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6.冒険者になった転移者

 順調に森を抜けるとミラの話に合ったように村が見えてきた。それほど大きな村ではないが活気に満ちていた。滞在などはせず乗り遅れないよう足早に馬車乗り場に向かう。


「あ、鞄落としたからお金ない・・・。」


 いざ馬車に乗り込もうとするとその事実に気が付く。ミラは馬車に乗ることを見越して貨幣を鞄に詰めていたがその当人が鞄を落としていたら意味がない。


(ミラさんごめんなさい。いつか戻った時には必ずお礼をします)


 心の中で謝罪をした朔だが乗車代金が無いことには変わらない。


「そういえば鞄を無くしたと言っていましたね。私が支払うので大丈夫ですよ。助けて頂いたお礼もあるので」


 そう言うとティミスは二人分の代金を御者に支払う。


「本当にありがとうございます。歩いて向かわなきゃいけないところでした」


 ティミスに頭が上がらない朔はローブを脱ぐと、座布団にしてもらおうと差し出した。驚き、遠慮していたティミスだったが朔に推し負け受け取ることにした。

 朔らの他にも数名の冒険者と思われる人物が乗り込むと馬車はゆっくりとアヴェントに向け出発した。


 * * *


 馬車で夜を過ごし朝を迎える。勿論柔らかいベットなどがあるわけもなく固い木の板の上で眠りについた。朔は馬車で寝るという初めての経験で全身を痛めた。

 ティミスと出会ってから一切声を出さなくなったルナは夜の闇と共に姿を消していた。


「見えてきたよ」


 御者の男がそう言うと朔は馬車から顔を出した。前方を眺めると街を一周囲む城壁が見えてきた。街まで距離があるはずなのに壁の端と端が見当たらない。異世界で見る初めての街に早くも驚愕していた。


(ここが、冒険者の街 アヴェント。東京ドーム何個分なんだろう)


 終点が見えてくると馬車の車輪のギイギイと回転する音ですら心地よく感じた。


(始まるんだ。ここから、本当の冒険が)


 * * *


 魔石版を提示すると難なく城門を抜けることが出来た。街の端ということもあり店などは並んでいないが石造りや木造の立派な住宅が隙間なく立っている。


「サクさんは冒険者登録するのですよね?」

「そのつもりです。今日中に向かおうと思ってます」


 ティミスとの会話の中で朔は街外れの村に住んでいたことにした。異世界から来たとは当然言えるわけもなく冒険者の街も初めてとなれば遠い田舎の村で暮らしていたと嘘をつくのが一番だと考えたからだ。


「冒険者協会まで案内したいとこなのですが私もこの後用がありまして叶いそうにないです」

「そうなんですね。少し残念ですけどこれまでで十分お世話になったので」

「これを受け取ってください」


 ティミスが手に持った布製のポーチを朔に渡す。中を開けると貨幣が入っていた。


「う、受け取れないですよ。乗車代金も払ってもらったのに」

「いいえ。あれだけでは命を助けられた恩返しには足りません。それに冒険者登録にも代金がかかります。それに宿に泊まるお金も必要でしょう」


 無一文では冒険者登録すらできない。冒険者にならなければ生活費どころか宿代も払えない。


「ありがたく頂戴します。いつか必ずお返しします」


 断っていた朔だったが今度はティミスの推しに負け受け取ることになった。


「そうですね。それであなたが納得するのなら。この街は広いですが私たちは同業になる。またどこかで会うことも叶うでしょう」


 別れを告げたティミスはローブのフードを被ると路地へ姿を消した。その後ろ姿を見送り朔も歩き始める。

 冒険者協会は街の中心に位置するらしく、大通りを進み続ければ必ず辿り着くそうだ。街の中心に近づくにつれ行き交う人々が増える。


(あのふさふさした耳と尻尾は獣人族?)


 吸血鬼、エルフに続き獣人を発見する。触れてみたいと心がざわついたがその気持ちを奥底に閉じ込めることにした。

 辺りを見回すと果物、野菜、肉、魚など見覚えのある品々が並ぶ店が多くある。それだけではなく、鍛冶屋、薬草専門店、魔導書専門店などの見慣れない店も並んでいた。


(す、少しだけなら覗いてもいいかな・・・。いや、今持ってるのは大切なお金だ。無駄遣いしないように我慢だ・・・)


 唇を噛み好奇心を抑え込む。

 街の様子をみて異世界に来たということを再度実感した。


 * * *


 アヴェントの中心、巨大な迷宮を囲うように建てられた冒険者協会。大迷宮の最終地点にたどり着かんと志を抱いた冒険者が集まる場所。常に死の危険と隣り合わせの職業であるがそれに見合う対価が冒険者にはある。

 魔物の核である魔石、ドロップアイテム、迷宮内に存在する鉱物や薬草などの採取物、それらを冒険者協会で換金することで莫大な富を得ることも夢ではない。実際、一年未満で一生暮らせるだけの富を稼いだ者もいた。そんな夢のある職業だがその夢は誰しもが叶えられるわけではない。


「登録は以上です。迷宮に潜られる際は右手にあるカウンターでお願いします」


 ____________________

 氏名 瀧波(たきなみ) (さく)

 性別 男   年齢 17歳


 筋力値 F   耐久値 F

 敏捷値 D 知力値 A   

 魔力値 F

             総合値 F

 _____________________


 冒険者登録で再度基礎能力診断を受けたが敏捷値がFからDに上がっただけで総合値は変わらずFのままであった。

 吸血鬼になったことによる明らかな成長や森での魔物との戦闘経験を経て自身が力をつけた実感があったがそれらを否定された。


 一通りの説明を受け協会を出る頃には日は沈んでいた。冒険者協会で登録する前に通りかかった宿で宿泊をすることに決めていた朔はその場所へ戻っていた。


「ていうか、Fが三つとはいえ知力値のAがあるのになんで総合値Fなんだ?平均したらDとかじゃないのか?」


 街灯が照らし整備の行き届いた道を歩き、独り言を呟いた。


「それは魔力値の比重が重いからよ。魔力値の有無で魔法の威力も使用回数もすべて決まってしまうわ。この世界では魔法が全てなのよ」


 朔の独り言を拾った人物が後ろから声をかけた。


「あ、ルナ。どこ行ってたんだよ一体」


 振り返ると行方不明になっていたルナが腕を組み堂々と立っていた。


「私も忙しいの。いつでも君と居るわけではないわ」


 それはそうだろうと納得した朔。数日一緒にいた程度の間柄だが親にもにた安心感を感じていた。


「確かに魔法が重要なのはティミスさんの戦闘を思い出せば理解できるけど吸血鬼の力がまるで反映されてないのはなぜなんだ?」

「正確な答えは分からないけど反映されないのは事実ね。種族が変わることなんてそうあるものじゃないから水晶が判定できないんじゃないかしら」


 曖昧な回答に混乱する朔だったがルナが知らないことを他の誰かが知っているとも思えなかった。


「魔力値は才能と言われているけど走り続ければ耐久、敏捷が上昇するように魔力値も魔法を使えば使うだけ成長する」

「魔力値がFからSになる可能性も・・・?」

「聞いたことはないけど絶対にあり得ないとは言えないわ」


(可能性はあるんだ。あとは努力するだけだ)


 無能な転移者 瀧波 朔は、冒険者 サクになった。


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