1.クラス転移は突然に
「やっと昼休みだな。朔は今日学食か?」
「いや、朝コンビニ寄って買ってあるから教室」
「俺も弁当だから教室だ」
クラスメイトで友人である相澤 陸斗が座席に近づいて来た。
陸斗は高校に入学してからすぐに意気投合して会話するようになった。出会ってから一年半ほどしか経過していないが朔にとって初めて出来た親友。
「私たちも一緒していいかな?」
「あぁ。もちろんいいよ」
陸斗と会話をしていると一人の女生徒が会話に混ざった。
小学校からの幼馴染の浜瀬 藍花だ。
家が近所で親同士も仲が良かったから昔はよく二人で遊んでいた。中学生辺りから二人で遊ぶことはなくなってはいたが交流はあった。二年二組の学級委員長で人当たりが良く誰にでも優しい藍花はクラス内外を問わず人気者だ。
「もうすぐ文化祭だね。朔くんなにかしたいことあるの?」
「そうだなお化け屋敷とかかな一度は作ってみたいかな」
「私もお化け屋敷やってみたいかもやっぱり王道だよね」
「俺は飲食店なら何でもいいかな」
「陸斗はつまみ食いしたいだけだろ」
陸斗が「バレたか」と言うと三人が笑いに包まれる。いつも通りの何気ない日常。
「ねぇ、あれなに・・・?」
楽しそうに笑っていた藍花の顔が一瞬にして困惑の表情に変わった。
藍花が指をさした先の黒板に血液にも見える赤い文字が円を描くように刻まれている。
全く知らない言語だ、言語なのかすら怪しい。強いて言えば歴史の授業で学んだ古代文明の文字に似ているようにも見える。
怪奇現象や超常現象といった説明不能な状況が今まさに目の前で起きている。
当然クラス中が混乱し、悲鳴を上げる生徒もいてパニック状態だ。教室から逃げ出そうとした生徒もいたが扉がピクリとも動いていない。明らかに教室内に閉じ込められていた。
黒板の文字の進行が止まると同様の赤文字が床一面にまるで魔法陣を描くように広がった。
「これは・・・まじでやばいかも」
完成されたと思われる魔法陣は赤黒い光を放ちクラスにいた全ての生徒を飲み込んだ。
* * *
「・・・・おい・・・おい・・起きろ朔」
意識の外側から聞こえていた声が段々と内側へと侵食していき朔の意識に届く。
「あ、あぁ陸斗か・・・。ここは・・・」
目が覚めて辺りを見回すと全く身に覚えのない場所に倒れこんでいた。先ほどまで教室で談笑していたはずなのに。
朔より早く目覚めた者たちも居たようで当然皆、混乱している。
左右を見ると木製の長椅子がずらりと並べられていた。その様子を見て真っ先に思いついたのが教会だ。
前方に目をやると案の定十字架が掲げられている。
装飾品も一つ一つが繊細で神秘的ではあるのだが何故かどことなく不気味さを覚える。
「二人とも大丈夫?」
「うん、こっちは大丈夫。藍花は?」
「私も大丈夫だよ。ここどこなんだろう・・・」
「どのくらい意識失ってたかわかんないけど少なくとも日本じゃないだろうな外を見てみろ」
「雪降ってる・・・」
陸斗が指をさした先にあった長方形の窓の外には雪が降っていた。九月である日本の気候を考えれば雪が降るなんてまずない。
理解できない出来事の連続で脳が情報を処理できない。
「皆さんお目覚めになりましたか」
どうにか整理しようとしていると正面から修道服に身を包んだシスターや鎧を纏った騎士たち数名が歩み寄ってきた。
「ここは一体どこなんでしょうか。私たち教室にいたはずなんです」
学級委員長である藍花がクラスを代表して質問を投げかける。
「その質問には私が答えよう」
そう言って入ってきたのは煌びやかな装飾品を身に着け高貴な服装をした男だ。男が現れるやいなや周りにいた人間が片膝を地面に着けた。
「ここはベナウェースト領の大聖堂だ。そして私はこの土地の領主、サライグ・ベナウェーストだ」
(言われてみれば確かにいかにもな見た目だけど聞いたことがない地名だ)
「諸君がここに呼ばれたのは魔導士を集め転移の大魔法を使用したからだ。我々からすれば諸君らは異界の地からやってきた転移者といったところだ」
話は理解できても納得するかはまた別の話だ。
「そんなん急に言われて納得できねえよ。魔法だとか転移だとか何言ってんだ?」
素行が悪く教師を悩ませる問題児でもある一人の生徒が当然である反論をする。話を静かに聞いていたほかの生徒達も便乗して声は大きくなる。
「貴様ら領主に向かって無礼だぞ」
騎士の一人がそういうと腰に帯刀した剣に手を掛けた。その騎士の胸には多くの勲章が並べられている。騎士の威圧感に圧倒され騒ぐように文句を言っていた全員が口を紡ぐ。
「よい。当然の疑問だろう。詳しく説明しよう」
サライグは一人の魔導士に魔法を放つよう指示をした。指示を受けた魔導士が詠唱をすると、手に持った水晶からこぶし大の氷の塊が放出された。
氷が飛ぶだけならマジックのようにタネや仕掛けがあるのではと考えたが、空中に浮かんだ文字がそれを否定した。その文字は黒板や床に広がった文字と酷似している。
魔法の存在を確認して初めてクラスの全員が本当に異世界転移してしまったのだと認識した。
「確かにここが別世界だということは理解しましたけがなぜ私たちが呼ばれたのでしょうか」
藍花が丁寧な口調でサライグに再度問いかける。
「諸君らが意図的に選ばれた訳ではない。偶然であるとしか言えない」
(意図的じゃないってことは無作為に僕たちが選ばれた、あるいは二年二組の教室が選ばれたってことなのか?)
一個人ではなく二年二組の教室に居た生徒を転移させていることからそこの場所が転移に選ばれたのだと解釈した。
「別世界からの転移者を呼んだ理由は、大迷宮アヴェントを攻略してほしいからだ」
朔が異世界転移で連想したのは魔王の討伐であったため少しばかり的が外れた。
「迷宮には膨大な資源が存在する。領地繁栄のためにはそれらが必要なのだ」
迷宮内には魔物が出現してそれらを討伐することで魔石と呼ばれる魔物の核や様々なアイテムをドロップするらしい。それだけではなく迷宮内には鉱石や薬草など多くの資源が存在するらしくそれらを集めて領地を発展させたいらしい。
「転移者には強力な加護が備わっている。諸君らが協力してくれれば攻略の速度も格段に上がるはずだ。それに迷宮の最深層には帰還の魔法具が存在すると古文書に記されている」
元の世界に戻りたいなら命を懸けて迷宮を攻略しろ根拠のない魔法具の存在を信じて、ふざけた話だ協力するわけない。
そう一蹴してやりたいところだがこの世界の情報が不足している現状では領主らの申し出を断ることにも大きなリスクがある。
窓から見える景色は雪が降り積もる森だ、街が近くにあるかも分からない。
協力を拒否したことで見放され、知らぬ世界に放り出されでもしたらいくら加護があったとしても生きていけるとは思えない。
生き抜く術を身につけるまでは、利用されているのだとしても協力という形に納めることが安全択だ。
「あの、少しだけ相談してもいいでしょうか?」
「よかろう」
話し合う時間を確保し全員が集まると様々意見が飛び交う。
討論が激化する中、朔は考えたことを藍花に耳打ちする。伝えたことを綺麗にまとめ藍花が代わりに意見すると同調する生徒が多くいた。
「他に手掛かりもないし元の世界に戻るには迷宮に行くしかないんじゃないか?」
「俺もそう思うな。ここでグズグズしてたって一生元の世界に帰れないだろ」
朔と陸斗が藍花の意見を後押しするようにアシストする。
藍花は学級委員長でクラスの中心だ、朔が発言するより遥かに賛成票を集められる。全員が納得していたわけではなかったが藍花の意見を真っ向から反対する者はいなかった。
「協力に感謝する。諸君らの生活で必要なものは全て揃えよう」
(異世界での衣食住は保証されたらしいな。まぁ勝手に転移させたんだから当然のことか)
異世界転移させられた僕たち二年二組は大迷宮アヴェントの攻略を目標に定める。




