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3.進むべき道

 魔力測定の後、解散してから真っ直ぐ自室に戻り朔は一人ベットの上で横たわっていた。数時間前の光景が鮮明に浮かび何度も肩を落としため息をつく。


(どんだけ落ち込んでも能力が上がったりはしない、か)


 これから成長していけばいいと前向きな考え方を分かっていてもそう簡単にはいかない。

 鎧を着た騎士や魔導士が見せた魔法だとか異世界の非現実感に少しばかり浮かれていたのかもしれない。自分は最強の転移者だなんて期待をしていたのかもしれない。現実はそう上手くはいかなかった。

 そんなことを一人考えていると突然睡魔が朔を襲った。合計すればすでに一日以上寝ていないことになるから当然だ。ゆっくりと吸い付くように瞼が閉じ眠りに入ろうとすると扉をノックする音が聞こえた。


「はい。開いてますよ」


 扉の鍵をかけていなかったから起き上がりベットに寝ころんだまま訪問者を招いた。朔の部屋を訪れるのは陸斗ぐらいなものだから特に身構えることはなかった。


「突然申し訳ございません。教会でシスターをしていますミラです。お話があり参りました」


 朔の予想は大きく外れ、扉の先には修道服に身を包んだシスターの姿があった。


「す、すみません。友人だと思い失礼な態度を取ってしまい」


 横になっていた体を急いで起こし立ち上がる。


「こちらこそすみませんお休み中でしたか?」

「い、いえ。少し横になっていただけなので大丈夫ですよ。それで話って何ですか?」

「他の人には聞かれたくない話なので入室してもよろしいでしょうか?」


 朔は了承すると窓際に置かれていた椅子と丸テーブルに案内した。対面するように座り朔が緊張しているとミラは話を始めた。


「お話ししたいことは瀧波様の基礎能力測定の結果についてです。瀧波様は総合評価Fの判定でしたが本来あり得ないことなのです」

「僕の能力が皆より低かったことは受け入れます。自分の今までの怠慢が招いたことだとも思うので」


 朔は習い事や部活などをしてこなかったから運動する機会が体育の授業くらいだった。実際、高い総合値を出した生徒は部活で活躍する運動神経の良いものが多かった。


「瀧波様のおっしゃる通り基礎能力ですのでこの世界に転移する以前の能力を受け継ぎます。ただ、本来転移者は神の加護を受けます」

「神の加護ですか・・・」

「はい。皆様が異邦の地から転移されてすぐこちらの世界の言語を理解できたかと思います。これも加護の一つです」

「確かに何の違和感もなく会話してましたけど言われてみれば全く同じ言語体系をしてるはずないですよね」

「一番わかりやすい加護の例だと思います。言語の加護は当然、瀧波様にも与えれれている。ですが基礎能力を飛躍的に向上させる神の加護が瀧波様には明らかに与えられていません」


 朔以外の生徒たちは皆元々の基礎能力にプラスで神の加護が掛け算されて算出されている。朔と他生徒との数値の差の原因は加護の有無。


「加護をもらえなかった理由って何かあったりするんですか?」

「いえ。わかりません。皆様以外にも異邦からの転移者は数名存在すると聞きますがそのすべてが例にもれず凄まじい強さだとか」


(話の流れで出てきたけど僕たち以外にも転移者が居るのか・・・。まぁ同郷とは限らないか)


 自分たちの知らない異世界が実在するのだから他の別世界が存在してもおかしくはないと考えた。


「ありがとうございます。わざわざお話ししてくれて」


 自分にだけなぜ加護がないんだと本当に存在するかもわからない神様に文句を言ってやろうとした朔だが目の前にいるのは教会のシスターなわけで彼女の前でするべきことではないと口をつぐむ。


(異世界があるなら神様が居たって驚かないな)


「それでここからが本題なのですが・・・」

「本題ですか?」


 話が終わったと思い窓から夕暮れを眺めていた朔は再度ミラとの会話に戻る。


「とてもお伝えしずらいことなのですが・・・。明日の夜明けと共にこの宿から逃げていただきたいのです」


 申し訳なさそうな表情を浮かべながらミラはそう告げる。


「すみませんいきなりのことで何が何だか・・・」

「そうですよね。説明いたします。そもそも別世界から異邦人を呼び出す転移魔法は禁術です。多くの魔導士が集い多くの生贄を捧げることで完成する魔法なのです」


 朔は教室で見た血のような赤い文字その気味の悪さを思い出し、生贄という言葉が噓偽りないものだと理解する。


「領主サライグ・ベナウェーストは多くの犠牲を(いと)わず禁忌を犯したのです」

「犠牲、そんなことが・・・」

「もちろん瀧波様や皆さんに一切の非はありません。すべて歪んだ領主が悪いのです」


 想像もしていなかった転移の事実に朔は息を飲む。


「確かにこの国から出るべき理由は分かりましたけどなぜ僕だけなんですか?」

「それは・・・瀧波様の今後の処遇を決定する会議に私も参加していたからです。転移者としての能力を持ちえない瀧波様を生かし続けることは・・・」


 ミラが言葉を慎重に選んでいることが朔に伝わる。

 ミラは教会神父の実の娘らしく、この領地でも位の高い人物らしい。そんな彼女だから国の重要な人物として領主の会議に参加することがある。

 そこで聞いたのが無能と判定された朔の話だ。


(要は簡単な話。僕のような無能な人間にかける金なんてないし生かす意味もなってことか・・・)


「それと他の皆様に伝えず残っていただきたいのはこれ以上犠牲者を増やしたくないという私の勝手な願いです。瀧波様含めた皆様が一斉に姿を消したとなればサライグは必ず同じ過ちを繰り返してしまう」


 失ったとならば必ず取り戻すために探し捕らえる。

 もしくはもう一度禁術を使用し多くの犠牲者を出す。どちらを取っても最悪な結末が待っているだろう。


「ミラさんのお気持ちは分かりますけどそれでは友人たちが危険な目に合うのでは?自分だけ逃げだすなんて僕には出来ない」


 ミラが言っていることが正しいことなのだと理解はできても友人を残し自分だけ助かろうという気にはなれない。


「絶対の保証は正直出来ませんが領主にとって転移者は領地を成長させる重要な存在と認識しています。証拠になるかはわかりませんが全員分の住居や冒険に必要な莫大な資金を用意しています。皆さんにとって領地からの支援は大きいことに違いはありませんし。冒険を経て成長した皆さんならこの領地を・・・いえ、これは望みすぎですね」


(今はまだ知らない方がいいのか・・・)


 伝えないことが正しいことなのか朔には判断できなかった。


「知らなければ危険な目に合う可能性は低いってことですね。僕以外は」

「その通りです。万が一皆様に危害が及びそうなら私が全力で阻止します」


 そう言うとミラは総合評価Sと書かれた魔石版を朔に見せる。


「ミラさん強いんですね。僕なんかより断然」

「あ、ごめんなさい見せびらかすつもりとかは一切なくただ少しでも安心していただけたらと思い・・・」

「わかってますよ。すみません素直に感心しただけですから」


 朔はミラの言葉を信じることにした。話をしている時のミラの必死な様子を見て本当に無能な自分のことや転移者の皆のことを思ってくれているのだとひしひしと感じたから。


「では明日の四時この宿の裏に来てください渡したいものもありますので」

「わかりました」


 朔はミラと別れると早起きするためすぐに就寝することにした。丸一日まともに寝てないということもあってすぐに眠りについた。


 ____


 時刻は三時、外はまだ月明りがほのかに照らすだけで真っ暗だ。

 ミラとの約束の一時間前に起床した朔は事前に借りていたペンと紙を取り出し椅子に座る。

 陸斗と藍花には直接伝えるべきだとも考えたが朔は躊躇した。二人と会話をしたらこの決意が揺らいでしまうと思ったからだ。強く優しい二人に甘えてしまう気がしたから。

 とは言えなにも伝えずに去ったら余計な心配をさせてしまうから手紙を残すことにした。今はまだ詳細を伝えることが出来ない。この国の、転移の真実を伝えたら正義感にあふれた二人がおとなしく黙って居るわけがないから。それはニ人の危険にも繋がる。

 折り畳んだ手紙を陸斗が使用している部屋の扉の隙間から滑り込ませる。


(もうすぐ約束の時間だな。またな陸斗、藍花どうか元気で)


 * * *


「おはようございます。ミラさん。すみません待たせてしまったみたいで」


 約束の時間十分前に着いたがすでにミラの姿があった。ミラが挨拶を返すと手に持っていた鞄を朔に渡す。


「中には三日分の食料と水、傷薬を二本、方位磁針、貨幣が入っています。地図も一応入れておきましたが周辺が木々に囲われた森なのであまり役には立たないかと思います」


「何から何までありがとうございます。ミラさんは恩人です」

「私に恩を感じる必要はございません。あなた方を巻き込んでしまったのですから」


 朔はそれでもミラに感謝をする。ミラが居なければ朔はきっと知らず知らずのまま文字通り亡き者にされていただろう。


「方位磁針に従って東に進んでください。森自体は今から歩き続ければ夜までには抜けられます。夜になると魔物も活性化しますので必ず日が落ちる前に森を抜けてください。森を抜けると村を見つけられると思います。その村から馬車に乗れば大迷宮アヴェントのある冒険者の街にたどり着きます。瀧波様は今はまだ総合評価Fかもしれませんが冒険を積んでいけば必ず成長するでしょう。そう信じています」

「わかりました。必ずお礼を伝えに戻ってきます。力をつけて」

「はい待っています。それと最後にこれを」


 ミラは胸ポケットから真紅の宝石が装飾されたペンダントを取り出し朔に手渡す。


「お守りです。きっとあなたを守護してくれるでしょう」

「ありがとうございます。行ってきます」


 朔は一礼するとミラに背中を向け深い森へ足を進める。目的は定まり。迷いも絶った。約束もした。


「あなたを守護する神は居ないのかもしれませんが必ずあなたは救われるはず」


 ミラは遠く小さくなった朔の背中に語り掛けながら祈りを込めて手を握る。


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