14.エルフの誓い
漆黒のオーガに勝利し気を失ってしまったサクが目を覚ますといつもの宿とは違うベッドの上に寝ていた。
身体を起こすと背中に痛みが走る。
吸血鬼の自然治癒能力は傷を癒す速度が速いだけで痛みを和らげることはない。
戦闘中は緊張感や興奮状態が極限に達してアドレナリンが出ていた影響で痛みをさほど感じなかったが、冷静になり痛覚が敏感になった今は背中の傷が燃えるように痛む。
(あんまり意識さないようにしよう)
起こしていた身体を再度ベッドに預け、深呼吸をして落ち着き八階層での出来事を振り返ろうとすると深緑の髪が丁寧に編まれた女性が部屋に入って来た。
「あら、目が覚めたようですね」
左手には僧侶の錫杖に似た杖を持ち、清潔さを感じる白基調の修道服が姿勢の良い女性の立ち姿によって映える。
「あの、ここはどこですか?」
「ここは迷宮の一階層に位置する医療施設です。倒れていた貴方はここに運ばれて来たのです」
「そ、そうだ。ティミスさ・・・エルフの女性は運ばれませんでしたか?」
サク同様に深傷を負っていたティミスが自らの足で地上まで迎えるとは考えられない。
いくら治癒魔法が使えるティミスでも完治させることは不可能だ。
動揺し、勢いよく身体を起こすと全身に痛みが走る。
「安心してください。エルフの方も別室で治療中です。彼女よりも貴方の傷の方が深いです。どうか安静に」
「良かった・・・。ありがとうございます」
「お気になさらないでください。それに感謝ならあなた方お二人を運んだ冒険者方に」
深緑髪の治癒士はお辞儀をするとサクの部屋を後にした。
ティミスの様子を確認したいサクだが身体が思うように動かない。
吸血鬼の回復力を信じて目を瞑る。
* * *
再び目を覚ますとサクが寝ている左隣の椅子に座り読書するティミスの姿があった。
「おはようございます。身体はどうですか?」
「はい。痛みはまだありますけど大丈夫です。ティミスさんこそ大丈夫なんですか?」
「心配なさらず。打撲は治癒魔法で完治できましたし、軽い脳震盪を起こしていたようですが今はなんともありません」
「そうですか、良かった・・・」
治癒士から話は聞いていたが実際にその姿を見て心の底から安堵する。
「ありがとうございます。またサクさんに助けられました」
「そんな、元はと言えば僕がティミスさんを置いて助けを求めに行こうとしたから・・・最初から離れなければティミスさんが危険な目に遭わなかったかもしれない・・・」
ギリギリ間一髪、間に合っただけで数秒遅れていたら魔物に最後の一撃を与えられていたかもしれない。
自らの判断の遅さを後悔せずにはいられなかった。
「それは違います。判断を下したのは私です。間違えていたとしても私の判断ミスですし、今思い返してみてもあの時の判断は正しかったと思っています」
漆黒のオーガの出現はあまりにもイレギュラー。
そこまで想定して思考を組み立てることは不可能だ。
あの場面で得ていた情報を再度精査して考え直したとしてもティミスが下す判断は変わらない。
「それで言うなら私の判断を守らなかったことの方がよっぽど問題です。未知数の危険にはより多くの助け、保険が必要です。今回は上手くいったかもしれませんが何度も思い通りになるわけではありません。サクさんの判断はあまり褒められたものではありません」
「はい。おっしゃる通りです」
冒険者として正しい判断でないことをサクも自覚していた。
パーティーで決めた判断を反故にすることはチームワークを乱す行為に他ならない。
今回は偶々状況が好転しただけだ。
「ですがサクさんが駆けつけてくれた時とても安心しましたし嬉しかったです」
白く透き通る頬が少し赤みを帯びる。
ティミスはサクの左手を両手で包み込むように握ると額を当てる。
「え、えっとティミスさん・・・?」
突然のティミスの行動に目に見えて動揺するサク。
「これはエルフ族に伝わる最上級の感謝です。サクさんには二度も命を救われました。貴方がどれだけ遠くの森に迷おうと駆けつけることをここに約束します」
エルフとの間に交わされたその約束は互いの命が尽きるまで、いやたとえ尽きたとしても永遠に結ばれ続ける。




