった。
「高梨さん、良い対応だったわよ」
「ありがとうございます」
ぼんやり懐かしく看護師一日目の事が思い出された。そんな時、早苗先輩に声をかけられ現実に戻る。
「ひまちゃん、真衣ちゃんの採血フォローお願い」
「はい。病室でしますか? 処置室でしますか?」
「そうだねぇ。大泣き確定の処置は基本処置室でするもんね。最近、真衣ちゃん治療頑張ってくれてるから病室でも良いかなって思う」
「わかりました。いつでもいいので早苗先輩の処置時間に合わせます」
「ありがとう助かる。今から良い?」
「了解です」
早苗先輩はナーシングカートに必要なものを乗せて準備を整えていた。病室に二人揃って向かう。
936号室の左手前のベッドの水田真衣ちゃんに声をかけた。
「真衣ちゃん、朝の回診の時にお話ししていた採血をさせてもらいに来たよ」
早苗先輩が、子供でもきちんと丁寧に説明をする。以前に、子供でも自分の病気と向き合っている子にはしっかり説明してから処置をしてあげると良いと聞いた。
「ひまちゃんがするの?」
「私は早苗看護師のお手伝いで来たんだよ」
「ひまちゃんは、しないの?」
「できなくはないけど、まだまだ先かな」
「どうして」
「看護師さんになったばかりの赤ちゃん看護師さんだからかな」
「ひまちゃん、赤ちゃんなの?」
「早く赤ちゃんじゃなくなる様に頑張るね」
「あはは。ひま赤ちゃんがんばれ〜」
「応援ありがとう」
真衣ちゃんが落ち着いたところで、早苗先輩が採血の準備に取り掛かった。
「真衣ちゃん、こっちの腕のここから採血するね」
動かない様に抑える。怖がらせない様に話しかけながら違和感なくスムーズに行わなくてはいけない。これが私に課せられたお手伝い。
「真衣ちゃん、私とお話ししてる間に終わっちゃうよ」
そう言って、腕をそっと固定する。
「真衣ちゃん、今日のパジャマ可愛いね」
「ひまちゃん、わかる? これねぇ、真衣の好きなキャラクターなんだよ」
「私は、この子が可愛いと思う」
「えぇ〜、ひまちゃん宮城先生と同じこと言ってる」
「そうなの? お揃いになっちゃった」
「ひまちゃん、宮城先生とラブラブだぁ」
いやいや、選んだキャラクターが一緒というだけでラブラブに発展するとは、最近の小児は凄いなぁ。
「いたぁ〜。早苗ちゃん、痛いよぉ!」
「ごめんごめん。もう終わるからね」
「はい。おしまい」
無事に採血が終わった。午後一番の検査に回す。




