最後の1時間を共有する
朝、朝日に照らされて目を覚ました高校生の身体の中で俺は覚醒した。
高校生の身体の中で覚醒したって言っても、俺は此の高校生の行動に一切干渉できない。
ただ高校生の身体の中にいるだけの存在。
此の高校生は、旅客機に搭乗して海外に修学旅行に行くマンモス高校の生徒の1人。
離陸時間が朝6時のため生徒たちと引率の教職員たちが空港にバスで到着したのは、丑三つ時を少し過ぎた時間だった。
そのため生徒や教職員の大半は、旅客機に搭乗し座席に座ると直ぐに寝入ってしまう。
離陸する1時間ほど前に目覚めた此の生徒は、同じように目覚めた隣の席の友人とお喋りを始める。
搭乗している旅客機が1時間後、離陸した直後に墜落する事も知らずに。
何で墜落するって断言できるのかって言うと、航空整備士の俺自身が此の旅客機に細工しているからだ。
でも……でも……俺は、墜落させるつもりなんて無かった。
ただ此の旅客機の副操縦士に嫌がらせをしたいと思い、旅客機が離陸滑走を始めた直後にエンジンが停止するように細工しただけだった筈なのに。
それなのに旅客機は滑走路から飛びたった直後にエンジンが停止、滑走路の先のタワーマンションが林立する地区に墜落した。
墜落した旅客機が満載していた燃料が飛び散り、数棟のタワーマンションで火災が発生。
早朝だった事もあって、火災が発生した数棟のタワーマンションの住民の殆んどは逃げる事が出来ずに焼死。
俺は副操縦士に対する個人的恨みの為に、旅客機の乗客乗員と逃げ遅れたタワーマンションの住民合わせて万に近い人数の人を殺してしまったのだ。
墜落から数ヶ月後俺は逮捕され裁判で死刑を言い渡され、数年後死刑を執行される。
万に近い人数の人を殺してしまったのだから死刑は当然だとは思うけど、死にたく無いと執行され吊るされるまで神様に祈り続けた。
そうしたら執行された直後に頭に声が響く。
『よかろう、お前の寿命を1年ほど延ばしてやろう』
俺は吊るされて薄れゆく意識の中で『ヤッター』と叫んでいた。
それから俺は此の高校生の身体の中で覚醒しているように、俺が殺してしまった万に近い人数の人たちの最後の1時間を、共有する身になる。
旅客機が墜落する恐怖と地面に激突して身体が砕け散る痛み、燃え盛るタワーマンションで逃げ惑い焼死する絶望と痛み。
それを殺してしまった人の数だけ、繰り返し体験させられているのだ。
神様が願いを聞き遂げてくれたのは慈悲では無く、罰としての物だったんだと今更ながら思っている。




