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25 クラシーヴァヤ・リンナリヤ

 凰から文が届いた。努力するが、すぐには用意できないかもしれないとの事だ。馬鹿正直に用意しようとしている姿を、鼻で笑ってしまう。


(用意できるはずもないのに)


もともとできないことだ。南の国がやったとしても、北ほどの生産量はない。

同盟破綻を理由に凰を打ち滅ぼしてやろう。良い機会だ。父と母は残念だったが、俺ならできる。やってみせる。いずれ、クォカイが大陸を統べる国とするために。


「あーあ、つまんないなぁ」


侍女の顔を殴ってみる。理由などない、ただの遊びだ。


「申し訳ございませっ…ナジュム様っ…おやめください…」


侍女はよく俺に謝るが、俺は何も言っていない。ただおもちゃに触って遊んでいるだけなのに、どうしてそんなに怖がられるのだろう? 周りの者も震えている。おもちゃが独りでに動くなど、不思議なこともあるものだ。


「おもちゃがどうして動いてるの? 動くんなら、俺のこと楽しませてよ。服でも脱いでさ、ほら」


扉が閉まり、侍女たちは逃げ出してしまった。後で折檻してやらないといけない。みんな俺のことを見て怯えるが、俺には理由がわからない。だって、おもちゃはおもちゃで、俺は国王。国王はおもちゃのことをどんなふうに扱ったって、誰も何も気にしないはずなのに、なぜかみんなは怯えている。殴った本人も、震えて逃げ出そうとする。


「不思議な人たちだなぁ。おもちゃの分際で逃げるなんて、今まであり得なかった。なんで逃げるんだろう? 殴ったら痛いのかな? 俺は分かんないや」


みんな怯えている。なにかに支配されているみたいに。殴っても手は痛くならないし、人が死んでもなんとも思わない。昔から何かが欠けていると言われるけど何が欠けているのかすらわからない。


「こういう部分のことを言うのかな。ま、いいや」


しばらくは凰の動向を見よう。雪草を用意できなかったら、あそこはクォカイのものだ。




 クォカイに文を送った。どう反応されるかは分からないが、用意する時間は稼げる。皇太姫として民を守らなければいけないのに、案が思いつかない。思いつくようなものでもないのだろうが、私が考えなければだめなのだ。


「雪草なんてもの、どうやって手に入れれば…」


北国に援助を要請するとしても、応じてくれるかわからない。どうすればいいのか。


「皇后陛下に相談してみるか…?」

「そんなことしに行くよりも、あたしを使えばいいじゃない」

「え?」


声の主は明陽だ。意外な発言者に黄鴒が目を見開くと、明陽は誇らしげに胸に手をあてて言う。


麟国(りんこく)亀国(きこく)にあたしの友がいるわ。それも、王女! あたし達で直談判に行けば、文に使う二十数日は短縮できるわよ」

「…」


そういえば、明陽は皇女だったのだと黄鴒は思い出す。確かに言う通りだ。明陽を利用すれば、すんなり行くかもしれない。だが、すんなり行くのは対話だけだろう。なんて言ったって…


「皇女が国外に出るには、どちらにせよ皇后陛下の許可と文は必要じゃないか?」

「あっ」


あたしってほんと無知ね…と言い、明陽は歩き出す。くすりと笑う青陽に睨みを飛ばしつつ、明陽は戸を開け振り向いた。


「お母さまのところに行くわよ」

「え、ちょっとまて」


走り出す明陽を追いかけつつ、黄鴒は青陽に問いかける。互いに皇后の予定を知っているため、二人の顔は焦っていた。


「皇后陛下って今会議中なんじゃないのか!?」

「ええそうですとも!」

「止めなければダメじゃないか!」


三人は皇后宮に向かう。先ほどまでの小雨は止み、陽が顔を出していた。




「お母さま!」


 明陽が飛び込んだのは、会議中の皇后宮だった。あとから黄鴒達も追いつき、必死に明陽を止める。


「お母さま、話があるの。少し時間を…」

「今じゃないだろ今じゃ」

「そうですよ。皇后陛下の御前ですよ!」


二人が必死になって明陽を止めていると、皇后が笑いまじりに話す。


「丁度良い、会議は今しがた終わったところだ。話とはなにかな?」


官吏達は皇后を見る。反応の速さからして、会議はまだ続いていたのだろう。少し青ざめて、官吏達に頭を下げる二人とは対照的に、明陽は皇后に向かって話し出した。


「クォカイの人が、雪草が欲しいって言ってるの。ここじゃ取れないから、麟か亀に援助要請をしようと思って。文を書くから出してくれない?」

「そうか」


皇后は目を細めたあと、黄鴒に向かって言う。少しからかっているような口調だったが、官吏達の本音を代弁したものが皇后の発言なのだろう。


「金 黄鴒よ、其方つきの侍女は随分とマナーがなっていない(元気だ)な?」

「誠に申し訳ございません…」

「まあ良い。文を出す、か。麟国…リンナリヤ国のクラシーヴァヤ・リンナリヤ姫かな?」


皇后の言葉に、明陽はパッと顔を明るくする。


「そう、それ! リンナリヤ! クラシーヴァヤに送って!」

「…まあ、いいだろう。しかし、条件がある」

「条件?」


明陽が首を傾げると、皇后はふっと笑って言った。


「文は明陽、お前が書くことだ。用事があるのは黄鴒だろうが、お前には侍女として文章をかけるようになってもらいたいからな」

「…わかったわ。書くから送ってね!」

「ああ」




「クラシーヴァヤ姫。凰国より文が届いております」

「あら、凰から?」


 クラシーヴァヤは文を手に取る。開いてみると、拙い字で文章が書かれていた。


ーーリンナリヤ国王女、クラシーヴァヤ様にお手紙申し上げます。初めまして。凰国皇太姫、金 黄鴒にでございます。

本日はあるお願いをしたく、このような文をお送りいたしました。何かと言いますと、クォカイより、雪草を送って欲しいという旨を受け取りました。そこで、リンナリヤ国の土地を一箇所貸していただけないかと思い、今回文をお願いいたしました。謝礼はリンナリヤ国が望む物を渡させていただきますので、対談の場を設けることをお願いしたいです。

どうかよろしくお願いいたします。

金 黄鴒

代筆 紅 明陽ーー


「まあ、キン コウレイという方はとても丁寧な方なのね。ぜひお迎えしたいわ」


クラシーヴァヤは手を二回鳴らす。


「もし。このキン コウレイという方に返事をしてくださる? もちろんお願いしたいという内容で」

「承知いたしました」


クラシーヴァヤはにこにことしながら、凰の方向を眺めていた。

ご高覧ありがとうございました!

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