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21 思惑

「嘘よ! 嘘!」


 春扇は大声を上げ、鳳明を睨んでいた。息は荒れ、髪も振り乱している。そして勢い良く、金の簪をつけた黄鴒を指差した。


「毒をなくしたですって!? それが何だというの? 私の方が国に貢献したわ! それに、話し方、仕草、気品、すべてに至るまで私の方が上じゃない! どうして私が選ばれないのよ!?」


必死の抵抗を気にせず、鳳明は一言、捕えろ、と言った。その場にいた武官たちが春扇の腕を掴む。足から崩れた春扇に、鳳明は言う。


「其方は、あの龍国を相手に賄賂を渡したそうだな。清廉潔白を好むあの国では、いくら個人の外交相手とあっても、簡単に切り捨てられるに違いない。そう思わなかったのか」

「え…」


春扇の顔が青ざめる。あの時、太姫競決の候補者としてではなく、国の遣いとして関わっていたのだと、やっとわかったのだ。


「まして太姫競決でなど、言語道断。言い訳も許さぬ。おい、地下牢へ連れて行け」


鳳明がそう言うと、春扇は引きずられていった。同時に、黄鴒には、たくさんの拍手が送られる。歓声の中、鳳明は黄鴒に問いかける。


「新たな国の朱雀よ。妾の力を引き継ぎ、凰となって羽ばたくことを誓うか?」

「はい。もちろんにございます」


こうして、黄鴒は皇太子ならぬ皇太姫となった。次に待ち構えるのは、黄鴒が皇太姫になったと言うことを証明する、即位式だ。


「では妾はこれで。鳳燎祭(ほうりょうさい)、期待している」




 結果発表が終わり、黄鴒は自分の室に戻っていた。明日からは、太姫宮で過ごすことになる。黄鴒の荷造りの手はだんだんと早くなっていた。一通り終えると、紫蒼が茶を持ってきた。


「お疲れ。あと、おめでとう」

「あぁ。ありがとう。後は鳳燎祭だな」


結果発表から一週間のうちに、黄鴒は鳳燎祭(ほうりょうさい)を行わなければならない。皇太子または皇太姫が即位するときに行われる祭りで、皇太姫が国中の火を灯すと言うものだ。


「まだ‘気’の使い方もわからない。でも失敗は許されないから、教えてくれないか?」

「ええ、いいわよ」


そうして、黄鴒と紫蒼は遅くまで読書にふけっていた。




 同時刻、クォカイの宮廷では、ナジュムが窓辺に座っていた。片足に肘をつき、星空を眺めている。その方向は、凰の方向だ。王族だけが感じ取れる何かがあるのか、少し前からずっと東を見ていた。


「皇太姫になったのかなぁ。空気が揺れた気がする」


歩き出すと、今度はバルコニーに向かった。そしてより一層、じっと凰を見つめている。


「あぁ、見えた。紅色(クルムジー)の煙だ」


おそらく、ナジュムには瑞神たちの力が煙として見えている。今回も、鳳凰神の力を感じ取っていた。


「さ、皇太姫を迎える準備をしなくちゃ。遅くても一ヵ月後でしょ。あの子来てくれるかなぁ…」


ナジュムは寝室に入っていった。




「うう…紫蒼、出ないんだが…どうしたらいい?」


 翌日、黄鴒は紫蒼と一緒に、‘気’を使う練習をしていた。鳳燎祭では、‘火の気’が使えないと話にならない。だが黄鴒は、今まで‘気’と言う概念にすら触れてこなかったのだ。


「そうね…唱えても出ないなら、想像(イメージ)の方がわかりやすいかも」

「いめーじ?」

「頭の中で思い浮かべることよ。ほら、やってみて」


紫蒼が、心の臓、腕、手のひら…と言っていくと、同時に黄鴒も力を込めていく。しかし、出せる。と紫蒼が言っても、黄鴒の‘気’は反応しなかった。紫蒼は首をかしげてうなる。


「どうしてかしら? 順に言っていっているはずなのに」

「ちゃんと力だって込めてるぞ」


黄鴒の言葉を聞いた紫蒼は、だからかなのね。と小さくつぶやいた。それから黄鴒の腕に触れ、指先でだんだんと伝っていく。


「いい? 心の臓を起点として、腕は運ぶ役割、手のひらは‘ 気’を外へ出す役割をしているの。腕に入れたら、詰まって出なくなるのは当然だわ。力を抜いてやってみて」

「わかった」


黄鴒はそう言うと、的に向かって手をかざした。そして、紫蒼の言葉と一緒に頭の中で唱えていく。


(心の臓、腕、手のひら…いける)


黄鴒がまぶたを開くと、そこには朱色の炎が上がっていた。‘火の気’を使えたのだ。喜ぶ黄鴒に、紫蒼は言った。


「じゃあ、次は威力を上げること。そして、二刻は維持することね」

「え?」


紫蒼がそういった途端、黄鴒の背中は地についた。どっと汗が吹き出し、顔色も悪い。紫蒼は濡れた手ぬぐいを黄鴒の額に当て、笑いながら伝えた。


「馬鹿ね。‘気’も酸素や水、血液と同じで、なくなったら体調を崩すわ。あんたは初めて‘気’を使ったから、すぐぶっ倒れたのね」

「まじかよぉ…」


黄鴒は体を起こすこともできないまま、一刻ほどそこで過ごしたのであった。




 地下牢にて、春扇と白雁、冬鷸の面会が行われていた。春扇はボロを着せられ、見るに耐えない状態であったが、その口角は上がっている。しきりに何かを話し、白雁と冬鷸は、それにうなずいていた。


「いい? 鳳燎祭で、冬鷸が‘水の気’を使って火を消すの。白雁はろうそく用意する係だから、燃えないものを用意しておきなさい。金属なんて、簡単に溶けやしないわ」


その瞳には、黄鴒が皇太姫になると言うのを阻止すると言う決意が見えた。あまり褒められたものではないが、行動力は充分なものだ。これが黒ではなく、白についていたら、どれほど頼もしかったことだろう。


「こら、春扇様にばれたら怒られるわよ」

「あ、ごめん。口に出てた?」


冬鷸は口を抑える。地下牢からの帰り道、二人は春扇が牢に入れられたことを惜しんでいた。


「まぁ、黄鴒がいなくなれば、私たちで政をできるって言うわけだし。どうせなら豪豪華な国にしましょ」

「そうね!」


キンキンするような笑い声は、中央内に十分に響いた。


それから三日後、雨の中、行商人が金妃宮に出入りしていた。中では白雁がろうそくの模造品を選んでいる。そしてこの大雨も、冬鷸が‘水の気’の練習をしていた証拠だ。春扇の手によって、二人の手によって。黄鴒の邪魔をする計画は確実に進んでいる。




「やった! できた! 紫蒼、できたぞ!」


ーー黄鴒(あいつ)は四日目にして、空へと上がるほどの炎を作った。また近くに過ごす人への弁解が大変だったけど、これであいつの立場と命が守れるなら、いくらでも頭をさげよう。

今まで、重役に就いて、嫉妬が故に殺された人たちを何人も見てきた。それは、妓楼でも商業人でも同じだ。後宮なんて、女たちのいざこざが起きない方がおかしい。でも、私はあいつを守る。珊瑚に似ているし、久しぶりにできた友だ。女同士の戦いなんかで、命を落としてほしくない。

鳳凰神…いや、世界の創造神よ。いつか私を殺してください。金 黄鴒さえも私の目の前で死ぬのでしょうか? 私は、一体何人の死を見届ければ良いのですか。いずれ、姉も珊瑚も死にます。私は世界に一人に残されるのですか?ーー


 また、日記ではないものを書いていた。手帳に書くのが、日記ではなく手紙でいいのだろうか? まあいい。明日は鳳燎祭だ。早く寝なくては。


「黄鴒が皇太姫になる。女帝になる。そしたら、誰かに殺される?」


殺されると決まったわけではない。老衰かもしれない。でも、いつかは来るあいつの死が怖い。黄鴒が皇太姫になるということは、誰かに狙われるということ。殺されるかもしれないということ。


(本人に聞こう。一人で怯えてても、何にもならないわ)


筆を置き、紫蒼は布団に入った。


(眠らなくても死なないけど、目を開いたら空にいないかと思ってしまうのよね)


期待を捨て、紫蒼は眠りについた。

ご高覧ありがとうございました!

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