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5.森で出会ったエルフ

 太陽が頂上に到達すると暖かな日差しが朔を包んだ。昨晩、降り積もった雪が水になって溶けていく。森の木々を伝って吹いてきた風は自然と大地の香りがする。


「今の爆破音は?」

「おそらく雷魔法のものでしょうね」


 森の自然を全身で堪能していると突然進行方向から轟音が鳴り響く。普段聞きなれないその音の原因地点に向けて走り出す。


(魔法を使ったってことは人が近くにいるかもしれないな)


 現場にたどり着くと朔は姿を木の影に隠した。魔法を放った人物がベナウェースト領の人間である可能性を危惧したからだ。宿から朔が姿を消したことは確実に表沙汰になっている。朔が何かを悟ったと考えた領主の配下が口止めのために森を探し回っていてもおかしくない。

 音を立てないよう慎重に隠れながら進むとフードを深く被った一人の女性冒険者が魔物と対峙していた。


「あれは昨日君が追い回されていたローウルフだね」


 冒険者は弓を力いっぱい引き、矢を射る。放たれたその矢には雷属性の魔法が付与され、走る稲妻が大気を切り裂いた。見事に命中した一体のローウルフは黒煙を立てながら地面に倒れた。


(な、なんて威力なんだ。やっぱり魔法は凄いな・・・)


 魔法は使えず刀で戦闘を行っていた朔にはこの冒険者の戦いが勇ましく映った。だか、冒険者はところどころに傷があり血を流していた。

 冒険者とローウルフとの実力差は歴然だったが、群れで行動するローウルフの圧倒的な数の力が差を埋めるどころか追い抜いている。

 当然だが弓使いは後衛だ。正面から複数の敵に挑むのは自殺行為に等しい。


(ま、まずいな。助けに入らないと)


 明らかに劣勢である状況を見て救援に入るべきだと判断した。


「く、くそ。なんで足が竦むんだ!」


 冒険者の助けに入ろうと木の影から飛び出そうとするも昨晩の光景が浮かび足が前に進むのを拒んだ。魔物との戦闘で経験を重ね自信を持っていた朔だったがローウルフに対するトラウマがぬぐい切れていなかった。しかも自分より明らかに強い冒険者が劣勢になっている状況に恐怖していた。

 決心がつかない朔を横目にローウルフたちは弱った獲物めがけ攻撃を繰り返していた。

 冒険者の魔力も底をつき通常の矢を放つことしかできなくなる。


「先に言っておくけど私は何もしないよ。助けたいなら自分の力でどうにかなさい」


 朔が助けを求めることを察知したように逃げ道を潰す。冒険者から目を背けこの場を後にすれば生き残れるだろう。もし助けに入ったとしても確実に生き残れる保証はない。


「だとしても、後悔しない方を選ぶ!」


 前者の選択を想像し、その判断はあり得ないと考えた。岩のように固まった自らの両足を砕く勢いで殴る。覚悟と勇気の一歩を自ら踏み出した。


「・・・ここで倒れるわけには・・・・・・」


 冒険者のその言葉とは裏腹に片膝を地面に着く。好機ととらえたローウルフが冒険者目掛け飛び掛かる。


「そうはさせない!」


 勢いよく冒険者の目の前に飛び出した朔はその手に握った刀で二匹のローウルフを連続で切り伏せる。


(大丈夫だやれる。昨日の俺とは違うんだ)


 自らを鼓舞し目の前のローウルフに刀を構える。


「あなたは・・・?」

「話は後で。今はこの状況を切り抜けよう」


 朔の言葉を聞き一度地に着いた膝を再度離陸させ立ち上がる。


「弓で援護します」


 威嚇していた魔物たちが一斉に朔を襲う。だが今の冷静な朔にはその動きをとらえることが出来ていた。

 鋭い爪や牙での攻撃を刀で受け流し、隙を見て反撃をする。


(確かに早い・・・けどウングラビットよりは遅い)


 目の前の敵を確実に倒していた朔だが背後からの奇襲には気づくことが出来ない。


「死角は任せてください」


 まともに食らったら皮膚がえぐられるだろう爪が朔の背中を捉える直前に矢によって撃ち落される。的確な援護狙撃が朔の戦闘を後押しする。即席とは思えない二人の連携で魔物の群れを壊滅させた。


「今ので最後か?」


 ローウルフが増援する気配はなく、森は再び静寂に包まれる。


「そのようです。まずは何よりも助けて頂きありがとうございました。あなたのお陰で生き延びることができました」


 深く被っていたフードを脱ぎ、感謝と共に深々とお辞儀をする冒険者。フードの下には、艶やかで煌めくようなトパーズ色の髪を後ろで結び、森の妖精を想像させる長い耳をしていた。


「あ、あのそんなに耳を注視されると少し恥ずかしいのですが・・・」


 そう言うと少し頬を赤らめる冒険者。


「す、すいません。初めて見たので少し驚いて、不快にさせてしまっていたらすみませんでした」

「そんなことは無いです。確かにエルフはあまり見かけないでしょうし」


(やっぱりエルフだったか。流石は異世界だな)


 吸血鬼が居るのだから他種族が居てもおかしくは無いと考えていた朔ではあったが実際に目の当たりにすると驚きが隠せなかった。


「自己紹介がまだでしたね。私は冒険者をしているティミスです」

「・・・サクです。よろしくお願いします」


 一瞬フルネームを言おうとした朔だが堪えた。

 瀧波という苗字は異世界の住人からすると不思議で聞きなれない。そもそも冒険者は下の名前しか名乗らないらしい。これらは朔の本名を聞いたルナからの助言だ。

 軽く自己紹介を終えるとティミスがふらつき右手を木に着いた。


「大丈夫ですか。傷薬傷薬・・・そうだ鞄ごと無くしたんだ・・・すみません」

「心配はいりません。傷も浅いので。それに魔力切れまで魔法を使用した代償で立ち眩みがしてるだけなので少し休めば回復します」


 当然そんな状態のティミスを一人残して進むわけにもいかず、朔も一時休憩を取ることにした。夜とは比べ物にならないほど穏やかで心地の良い森の中で背中を木に預け二人は会話する。


 ティミスはこの森の奥地にある故郷を訪れた後に冒険者の街 アヴェントに戻っている最中だった。大迷宮アヴェントを中心として栄えた街だから名前をそのままアヴェントにしたようだ。


「日中に出る魔物なら私一人でも大丈夫だと思っていたのですがあれほどの数が群れているとは予想していませんでした。自身を過信しすぎていたようです」


 反省をしたティミスは左足の掻破痕(そうはこん)に手をかざす。


「天からのささやかな慈悲の癒しを ヒーリング」


 聖属性魔法の詠唱をするとティミスの手のひらから暖かな光が発生する。みるみるうちに痛々しい傷が閉じていき綺麗に消えていった。

 朔は初めて見た治癒の魔法に驚いたが顔には出さなかった。聖属性魔法を初めて見たなんて明らかに不自然だと考えたからだ。


「これで歩くのも容易でしょう。日が昇っているうちに森を抜けましょう」

「はい。進みましょう」


 目的地が同様に冒険者の街であると知った二人は行動を共にすることにした。


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