2.無能の烙印
異世界転移をした翌日。元の世界では昼間だったが異世界では夜遅い時間だった。
より詳しいことは翌日に行うことになり教会の隣にポツンと建っている宿で夜を過ごすことになった。
教会を出て数十メートル歩いた先にある宿は一部屋六畳ほどで清潔に整えられたベットがあり不便は特になかった。
コンコンと部屋をノックする音が聞こえ扉を開けると陸斗が立っていた。
「おはよう。朔昨日は眠れたか?」
陸斗が少し眠そうに目を擦りながら挨拶する。
「おはよう。色々考えすぎてほとんど寝れてない」
真っ昼間から突然、夜に変わり時差ボケ?というのが正しい表現か分からないが少なくとも体と脳は全く睡眠を取る準備をしていなかった。それ以上に異世界転移という信じられない現象を体験したことで脳が覚醒してしまい寝れなかった。
朝日が差し込む小さな窓から外を見回す。昨日は街頭一つ無かったため暗闇で教会や宿の周辺がよく見えなかったが朝になり外を見回すとやはり木々に囲まれた森の中であった。
「そろそろ教会に集まる時間だな行こうぜ」
支給されていたいかにも冒険者らしい服装に着替えると朔と陸斗は二人で宿を出て昨晩の教会に向かった。
教会の重い扉を開くとほとんどの生徒が集まっていた。
「おはよう。遅かったね二人とも」
「おはよう。藍花はいつも通りだね」
普段と変わらない様子の藍花。三人での作戦会議が始まる。今後のことや協力してこの状況を打開しようなど一日前に聞いたら何の話をしてるんだと笑ってしまうような会話内容。
「皆様お集りでしょうか?」
「はい。全員集まっています」
全員とは二年二組の生徒全員を意味するわけではない。昼休みのあの時間あの教室に居た生徒達だ。だから数名の生徒がその時間に二年二組の教室に居なかったり欠席をしていた生徒たちは転移に巻き込まれなかった。
免れた生徒たちは驚くことだろう。いざクラスに戻るとほとんどの生徒が消息不明になっているのだから。
それよりもここにいる生徒の家族たちはどう思っているのだろうか。
幸いと言っていいのかは分からないが朔には帰りを待つ家族が居ない。唯一の家族であった六つ上の姉は大学に進学するのと同時に姿を消した。優しかった姉に見捨てられたとことに対するショックで塞ぎこんだ日もあった。
これ以上考えてもよくない方向へ進むと思い自ら頬をつねる。
(やっぱ現実だよな)
昨晩寝られなかったからまだ夢の中なのかもしれないと考えたが頬に伝わる熱が、痛みがそれを否定した。
「早速ですが皆さんには能力測定を受けていただきます」
神父と思われる男がそう言うと教会の奥にある祭壇に近寄るよう指示をした。神父は純白のテーブルの上に深い紫の水晶を置いた。
昨日の魔導士が持っていたものターコイズブルーの水晶に比べ二回りほど大きい。それを見た生徒が疑問に思っていると神父は説明を始める。
「この水晶は触れた人物の基礎能力を映し出すものです」
説明と同時にカードの形をした薄い板状の石を見せる。
「そしてこれは魔石を加工して作る魔石版というものです。水晶に触れていただいた手の甲に置いていただくと水晶に映し出された能力がそのまま刻まれます」
「氏名、性別、年齢なども映し出すのですべての国で使用できる身分を証明するものにもなります」
(ようは免許証とか保険証みたいなものか)
「説明はこのくらいにして早速お一人ずつ祭壇にお願いします」
神父がそう言うと一人また一人と水晶に触れていく。
誰もが期待と緊張をしていた。この測定はゲームでいうところのパラメーターに当たる。当然だが能力が高ければ高いだけいい。測定の結果次第で今後の異世界冒険の難易度が大きく左右する。そのことをここにいる誰もが理解していた。
「こ、これは総合評価S!!初期の段階でS評価を出すとは・・・転移者とはいえ素晴らしいです」
神父がそう語る目の前で水晶に触れているのは藍花だった。
(なんとなく藍花は凄そうだなと思ってたけどまさか最高値だとは)
藍花はプレートに刻まれた評価をみて安堵の表情を浮かべた。
その後も数名の生徒がAやBなど高い評価を得た。朔の一つ前に並んでいた陸斗も総合Aと優秀な評価を叩き出す。
(次は僕の番だ・・・)
友人たちが次々に目覚ましいスコアを出しているのだからきっと大丈夫だと暗示をかける。朔は祭壇の前に立ち深い紫をした水晶に手を乗せる。
「これは・・・。申し訳ありません正しく測定できていないので再度お願いします」
朔は心の中で少し高揚していた。神父の反応を見ればわかる、ありえないほど高いスコアが出たに違いない。実際、元の世界でもこの手の異世界冒険小説を読んだことがある。計測不能なほどの力を持っているのだとそう信じた。
「あれ?やっぱり変わらないですね・・・転移者でも総合評価Fが出ることがあるのですか・・・」
「え・・・?Fランク?それってSランクよりも上だったり・・・?」
「いえ。最低評価になってます・・・」
「で、ですよね。Fが上なわけないですよね」
現実は違った。必死に作り笑いを浮かべる。朔が使用した魔石版には総合評価Fという文字が刻まれていた。
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氏名 瀧波 朔
性別 男 年齢 17歳
筋力値 F 耐久値 F
敏捷値 F 知力値 A
魔力値 F
総合値 F
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「で、ですが知力値のAはかなり高水準なので魔法を習得するのは早いかと・・・魔力値がFなのでほとんど使用できないかもですが・・・」
フォローに見せかけた鋭い追い打ちをくらい絶望する。そんな朔をクスクスと笑う者たちが多数いた。嘲笑の渦がどん底へと引き込む。
「だ、大丈夫だよ朔くん。まだ最初なんだから。これからだよ」
「そうだぜ朔。協力するって言ったろ」
幼馴染の藍花と陸斗がどうにか励まそうとフォローしてくれる。良い友人を持ったと心から思う。
「いやいや。Fは無いだろFは。今んとこの最低でもCだぜ、Dすらいないのにな」
「これ擁護するの無理だわ~」
クラスメイトではあるが普段ほとんど関わることがないクラスで目立っている数人の男女グループが心無い言葉を放つ。
「まじでお荷物じゃね」
「おいおい言ってやんなって」
馬鹿にした笑いを浮かべながら続ける。
「あなた達クラスメイトによくそんなこと言えるわね」
普段温厚な藍花が明らかに怒りを露わにしていた。
「やっべ。委員長怒ってるよ。ごめんごめん悪かったって」
一切悪びれた様子は無かったが朔に対する嘲笑は収まった。
「あんなの気にする必要ねーかんな」
「うん、ありがとう陸斗。藍花も庇ってくれてありがとう」
能力測定で朔は無能のレッテルを刻まれた。
その後、全員の能力測定を終えると神父が今後の大まかな予定を伝えこの日は解散となった。




