24 雪草
短くなってしまいました。すみません…
紅 明陽が皇太姫宮に入った。侍女頭とは名前だけで、仕事をしようともしない。実質、李 青陽が侍女内の実権を握っていた。
(明陽は、昨日言ったことがが効いているんだろうな)
黄鴒は昨日のことを振り返る。だが実は黄鴒が退出した後、紫藍も明陽に話をしていた。
ーー「明陽、あいつに仕える事は、お前にとって屈辱だろう。だがな、いつまでも箱入り娘のままじゃダメなんだ。私たちの代が終わって、お前たちに代替わりしたとしよう。そこでお前はどうなる? この国では、皇太子以下のものは、家門を作ることになっている。お前にそれができるのか? 経済学など何も学んでいないだろう。なら、せめて良家のお嬢様に仕えることぐらいしなさい」
明陽はうつむいたまま何も言わない。下唇を噛んだ後、乱暴に紫蘭を押しのけて部屋から出て行った。皇后に対してすることではないが、明陽の件は、周りが理解してくれている。
(本人がわかっているかどうかはわからないが)
大きなため息を一つ。紫蘭はその部屋を出て行ったーーー
「言い過ぎてしまったかもしれないな。近いうちに謝りに行くか」
黄鴒が椅子から立ち上がり、伸びをしたところで、勢い良く室の扉が開いた。そこに立っていたのは、基本的な生活以外で、動こうとしない明陽だった。珍しく、怒り以外の表情をしている。
「どうした? 焦っているようだが」
黄鴒が問うと、明陽は叫んだ。
「クォカイの奴らが来てる! あなたに話があるって…」
「はぁ!?」
いきなりの訪問だ。前触れなど何もない。青陽が準備を始める中、黄鴒は我に帰り、更に明陽に問う。
「用件は何だ? 何をしに来た? まさかこちら側が何か?」
一斉に来る質問に明陽は答えられない。ただ、とてつもなく焦っている。質問を繰り返す黄鴒に、明陽は言った。
「質問ばっかしてないで、早く準備してよ! 待たせてるわよ! それに、私が答えられるわけないじゃない!!」
(それもそうだ。…と言うのは少し失礼かもしれない)
黄鴒は言葉を飲み込み青陽と明陽と共に本宮へ向かった。小雨が降っていたが、足場屋に移動する三人にはなんともない。
「失礼いたします。皇太姫・金 黄鴒、ただいま参りました」
「同じく失礼いたします。皇女・紅 明陽、共に参りました。入室許可をよろしいでしょうか」
「いいよ〜。入って入って!」
(…?)
二人は同時に思ったことだろう。この声は誰だ? この口調は誰だ? と。普段聞かない声だ。国の者ではない、男の声。クォカイの発言者は、主にラバン・ナミルだったはず。
(あ、そういえば)
凌華に、一人いた。クォカイの人間で、軽い口調の男。代替わりしたのだろうか? ナジュム・ナミルがここにいるなんて。
「あ、やっほー。久しぶりだね。黄鴒ちゃん」
「…お久しぶりにございます。クォカイ国王陛下」
「いや〜、本当嬉しいよぉ。俺が王になったことちゃんと知っててくれたんだから。ああ、そうだった。今日はね、助けてほしくて来たんだ」
毒を撒いた分際で何を言う。と黄鴒は思っているのだろう。実際そんな顔をしている。だが、それは水面下の話。大麻と鳥兜の件はなかったことで話が進んでいるのだ。
「何があったかって言うとね」
ーー干ばつが酷いんだーー
「クォカイって砂漠とかいろいろあるでしょ? 太陽光がすごいんだよね。もうずっと渇きっぱなし。畑も作れなくて、食べ物がない。だから助けて欲しいなぁ」
黄鴒は少し考え、ナジュムに言った。凰国に利点はあるのかと。ナジュムはきょとんとした顔で、そんなのないよ。と言ってのけた。
「あるわけないじゃんそんなの。資源がないって言ってるんだから今助けられるわけないでしょ? それにさぁ…」
(凰なんていつか手放すんだから。いいじゃんそんなの。気にしなくて)
そう囁いたナジュムの頬を、黄鴒はぶつ。明陽も青陽も驚き止めに入るが、ナジュム自体は笑っていた。
「やめなさいよ、ちょっと。仮にもそれで皇太姫? ねぇってば!」
「そうですよ。やめてください。外交相手です」
黄鴒はそんな言葉に目もくれず、ナジュムに向かって話しだした。
「お前からしたら確かにそう思うだろうが、私にとっては今はまだ大切な国だ。いつか離れることになろうとも。それに、こちらでもいろいろやることがある。利点なしで、ただの助け舟と言うのはさすがに耐えられない」
あまりの本気度に、ナジュムも少し考え出した。顎に手を当ててしばらく考えた後、またまた爆弾発言をしたのだった。
「じゃあさぁ、一時的にでいいから、クォカイに来てよ。直接来て、欲しいもの持ってかせてあげる。それでいいでしょ?」
「…ああ」
黄鴒の返事に、ナジュムは決まり〜と軽やかに言う。
「そうだった。何が欲しいのか言ってないね」
「あぁ確かに。クォカイ側は何を望むんですか?」
「あのねー。食料が欲しいの。それか薬。薬なら雪草かな」
「雪草…?」
雪草といえば、北の国で飢えをしのぐ使われる万能薬だ。薬なのか食物なのかわからない。ただ薬としても使えれば、草自体を食べて満腹になることだってできる。そして説明の通り、それは北でしか取れない。
(凰国は大陸の一番南だぞ…?)
「隣国が助けてーって言ってるんだから、助けてくれるよね? 何百年も続いてきた関係を今ここで終わらせるのは俺嫌なんだけどなぁ」
(こいつ、無理だとわかって…)
「じゃ、よろしくね〜」
立ち尽くす黄鴒を後に、ナジュムは颯爽と室を出て行ってしまった。そして、青陽が言う。
「北国で取れない挙句、今は夏ですから、北でも取れるかどうか…」
黄鴒は長椅子に座り込んで、頭を抱えた。
「そんなもん無理だろう…」
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