悪女頂上決戦!?〜前世で断頭台に散った極悪王妃vs前世で火炙りになった悪虐魔女&前世はただの日本人〜
※残酷で不快な描写があります。
※登場人物は倫理的に問題ありです。
「はぁ〜〜〜〜〜〜っ!!」
ディアナは大仰にため息をついた。
周囲に控えているメイドたちは、壁と同化すべく空気に徹する者。お嬢様と同様に、うんざりした顔で眺めている者。被害を受けないように、そそくさと逃げ出す者。
それが日常になった今、ディアナの指示で好きなように対応させていたのだ。
(また始まったよ。なにが楽しいのか、毎日毎日飽きないねぇ〜)
何故なら、それが始まったら当人たちの気の済むまで放っておくしか術がないから。
「あらまぁ。ナイフを振り回すなんて、なんてお行儀の悪い令嬢なのかしら? シャルロッテさん――はっ!」
次の瞬間、テレーゼの投げたフォークが、鋭い直線でシャルロッテの眉間に飛んでいった。
カンッ! ――と、高い音が短く鳴る。
シャルロッテが懐から暗器の短剣を瞬時に取り出して、それを弾いたのだ。
「お継母様こそ、物を投げるなんて、侯爵夫人として品がないですこと……」
キンッ――!!
刹那、二つの金属がぶつかる冷たい音が部屋中に響いた。シャルロッテの短剣と、テレーゼの暗器の鉄扇が交差したのだ。
か細い腕から考えられないほど強い二人の腕力が、武器を通してぎりぎりと激しくせめぎ合う。
数拍して、二人ともはじき出されるように同時に退いた。
「ふふっ……。また腕を上げましたわね、お継母様……」
「シャルロッテさんこそ……。それでこそ、殺り甲斐がありましてよ……」
ふっふっふ……と、二人は同時に不気味に笑ってみせる。
それは爽やかな朝にそぐわない、不穏で陰鬱な笑みだった。
「もう〜! 二人が遊んでいるからスープが冷めちゃったじゃない。お行儀悪いよ」
ディアナが乱れたカトラリーを側に寄せながら文句を言う。
「はっはっは。我が家は今日も朝から賑やかだな」
当主であるトーマス侯爵だけは楽しそうに笑っていた。
シャルロッテとテレーゼは、何事もなかったかのように優雅に食事を始める。メイドたちも速やかに給仕の仕事に戻る。
これは、ヨルク侯爵家の毎朝の風景だった。
◆
シャルロッテは侯爵家の一人娘だ。
幼い頃に母と死別し、その数年後に父は元・伯爵夫人のテレーゼと再婚した。
テレーゼは子爵家出身で、嫁ぎ先の伯爵とのあいだに長女ディアナが生まれた。
しかし夫が戦死して、すぐに弟夫妻に屋敷を追い出された。
それから紆余曲折して侯爵と出会い、二人は再婚することになったのだ。
シャルロッテに継母と異母姉ができた。
元来の気難しい性格と、母を亡くしてすっかり歪んでしまった彼女は、二人を受け入れることができなかった。特に継母とは、非常に折り合いが悪かった。
最初は『仲が悪い』程度だったが、あることがきっかけで二人の間に決定的な亀裂が入った。
それは、王太子エドゥアルトとの婚約である。
シャルロッテは侯爵令嬢という身分の高さから、生まれた頃より王太子の婚約者候補だった。まだ正式には決定していないが、二人の婚姻は確実視されていたのだった。
そこに、継母のテレーゼが横槍を入れたのだ。
彼女は「私の娘のディアナも侯爵令嬢なのだから、王太子殿下と婚約する権利がある」と訴えた。
さらに「今はディアナが長女なのだから、次女のシャルロッテは譲るべきだ」と、強く言い張ったのである。
これに腹を立てたシャルロッテは、継母と異母姉を殺すことに決めた。
そしてテレーゼも、邪魔なシャルロッテを殺すことに決めた。
その日から、二人の殺し合いが始まったのだ。
しかしながら、ディアナは可愛い異母妹ができたことが嬉しかった。
たとえシャルロッテから「kill you」と全面にびっしり描かれた刺繍のハンカチをプレゼントされても、紅茶に痺れ薬を盛られても、スプーンで目玉をほじくり返そうとされても、『姉の気を引きたい素直じゃない可愛い妹』だと心から思っていたのだった。
実は、三人には秘密があった。
それは、それぞれが前世の記憶を持っていたのである。
シャルロッテは、前世では王妃だった。
彼女は数多のライバル令嬢を、時に暗殺し、時に拷問処刑して王妃の座を勝ち取った。
しかし王妃になっても、彼女の苛烈な悋気はとどまることを知らずに、目障りな女性貴族を殺しまくった。
それは貴族社会の秩序を歪ませ、さらには民にも知れ渡り、とうとう夫である国王からも見放されて処刑されたのだった。
テレーゼは、前世では公爵夫人だった。
彼女は娘を王太子の婚約者にさせようと、数々のライバル令嬢を蹴落とした。時に暴漢に襲わせ、時に顔に灼熱の鉄の棒を押し付け、娘を王太子妃に押し上げた。
しかし、彼女のあまりにも残酷な仕打ちはついに公になり、「魔女」と忌み嫌われて処刑されたのだ。
そして、ディアナ。
彼女は前世は日本人だった。ごく普通の、ありふれた大学生だ。以上。
このような三人なので、殺し合いという危ういバランスを保ちながらも、楽しく(?)暮らしていたのだった。
◆
そんな賑やかな日々の中、ついに事件は起こった。
「お継母様、わたくし、お継母様のためにクッキーを焼きましたの。どうぞ、召し上がれ?」
「まぁ〜! 奇遇ね、シャルロッテさん! 私もあなたのためにケーキを焼いたのよ」
シャルロッテもテレーゼも互いにお菓子を作ったということで、急遽母と娘二人のお茶会が始まった。
「お異母姉様も、どうぞ」
「あ、ありがと……」
ディアナは皿の上のクッキーを見てため息を付いた。それらはハート型とリボン型で、ピンクや水色でアイシングをされており、とても可愛らしいのだが……。
(絶対に何か入ってるよー!!)
彼女は最近の異母妹の様子を知っていた。
シャルロッテは、来週おこなわれる王太子主催のお茶会の準備に忙しかった。
彼女はその日のために命を賭けていた。愛しの王太子に最高の姿を見せるために、日にちを逆算してドレスの制作や身体のメンテナンスなどを完璧に仕上げてきていたのだ。
なので、しばらく暗殺はお休みだ。その代わりプロの殺し屋を雇った。
だが、彼らもディアナの超回避能力には歯が立たなかったようだ。
シャルロッテは殺し屋に委ねて以来、妙に落ち着かなくて、常にそわそわと獲物を狙っているような様子だった。
さすがに表立っては事を起こさなかったが、令嬢の集まるお茶会で王太子の婚約者の座を狙っている令嬢にわざと恥をかかせたり、水面下で数々の嫌がらせをおこなっていた。
これは、かなりフラストレーションが溜まっているなとディアナは気付いた。
どうやら次女にとって、自らの手で殺せないのはストレスらしい。だから今日は、久しぶりの毒殺で張り切っているのだろう。
それに……。
(お母様も、毒がどうのってメイドに指示してたからなぁ〜)
一方、母親のほうも、最近特に不穏な動きをしていたことを彼女は知っていた。他国でしか手に入らない猛毒の植物を密かに手配していたのだ。
(……やれやれ)
これはまた面倒なことになるな、とディアナは小さく苦笑いをした。
実は面倒なことどころではないのだが、彼女は異世界転生しても思考は平和ボケ日本人のままであった。
「あら、美味しそう。いただきます」
「ケーキも素敵ですわね。いただきます」
テレーゼとシャルロッテは、パクッと同時に口に含む。
「「!?」」
次の瞬間、猛毒の種が彼女らの舌の上に一気に広がる。
それは一口で死に至るような劇薬なのだが、
「…………」
「…………」
シャルロッテもテレーゼも涼しい顔をしてもぐもぐと口を動かした。
そして何食わぬ顔をして「美味しいわね」なんて互いに褒め合っている。
その様子を、ディアナは注意深く見守っていた。
(これは、皮黴を培養させた黒カエルと地底湖の赤百合を掛け合わせた毒薬ね。熟練の薬師でも調合が困難だと言われているわ。シャルロッテさんったら、素晴らしい腕前ですこと)
(お継母様、まさか東方の貴重な黄金トリカブトと最北の氷山に眠る今平石を手に入れるとは……。どんな闇ルートを持っているのかしら? 敵ながらさすがですわ)
(えっ? 二人とも普通に食べてるけど……。本当になんともないの?)
ディアナは目の前のクッキーとケーキを矯めつ眇めつ観察していたが、母たちの様子からおそらく問題なさそうだと判断して、ひとまずクッキーをひと齧りしてみた。
「!?!?!?」
次の瞬間、舌の先にビリビリと細かい電撃が走って、自然と仰け反った。
ほんの少しだけ触れただけなのに燃えるように熱くて、慌てて近くの水の入ったピッチャーに手を伸ばし、ごくごくと一気飲みをした。
テレーゼとシャルロッテはその醜い様子を見て、眉をひそめる。
「ディアナさんったら、なんて品のない。貴族令嬢として、恥ずかしいわよ」
「まったくですわ。侯爵家の人間としていかがなものかしら」
「いやいやいや! これ、死ぬやつだから! なんで二人とも平気なの!?」
「まぁ。なんて情けない。母はそんな軟弱な娘に育てた覚えはありません」
「お異母姉様は、たまに本当にお継母様の娘だと信じられないことがありますわ。野暮ったすぎますもの」
「なんでこういう時は息ぴったりなのよ……。仲ノ宜シイコトデ……」
普段からいがみ合っているくせに、妙なところで波長が合う母娘だと、ディアナは首を傾げた。
「っていうか、もう食べるのやめなよ。いくら二人でも、このままじゃ致死量越えて死んじゃうよ? よく生きていられるね」
シャルロッテとテレーゼは、つんと澄ました表情で再びもくもくと食べ始める。
「御冗談を。これくらい平気ですことよ?」
「そうよ、ディアナさん。こんな微量な毒で死ぬなんて、脆弱すぎるわ」
テレーゼは三枚目のクッキーを手に取り、シャルロッテは1ピース目のケーキを食べ終わるところだった。黙々と音のない上品な咀嚼が続いている。
「……ねぇ、二人とも汗びっしょりだよ? それに、顔も青いし」
「平気よ、これくらい」
「そうですわ。お異母姉様は黙っていてくださる?」
「本当に死なないでよ」
「……」
「……」
「大丈夫?」
「……」
「……」
ディアナの心配する声も無視して、二人はひたすら食べ続けた。
しばらくして、
「「うっ……」」
にわかにシャルロッテとテレーゼの口から赤い泡が溢れ出て、二人同時に力尽きた。
◆
「ほら〜、やっぱり駄目だったじゃん。二人ともやせ我慢していたんでしょ!」
横並びのベッドに寝込んでいる母と異母妹の看病をしながら、ディアナは眉を吊り上げる。
「いい? もう二度とあんな馬鹿な真似はしないで!」
「今回は、たまたまですわ。次は一撃でお継母様を殺ってみせます」
「私としたことが油断していたわ。やっぱり、ただ殺すだけでは面白みがなかったわね。拷問もセットでないと」
「それもそうですわね」
「こらこらこら!」
あのあと、シャルロッテとテレーゼも全身に毒が回って意識を失い、医師の処置とディアナの懸命な看護によって一命をとりとめたのだった。
「そんな物騒な考えを持っていたら、いつか処刑されるかもしれないよ!?」
「……」
「……」
シャルロッテとテレーゼは、何かを考え込むように目を伏せて黙り込んだ。反省のうかがえる姿にディアナはやっと自分の言葉が届いたと感じて、得意げになって説教を続ける。
「いい? 歴史を遡れば、悪事を働いて断頭台に送られた貴族が山ほどいるわ。私は、二人にはそんな凄惨な運命を辿らせたくないの。だって……大切な家族なんだから!」
――家族なんだから!
(我ながら良いこと言ったなぁ〜)
なんて尊い言葉なのだろうか。これは決まったな……と、ディアナは一人悦に入っていた。
少しの沈黙のあと、シャルロッテが独り言のように囁いた。
「わたくしとしたことが、いくら希少な品とはいえトリカブトの毒ごときで倒れるなんて……。昔はもっと猛毒にも慣れていたのに」
(あ。私の話、全然届いてない)
ディアナは落胆した。
しかし、まぁ異母妹はそんな子だよねとすぐに納得した。
「そうねぇ……。私も昔は赤百合如きで潰れるような身体じゃなかったわ。前に、皮膚を焼くと言われる硫酸の液体を飲み込んでしまった時も平気だったし」
彼女の血の繋がった母にも届いていないようだ。
「あら? わたくしのお母様なんて、シャワーにして楽しんでいましたわ」
「えっ!? シャルロッテのお母様って、そんなにヤバい人だったの!?」
「硫酸ねぇ……」
テレーゼは思い出に浸るように目を細める。
「なんて懐かしい響きかしら。希釈したものをプールに満杯にして、王太子妃の最有力候補だった公爵令嬢を突き落としたのは見ものだったわ〜。まず服が溶けて、裸のまま躍っているのよ? 今思い出しても笑っちゃう、ふふふ」
「いつの間にそんなことをしていたの!?」
ディアナは残酷な母に恐れおののいたが、そもそも王太子と同年代の公爵令嬢なんて、この国にいたっけ……と、首を傾げる。
彼女の記憶が正しければ、国内の最年長の公爵令嬢でもまだ5つにも満たなかったはずだが……?
「えぇ。あのツンと澄ました公爵令嬢が平民の宴会のように醜く踊り狂う姿は、いつまでも語り種になりましたものね」
シャルロッテはくすくすと笑いながら頷いた。
「そうね。やっぱり暗殺するとしても、もっとエンターテイメント性を――え?」
「え?」
シャルロッテとテレーゼは目を見張り、互いに見つめ合った。
時が止まったかのように身体を硬直させて、ぶるりと空気が震えるのをディアナは感じ取った。
「どうしたの?」
だが長女の声は二人にはまたしても届かずに、探るように相手の顔を見つめていた。
しばらくして、シャルロッテが唇を震わせながら言った。
「で……殿下と肉体関係を持った子爵令嬢を『そんなに男が好きなら娼館で働いたらいかが?』って……」
テレーゼはゆっくりと大きく目を見開く。
「拉致をして、奴隷商に売り払ったのよね……?」
胸の底から込み上げてくる興奮で、二人の呼吸が速くなった。
「伯爵令嬢を馬車に閉じ込めて、火をつけたこともありましたわよね?」
「そう。平民出の護衛騎士と一緒にして、心中に見せかけたわ」
「えぇぇええっ!! なにやってるの!? 最低すぎるよ!」
ディアナは驚愕のあまり血の気が引いて倒れそうになったが、二人は気にも留めずに楽しそうに会話を続けた。
「毒蜘蛛と蠍と毒キノコを掛け合わせて、即効性の毒薬を調合するのは骨を折りましたわね?」
「そうね。何人のメイドが犠牲になったかしら? まぁ、夫に手を出す売女たちだったから問題ないのだけれど?」
「うわぁ……」と、一人置いてけぼりのディアナは嘆く。我が家族ながら、碌でもない人間だなと思った。
「…………」
「…………」
卒然と二人の性悪な濁った瞳は爛々と輝きはじめ、互いを愛おしそうに見つめ合った。
「シャーロットさん? あなた、シャーロットさんなのね!?」
「えぇ、わたくしですわ。テリーザお母様!!」
わっと歓声を上げながら、二人は激しく抱き合った。目の前の存在を確かめ合うように、何度もぽんぽんと両手で背中を包み込む。
「え? なに? どういうこと??」
ディアナはその光景を理解できず、ぽつりと突っ立ったまま目を白黒させた。
存分に感動を味わったあと、テレーゼは目尻に溜まった涙を指で拭いながら、柄にもなく声を弾ませて言った。
「信じられないかもしれないけど、私もシャルロッテさんも前世の記憶があるのよ。それで……」
「わたくしたち、前世では実の母娘でしたのよ!」
シャルロッテが満面の笑みを浮かべる。初めて見る異母妹の笑顔は、甚だしく可愛くて眩しかった。
母は涙を堪えながら声を震わせる。
「あのあとシャーロットさんがどうなったか本当に心配だったのよ。元気に生まれ変わっていて良かったわ」
「もうっ、大変でしたのよ! 悪虐王妃だって難癖つけられて、四肢を切断されてしばらく見世物にされて、最期は断頭台で首を落とされましたわ」
「まぁ、なんてこと! 私も、闇の魔女とかなんとか言われて、下半身から脳天にかけて鉄の棒を突き刺されて、火炙りにされて災難だったわ」
「まぁ〜! お母様もご苦労なさって」
「シャルロッテさんこそ」
「二人とも前世で何やらかしたの!?」
とんでもない悪女たちだとディアナは呆れ果てたが、母と妹が和解したからまぁいいやと胸を撫で下ろす。
「たしかに、二人は似たもの同士だと思っていたのよねぇ〜。前世が親子なら納得だわ」
「あら? お姉様ったら全然驚かないんですね」
「この子は変なところで肝が据わっているのよね」
「だって私も前世の記憶を持っているもの」
「「えっ……?」」
想定外の告白に、今度はシャルロッテとテレーゼが目を丸くした。
ディアナは懐かしそうに目を細めて微笑む。
「日本っていう国でねぇ〜。ここよりずっと平和な国で、好きな時に好きな物を好きなだけ食べられるし、娯楽もいっぱい揃っていて、毎日遊んで暮らしていたわ」
「……やっぱり、お姉様ってどこか抜けてて変だと思っていたのですよ。前世を引きずって平和ボケしていたのですね」
「そうよね。私の娘にしては間抜けだと感じていたのよ」
「ちょっと! 聞こえているからね!!」
ディアナはヒソヒソと自分への悪口が止まらない母娘を牽制するように大きく咳払いをして、
「でも、二人が仲良くなって本当に嬉しいわ。……もちろん、王太子殿下の婚約者は私じゃなくて、シャルロッテに決まりよね?」
キラリンと瞳を鋭く光らせる。これを機にちゃっかりと自分の希望を通そうとするディアナであった。
テレーゼは二人の娘の顔を見ながら大きく頷く。
「当然よ。王太子妃になるのは、シャルロッテさんのほうが断然相応しいわ」
「お母様が味方ですと、とても頼もしいですわ」
「あ〜、良かった。私も王太子妃なんて真っ平ごめんだったから」
前世で王室が舞台の海外ドラマをたくさん見ていたディアナは、こんな面倒くさい立場は絶対に嫌だと思っていた。
騎士や男爵などの下位貴族に嫁いで、自由に暮らすのが彼女の夢だ。侯爵令嬢も、正直しんどい。
「たしかに、ディアナさんには向いていないと思っていたの。覇気がないし」
「お姉様はどんくさいですしねぇ」
「こらこらこら! 変なところで息ぴったりにならないでよ」
「くすくすくす」
「くすくすくす」
「はぁ〜〜〜〜〜〜っ!!」
ディアナは大仰にため息をついた。
家族の親和は喜ばしいものの、今度は結束した二人によって自分が一番被害にあいそうだと思うと気が滅入った。
でも、今後の暮らしを想像すると、ちょっと楽しみでもある。
「さて、シャルロッテさん」
テレーゼがきりりとした改まった態度で次女を見て言った。
「私たちが次にやるべきことは分かっているわよね?」
「もちろんですわ、お母様」
シャルロッテも気持ちを切り替えるように背筋を正す。二人のあいだの空気が、にわかに張り詰めていく。
「え? なに? 前世での母娘の決まりごとでもあるの?」と、ディアナは一人だけ呑気な様子で尋ねた。
すると、シャルロッテとテレーゼは、口端に残酷な笑みを浮かべて言い放った。
「「さぁ……王太子殿下の恋人の、男爵令嬢を殺しに行きましょうか…………」」
◆
【次回予告!】
エドゥアルト王太子の恋人のローゼ男爵令嬢を殺しに、王宮へやって来たシャルロッテとテレーゼ(と、ディアナ)。
しかし、そこに待ち受けていたのは、前世・闇のギルドマスターの男爵令嬢と、前世・ローマ教皇の王太子だった!
果たして母娘は、二人に勝てるのか……!?
※続きません
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